天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【アラン漫遊記】魔法のランプはパラミタ製?

リアクション公開中!

【アラン漫遊記】魔法のランプはパラミタ製?

リアクション



第3幕 社員は辛いよ……


「れんちゃんたちは私が守る!」
 シンクはまたパニックになりかけている歌戀を守るようにインプをシャープシューターで攻撃していく。
 もちろん紅月や椿も参戦していく。
 そして、アランたちはというと……。
「アラン君、私たちのカッコイイとこ見ててね☆」
 歌菜と羽純と目で合図するとインプの一番多いところへと突っ込んでいく。
 羽純の【真空波】でひるませ、その隙に歌菜が【歴戦の武術】で一気に薙ぎ払う。
 その一撃だけで58匹いたインプのほとんどが倒されてしまった。
「ここはこんなもんよね! 次〜♪」
 息ひとつ乱さず、歌菜は羽純とともにもっと強い敵がいそうな上へとのぼっていく。
「あんなに強かったのか……」
 アランがぽつりとつぶやく。
「ふふ、じゃあ今度は私たちのすごいところを見せちゃいますね」
 【白虎】の背に乗り【蒼い鳥】を伴った封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が『禁猟区』をかけた【アイシャのコイン】をアランの手に握らせる。
「おお、頼もしいな!」
「もちろんです」
 そう言うと、白花は楽々と平インプを倒している樹月 刀真(きづき・とうま)のそばへと行く。
「アランさんは私たちが頑張れば守れますよね」
「そうだな。だから白花はあの子のそばについてろ、敵は俺と月夜でやる」
「え……? 私も一緒に戦いますよ?」
「あいにくとあの子を守る気になれなくてね……。お前を守るためになら頑張れるんだよ」
 刀真は周りのインプを蹴散らしてから白花の頭を撫でた。
「えっと……はい!」
 白花はちょっと嬉しそうにするとアランのそばへと戻っていった。
「それじゃあ、とっとと次の階に行くか。ここはほとんど終わってるし……って、月夜?」
「にゃっ!?」
 刀真に突然話しかけられた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はビクッと体を震わせると拾っていたらしいランプを手から落とした。
「月夜……」
「こ、これは……その……」
 もじもじする月夜に刀真はひとつため息をついた。
「やめとけ。別にお前はそのままでいいだろう? そんな胡散臭いランプにお願いとかはしない方がいいと思うが?」
「ど、どうして胸のことだってわかったの!?」
 月夜は自分の胸に手を当てて、顔を真っ赤にする。
「いや、別にわかったわけじゃ――いてててて」
 月夜はおもいっきり刀真の頬をつねる。
「……このスケベ!」
「ち、ちが……何かに悩んでいるけど大したことないんだろうなって――いだだだ!」
 月夜の指にさらに力がはいる。
「どうせ大したことない胸だもんね……」
「ち、ちがっ!」
 刀真は先に歩き出してしまった月夜を追いかける。
 その様子をほほえましく見ていた白花は少しだけ羨ましそうにしていたのだった。
 そしてこちらは天音とブルーズ。
 天音が黒革の鞭と鳴らすとブルーズはチラリと天音を見やる。
「襲ってくる敵、道を塞ぐ敵を倒し、深追いはしない。で良いのだな?」
 その言葉に天音が微笑んで頷くとブルーズは如意棒を構え、天音と一緒に階上へと駆けて行った。
「みんなすごいのだ」
「うんうん、さすがだね!」
 その隣に立ったのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
「でもさ、アランだって男の子だよね?」
「う、うむ」
「そろそろ自分で戦うことを覚えた方が良いような気がするんだけど……どう?」
「そ、それはたしかに……」
 アランは美羽の言葉に腕組みした。
 そして、しばらくすると決意したように美羽を見上げる。
「余も男の子だ!」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、今日のところはここにいる残りのインプを相手にやってみよう♪」
「うむ!」
 美羽はまず【変身!】を使い魔法少女マジカル美羽に変身をする。
 ミニスカートがひらりと舞った。
「次はアランの番だよ」
「余……?」
 美羽はどこから取り出したのか魔法少女マジカルホイップの衣装(アラン用)を着せてしまった。
「このかっこうはしなくてはならないのか!?」
「もちろん! それじゃあ行くよー!」
 美羽の言葉にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が頷く。
