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埋没遺跡のキメラ研究所

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埋没遺跡のキメラ研究所

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第八章 最深部にて


「……ふむ、了解した。協力感謝する」

 メルヴィアが通信機の電源を切る。

「何か分かったんで?」
 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)がメルヴィアに問いかける。

「救助班からだ。子供達は無事外に連れ出せたらしい」
「おお、それは良かった」

 だがメルヴィアは思案顔だ。

「しかし、先程分離機の方にも連絡を取ったが、互いの人数を合わせても一人足りん。やはり、ここに最後の一人がいるに違いないな」
 メルヴィアは前方を見る。そこには金属製の大きな扉があった。
 研究所最深部。研究員から聞き出した、彼らのリーダーがいると思わしき場所である。

「メルヴィア大尉、中から人の声が聞こえるであります!」
 扉を調べていた大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)がメルヴィアの元に戻ってくる。

「研究員か、もしくは我々と同じ侵入者か……」
「どうします、メルヴィア?」
 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)がメルヴィアに尋ねる。

「ここにいても仕方が無い、皆、突入するぞ!」

 メルヴィア達は扉を開け、部屋の中へと入る。




「投降してください。そうすれば、危害は加えません」

 部屋の中では、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が一人の研究員と対峙していた。
 研究員は先程から小さな声で笑っていて、答える素振りは無い。

 そこにメルヴィア達がやってくる。

「おまえがここの長か?」
 メルヴィアの問いに、研究員はようやく顔を上げる。

「くっくくく、ようこそ侵入者諸君。私はここの研究員達のリーダーを務めている者だ。
 まあ言ってしまえばただのまとめ役。長なんて大層な者はここにはおらんよ」

 そして大仰に両手を広げ、叫ぶ。

「見てくれたかな私の発案した研究は! 人と生物を融合し、より強い存在を作り出す。

 今はまだ実験段階だが、いずれは人を超えた最強生物が誕生するだろう!!!」

「ふざけないで!! そんなことの為に無関係な子供を巻き込んだっていうの!?」
 クコの叫びに、だが研究員はやれやれと首をふる。

「やはり凡人にはこの研究のすばらしさが理解できんか。ならばその身を持って理解するがいい」

 そう言って研究員は一際大きな声で宣言した。

「見よ! これが私の最高傑作、最強のキメラだ!!」

 研究員が脇に退くと、その後ろにあった巨大な装置が皆の目に入った。
 カプセル状の装置の中には、小さな少女が浮かんでいる。
 突然、カプセルにヒビが入り、やがて大きな音を立て破裂した。

 水浸しになった地面に、体中に機械の管を繋がれた少女がゆっくりと降り立つ。

 その虚ろな瞳が、侵入者達へと向けられる。

 直後、その少女が驚異的なスピードで侵入者向け襲い掛かった。 

「くっ……!」
 メルヴィアが振り下ろされる拳を避ける。先程までただの少女だったはずのその体は、肘から先がまるで獣のようにごつく鋭い爪を備えた腕へと変化していた。

「メルヴィア、下がって。ここは俺に任せて下さいな」
 ルースがメルヴィアを後方へと押しやる。だがメルヴィアは憮然とした表情だ。

「おまえに守ってもらう必要はない。私は一人でも大丈夫だ」
「まったく、相変わらずですな……仕方ないこうなったらリボンを外して強制的に」
「やめんかっ!!」

 メルヴィアの怒号にリボンへと伸ばしていた手を引っ込めるルース。

 キメラは狙いを変え、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)へ襲い掛かっていた。
 その腕の形状が変わっていた。
 硬質化した巨大な腕がエヴァルトを捉え、殴り飛ばす。

 吹っ飛び地面に叩きつけられたエヴァルトは、しかし、ゆっくりと立ち上がる。

「……こんなものか。外道の業を用いてまで生み出したものの力は、この程度か……!
 こんなちっぽけな力を得るために、子供達を実験に使ったのか……!
 ……怖かっただろう、痛かっただろう。だがもう大丈夫だ。必ず、助ける……!」

