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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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●3章  怪しき黒服の一団



 最初から亡霊達の彷徨う戦場には行かず、単身で水晶の調査に向かってきていた日下部 社(くさかべ・やしろ)。彼は遅れて到着してきたベルク達に結果を話す。


「総奉行に明倫館の看板背負ってくるで〜って言ったまでは良かったんやけどな〜。きてから水晶を調べて異常がないから取り替えておこう、思うたんやけど」
 社がぐいぐいと引っ張っても、水晶はぴくりとも動かない。
「……このとおりや。なんかの細工がしてあるみたいや」
「黒服の男達というのは?」
 和輝の質問に、社は肩をすくめる。
「影も形も見えへんわ。一応、ロープと芋虫の粘液を使ったトリモチ式の罠を社の周囲に仕掛けておるんやけどな。すぐに対処出来るように轟雷閃を放つ準備もしとるけど、一向に姿を現せへん。総奉行の見込みちがいやろか?」
 困り顔の社に、アニスは報告する。
「戦場はかなり劣勢なんだけどね。もしここに英霊達が暴れているヒントがないなら、アニス達も早いところ、島から逃げ出さないと危険かもしれないよ?」
「そういう訳にはいかへんやろ……」
 なんとか手がかりを掴もうとする社の前で、和輝は水晶に近づいていった。

「……文献で見覚えのある水晶に似ています。調べるのに少し時間をもらってもいいですか?」
「まあ、今から戦場に戻るよりは何かひとつでもわかった方がええもんな」
「ありがとう。……アニス、一応念の為に空飛ぶ箒ファルケで空から怪しい奴らが来ないか、見張っておいてくれ」
「にゃは〜、了解っ」
 何故か楽しそうに外に出て行くアニス。ベルクも後に続く。



「……ん、同じものかどうかは断言できないけど、恐らくこの水晶は魔を封じるものですね」
「魔を封じる?」
「シャンバラ古王国の時代からのもので、沢山の魔を封じるための祭具です。もしかしたら、この水晶で吉岡達の霊を封じていたのかもしれませんが……」
 和輝の説明の途中に、何者かが社に入ってくる。それと同時に精神感応で外にいるアニスから連絡が入った。
(和輝、今ね、たくさんの――)
「わかってる、味方だろ?」
 ようやく後続の調査の者達がやってきたようだ。
 最初に外から入ってきたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。
「遅れてごめん、社ちゃんのHCがなかったら迷子になるところだった」
「気にせんでええで〜、仲間は多い方がええもんな〜」


 詩穂は水晶に近づくと、目を閉じた。
「ごめんね、勝手に話を聞いちゃった。この水晶が今回の件の直接的な原因かどうか、調べればいいんだよね?」
 サイコメトリーを使い、水晶の表面に残る情報を読み取る。
「……この水晶の前で……誰かが……そう、例の黒服の一団が何か儀式を行なってる」
「やっぱり、そうなんや!」
「……くらいかな、何度もやってきてるみたい。これが本当に魔を封じる神具ならば、黒服達が儀式を行なって弱めてるのかもね。まだ来るかもしれないよね」
 詩穂はそう言うと、アコースティックギターを構えた。
「まだ力は失ってはいないみたいだから、再び黒服達がくる可能性もありますね」
 和輝の言葉に、詩穂は表情を厳しくする。
「外にいるメンバーにも伝えてくるよ。迎撃態勢に入るようにって。詩穂も準備して、もし先頭になるようだったらこのギターで知らせるから」
 そう言ってディテクトエビルのスキルを使い、詩穂は外へと出て行った。




 社の中でわかった事は、その場にいた仲間達全員に伝わった。
 黒服達の正体が判明しない以上、何人かが戦場に戻るかどうかの判断は保留にし、解決の糸口はここで見つける事になった。


