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リアクション
 2章 「カルノス」
 〜森・ブリガンテ付近〜
 木々の枝を足場に跳び、枝から枝へと移動する少女が一人。
 彼女は……フェルブレイドの辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)。
 軽い身のこなしで捜索隊の先頭を務め、危険がないか、カルノスの足跡はないかと注意深く辺りを見回す。
「しっかし、あの少年はどこへ行ったのかのぅ……木の根も襲ってきて危ないというに……」
 腕を組み、枝の上に立つ刹那に向かって木の根が襲い掛かった。木の根は枝を鞭のようにしならせ、
 刹那に向かって振り下ろした。
 刹那は驚く様子もなく跳躍、空中で身体を回転させつつ、アルティマ・トゥーレで冷気を纏わせたダガーを投擲する。
 ダガーは、しなる枝に刺さり、そのまま枝を氷結させた。
「わらわに挑んだこと……後悔するがよいわッ!!」
 枝に刺さったダガーを足場に木の根に向かって跳躍。柳葉刀を振り上げ、ヤタガンを逆手に持ち、接近する。
 木の根から迎撃として放たれた枝を柳葉刀で一閃すると、回転しながら木の根を斬り刻む。
 瞬く間に木の根はただの木くずへと変貌した。事前に連絡を受けた再生能力は木の根にはないようだった。
 適当な木の枝に腰掛けると、刹那は一息つく。
「さて……後方の隊をしばし待つとするかのぅ」
 数分後、足をぶらぶらとさせ、退屈そうに待つ刹那の元にスナイパーの青年と
 アドベンチャラーの少女が息を切らせながら現れた。
「くっそ……てめぇ、どんな足の速さしてやがるんだよ……あんなの、追いつけるかッ!」
 青年は深い傷ではないが、所々負傷しており、ここまでくるのに相当苦労したことが窺える。
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は苦しそうに肩で息を息をしていた。
 隣に立つ少女は既に息を整え、どこかあらぬ方向を見ている。
 彼女の名は……朱濱 ゆうこ(あけはま・ゆうこ)。
 いかにも巫女然とした衣装は和を思わせる雰囲気なのだが、その細身な身体に似つかわしくないほどの胸が主張している為、
 多くの者の視線は巫女服ではなく、そちらに奪われることになる。
 対照的に本人は明るく表情を作るわけでもなく、ただどこかを見つめているだけ。
 その横顔は無気力そうにも、どこか儚げにも見えた。
「……忠告を無視して先に進もうとするから、そんなに怪我するんですよ」
「なんだとッ! てめえがいつ忠告した!? ただ後ろからついてきただけじゃねぇか!」
「しましたよ……聞こえるかわからないほどの小声で」
「はぁッ!? それは忠告とは言わんだろうッ!」
 ちらりと恭也を見て、ゆうこは言葉を発する。
「そうですね……」
「あ、おぅ。わかってくれれば……別に俺も……」
 振り上げた拳を下せないような、なんともいえない感覚に戸惑う恭也。
「カルノスは現地の人間です。地理にも精通していると考えると……きっと身を隠す場所なども熟知しているのでしょう」
「そうそう、熟知して……ってなんでいきなりそうなるッ!? ああーーッ! もう!
 唐突に話が飛躍しすぎなんだよ、てめぇはーッ!!」
 恭也は女の子に掴みかかるわけにもいかず、頭を抱えて悶絶している。
「おぬしらは楽しそうでよいのぅ。見ていて飽きが来ぬぞ?」
 その様子を楽しそうに刹那は眺めていた。顔は笑っているが、どこか寂しそうな印象を受ける笑顔だった。
 しかし、その寂しさに気づくものはいない。
(誰かと笑いあえる日常か……わらわには縁遠いものじゃな……)
 〜森・ブリガンテ付近〜
「刹にゃん達はうまくカルノス見つけられたかなあ……」
 鋭角的な漆黒の全身鎧を纏った青年が、その見た目とはかけ離れたのんびり口調で話す。
 彼は……フェイタルリーパーの紅坂 栄斗(こうさか・えいと)。
 カルノス・オルレンドを保護する為に、パートナーと共に森を捜索している最中であった。
 漆黒の全身鎧自体が声を発する。
「また、そんなあだ名を勝手に……怒られてもしりませんよ?」
「いーの、いーの。本人の前では言わないようにするからさ」
「ですが、ぽろっと言ってしまう気がするのですが……」
 栄斗を心配する彼女の名は……ルーシャ・エルヴァンフェルト(るーしゃ・えるう゛ぁんふぇると)。
 魔鎧であり、栄斗のパートナーである。
 過去に栄斗によって悪魔の手から救われており、以降は栄斗に忠誠を誓っている。
「まったく、ルーシャは心配性じゃのぅ。ほれ、栄斗。いつでも戦闘できるように受け取っておけ」
 掌から橙色に輝く剣を引き出す、青みがかった銀髪の少女ユーラ・ツェイス(ゆーら・つぇいす)。
 彼女もまた、栄斗のパートナーであり、剣の花嫁であった。
 栄斗はそれを受け取り、軽く振るってみる。
「そんなに心配しなくても、きっと刹にゃんが捕まえて……」
 草葉の陰から頭を出した何かと栄斗の目が合う。
 一瞬の沈黙。お互いに時が止まる。
「――ッ!」
「待って! 別にとって食おうってわけじゃないんだッ!!」
 草むらにいたのは、なんとカルノスであった。
 カルノスは我に返ると、背中を向け一目散に逃げ出した……声にならない悲鳴を上げて。
「行っちゃった……なんで話も聞いてくれないのさ」
 ユーラは溜め息をつきながら手を広げる。ほんとあきれたように。
「あのな、栄斗。こんな森の中を逃げておる人間が、そんなトゲトゲの真っ黒な鎧男なんて見おったら……
 確実に殺されると思って、命の限り脱走すると思うのじゃが?」
 ルーシャがそれに静かに同意した。
「そうかなぁ……すごくカッコいいと思うけどなぁ、俺は」
 森のなかで漆黒の鎧を纏った男が剣を構えている……はたから見れば、近づきがたい。
 たぶん、彼を見た誰もが同じ感想を述べることだろう。
 しかし、当の本人は気づかないというのもまた、定番である。
 
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