「助ける? どうやって助けると言うのだ。貴様にあれが倒せるとでも言うつもりか?」
「あの子を倒す必要などない」

 エヴァルトが研究員を睨みつける。
 そして超高速で移動しキメラの視界から外れると、研究員向け跳躍しワイヤークローを射出する。

 その時、キメラの少女の背を突き破り、竜の翼が顕現する。
 その小さな体に不釣合いな程巨大な翼が大きく開かれ、エヴァルトの放ったワイヤークローの鉤爪を弾いた。

「くくくっ、凄いだろう、私の作品は。コレにはありとあらゆる生物の情報を詰め込んである。貴様ら如きに倒せる存在では無い」

 その時、たくさんの足音が聞こえてきた。

「メルメル、大丈夫!?」
 先頭にいる小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がメルヴィアへ駆け寄る。
 その後ろには多数の契約者達が。

「あの男が研究所の親玉か。この状況で逃げ出していないってことは、余程あのキメラに自信があるらしいな」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が刀の柄に手をかける。

「くくくっ! 役者が増えたな。丁度いい、失敗作の処理を手伝って頂くとするか」
 そういうと研究員は近くにあった機械のスイッチを押す。
 すると、彼の脇にある巨大な鉄格子が、ゆっくりと上がり始める。

 その中から、たくさんの獣が飛び出してきた。

「うおっ!」
 飛び掛ってきた獣の攻撃を避ける煉。
 その獣には、頭が二つあった。

「くそっ、こいつらも合成獣(キメラ)か!」
 エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が鉄刀で合成獣を切り捨て、叫ぶ。
 
「そいつらは動物同士の融合の失敗作でな。私の指示など聞きもしない。やはりキメラは人間に限るな」
「てめぇ、勝手なこと言ってんじゃねぇっ!!」
 エヴァが激昂し、研究員へ接近しようとするが、間に割り込んできた合成獣達に邪魔されてしまう。

「早くあの子を助けたいのに……!」
 クコが歯噛みする。隣では霜月も合成獣の相手をしつつ、焦った表情を浮かべていた。
 キメラの少女は、メルヴィアの周囲にいる者達へ襲い掛かっている。

「とりあえず、こいつらを片付けるしかなさそうだな」
 煉が合成獣達を眺め刀を抜く。その右目が紅く変色していた。

「行くぜ、エヴァっち!」
「おう!」

 ゴッドスピードで加速した二人の連携攻撃が繰り出される。
 煉がキメラの一体を切りつけ、怯んだ瞬間にエヴァが追撃を入れる。
 連撃を喰らった虎頭の合成獣はその場に崩れ落ちる。
 その後ろから二つ頭の狼が飛び掛ってきた。

 エヴァがヒプノシスを唱える。それが効いたのか、狼の動きが鈍った。
 
 煉が刀を低く構える。

「真・雲耀之太刀!」
 神速の疾風突きが狼の心臓を過たず貫いた。

 数秒の間に二体の仲間を倒され、合成獣達がうろたえる。

「はあぁっ!」
 クコが動きを止めた合成獣達に一瞬で肉薄すると、強烈な回し蹴りを喰らわせた。
 二頭の合成獣が巻き込まれ、吹っ飛ぶ。

 クコに気付いた数匹が彼女へ飛びかかる。

「……」

 霜月が間に割り込み、鞘に収めたままの刀の柄に手をかける。
 そして、一閃。
 目に留まらぬ速さで抜刀されたその一振りに、二体の合成獣が切り捨てられる。
 刀を鞘にしまった霜月が、クコに声をかける。

「急ぎますよ、クコ。早くこの合成獣達を片付けましょう」
「ええ。早くあいつの顔をぶん殴ってやらないと気がすまないわ」
 研究員を睨みつけるクコ。研究員は、未だ笑い続けている。
 ぎりっ、と歯軋りの音。
 彼女は手近な合成獣へと飛びかかった。

「あんたたちの相手をしてる暇は無いのよ! さっさとそこをどきなさいっ!!」
 そう言って強烈な蹴りを喰らわせる。
 蹴り飛ばされた合成獣は隣に居たもう一匹にぶつかり、共に吹き飛んだ。

「このような非道な行為……許す訳にはいかない。本気で行かせてもらうっ!!」
 鞘を握り締め、霜月が駆け出す。




「やれやれ、雑魚の相手をする事になるとは……また貧乏くじを引いてしまったか」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)がぼやく。

「キメラの女の子は他の方と戦っていますし、それにこう何度も襲われては手伝いに行くこともできないですわね」
 ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)が答え、迫り来る合成獣を杖で叩き落とす。
 ヨルディアが歌姫の戦ネギ『零式』の先から冷気を放つ。動きの鈍った合成獣たちの頭上に、たくさんの雷が降り注いだ。