「おおっと、本当にきおったわ。見るからに怪しい奴等じゃのう。きなくさい臭いがするわい」
 仲間達にルーンの護符を配っていた鵜飼 衛(うかい・まもる)は、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)に合図をする。
「メイスン、お主がいけ。様子を見て敵だと判断したなら、わしが準備した罠にはめて詳しい事を聞きだすとしようかのう」
「面倒くさい役割を自分に振ってからに。ま、楽しそうじゃけー、行ってくるわ」
 メイスンは黒服達の後を追っていく。どうやら真っ直ぐには社に向かわず、何処かへ寄り道するようだ。
(件の一団とは別の人間達か?)
 そう思いながら尾行していると、突然黒服の一人が振り返る。
(しまった、見つかってしもうた!)
「何者か知らぬが、見たからには生かしておけん! 死ね!」
「いきなり襲ってくるとはな! ビンゴじゃ!」
 追ってくる黒服の一人に、メイスンは逃げながら破壊工作で落石を起こす。


「おおっと、戦闘が起こっておるわ。という事は、黒服どもは黒じゃな!」
 盛大な音を聞きながら、衛は音の方からやってくるメイスンと黒の男を見据えた。
「ほうら、間抜けめ! 身の程を知る、これこそ戦の極意じゃ!」
 その言葉が合図のように、黒服の進行方向に突然落とし穴が現れる。
 もちろん、止まれない黒服は見事に罠にはまった。


「お前らは何をしに社に向かった? ほれ、答えんと雷術の護符が唸るぞ?」
「ぐあああっ! だ、誰がぁ話すかぁ!」
「強情な奴じゃのう。まだまだ護符はあるから、少しずつ増やすかのう?」
 面白そうに護符をぴらぴらと振る衛。さらに、偶然近くにいたベルクが近寄ってきて、追い討ちをかける。
「よっしゃ、お前、大人しく洗いざらい話すか俺にぶっ潰されるかのどちらかを選ぶこった。でもって俺がフレイの所に戻るまでにアイツに何かあったらお前ら全員ぶっ殺すぜー?」
 ごきごきと拳を鳴らすベルクと、衛の護符の脅しに、黒服はあっさりと口を割るのだった。




「この辺りを大きな混乱に陥れる為に水晶の弱体化を図ったのだ。まだまだ序の口、鎮守の力が完全に失われれば、この島おろかこの地方は……ぐほっ!」
 ベルクの一撃で気絶する黒服。
「英霊達の犯行は英霊として許せぬ。楽にしてやりたいしな」
 夏侯 淵(かこう・えん)は腹立たしげに拳を叩いた。


「やっぱり別に首謀者がいたのね。私は水晶の修復にあたるから、淵は黒服達をお願い」
 詩穂と一緒にサイコメトリーで水晶を調べていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に、淵は聞き返す。
「原因がわかったのか?」
「うん、かなり古い時代の水晶だけど、本来は呪術くらいでは弱体化しないはずなの。弱体化したのは地震か何かで、本来あるべき付属の祭具が失われたせいだね」
 自身の博識を利用し、ルカルカは説明する。
「一時的だろうけど、みんなの魔力を集めて補う事により、鎮守の力は作動するはずよ。本格的な修復は後にしても、とりあえず被害を広げない為に急いだ方がいいと思う」
 ルカルカはそれまでの警戒を解いて、詩穂や和輝達と一緒に水晶に向き直った。
「トゥルー・グリッドとかで援護をしようと思ったけど、それは難しくなるから後はお願い。もし英霊として何かを感じ取ったら、すぐに報告してね」
「解かった。もし解決したらすぐにハイナ殿にHCで連絡を頼む。同じ英霊として、封印した後に吉岡の英霊達がどうなるか、どうしても気になるんだ」
 ルカルカにそう言い残し、淵は外で見張っているメンバーの方へと歩いていった。


 と、その直後に外から聞こえてくる派手な音。
「来たな、黒服の邪教徒ども! 英霊の魂を冒涜した罪、許してはおけん! 英霊のカリスマ!」
 張り上げられる声と大剣を振り回す豪快な音が、先頭の始まりを告げる合図だった。
「始まっちゃったね。さ、こっちはこっちで急がないと、島全体が魔物の巣窟になっちゃうもんね」
 ルカルカは外の騒ぎを気にしないように集中する為か、ゆっくりと目を瞑った。




