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花とニャンコと巨大化パニック

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花とニャンコと巨大化パニック
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第四章 ハッピーエンドのために
「弱肉強食が常の昆虫相手に真っ向からやっても、勝てるわけないで?」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は虫は自分達に任せろと告げると、こちらに意識を向けた巨大蜂にシニカルな笑みを浮かべた。
 通常、虫の方が遥かに殺しが上手い。
 それを裕輝は知っている、けれど。
「大きくなるいうのも、考えもんやな?」
 裕輝の横合いから繰り出された鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)の白刃が、その羽根を斬り落とすと、大きな落下音とやがて叩きつけられる音。
「あ〜、下に人がいるのか確認したんか? つ〜か、揺らしたらあかんやん」
「あぁ? やんのかコラ?」
 途端、裕輝をギラっと睨む偲、その眼差しは随分と剣呑だった。
「やってやろうか? そろそろ白刃を朱で染めたくなったところだ」
「いや、あのなぁ」
「おーおーおー、ホンマにしばいたるわ」
「うん、まぁ気付いてないなら別に良いんやけど……」
 裕輝の言い様に偲が不快気に眉をひそめた時、先ほどの反動かニュルンと伸びた蔓が偲の四肢に巻き付いた。
「なっ、ああっ!?」
 たくし上げられた袴とか乱れた胸元とかに流石に、偲の顔が朱に染まるのだが。
「どこの三流もんや。えぇ加減にしときや? 正直引くわ」
「……最悪だ、お前」
 やれやれ、と言いたげに溜め息を付く、あんまりと言えばあんまりな裕輝の態度に今度は怒りで頬を染めた。
「放っておいて良いんですか?」
「まぁ、いつもの事だからな」
 裕輝のパートナーである渡辺 綱(わたなべの・つな)は、心配する響と桔梗に言ってから、もう一匹の巨大蜂の胴の隙間に刀を付き入れた。
 そのまま引き、出来るだけ衝撃を与えないように、落とす。
「お見事です!」
「剣技も何もあったもんじゃない───私のは、無骨な刀そのものだろうよ」
 源頼光が四天王の筆頭・綱は自らのそれを剛の太刀だと承知している。
「それより、行け。貴殿らを待っている者達がいよう」
「「はいっ」」
「────とまあ、剣の道も術も確かに無いが」
 若者達の背中を見送った綱は、
「その腕っぷしだけで、鬼の腕だって持ってくがな」
 振り向きざま、巨大ムカデの腹にズブリと切っ先を突き刺した。
「しかし……そろそろあの二人も手伝ってくれないだろうか」
 未だ続く罵り合いに、綱はそっと息を吐きだした。
「そういう事、こんな騒ぎさっさと終わらせましょうよ」
 声と共に、偲の身体が自由を取り戻した。
 流石に危なげなく着地した偲の視線の先にいたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
「……すまない、助かった」
「気にしないで、それより……来るわ」
 セレンフィリティの【二丁拳銃】に助けられた、と察した偲は裕輝を睨んでから礼を言い。
 直後、襲ってきた巨大蜂×複数に表情を引き締め向き合った。
「うわー……三流ホラー映画なら笑って見てられるけど、これはもう夢に出てきそう」
 セレアナと背中合わせで戦いつつ、思わずもらすセレンフィリティ。
 【二丁拳銃】【兵は神速を尊ぶ】で高めた攻撃力とスピードを上昇、【スナイプ】で命中精度も高めており、現れる巨大虫を確実に仕留めていく。
 それは、【女王の加護】で自分達の防御力を上げ、【神速】【軽身功】でスピードを上げた上で【龍の波動】【鳳凰の拳】【等活地獄】を駆使するセレアナも同じ。
 二人ともいつもの、メタリックレオタードの上にロングコートという出で立ちであり、ひどく無防備に肢体をさらしているように見える、けれど。
 互いの死角を補うように、巨大虫を寄せ付けないでいた。
「アレがいないだけマシ、アレがいないだけマシ、アレがいないだけマシ……」
 実は虫が苦手なセレアナは特に、常に無く余裕ない必死な面持ちで。
 とりあえず、大嫌いなに遭遇しないだけ良い、と自らに言い聞かせ。
「虫さんたち、恨むのならクロード先生を恨んでよね! こっちだって必死なんだから!」
 セレンフィリティは言って、セレアナの後方に微かに見えた気がした黒光りに続けざまに撃ち込んだ。
 それでも、派手にやり合うのは少しでも自分達に注意を引き付ける為。
 救助する甚五郎達や、救助を待つ東雲達に、虫を近づけさせない為、であった。

「さあ今夜の1Gはどこかしら〜」
 一方、今日の1Gを探して迷い込んだ森で、黒乃 虎子(くろの・とらこ)は『それ』に出会った。
 1G分のネタになりそうな?落し物?を集めて、青空バザーを週末に開くのを何となく趣味にしている虎子である。
 迷い込んだ先で虎子は1Gを発見した!!
「巨大団子虫――こいつは金になるっ、正直、商売人の勘!」
 即座に大鎌を構えた虎子はギラリ、目を光らせ駆け出した。
「わたくしの獲物です! おとなしく縛につきなさい〜!!」
「さすがに巨大化した虫はちょっと食べられないですぅ〜」
 虎子のパートナーである黒羊郷 ベルセヴェランテ(こくようきょうの・べるせべらんて)はベルセヴェランテでもって、巨大化している花を覗き込んでいた。
「あぁでも、花の蜜は飲んでみたかったんですぅ〜」
 手が掛けられていた為だろう、花の蜜は良い香りがして、口を付けてみるとトロリと甘かった。
「うわっ、甘々でうまうまですぅ〜、あっと水筒水筒、どこですか〜」
 飲めない分は持って帰ろう、としたベルセヴェランテはドンと押され花に顔を突っ込んだ。
「ん〜? んん〜?!」
 ベルセヴェランテには見えないが、その背後にはやはり蜜を狙ってきたと思しき巨大蜂がいた。
 先を越されて怒っている、らしい。
「危ないっ! って、あれ?」
「ぷはぁ、助かったですぅ〜」
 要救助者発見!、と巨大蜂を突き刺した音子は、知った顔に目を瞬かせた。
 助けない方が良かったとは言わないが、中々脱力を誘う場面ではある。
「ちなみに虎子は?」
「あそこですぅ」
「待ちなさい、わたくしの1G〜!?」
「……あぁうん、頑張ってって伝えといて」
 音子は言って、一つ頭を振ると、再び救助活動に戻るのだった。
 ちなみに、虎子が追いまわしていた団子虫は暫くして裕輝の予想通り、自重でもって自滅したのだが。
「この甲羅?、とか何とか使えないかしら?」
 考え込む虎子の横、ベルセヴェランテは水筒に入れた蜜に舌鼓を打っていた、とか。


