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【超勇者ななな物語外伝】超覇王の城の地図を探せ!

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【超勇者ななな物語外伝】超覇王の城の地図を探せ!

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◆光も闇も関係なく

 その場に残ったのは、傷だらけで倒れているドラゴンと、ドラゴンと戦うことに乗り気ではなかったものたちだけだ。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ」
 まず最初にドラゴンへと駆け寄ったのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)だった。
 仲間の邪魔をしたくない。だがドラゴンを傷つけたくもない。
 そんな間で揺れていた垂は、かすかにではあるがドラゴンが息をしているのを知って、安堵に胸をなでおろした。
「ルカルカ、まだ生きてる。早く治療を」
「うん。任せて、たれちゃん」
 同じくほっと息を吐き出していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が龍玉の癒しと命のうねりを使って、気を失っているドラゴンの治療を始める。息をしているとはいえ、かなりの深手だ。急がなければならない。
 その様子を見守っていたルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)は、緊張した面持ちをしていた。今は気を失っているが、意識を取り戻した時、自分たちの話を聞いてくれるだろうか、と。
(駄目なら戦わないと……だけど、大切な地図を守ってるドラゴンには使命や知性も有ると思うから、できたら尊重し、理解したいな)

「あの、僕も治療手伝いますです!」
 ルカルカに話しかけたのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。ヴァーナーもまた、ドラゴンを倒すのではなく、話合いで地図を見せてもらいたいと考えていた1人だ。
 救急箱を持った姿を見て、ルカルカは笑顔で頷いた。治療できる人数が多いに越したことはない。

「少しでも勇者殿達の盾となって戦う事が私の使命だ」
 自分の力が役に立つのなら、と光の一行に同行していたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、ドラゴンを治療しているルカルカやヴァーナーの周囲を警戒していた。
「お前、良かったのか? だってお前は、ドラゴン退治に来たんだろ?」
 そんなハーティオンに垂が気まずそうに声をかけた。それは

『私は機械族の超戦士ハーティオン。勇者殿と共に戦う為にやって来た。力による戦いを得意としている。戦う者が必要な時は私を連れて行ってくれ』

 という、召喚された際の彼の挨拶を覚えていたからだろう。
「構わない。勇者殿を守るのが、我が使命と心得ている。ならばこれもまた、私の使命だ」
 堂々と、迷うことのないハーティオンの言葉に、垂はしばし唖然としてから、くくっと笑った。
「お前、変わってるな」
「む。よく言われるのだが、私はどこか変なのだろうか」
「ま、いいんじゃねーの? 変だけど」
 変であることを否定しない垂に、ハーティオンはどこかショックを受けた様子で黙り込んでしまった。

 そんな、少し穏やかな空気が流れるその場所に

「あなたたち! ドラゴンに何しているんですの!」
「ひどい怪我を……それ以上ドラゴンさんを傷つけさせません」
 イコナティーの悲痛な叫び声が響く。そして仮面をかぶった鉄心もまた、姿を現す。
 片方の翼を失い倒れる血だらけのドラゴンに、鉄心は思いのたけを叫ぶ。

「己が覇を競うためだけに、守護せし者を血祭りにあげるか。
 そこにはいかがわしい正義すら存在しないのではないのか?」

 厳しい口調で告げる彼女たちに、誰もが戸惑っていた。アコが慌てた様子で胸の前で手を振る。
「ちょ、ちょっと待って、何か誤解を」
「ドラゴンを殺させはしない!」
「今こそ爆弾を使うタイミング!」
「ちょ、シオン君、さすがにそれはまずいですって」

 ハーティオンへと銃を向ける鉄心に、シオンが漫才のようなやり取りをしつつ、サポートに入る。
 仕方なく武器を構えるハーティオンと垂。ティーとイコナもまた仲間にした魔獣たちと共に構えている。

「今は戦ってる場合じゃないの! 早くこの子を治療しなくちゃ」

 そこへルカルカの必死な叫び声が響く。鉄心たちの目が彼女へと向けられる。ルカルカの手から発せられる光が、傷ついたドラゴンの体を癒していた。
 あ。
 小さな声が聞こえた。銃口が床を向く。

「すみません。ひどい勘違いをしてしまったようで」
 誤解が解けたようで、鉄心たちは恐縮したようにうつむいていた。それに誰もがホッと一息ついた時だった。

「ふっふっふ。よく来たわね、勇者達!
 これからあんた達を、闇の超アイドル・ラブちゃんのライブで骨抜きにしてやるわ! 全ステージぶっ通しで6時間の大型ライブ! 心して聞いて、楽しんでいってね」

 どこからともなく聞こえ出したBGM。どこからともなく輝くスポットライト。どこからともなく? せり出すお立ち台。……一体どこにそんな仕掛けがあったのだろう。とか、ツッコミをいれてはいけない。
「む? ラブではないか。そこで何をしているのだ?」
 ハーティオンが不思議そうに問いかけた相手、ラブ・リトル(らぶ・りとる)は、マイク片手にお立ち台の上にいた。彼女は闇勢力の一員なのだが、戦う気はなさそうだ。
 パートナーの問いかけに答えず、歌い始める。
「わぁっ素敵な歌ですねぇ」
 リアクションに困る面々の中で、ヴァーナーが手を叩いて喜んでいた。

 そうして全員の目がラブに向いている間、ドラゴンへと近づくことに成功した闇勢力の神代 明日香(かみしろ・あすか)は、ドラゴンをさらに強いドラゴンへと強化しようとしていた。

(あれだけの大勢が本気でかかってやっと倒せるようなボス級ドラゴン。下僕に出来たら、素敵じゃないでしょうか? いえ、素敵に決きまってます!)