「いくら弱いっていってもやっぱりもう少し弱ってもらわないと。アランは今回が初戦みたいだしね」
 コハクは【ヒプノシス】をまだ残っているインプにかける。
 するとインプたちは眠るまではいかないが、かなり眠たそうに足元をふらつかせる。
「今だよ!」
「うむ!」
 美羽はマジカルかかと落としを、アランはセバスチャンが用意してくれた金属バットでインプの頭をぽかりとやった。
 頭を殴られたインプは眠さもあってそのまま倒れ込んでしまった。
 美羽はアランの背中をぽんと叩いた。
「やったよ〜! アランだってやれば出来る!」
「うむ!」
「アラン、後ろ!」
 コハクの声が響くと背後からまだ残っている平インプがアラン目がけて突風を巻き起こした。
 すると、風はアランのミニスカートをひらりと舞い上げ、かぼちゃパンツがちらりと見えた。
(僕は何も見なかった……)
 ばっちり目撃してしまったコハクはひとり頷いた。
 さらに突風をしてこようとするインプ。
 だが、アランの前に立ったクナイ・アヤシ(くない・あやし)がその突風を風術で押し返す。
 吹っ飛んだ平インプを今度は清泉 北都(いずみ・ほくと)が【エイミング】での攻撃を命中させた。
「アラン様、いかがいたします? このまま命を絶つことも可能でございますが」
 クナイはもう動かないインプの前に行き攻撃態勢に入ると、アランにそう質問をする。
「いの……ち……?」
 アランは首を傾げる。
「ご依頼主はアラン様ですから、どのようにするもアラン様の言葉ひとつですよ」
 アランはクナイの言葉に言葉が出てこなくなる。
「余は……余はそこまで考えていなかった……」
 しゅんとしてしまったアランに白花とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がほぼ同時に頭を撫でた。
「戦いというのはそれも覚悟をしなくてはいけない時がやってきます」
 ベアトリーチェは優しくそう言う。
「そう……だな……。うむ……」
 アランはしばらく考えてから顔をあげた。
「だが、今は命まで取る必要はない。そう余は判断する!」
「ご命令のままに……」
 クナイはそう言うと、攻撃態勢をとく。
 そして、気が付くと残り少なかった平インプは泉 椿と紅月、シンク、ネージュたちの手によって全員倒されていた。
「ふふ、それじゃあ私もそのアランさんの判断を尊重しますね」
 ベアトリーチェは倒れているインプを次々に治療していく。
「良いですか? もう二度とこんな悪いことをしてはいけませんよ! めっ」
 インプはベアトリーチェにそう言われると、恥ずかしそうにもじもじしてから会社の外へと飛び出して行ってしまった。
「さて、それでは上に行ってみましょうか」
 セバスチャンは階段を指さす。
 アランはそれに頷き、みんな階段を上っていく。
 その最後尾にセバスチャンがつき、その隣に北都がいた。
「どうかいたしました?」
「今は執事じゃないんだけどさ、僕も執事だからちょっと話してみたいなぁってね」
「なるほど、そうですか」
「彼に仕えるのはどう? 楽しい?」
「ええ、見ていて飽きませんよ」
「ふ〜ん……な〜んかそれだけじゃないような気もするんだけど……僕の気のせいかねぇ」
「さあ? どうでしょう?」
 セバスチャンは顔色ひとつ変えずにそう答えていた。
「っと、次の階にもう着いちゃったみたいだねぇ」
 北都の言うとおり、2階に到着していた。
 だが、そこでの光景はすごいの一言だった。
「誰も残っていないとは……」
 平インプたちより強かったはずの課長インプ15匹が全員叩きのめされている。
 次の階も、その次の階も……とうとう6階の最上階までやってきてしまった。
 6階に到着すると、先に行っていたみんながいた。
 しかし、そこでは刀真に矢を向ける月夜の姿が……。
「ど、どうしたんですか!?」
 慌てて白花が駆け寄り、止めに入る。
「白花……また刀真が私の胸をわしづかみにしたの!」
「ええっ!?」
「違うっ! あれは【光条兵器】を抜こうとしただけで、その……」
「いつもじゃない! ひどいよね、白花もそう思うでしょ?」
 月夜が白花に泣きつく。
「ええ、確かに胸を掴むのは……ちょっと……」
「だから! 事故だって……」
 そう主張はしたが、2人の視線が痛くなってきた刀真は諦めた。
「すまない。今度から気を付ける……。その……帰ったら俺特製辛くないカレーライスを作るから、それでなんとか機嫌直してくれないか?」
「……むぅ……。デザートに杏仁豆腐は?」
「それもつける」
「じゃあ、今回は許してあげる」
 なんとか納得してくれた月夜を見て、ほっとする刀真だった。
「大人というのは何やら大変なのだな……。ところで、この部屋はなんだ?」
