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リアクション
●とにかくみんなを助けなきゃ!
イルミンスール魔法学校から逃げてきた「科学と魔法の会」の部長。
偶然居合わせた学生達は、彼の説明を聞いても、その怪しさと何処まで本気かわからない不真面目な言葉に訝しげな顔をした。
だが話が本当ならば、確かにこのまま放っておくわけにはいかない。
「よし、とりあえず部室に向かおう〜。途中、これ以上ゾンビ(もどき)が増えないように、まだ無事な生徒を守るグループ、ゾンビを元に戻すグループ、そして原因の薬をどうにかするグループの3つに分かれようかっ!」
泣きついたときの情けない顔は何処へやら。部長はニコニコ顔でみんなを先導する。
部室のある建屋に足を踏み入れた途端、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は廊下の奥からこちらに逃げてくる生徒達を見つけた。
「助けてぇ〜っ! ゾンビはいいけど裸になるはいや〜〜っ!」
泣いて逃げてくる生徒達のすぐ後ろにはゾンビ(もどき)の姿が。……男子生徒のゾンビ(もどき)が女生徒を追いかける姿は、事情を知らなければ丸っきり変態だ。
「い、行きますよ、マーガレット!」
「うん、さっきからいつ襲ってきてもいいように準備をしてるから大丈夫!」
リースと背中合わせになって警戒していたマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は、両手でフルムーンシールドを構える。
「ぐああああああっ!」
牙(別に伸びてはいませんが)を剥く男子生徒ゾンビに、あわあわと泣きそうな顔をするリース。
「こ、怖いけど、私だって地球にいる歳の離れた姉さん達と同じボディーガードのお家の子ですっ! 頑張ります! バニシュ!」
神聖なる光の魔法が廊下の奥まで照らし、ゾンビを吹き飛ばす。
……が、吹き飛ばしただけで、首をコキコキ鳴らすと再び突っ込んでくるゾンビ(もどき)。
「ちょっと! ゾンビさんに全く効かないんですけど!」
「ぐあぁぁっ! 女の子ぉ〜〜っ! ナ・カ・マに〜!」
「きゃあっ! こ、来ないでください!」
リースは手加減しすぎたかと思い、今度は渾身のバニシュをゾンビに向けて放つ。
だが、やはりその結果は同じく、吹き飛ばしたときの衝撃以外はダメージがないようだ。
それを見て、部長は緊張感なしに頷く。
「あ〜、なかなかいいデータだな。ふむふむ、あの薬を吸い込んでも光輝属性の魔法は通用しない、と……」
「今更そんなことを言わないでください〜っ!」
あわやリースが噛みつかれそうになる瞬間、マーガレットがフルムーンシールドで阻む。
そしてその攻撃を受け止める瞬間に、その金色の髪をはなびかせながら風術で突風を起こした。
「吹っ飛んじゃえ!」
どうやらゾンビ(もどき)には属性攻撃よりも直接攻撃の方が有効みたいだ。
男子生徒のゾンビは激しく吹き飛ばされ、その間に逃げてきた生徒達を避難させることに成功する。
「危なかったね、リース。あたしと一緒にいて良かったね」
「ありがとうございます、マーガレット……もうっ、ちゃんと情報をくれないと困りますっ!」
無事に生徒達は逃がせたものの、最悪の状態と紙一重となったリースとマーガレットは部長を睨む。
だが、部長は聞こえないフリをして口笛を吹くだけだった。
リース達が遭遇したゾンビ(もどき)は第一陣のようだ。後続で次々と虚ろな表情で裸のまま歩く生徒達が現れる。
白椿 凛々子(しろつばき・りりこ)はシャルギル・アッシュロット(しゃるぎる・あっしゅろっと)に消火器やら硬式の野球ボールやらを手渡す。
シャルギルは物影からそれらを投げ、急所(大事なトコロ)を狙ったり、気を引きつけたりしながら、ゾンビ達の足止めを試みていた。
「シャルギルさん、正直、気を引くだけじゃのぅて気絶させてくれたほうが安全じゃ」
「うん? あんた、あれだけの数のゾンビ達を治そうと考えてるのか? 危険だぞ?」
シャルギルの言葉に、凛々子は困った顔をする。
「いや、泡よくば、じゃ。そりゃあ自分の貞操の方が大事じゃ……」
2人が余計なことを話し出してゾンビ達から気を逸らした瞬間だった。
「ファイアストォォオム!」
「な、なんじゃぁっ!?」
流石に魔法学校の生徒、彷徨っていても魔法を忘れていないようだ。
突然の魔法攻撃に2人は驚く。
「仕方ない、不本意じゃが自分の身は自分で守るぞ、シャルギ……」
「ゾンビのみんな、この人を置いていくから俺は狙われないでくれ! じゃあな!」
「おおいっ!?」
凛々子を囮にし、さっさと逃げ去っていくシャルギル。
「こういう時こそ人の素がでるものじゃな……」
興味本位で来たことを後悔しつつも、凛々子は戦う為に綾刀を構えた。
そんな凛々子達とゾンビ達の戦いの影に隠れて、己の欲望のままに動く男がいた。
伊大知 圍(いたち・かこむ)だ。
「俺はただのおっさんだし〜。スキルを使われたらまずいから、力の弱そうな女性ゾンビを狙ってぇ、うまうま……いやいや、醜態を晒させないように助けるよぉ」
その手をいやらしく、わきわきと動かし、周りを見渡す。
「女性、女性〜。男としてする事は一つ。何とは言わんがとりあえずむんずと掴んで取り押さえる! 出来るなら可愛い子が……」
嬉しそうに女ゾンビの姿を探していた圍だが、だんだんとその顔はがっかりしたものになっていく。
「……女がいない……」
