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第五章 繋ぎ奏でるコンチェルト
「みんな!盛り上がってる? 今日の音楽祭では!新曲を披露するよ! 楽しんで貰えたら!嬉しいな♪」
 ステージ上、元気よくマイクを突き上げたのは、赤城 花音(あかぎ・かのん)だった。
 パートナーたるリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の尽力もあり、サプライズゲストとしてステージに立った花音。

 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 突然の2022ライブフェスタ優勝者の登場に、一段と大きな歓声が沸き起こった。
「新曲『心の鏡』……聞いてね☆」

まだ蕾の想いへ 注ぐ雪解けの水
 無邪気な祈り 色付き始める春風に乗り
 白銀の大地へ響く鼓動 伝わる音色
 芽吹く命を感じて あなたと巡り会えたね

掌に包まれた愛の結晶 ありのままに信じて
 さあ、耳を澄まそう 聞こえる?真実の声

心の鏡に映るあなたの微笑 瞳を閉じて迎えに行こう
 迷い戸惑いから生まれた 届けたい勇気の歌
 舞い降りた雪の妖精 輝く夢への道しるべ
 世界が繋がる響き合う 何時か笑い会えると良いな

 花音は満面の笑顔で手を振った。
 祝詞達に連れられたソララを認めたからだ。
 だが、ここからだ、とも思う。
 無事にステージに上がる事が出来るのかは、ソララ次第。
(「だけどボクは信じてる……ソララちゃんはきっと、最初の一歩を踏み出してくれる、って」)
 だから今は、自分の仕事をしっかりと務める!

「うあぁ、こんな盛り上がってる後で出るの、ハードル高いで」
「バカね。名立たる歌姫と張り合おうなんて、最初から思ってないわよ」
 盛り上がり過ぎや、と頭を抱えた上條 優夏(かみじょう・ゆうか)を、フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は軽く小突いた。
 元より、魔法少女としての知名度が低い事などフィリーネは承知している。
 それでもステージに立つのだ。
 ソララに見て欲しい……伝えたいコトがあるから。
「【変身!】」
 リリカル魔法少女コスチュームを身にまとったフィリーネはだから、優夏を挑発するように鮮やかに笑ってみせた。
「ブレイブになったんでしょ? せっかくのチャンス、時には大胆に行こ?」
「ブレイブは勇気ある者……HIKIKOMORIも時には人前に出なあかんってわけかぁ」
 優夏は一つ溜め息を落としてから、それでもキーボードを手に取った。
「お疲れ様」
「頑張って」
 パン、と軽く手を合わせた花音とフィリーネ。
「フィーの頑張りみたってや」
 パートナーの後を追って出たステージ、視界の端で立ち尽くしたソララを見つめ、優夏はそっと呟き。
「いくで」
 キーボードを弾く。
 意外とサマになった前奏の、聞きなれたメロディ。
 フィリーネはそのSoLaLaの歌を【幸せの歌】として歌った。
 いやそれだけではない。
 【マジカルステージ♪】と【リリカルソング♪】を織り交ぜ、ステージを進化させていく。
「もういっちょ、いっちゃうよ!……【変身!】」
 更に更にフィニッシュ、フィリーネは衣装替えを敢行する。
 【アルティメットフォーム】……究極変身を遂げたフィリーネは、大喝采と共に迎えられた。
「この喝采が聞こえてるよね、ソララ。知名度が低くても拙い技術でも、頑張れば出来るんだよ」
 肩で息をしつつもフィリーネは、満面の笑みでもって手を振り。
(「サイコーやで、フィー」)
 その姿とそして、ようやく動き出したソララを確認し、優夏は心の中でだけ、称賛したのだった。

「フラン、ソララが来るまでもう少し時間がかかりそうだって!」
 オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)に「どうしよう」と問いかけた。
 ステージに向かっているのは確認できているが、それでもソララが辿りつくまではもう少々の時間が必要だった。
 今、花音とフィリーネ達の頑張りで、ステージは最高に盛り上がっている。
 だけどここで時間を置いては、その折角の良い空気が途切れてしまう。
「オッケー、なんとかしましょ」
 そんな困り顔のオデットに、フランソワはパチンとウインクしてみせた。
 ひらりと舞台袖から飛び出したフランソワは舞台上のピアノに向かって、颯爽と大股で進んだ。
 そしてピアノの前に立ったフランソワは、客席に向き直ると優雅な仕草で一礼した。
 ポジションにつき、鍵盤の上を踊る指。
 軽やかに力強く。
 それもまた、繋ぐ為。
 章一が花音が皆が繋げてきたバトンを、最後の奏者に渡す為の。


「……先ずは息を整えろ」
 ステージ袖でソララに【ティータイム】でお茶を差し出したのは、アインだった。
「ソララ。君の不安は分からないでもないが、せめて心配をかけたスタッフにはきちんと謝っておいた方がいい」
「!?……あ」
 もっともな指摘に、ハッとするソララ。
「このステージを無事成功させられるか、不安なのは誰もが同じだ。どんなベテランだって、その不安、緊張は変わらない。だからこそ皆協力し合い、君を気遣ってくれてもいる」
 その手から中身の減ったカップを受け取ったアインは、羞恥と後悔に顔を染めるソララに幾分、優しい声で告げた。
「僕は……『彼女』を支えるために、ここにいる。彼女が安心して、自分の歌を歌えるように」
 朱里から周囲に視線を移すアイン、その軌跡を追ったソララは、深く頭を下げた。
「失敗を恐れるな。君はひとりじゃない。きっと誰かが支えてくれる」
 スタッフや社長、出演者達……待っていて迎えてくれた、たくさんの人達を目にして。
「ソララさん……花音から手紙を預かりました」
 そう言って手紙を差し出したのは、リュートだった。
 全力を尽くした花音は今は控室で休んでいる。
 けれど、その想いを手紙にしたため託していたのだ。

『ソララさんへ
ボクも音楽は何時も自問自答だよ
ベストは尽くせたか、純粋に楽しんで貰えたか
活動中…何時も考えているね

さあ、舞台に立って!
ソララさん自身の音楽性に、気が付けるチャンスだよ!
ボクは憧れの人を、今も追い続けているかな?

新たなライバルさんを、ボクは嬉しく思うよ』

「ライバル、なんて……」
 知らず、震えた。
 あんなに凄い歌姫のライバルなんて、あんな歌を歌える人と並ぶなんて、と。
 それでもそれを口にしなかったのは。
 込められた想いを感じ取ったからだ。
「あぁそれから……」
 忘れてた、という風に紅月が微笑んだ。
お帰りなさい、ソララ」
 一度目を見開いたソララはくしゃりと泣きそうに顔を歪め。
「……ただいま、です」
 恥ずかしそうに嬉しそうに微笑んだ。