「虫さん……殺しちゃうのはちょっと可哀想……」
 他方、ネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)は巨大な団子虫を前に、呟いていた。
 放っておいたら巨大化した植物に激突してしまうコースだった。
 そうしたら、捕まっている優希やもも達が苦しい思いをするかもしれなくて。
 だから止めなくてはいけなくて。
 だけど、排除……殺したくはなかった。
「だって虫さんだって……ただ巻き込まれただけ、だから……」
 それに、と思う。
 花壇の為にもよくないと思うのだ。
 ミミズなどの虫が全然いない土は、花達にとってもよくないから。
「とりあえず、動かないようにして…」
 【我は科す永劫の咎】で巨大団子虫を石化させると、ネーブルはふぅと息を吐いた。
 そんなネーブルの目に、巨大化したバッタが映った。
 跳躍の構えに、植物に捉えられた者達から悲鳴が上がり。
「……お願い!?」
 間に合って、と咄嗟に【氷術】を使うネーブル。
 動きが鈍った瞬間、呼応するように。
「はっ!」
 鋭い呼気と共にバキィという鈍い音がし。
「ライヘンバッハキーック!」
 巨大バッタが、外に向けて吹っ飛ばされた。
「皆、落ち着いて対処すれば、巨大化した虫は恐れる相手じゃないわ」
 ネーブルに微笑んでから、声を上げたのは霧島 春美(きりしま・はるみ)だった。
「虫がなぜあの大きさで繁栄しているかご存知? そう。あのサイズより大きくなれば彼らの構造上、重力に勝てずまともに動くことは出来ない」
 『マジカルホームズ』春美の観察眼は、それを見破っていた。
「申し上げにくい事ですが、巨大昆虫さん。あなたはもう死んでいるにのですよ?」
 そして、静かな……諭すような声がした。
 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)はどこか痛ましげな表情で、巨大なムカデに対峙していた。
「すなわち、昆虫の呼吸方法は胴体部にある気門から空気を取り入れ、一種の浸透圧で退役通で発生した二酸化炭素と酸素とを交換します」
 というか説得を試みていた。
「が、この方法は効率があまりよくなくて『身体全体』にまで十分な酸素をいきわたらせようとすると、身体の大きさは酸素の変換効率に規定されてそう大きなものには発達・成長しえません」
 だからもう、あなたの人生(虫生)は終わっているのです、と告げるロレンツォはどこまでも真面目だった。
「そんな…理科好きの子でも滅多に知らないような虫さんの呼吸の仕組みが。どうだって言って、はいそうですかって引きさがってくれる相手にも思えなくてよ?」
 あいかわらず知的生命体にしか通用しないようなまどろっこしい作戦の立案をしてるようね、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)はパートナーであるロレンツォに苦笑を浮かべていた。
「正直、その作戦は成功するとは思えないけど……」
 それでも、生温かくでも見守ってしまうのは、ロレンツォが本気で真剣だからだろう。
 果たして巨大ムカデはアリアンナの予想通り、ロレンツォに襲いかかり。
「まずはロレンツォの身の安全を守る!」
 アリアンナはパートナーを守り、攻撃を仕掛けた。
「敵認定されてるんだから、こっちも容赦してる余裕もないわ!」
「はい……虫には罪はないし可哀相だと思いますけれど」
 アリアンナに一喝されて、ロレンツォもまた悲しげに伏せていた眼差しを上げた。
 それをネーブルに向けたのは、彼女の気持ちを察したからだろう。
 巨大化した虫は構造上、自らの重みに耐えられないのだと。
 身体全体に酸素を行き渡らせる事が出来ないのだと。
 難しい事は分からない、けれど。
「……ごめんなさい」
 俯いてたネーブルは青い瞳にうっすらと涙を浮かべながら、助けてあげる事の出来ない虫達にポツリと声を掛けた。
 そんなネーブルに、
「起こってしまった事件は無かった事には出来ないけど、これ以上被害は出させない。誰の涙も流させない」
 だから協力して、と名探偵は言った。
「虫達が、誰かを傷つける前に止めて上げよう」
「……うん」
 助けられないのは悲しい、けれど。
 このまま混乱して怖くて苦しむ虫達を放っておくのも、嫌だから。
「大丈夫、ネーブルさんの気持ち、通じてるよ」
 だって抵抗、小さくなっていると思わない?
 それは多分慰めなのだろうけれど、少しだけ心が軽くなるようで。
「……何だか、全部上手くいく……みたい……ね」
 そして。
「知らなかった? マジカルホームズが関わった事件はハッピーエンドになるって決まっての。初歩だよワトソン君」
 春美は可愛くウィンクしてから、ネーブルに微笑んだ。