悲しいことに、偶然にも避難してきた生徒を追ってきたのは男のゾンビばかりだったようだ。
「いっそ、一緒にきた誰かが噛まれてくれれば……」
圍は男泣きをしながらも、周りの様子をうかがうことにしたようだ。
魔法学校に遊びに来ていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は騒動に巻き込まれてしまい、リースや凛々子と同じ様に、生徒達をゾンビから守る任務に当たった。
その彼女の前に魔法学校の生徒である五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)が逃げてきた。
「ゾンビはあたしが倒すから、とりあえずみんなと一緒にこの先に逃げ……て……?」
セレンフィリティが異変に気付いたときは、既に遅かった。
「きゃあ、何するのっ!?」
とっくに感染していた東雲に、油断をしていた彼女は押し倒される。
「ふふふ、素敵な方だ。俺と一緒にめくるめく甘美な官能の世界に行こうよ」
セレンフィリティに馬乗りになり、一枚、また一枚と脱ぎ始める東雲。
彼の青白い肌は病的で儚く、かえって妖美だ。
うっすら笑みを浮かべながら脱ぐ仕草に、流石のセレンフィリティ(元々、申し訳ない程度にしか装備を身につけていない)も、顔を真っ赤にする。どうやら、他人が脱ぐ過程を見るのは恥ずかしく感じるらしい。
「ふふふ、体からドキドキしているのが伝わってくるよ。さ、俺にすべてを委ねて。すぐに終わるさ、きっと気持ちよくなるから……」
まるでキスでもし兼ねないムードで、セレンフィリティのあごを、くいと持ち上げる東雲。
「さ、俺と一緒に……いこう」
そう言って東雲は彼女の首筋をがぶりと噛んだ。
「ふふふ……あはははははははっ!」
その直後、狂ったように笑い出し、東雲を押しのけてすくっと立ち上がるセレンフィリティ。
「みんなぁ、みんなもあたしと一緒にゾンビしよぉ!」
ゾンビ化した彼女に羞恥も何もない。あっという間に数少ない着衣をはぎとると(以下表現自主規制)持っている銃を、まるで景気づけの爆竹のように乱射しまくる。
その暴走に周りのメンバーは驚くが、反応しようにもときは既に遅し。
「やっほ〜、女の子だぁ!」
まるで獣のように飛び掛ると、苦戦していた凛々子の首筋をがぶりと噛んだ。
「あ……」
表情ひとつ変えない凛々子だが、その行動は明らかに感染したものだった。
美形な彼女も他のゾンビ達と変わりなく、はらりはらりとその着込んだ服を脱いでいく。
「いよっしゃ! 可愛い女の子ゲットぉ! この瞬間を待っていたんだよねぇ!」
嬉しそうに凛々子に飛びかかる圍。
……が、その過程で東雲に阻まれ、セレンフィリティと同じ様に押し倒される。
「男の子でもいいか……」
「のおおおおおぅっ! 女の子しかのーさんきゅ〜〜!」
綺麗な肌を見せていく東雲に、圍は絶叫を上げた。
「まったく、何と言うていたらく。部長は頼りならないし、恋人がアレだし、私がどうにかするしかないわね」
セレンフィリティの暴走を見て、彼女のパートナーが溜息をつく。
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は女王の加護と歴戦の防御術を自らにかけ身を固め、更に素早く行動する為に軽身功を使う。
「ちょっと大人しく寝ててね! 後で助けてあげるから!」
素早い動きで裸になった凛々子に当身をし、気絶させる。
そのままの動きでセレンフィリティに向かって走る。
「あはは! セレアナも一緒に裸になろう〜っ!」
「あーあ、セレン……貴女は普段でも半ば裸族みたいなものじゃない……」
笑いながら銃をぶっ放すセレンフィリティに、パートナーと言えどもセレアナは容赦しない。
「本当に手のかかる子なんだから!」
鳳凰の拳でみぞおちを連打すると、倒れかかるセレンフィリティを確認もせず、部長に向かって叫んだ。
「今の内にゾンビからみんなを元に戻して! これ以上被害が大きくなると困る!」
だが、部長が行動するよりも早く、現場には異変が起きていた。
圍の上でほぼ全裸になっている東雲を見て、東雲を探しに来たリキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は半狂乱になっていた。
「し、東雲ちゃんが裸に、裸に……! ボクがなんとかしなきゃ!」
彼女にとって、学園のゾンビ騒動など二の次で、想い人である東雲が全てだった。
「誰も東雲ちゃんの裸を見るなぁ〜〜〜っ! 見ていいのはボクだけだぁ〜〜〜っ!」
裸になっている女性が複数いるお陰で、リキュカリアは何もかも見えなくなってしまう。
ものすごい速さで東雲の体を抱きしめると、そのまま庇うように火術を発動させる。
ありったけの魔力を使い、狭い校内廊下にも関わらず、魔法を暴発させる。
「ちょ、ま、まずい、まずい! こんなことしたら、大騒ぎになってばれる!」
部長の叫び声など、なんのその。リキュカリアは付近のゾンビ(と、護衛メンバー)が昏倒するまで魔法を使い続けた。
余談。
後ほど正気に戻った凛々子に服を着せてあげるシャルギルだったが、当然、囮にされた凛々子が許すはずもなく、裸を見られたこともあって恥ずかしさマックスの打撃を頬に受けるのだった。
また、最終的に東雲を脱がしたのは圍だとリキュカリアは思い込み攻撃をされ続けたお陰で彼は再起不能となり、女子ゾンビを助けるという(不埒な)行動は、継続不能となるのだった。