「僕も頑張るでふよ〜!」
 リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が二丁拳銃を連射、合成獣たちを正確に撃ち抜いていった。

「まったく、何て数だ……」
 宵一が舌打ちする。
 自分達を含め、何人もの契約者が戦っている。既に何体もの合成獣の死体が床に転がっていた。

 しかし、未だ数十体の生きた獣の姿がそこにあった。

「なあヨルディア。あいつらに同士討ちさせられないか?」
「やってみますわ」

 ヨルディアが合成獣の一匹に『フールパペット』をかける。
 術を受けた合成獣は精神をかき乱され発狂し、隣に居た別の合成獣へと喰らいついた。突然仲間に攻撃を受けた合成獣は驚き、悲鳴を上げる。

「うまくいきましたわ!」
 喜ぶヨルディアの背後に三つ頭の鳥が迫る。
「させるか!」
 宵一が生み出した思念の闇に閉じ込められ、合成獣が悲鳴を上げる。
 動きを封じられた合成獣に、二本の剣を手にした宵一が一撃、止めを刺した。

「まだまだ一杯でふよ〜」
 リイムが疲れた声を出す。

「泣き言いってもしかたないさ。ほら、次行くぞっ!」
 宵一が二刀を構え、合成獣へと突進する。
「む〜、僕だって負けないでふよ〜!
 リイムもその後を追い、拳銃で合成獣達を撃ち抜いていく。

「流石に、獣相手では効果が薄いですわね」
 発狂していた合成獣は別の一匹を噛み殺すと、正気を取り戻したのか再びヨルディアへと牙をむく。

「まぁ一匹倒してくれたんなら上等だ。もう一発行け、ヨルディア!」
 別のキメラを相手している宵一が笑う。
 それに笑みを返し、ヨルディアはもう一度フールパペットを唱え始めた。





「行くよっ、百獣拳!」

 動物の力を借りた拳がキメラの少女に放たれる。
 だが少女は鋼のように硬質化した腕でそれを防ぐと、逆に美羽へと攻撃を仕掛ける。

「あーもう、この子硬すぎるっ!」

 美羽がキメラの少女から距離を取りつつ、愚痴った。

「大丈夫、美羽!?」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が心配そうに 声をかける。

「私は大丈夫だけど……もー、どうやったら攻撃が効くのかなー」
「なら僕がやってみるよ」

 コハクが二本の槍を構え、キメラの少女へと向かう。
 蛇のようにうねる二本の槍が徐々に雷を纏い始める。そしてその伸縮を生かし、少女の足を狙って強力な突きを繰り出した。
 しかし、

「嘘っ!?」
 美羽が声を上げる。
 少女の両足に鱗らしき物が生え、槍を弾いていた。

 バランスを崩したコハクに少女の長い鉤爪が迫る。

「させない!」
 丈二が硬質化していない左腕を狙い発砲する。
 だが腕に命中したはずの弾丸が弾かれる。銃弾が命中した箇所に、両足と同じように鱗が生えていた。

 美羽が異形化した少女の腕を殴り、攻撃を逸らす。そしてコハクと共にその場を離脱した。

「あの強度……まさかドラゴンの鱗か? まったく、面倒なものを合成してくれたものだな」
 メルヴィアが毒突く。

 キメラの少女は俯き、動きを止めていた。

 少女から距離を取ったコハクが、首を傾げる。
「あれ? 何かあの子の様子、おかしくない……?」

 コハクの言葉に、皆がキメラの少女を見る。

 少女は先程から動いていない。
 その両肩が震えていることに、メルヴィアは気づいた。

 そして、

「…………ぁ」

 次の瞬間、耳をつんざく様な大きな声で、少女が叫んだ。 

「あああああああああああぁ」

 その背の翼が、ぐにゃりと歪み、変形する。

 そして何本にも枝分かれしたそれは、突如、暴走を始める。
 部屋中の壁を床を天井を突き破り、部屋を破壊し始めた。

 その一つが研究員の体を捉える。

「がっ……!」

 研究員の体が宙を舞い、やがて壁に叩きつけられ、どさりと床に落ちた。

 それでも少女は止まらない。

「危ないっ!」
 枝分かれした翼の一つがメルヴィアへと迫る。
 避けるのが遅れたメルヴィアを、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が押し倒した。