「ここは社長室、つまりランプでひどいことしてた元凶の部屋だよ」
 アランの質問に歌菜がそう答えると、羽純が【真空波】で扉を破壊した。
 部屋の中に入ると、そこにいたのは豪華なスーツを着た社長インプ1匹だった。
「やあ、やあ、みなさんお揃いで。いかがしましたかな? くっくっく……」
「いかがしました? じゃないわよ。子どもをだますなんてどんな悪徳業者よりもたちが悪い」
 モモが見下したような笑みを浮かべる。
「ふぅ……何事もなくスマートにあの方に良質な魂を渡したかったのですが、こうなっては仕方ない。私がお相手いたしましょう。どうやら社員も可愛がってくださったみたいですしね。おもてなしをしなくては……くっくっく」
 社長の言葉にジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がぴくりと反応した。
(我の持つインプのイメージは小悪魔。誰かに仕えて悪さをする感じだと思っていたが……どうやら間違ってはいなさそうだな)
 ジュレールはそう納得すると、さっそくレールガンをぶっ放し、社長の背後の壁に大穴を開けた。
「何をなさるんです? 弁償してもらいますよ?」
「これで少しはこの淀んだ空気が綺麗になるんだ。むしろ感謝してほしいくらいだが?」
「面白い方ですね」
 社長はジュレールを見据え、嫌な笑いを浮かべる。
「そ〜れ」
 ジュレールに気を取られている隙に後ろに回ったヘルが【封印呪縛】を使う。
 だが、効果は不発に終わってしまったようだ。
「今、何かしましたかな?」
「あー……ちゃんと弱らせてから使わなかったからかぁ〜。失敗、失敗☆」
 失敗してもヘルはどこか楽しそうだ。
 ヘルの方へ向いた社長をカレンが【歴戦の魔法】をお見舞いする。
 少しだけひるんだす隙をついて羽純が一気に間合いを詰め【パイロキネシス】を発動させるそぶりを見せる。
「このまま燃えとくか?」
「冗談じゃないですよ。このまま終わるわけには――」
「それじゃあ、ちょっと燃えとけばいい」
「ぎゃーーーーーっ!!!!」
 本当に【パイロキネシス】を使い、社長インプの体を炎で包ませる。
「ぐ……」
 社長はなんとか羽ばたきで炎を振り払うことは出来たが、そのダメージが甚大だ。
 膝をつき、息も絶え絶えになってしまっている。
「さっき、魂を渡すとか言っていたな。誰に持って行くんだ?」
 ジュレールがそう質問するが、社長は口を閉ざしたまま。
「さてと、こ〜んな悪い社長……ギルティー判決は?」
 モモが言うと、ギルティは槌を打ち鳴らした。
「そこの小悪魔ギルティ! その悪い穴を封じちゃってクダサーイ」
「いたいけな子供の夢を食い物にするなんて……許しゃぁらぁぁー!」
 モモがそう叫んだところで白雪 椿がアランの目を、そして白雪 椿の目をヴィクトリアが塞ぎ、マユの目は呼雪が塞いだのだった。
 時々、ギルティの声――
「モモ、そこお尻……」
 というのと、何か聞こえてはいけない音が聞こえてきたがアランたちの目にその行為が刻まれることはなかった。
「まだやられたくなければ黒幕を吐くといい」
「う……それは……悪魔の……ぎゃーーーー!」
 ジュレールの質問に答えようとした社長は炎に包まれ、そのまま消滅してしまった。
「……何かの呪いか……契約か……?」
 ジュレールの言葉がシーンとしてしまった部屋の中に響いた。
「はーい、それじゃあいったん落ち着いたところで負傷者はこちらに来てくださいね〜」
 戦闘には全力で退避していたイナ・インバース(いな・いんばーす)が言うと、和子がその隣に立った。
「あたしも手伝うよ」
「ありがとうございます♪」
 イナと和子が協力して治療にあたる。
「そういえば、アランくんはケガしてませんか?」
 イナがそう声をかけると、白花の【白虎】に乗っていたアランが振り向いた。
「どうしたんですか? その顔……」
 アランの顔いっぱいについていたチョコをイナがハンカチでふき取ってあげる。
「う? 和子にもらったのだ」
 その手と足の間にはみかん、パラソルチョコ、シール入りチョコレート菓子、ショコラティエのチョコ、空京万博弁当が。
「あまり食べ過ぎて虫歯にならないように気を付けてくださいね」
「大丈夫だ! 余は生まれてこのかた虫歯などになったことはない!」
「そうなんですか?」
「うむ!」
「ま、今まではそうだったとしても今後はわかりませんから気を付けるにこしたことはないと思いますよ?」
「むぅ……でも、大丈夫だ! きっと! 余ならば!」
「それはどうかと……」
 イナがそう言うが、アランはまた食べ始めてしまった。
(あとでもう一度歯磨きを促した方が良いかもしれませんね)
 ため息をつきながらイナはそう思ったのだった。
 こうしてほのぼのと治療が終わると、みんな会社を後にしたのだった。