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右手に剣を左手に傘を体に雨合羽を

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 小暮からの情報を得て駆けつけたのはシャンバラ教導団に所属する人間が割と多かったものの、それ以外の人間もいた。
 その中の一人、蒼空学園に所属する天城 一輝(あまぎ・いっき)は小型飛空艇アルバトロスに乗って上空からあらゆる場所を監視しようとしていた。
 その中でも特に川を注視する。案の定、この長雨で堤防は決壊寸前になっていた。
 川が氾濫した場合、村がその水に飲み込まれる可能性が高い。
 村人と小暮の部下らしき人たちが土嚢を積み上げてはいるが、とても間に合わないだろう。
 その情報を銃型HCに打ち込みながら、一輝は独り言を呟く。
「小暮さんの言ったとおり、全然手が足りてないな」
 彼は独り言のつもりだったが、それに反応した声があった。小型飛空艇アルバトロスの後ろに乗っている葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。
「それにやっぱり土嚢の数もまったく足りてませんね」
 彼女はその様子を見ながら言った。
「材料はあるみたいだが、それを作るのにまでは手が回ってないみたいだな」
「大丈夫であります! そのために、自分がやってきたのですから!」
 吹雪は自信満々にそう告げた。
 彼女は土嚢作りのエキスパートだ。そのため優先的に吹雪は一輝に運ばれていた。他にも川の氾濫を阻止しようとする人間はいたのだが、機材の問題などで運べずにとりあえず小暮の指示で彼女がやってきたのである。
「あの辺りに降ろすぞ」
「了解しました!」
 一輝が指で示した場所は上空で見た限り、もっとも氾濫しそうな場所。その場所に小型飛空艇アルバトロスを着陸させる一輝。
「長年の軍隊生活で磨いた技を見せる時であります!」
 無駄に気合いの入った声を出して、勢いよく水分を吸った土の上に吹雪は飛び降りた。それからすぐさま土嚢作りへと勤しむ。
 一輝はその姿を見届けると、再び飛空艇を操り、雨粒が落ちる空へと舞い上がった。


「了解。任せておいて、秀幸。――というわけでダリル、あの辺りに直行!」
 無線機を切り、パートナーに指示を出すルカルカ・ルー(るかるか・るー)。シャンバラ教導団に所属する彼女は小暮と打ち合わせをしてから、小型飛空艇に乗って川の氾濫を押さえに向かっていた。
 小暮から無線機で受け取った情報によると、一カ所すでに決壊寸前の場所があるらしい。何人かの教導団員が作業を進めているようだが、状況は芳しくないと小暮から報告を受けている。
「って、おいルカ! ちょっとやばくないか!?」
 ルカのパートナーであるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が飛空艇を操りながら言う。その方向を見ると、確かに堤防はすでに決壊寸前だ。教導団員も間に合わないことを悟っているのだろうが、それでも作業を止めようとはしない。
「ダリル、急いで!」
「おう!」
 ダリルは飛空艇をちょうどいい場所に降ろすと、ルカは地面へと降り立った。
 そして、すぐさまめぼしい場所にアブソリュート・ゼロで氷の壁を立てた。
 その隙間を氷が埋める。放ったのはルカでもなければ、ダリルでもない。
 ルカが反射的に振り返ると、教導団の軍服を着ている少年がいた。トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)である。
 彼が氷術で隙間を埋めたのを理解すると、ルカは微笑んで言う。
「ナイスアシスト!」
「光栄です」
 トマスは笑い返すと、すぐに声をかける。
「今の内に土嚢を積み上げろ! 絶対に決壊なんてさせるな! 僕たちの後ろには守るべきものがあることを忘れるな!」
 その声に反応するように土嚢を担ぎ上げた数人の教導団員が走って次々に壁を作り上げていく。
 無論、その命令を下したトマスも例外ではない。彼もその教導団員たちと共に泥に塗れてでき上がった土嚢を抱えに向かう。
 でき上がった土嚢はいくつも積み上げられていた。
「やはりここの形が美しくないであります」
「吹雪殿、どうせ積み上げて形なんて関係なくなるのですから、そこまでこだわらなくてもよろしいのではありませんか?」
 その土嚢を作る作業が楽しいのか、何やらハアハアと荒い息を吐いている葛城吹雪と会話をしているのは魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だった。
 彼もまた契約者であるトマスと同じように泥に体を汚しながら、土嚢を作り上げていた。
「さあさあ、雨で体が冷えますが張り切って作業をしましょう! そうすれば冷えた体も温まりますからね! そして、これが終わった暁には温かいご馳走を作って差し上げますよ!」
 魯粛はそう告げて、このいつ終わるとも知れない重労働に辟易しつつある皆を元気付ける。
「そうか。魯粛の飯はうまいからな。俄然、気合いが入るってもんだぜ!」
 と言って、作り上げられたばかりの土嚢を二つばかり両肩に担ぐのは熊の獣人であるテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)だった。
 テノーリオは土木作業の特技を活かして、トマスに代わりこの現場の指揮を取っていた。
 事実、彼の方がトマスよりも指示が的確だったと言える。周りの地形や水の流れる方向と勢い、その他の様々な要素を統合して土嚢の配置場所などを見事に指示していた。
「任せてくれたトマスの信頼に応えなくちゃ男じゃないだろ?」
 トマスに目くばせし、泥まみれになりながら自身も仕事に従事するテノーリオ。
 トマスもそれに応えようと土嚢を持ち上げたところで、「どいてどいて」と声が聞こえてきた。
 そこにはミニショベルカーに乗ったルカの姿。それで土を積み上げながら、彼女は相棒に伝える。
「ダリル! 上空からの監視をお願いね。危ない場所があったらすぐに教えて!」
「ああ、任せとけ!」
 博識や要塞化のスキルを持つダリルにとっては難しいことではない。
 彼の飛空艇が曇天へと上がっていく姿を見送ってから、ルカは自分の作業に没頭し始めた。