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 葦原島の西端にあるバラック街の一角で、盛大な宴が催されようとしていた。
 粗悪な燃料に不満タラタラな様子の発電機が、ひどい音を立てている。そこから生えた白熱電球の数珠つなぎが、寄せ集めたボロいテントを結ぶように通っていた。
 いくつも並べられた長机は、どれも不格好で傾いている。うす汚れた燭台には短い蝋燭が据えられていて、ささやかな炊食をユラユラと照らしていた。
「今日の晩飯は、ロチェッタ・クッタバットの奢りだー。おらおら、浴びるように飲んで、居並んだ野郎の皿まで食い尽くして、とことん吐きまくるぞー」
「ぬはははーっ、ゴチ最高。握りつぶしたてのアップルジュースで、乾杯といこーぜ」
「まあ待てよ、乾杯の音頭はクッタバットの旦那に決まってんだろ。なに勝手に始めようとてんだか」
「んだよ、文句あんのかこら」
 継ぎ当ての酷いテントの下を、思い思いの言葉が飛び交った。波羅蜜多実業高校の連中は、どいつもこいつも奔放である。
「しっ。来た来た、来たぜ。――おーいロチェッタぁ、さっさと始めようや。みんな腹ぺこでくたばって、奈落(ナラカ)の化け物になっちまうよ」
 テントの群れから少し離れたバラック建てから、恰幅のいい青年が現われた。
 身の丈は180センチを優に超え、筋肉は隆々と漲り、その体躯には刀創だの銃創やらがあちこちに刻まれている。腹部にはサラシ、腕には手甲、脚にはゲートルを巻き付けていた。
 身にまとっている特攻服は陣羽織のように裾が短くなっていて、新しい生地を上手い具合に継ぎ当てされている。そして、その見頃には紅紫の糸で、『(意訳:我こそが、パラミタを統べる帝でありんす)我波羅蜜多之帝仁逢燐寿』と縫い付けられてあった。
「随分と集ってくれたな。皆、感謝するぜ」
 この厳つい男こそ、波羅蜜多実業高校所属ロチェッタ・クッタバット
 照れくさいときには、鼻筋から頬にかけて連なる刀傷を撫でるのが癖だ。
 漆黒の鶏冠を頭上に掲げ、その両脇からも黒髪を襷のように細く固めて背の方へと垂らしている。
 切れ長で眼光の鋭い琥珀色の瞳は、横長のサングラスに遮られていることが多い。
 鶏冠と原生動物Gなるモノの触覚を併せ持ったような風体は、インパクト絶大だ。
 ロチェッタは差し出された杯と拡声器を手に取り、レンガブロックを並べただけの特設ステージへと登った。
「この場に集ったバカ野郎どもっ、恩に着るぜ。今日は存分に飲んで食ってパワーを付けてくれ。明日は存分に暴れてもらぞっ。ハイナ・ウィルソンを必ず手に入れる。分かったかあっ!」
 轟々たる歓声に、会場は色めき立つ。
「ようしお前ら、杯を掲げろっ!」
 拡声器とリンゴを持ち替えてそれを一息に握り潰すと、果汁を杯で受けて高く掲げた。
「存分に楽しめっ! 乾盃っ!!」
「「「「「「ぅおーーーーーーっ!!!」」」」」」
 どすの利いた声が、闇夜に響いた。
 乾杯の音頭に対して「かんぱーい」と合唱しないところから、異様な力強さと団結力を感じられた。