「いてて……少し掠ったか」
 シャウラの服が裂け、血が滲んでいた。

「よくもシャウラに傷を……」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)が反射的に機関銃を連射する。銃弾を浴びた部位が千切れ、二つに切り離される。
 しかし何かが溶ける様な音と共に傷口が修復していき、やがて元通りくっついてしまった。

「お、おい、大丈夫なのか!?」
「あー大丈夫大丈夫。唯のかすり傷だ」

 そう言ってにっこり笑うシャウラ。だが、その場からどこうとしない。
 彼は今、仰向けに倒れるメルヴィアの上に、四つん這いになっている状態だった。
 それに気付いたメルヴィアが慌てて声を掛ける。

「助かった、ありがとう。だからそこをどいてくれ」
「いや、動くと傷が痛むもんで……」
「傷ならいくらでも手当してやるから早く!」
「いや、でも」
「いいから早くどきなさい。まったく、いつまでそうしているつもりですか?」

 ユーシスがシャウラをメルヴィアから引き剥がす。
 シャウラは名残惜しそうにメルヴィアへと手を伸ばしていたが、やがて諦め、キメラの少女へと向き直る。

「さて……どうするかね?」

 部屋の中はひどい有様だった。
 
 少女の背から伸びる翼だったモノは、壁も床も関係なしに突き破り、まるで根を張る植物のようだ。

 そしてその所々から、獣の顔や鳥の鉤爪が飛び出し、近くにいる者を襲っていた。

「いたい……いたいよぉ…………」

 部屋の中に、少女の悲痛な声が響く。

「これは一体……?」
「研究員までぶっ飛ばしてるし、制御がきかなくなって暴走した、って所だろうな。」
 ユーシスの呟きに、シャウラが答える。

 その時、突然地面が揺れ始めた。

「まずい……研究所が崩壊しかけている!」
 メルヴィアの声に、その場に居た全員が息を呑む。

「早くあの子を止めなければ……でも、一体どうすれば……?」
 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が呟く。
 その時、キメラの少女を見つめていたジェイコブが何かに気付いた。

「なあ、あの子の背中……あそこだけまだ管が繋がっているんだが」
 
 皆が少女の背を見る。そこには、二つの歪な翼の間に、一際大きいケーブルのようなものが繋がれていた。
 それはまるで血管の様に、規則正しく伸縮を繰り返している。 
 ケーブルは先程少女が出てきたカプセルへと繋がっていた。

「あれを外せばあの子はおとなしくなるでしょうか?」
「可能性は無くは無いが……どうします、メルヴィア大尉?」

 メルヴィアは少しの間思案すると、やがて口を開く。

「試す価値はある。……だが、問題はどうやってあそこまで行くか、だな」

 ジェイコブはキメラの少女へ目をやる。
 枝分かれした翼の一部が、まるで少女を守るようにグネグネと動き回っていた。



 彼らからやや離れた場所で、絹織 甲斐子(きぬおり・かいこ)はその話を聞いていた。

「……なら、私があの子を止めるわ」
 呟く甲斐子。
 その額に、第三の眼が現れた。
 
 全身から糸のようなものが発生し、彼女の体を包みこむ。

「10秒だけ持ち堪えて……あとは私に任せて」
 テレパシーを受け取った銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が振り向く。
 甲斐子は全身を糸のようなものに包まれ、繭になっていた。