 淵が先制の一撃を相手に見舞ったことで、カモフラージュを使いながら辺りを調べていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、淵に続いて攻撃しようとした。その彼女をセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がなだめる。
「待って、セレンフィリティ。敵だとしても、まだ水晶との関連性がはっきりしていない。も少し様子を見ましょう」
「それでも状況的には充分怪しいわ。警戒するべきよね?」
 すでに臨戦態勢に入っているセレンフィリティはイライラしているようだ。
「警戒はしても、まだ確定的じゃないし、連中の人数や武器の有無を把握した方がいいと思うの」
「確か相手が最初にメイスンを攻撃したのよね? だったら今度がこっちが先手必勝するべきよ」
 セレアナが止めた甲斐もなく、その大きな声で相手に気付かれてしまった。
 黒服の一人がこちらに近寄ってくる。


「悪いけど、あたし今機嫌悪いのよ! 手加減なんかしてやんないから!」
「ちょっと! まだ相手が攻撃してきてもないのに! 頭に血を昇らせすぎよ!」
 セレンフィリティは腰から二丁のマシンピストルを抜くと、目にも止まらぬ速さで相手に向かって射撃する。突然撃たれたものだから相手は敵わない。
「……いつにも増して短気なんだから。こんなので長生き出来るのかしら」
 セレアナは溜息をつくと、女王の加護と歴戦の防御術を自分と相棒に使った。そしてシーリングランスで相手の相手の攻撃を無効化し、ライトニングランスで雷をまとった一撃を相手に与え、動きを止める。
「……至近距離で戦うならそれなりの戦い方をしないと危険でしょ?」
「さんきゅ〜っ! これで思う存分暴れられるわね! ほらほら、覚悟しなさいよっ!」
 スプレーショットで相手の増援にまで無差別の弾丸をばらまくセレンフィリティ。
 セレアナは呆れながらも、まあ森の中だと壊すものはないから安心かと自分に言い聞かせた。





 戦いの音が鎮守の森に響き渡る。
 黒服達を待ち伏せていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、それが聞こえ始めても、慌てることなく身近な敵の殺気を探っていた。
 だから残りの敵が一気に自分の方へ攻撃を仕掛けてきても、後の先を取ることにより相手に攻撃を避ける隙を与えない。


「はぁっ! 雷霆の拳でも喰らうがいいわ!」
 打ち抜いた拳は相手の胸を貫き、更にその後に続く敵を足踏みさせる。
「おおっと隙だらけだぜ? ダブルインペイルで気絶でもしていな! 殺生をするつもりはねえしな!」
 続くウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)の連撃で、あっさりと吹き飛ばされる黒服達。
 黒服達が慌てて反撃しようにも、今度はイリア・ヘラー(いりあ・へらー)が召還した混乱を引き出す雲が彼らを覆う。
「あっまいー、そう簡単には反撃させないよ。ダーリン! レオ! バニッシュとパワーブレスでサポートするから、一気に勝負を決めちゃって!」
 イリアの言葉に、同時に技を繰り出すルファンとウォーレン。


「必殺の拳を受けてみるのじゃ! 則天去私!」
 ルファンの光をまとった一撃は、混乱して右往左往している敵をいともたやすく吹き飛ばす。
「く、くそ、覚えていろよ!」
 敵は逃げようとするも、既に風術を発動していたウォーレンの前にはそれすらも適わない。
「ぐげえっ!?」
 変な態勢で風に煽られたせいか、頭を石の角にぶつけて気絶する敵。
「ぎゃはははっ! この後に攻撃する手間が省けたぜ! こんなこともあるんだな!」
「笑っている場合ではないぞ、ウォーレン。敵が一人だけ逃げておるのだぞ!」


 ウォーレンを叱咤するルファンの言葉どおり、2人の攻撃をかいくぐり逃走した敵が1人。
 だが、それも結局は無駄に終わる。
「イリアに任せて〜っ。追跡でダーリンのお役に立つよっ!」
 いちはやく動いたイリアに捕まる最後の一人。
 戦闘の後には、縛られた黒服達が累々たる状況で積み上げられていた。
「なんだか、めちゃくちゃ弱かったな。他にはもう敵はいねえみたいだし、面白さにちょいと欠けるな」
 ウォーレンは多少不満そうに言う。
「おそらく実力が伴っていないから水晶の力を弱め、混乱を招こうとしたのであろう」
「やっぱり愛の力だよねっ」
 イリアの言葉を聞かないフリをし、ルファンは社の方を見た。
「さて、こうなれば我々も戦場に戻った方がよいだろう。水晶の修復がもう終わっておればよいが……」