 下僕にできたなら闇の戦力増強にもつながる。だが、一度敗れたドラゴンをそのまま下僕にするわけにもいかない。そこで、魔力を注ぎ込んで超強いドラゴンを超超強いドラゴンへと改良するのだ。
 もちろん強ければ下僕にするのも大変だと分かっている。それでも。いや、だからこそやってみる価値はある。

「さあドラゴン。起き上がるのでぇす。そして私の下僕になりなさぁ〜いです」

 明日香は、高めた魔力を一気にドラゴンへと注ぎこんだ。
 傷だらけだったドラゴンの身体が瞬時に癒えていく。失った翼が再び現れ、めきめきと音を立てて巨体が、さらに一回り大きくなる。
 そして、閉じられていた目が――開かれた。

「ぎぃぃやああおおおおおおおおおおお」

 それはただの咆哮だった。
 だがその声は風を動かし、地面を震わせ、傍にいたルカルカ、ヴァーナー、明日香を吹き飛ばす。

「元気になってよかった、て言うべきなのか、これは?」
「ふむ。元気というレベルではない気がするが……2人は無事か」
 のんきともいえる会話をしつつ、垂とハーティオンは仲間の心配をする。吹き飛ばされたルカルカとヴァーナーの元へ、アコが駆け寄り、抱き起こす。
「2人とも、大丈夫?」
「いたたたた。うん、なんとか大丈夫」
「僕も、大丈夫です」
 2人はぶつけた個所をさすりながら立ち上がり、ドラゴンを見上げた。ドラゴンの目は血走り、最初に見たあの知的な光は見えない。混乱しているのか。怒りで我を忘れているのか。それとも魔力の暴走か。
 試しにルカルカが龍の咆哮で話しかけてみるが、会話にならなかったらしく。首を横に振った。

「ならばやむを得ないか」
「だな。ひとまず落ち着かせねーと」
 得物を手に取るハーティオンと垂。そんな2人に鉄心が待ってくれ、と声を上げる。
「何度も話しかけていれば、落ち着いてくれるかもしれない。だから攻撃はしないでくれ。これ以上傷つけるのは止めてくれ」
 必死に叫ぶ彼に、反論しようと口を開くも、暴れるドラゴンの攻撃に閉じた。吐きだされた炎は、遺跡を焼くどころか、炭へと変えた。

 明らかに先ほどよりもスピード、威力が上がっていた。避けるだけでも一苦労だ。避けられなかった時のことなど、考えたくもない。
 しかしそれを見て目を輝かせるのは明日香だ。下僕にするのならば、強ければ強いほどいい。

「さあ……下僕になるのでぇすよ〜。闇に来た方が楽しいのでぇす」
「とにかく落ち着いてください。また怪我をしてしまいます」
「こら〜っ! トカゲ! あたしのライブを邪魔しないの!」
「そうよ。ルカたちは君の敵じゃないから」
「わわわっシオンくん、どさくさにまぎれて爆弾設置しないで下さいよ」
「落ち着いてくれないと困るのだが」
「(ちっ)してないって」
「俺たちはただお前を助けたいだけなんだ!」
「わたくしの下僕になりなさい!」
「イコナちゃん! 危ない」

 四方から聞こえる声に、ドラゴンはただ暴れるのみ。
 めちゃくちゃに振り回された尾が、イコナへと迫った。ティーがなんとか間に入って受け止めるが、そのまま弾き飛ばされる。鉄心が2人を追いかけ、地面に落ちる前に受け止めた。
「良かった。気を失ってるだけみたいだ」
 怪我と言う怪我をしていない様子に、ホッと息を吐きだす。

 その間にドラゴンが頭を少し後ろに下げた。口元にも力が入っている。再び炎を吐こうとしているようだ。全員が後ろへ飛び退り、回避の態勢を整える。
 ドラゴンが息を思い切り吸い込み……動きを止めた。

「え? 何?」
 誰もが理解できぬまま、突如大人しくなったドラゴンを見守る。ドラゴンは鼻をしきりに動かしていた。瞳の光はすっかり落ち着いており、何かを探すようにきょろきょろと動いている。

「あ。もしかして……これ、ですか?」

 ヴァーナーが懐から取り出したのは……食パンだ。弥十郎が光の一行に渡した、あの三種のパンである。
 ドラゴンは首をかがめ、そのパンへと鼻を近づける。冷えた今も香ばしいにおいを漂わせているパンに、興味があるようだ。ヴァーナーは食パンをちぎって自分の口に入れる。そして

「どうぞ」

 と、残りを差し出した。
 毒でないことを理解したドラゴンは、遠慮なく食パンを口にした。大きな身体に食パンはあまりにも小さく見えたが、口を動かすドラゴンの目が細められた。どうやら美味しかったらしい。
 もっとくれ。
 そう言わんばかりに鼻先をヴァーナーへとこすりつけた。ヴァーナーは嬉しくなって大きなドラゴンの顔に抱きついたが、振り払われることはなかった。

 ドラゴンの 好感度が 上がった!(ティロリロリン)


 その後、その場は餌付け大会になったのは、言うまでもない。