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花とニャンコと巨大化パニック

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花とニャンコと巨大化パニック
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第五章 救い上げる、その
「優希様、遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
「ミラさんありがとうございます〜」
 【バーストダッシュ】で駆け付けてくれたミラベルの姿を目にした瞬間、優希は思わず泣きそうになってしまった。
 羞恥に赤らんだ顔と粘液まみれとなった惨状に唇を噛みしめ、けれど直ぐに助け出し抱きしめた。
「直ぐに安全な場所に運びますから」
 抑えた声には、怒りとも苦渋ともつかぬものが滲んでいた。
「大丈夫?っ、羽純くんは見ちゃダメ!」
「助かったぁ、ありがとう」
 ななもまた歌菜に助け出され、その身体をマントでくるまれていた。
「ごめんね、汚れちゃった」
「そんなの気にしないで……羽純くん、もういいよ。慎重に運んで上げて」
「分かった」
「遅くなった、よく頑張ったな」
「ほんまや。頭に血ィ上り過ぎて気持ち悪ぅ」
 同じように優夏も甚五郎達に助けられ、着々と救助は進んでいく中。
「大丈夫かい?」
 植物の蔓を切り裂いた平 武(たいら・たける)は、落ちてきた女生徒を受け止めた。
 一緒にいた男子生徒はエースが助けるだろうと軽く考えていたが、スルーされて落ちたっぽい。
「ケガがないなら良かった」
「あっありがとう、ございます」
 武に抱きとめられエースにニッコリと気遣われ、女生徒は顔を赤らめた。
 直ぐ離れようとしたらしいが、長時間の拘束に足腰に力が入らないらしい。
「無理はしないで。安全な所まで我々でエスコートするからね」
 陸斗先輩の事、カッコいいってかカワイイと思っていたけど、と新入生ちゃんは思う。
 だけど今、武もエースも優しいしカッコいいし、何より頼りがいがある。
 他方、憧れていた先輩を見れば……女の人の身体ジロジロ見てたし、うろたえてばかりだったし、今も何か鼻血とか出してるし。
 考え至り、新入生ちゃんは武とエースに支えられたまま、陸斗へと顔を向けた。
「陸斗先輩、ごめんなさい。あたしやっぱり、陸斗先輩ってちょっと違うなって。今までのコト、いい思い出でした」
「…………え?」
 それだけ告げると、察したらしい武とエースとがエスコートして、避難させてくれた。
 嬉しそうな笑顔で去っていく新入生ちゃんを茫然と見送って後。
「あれ? 何か何で俺がフラレたっぽくなってるんだ?」
 憐れな呟きに、黎は無言でその顔を濡れたタオルで鼻血を拭ってやった。
「いいですか、陸斗殿」
 そうして黎は厳かに告げた。
 女生徒と密着したりローアングルで透け透けな下着とかを見ちゃったりで、興奮したのは分かる。
 ただ問題はそれを雛子に見られてしまった事だ。
 幸い新入生ちゃんは陸斗を見限り……いやいや、諦めてくれたようだが、このままでは陸斗の評価はガタ落ちである。
「ここはもう、雛子殿が気にかけていた猫達を救うしかありません」
 キッパリ言う黎に、陸斗もようやくキリッと表情を引き締め頷くのだった。


「此処は、私にとっても思い出深い場所。雛子が育てていた花を傷つけるのは不本意だけど」
 美羽は目を閉じ、最強の強化型光条兵器ブライドオブブレイドを構えた。
 途絶えそうな声を、あの小さな命を守りたい、から。
 見開いた目に決意を宿し、美羽は巨大花を切断し。
 返す刀で子猫を縛り付けていた蔓を斬ってから。
「大丈夫、怖くないよ……よく、頑張ったわね」
 怯える小さな小さな命をそっと、抱きしめた。
「ふっ、我には造作もない事よ」
「……うん、ならもっと早くやって欲しかったな」
 得意げなンガイに疲れたように言って、自由にして貰った東雲は、直ぐに手を伸ばした。
「……うみゅ〜」
「うわっやっぱり可愛い!」
 真っ直ぐに伸びた手は今度こそ子猫に届き、その温もりを引き寄せたのだった。
「陸斗殿、後は母猫だけですぞ!」
「わ、分かってる!」
 とはいえそこに陸斗である。
 足場の悪さをものともせずに、母猫の引っ掛かっている枝にひょいひょいと上り。
「ごめんな、怖い思いをさせて」
 手早く助け出してやった。
 だけれども、そこは陸斗である。
「にゃ!?」
「う?………………あぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜」
 腕に抱えた瞬間、後ろ足でもって強かに蹴られ……そのまま落下した。
 幸い、万が一に備えてスタンバッていた黎のおかげで事無きを得たけれども。
「おっ……うんうん、もう大丈夫だよ」
 そして陸斗を蹴っ倒した母猫は、にゃんネル達を助け出した後の音子の胸に飛び込み、無事に助け出されたのだった。

「あぁ何か酷い目に遭った」
「陸斗くんが落ちていくのが見えて、ビックリしました……怖かったです」
 救護場所まで引いた陸斗に駆けよる雛子は、ケガを確かめるようにその身体にそっと触れた。
(「これぞケガの功名、陸斗殿チャンスです!」)
 黎に囁かれ、陸斗はコクリと頷き。
「あの、雛子? あの子とは本当、何でもなくて……」
「さっきフラれてるの、見てました」
「フラっ!? いや、本当に違くて!」
「それと陸斗くんが猫さんを助けようとしたのも、見てましたよ」
 ニコリと笑む雛子に、思わず陸斗の顔も緩んだ。
 もう怒ってないよな?、とか安堵して。
 しかし。
「……ところで陸斗様」
 空気が一度緩んだ時、それはきた。
「さっき、優希様のスカートの中、見ましたわね? というか、下着とかもガン見してらっしゃいましたよね?」
「へっ? いっいや、その……」
 にっっっっこり、と笑んだミラベルに陸斗は素っ頓狂な声を上げてから、バッと顔を真っ赤にした。
「あっあれは別に見たくて見たわけじゃ……」
「あらあらあら、陸斗様は優希様の肢体が見るに堪えないものだと? とてもそうは見えませんでしたけど……?」
「は〜い、陸斗先輩ったら、こ〜んなに鼻伸ばしてましたぁ」
 ぐっと口ごもる陸斗を、新入生ちゃんが更なる窮地に叩き込んだ。
「まぁまぁまぁそれは……奈落の鉄鎖で動けなくしてから、じっくりたっぷりと痛めつけても問題ねぇよなぁ?
 普段の口調をえいやっと放り投げたミラベルに、剣呑な笑顔で詰め寄られ。
「……んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 直後響いた悲鳴を、優希はきょとんという顔で、雛子は「陸斗くんサイテーです」と怒ったような赤い顔で迎え。
「……陸斗殿、不憫な」
 そして黎はまたそっと目元を抑えたのであった。