 そこに、キメラの少女の翼から放たれた獣が遅い来る。

「ロンド……」
「了解ですよっ」

 ロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)が七緒の隣に立ち、獣達向けしびれ粉を放った。

 動きを鈍らせた獣達に、七緒が素早く接近。そして手に持った銀鎖の鞭を振り下ろした。
 鞭の先に付いている鉄球が獣の顔を捉え、殴り飛ばす。

 続いて他の獣も鞭を振り下ろし撃退する。

 直後、甲斐子の繭が爆散した。
 
 中から煙と共に紫の怪人が現れる。

「これが、私のもう一つの姿……いいえ、本当の私かもしれない。
 フェノメノン……私は、そう呼んでいる」

 七緒は、ただじっと甲斐子を見つめている。
 
 甲斐子がキメラの少女の下へと向かう。
 途中獣の牙や鋭い爪に攻撃を受けるが、それらはすぐに癒えていた。

 少女の周りを動き回る翼だったモノが、甲斐子の接近に気付き攻撃を仕掛ける。
 鋭い切っ先が甲斐子へと迫る。

 甲斐子はそれを避けると、腕に生えた異形の刃でそれらを切り落とした。

「わあああああっ!!」

 叫ぶ少女の腕が伸び、甲斐子へと襲い掛かる。
 それと同時に、翼のあちこちから獣の頭も飛び出してくる。



「これは一体……」
 ルースは困惑の表情を浮かべる。

 彼らの目前では、紫の怪人と化した甲斐子がキメラの少女と激戦を繰り広げていた。

「今の内に……あのキメラを……」
「今ならあの子に近づけるさね」

 七緒とロンドがメルヴィア達へ駆け寄る。

「……確かに、今がチャンスだな。よし、オレが行く」
 ジェイコブが銃を両手に構え、前に出る。
「銃だけじゃ心許無いな。フィル、ついて来てくれ」
「分かりましたわ」

「ならば道を作ろう。お前達もついて来い!」
 メルヴィアが先陣を切り、根を張っている翼だったモノを斬糸を使い切断していく。
 
「私はあの研究員見てくるね。色々聞きたいことあるから、死んじゃったら困るし!」
 美羽が一団から離れ、コハクを連れて倒れている研究員の下へ向かう。

 メルヴィアが切り落とした残骸から突如鰐の頭が飛び出し、彼女へと襲い掛かる。

「まったく、相変わらず危なっかしいですね……」
 
 ルースが鰐の頭をライフルで撃ち抜く。鰐の攻撃が逸れ、メルヴィアを捉え損ね壁へとぶつかった。

「後ろに下がって下さいな。前線はオレに任せていいですよ」
「だから私はお前の指図は……!」
「ならもう少し回りを見ましょうか。先程から見てて危なっかしいですよ、ほんと」
「ぐっ……」

 言葉に詰まるメルヴィアを余所に、次々と障害物を撃ち抜いていく。

 ジェイコブとフィリシアがキメラの少女へと走る。
 だが彼らの前に生き残っていた三匹の合成獣が現れた。

「任せるであります!」
 丈二が合成獣へ向け銃を連射する。

 怯んだ合成獣達に、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が突撃する。

「はああああっ!!」
 ヒルダは一瞬で肉薄すると、ブージを一閃、合成獣の一匹がその場に崩れ落ちる。

 その隙に、ジェイコブ達が先へと進む。

「あんた達の相手は私よ! かかってきなさいっ!」
「前に出すぎであります。もう少し落ち着いて行動を……」
「無理に決まってるでしょ!」

 ヒルダが拳を握り締める。

「あんなの見て、じっとしていられる訳ないじゃない……」

 丈二がキメラの少女へと目をやる。少女は先程からずっと泣き叫んでいた。
 時折、痛い、助けて、といった単語が耳に入ってくる。

「……援護は任せるであります。ですがくれぐれも無茶はしないように」
「……ありがとね、丈二」

 ヒルダがブージを構え、残る合成獣へ突進する。


 ジェイコブとフィリシアはキメラの少女の背後へ回り込む。
 少女は未だ甲斐子を攻撃しており、彼らに気付いていない。

「いくぞ、フィル」
「ええ、いきますわっ!」

 ジェイコブが少女に繋がれているケーブルへ銃を連射する。フィリシアも雷を呼び起こし、ケーブルを焼き切った。

 一瞬でケーブルは切断され、その途端、キメラの少女の体が大きく仰け反った。

「ぁ…………」

 少女の翼だったモノが見る見る蒸発していく。
 やがて部屋中に根を張っていたそれは跡形も無く消滅し、そこには沢山の、獣の体の一部だけが残されていた。
 狼の頭も鰐の大顎も、もはや動き出すことは無かった。

「終わった……のか……」
 メルヴィアが呟く。

 その時、研究所全体が大きく揺れ始めた。

「まずい、急いで脱出するぞ!!」

 メルヴィアが叫び、全員が出口へと向かう。
 
 キメラだった少女はジェイコブが、研究員はルースがそれぞれ運んでいた。
 少女は異形化していた部分は無くなり、既に普通の人間の少女に戻っていた。
 
 二階、一階と上り、出口から外へと飛び出す。



 それから間も無く、一際大きな揺れと共に、研究所のあった荒野の一角が大きく陥没した。