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第六章 皆で紡ぐシンフォニア
「……」
 心は決まったけれど、決めた筈なのに、舞台袖に立ったソララの手はみっともないくらいに震えていて。
「好きなモンを嫌いになるのンは、つらいで。客なんざ、カボチャが並んでるとでも思ときや」
「君が相手にするのは観客? 違うよ、『世界』に向かって、その歌声を矢のように、放つんだ! 君は歌が好きなんでしょ?」
 泰輔のフランツの言葉に想いに、震えながら確りと頷く。
「ソララさん、今踏み出さなければ、ソララさんはこの先ずっと自分を赦せなくなります。だから勇気を出して」
 白花はマイクを握りしめ白くなった手にそっと、触れた。
 温もりに震えが、止まる。
「大丈夫、ソララさんは歌が好きで、歌うことが楽しいんですよね? その想いは歌を聴いている皆さんにきっと伝わりますから、その皆さんを怖がらないで」
「君の想いを込めた歌声が皆に伝わったから、このステージでトリを任されたんです。そして、その君の歌を聴く為にステージに来た人が居ます」
 敵なんてどこにもいない、と白花が刀真が優しく優しく語り掛けた。
「今まで歩いてきた自分と仲間を信じれば良い、そして胸を張りなさい…君は誇れるものを持っている」
「私たちも合唱部や聖歌隊でコーラスをしているし、楽譜も読むのが慣れてるから、バックコーラスお手伝いするよ。今までにオンエアされた曲なら、私たちも歌えるしね!」
「ソララは一人じゃないから……信じて」
 その想いを込めた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)の【パワーブレス】が、エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)の【激励】が、力を与えてくれる。
 怖くない、と言ったら嘘になるけれど。
「ではトリを務めるのは、皆さんお待ちかねの歌姫……SoLaLaです!」
 北都の口上と共に、佳奈子とエレノアがステージに飛びだす。
 一瞬の、足が地面に縫いとめられたかのような感覚。
「ステージへの一歩目だけは自分一人で踏み出すべきです、君がこれからも進み続ける為に」
 けれど、刀真の声に押されるように、ソララは自らの意思で持って、恐れを振り払い。
 佳奈子がエレノアがフランソワが待つ光の中へと、飛び込んで行った。
「ソララさんの気持ちは分かる。僕も依頼で歌を歌った事はあるけど、人前で歌うのは苦手なんだ。緊張するから」
 そうして、光の下で迎えた司会……北都が囁いた。
「でもキミの歌声を待ってる人が居るんだ。その人の為に歌って欲しい」
 優しく微笑まれながらの激励が、胸を温かくしてくれる。。
「…ねぇ、ソララ」
 ピアノの鍵盤に指を掛けたフランソワは、抑えた声で呼びかけた。
「音楽って、その時の心を奏でるものだと思わない? その怖さも不安も緊張も、今のあなたの素直な気持ち。無理に封じ込めたり誤魔化したりしないで、素直に声に乗せていいのよ」
 それで失敗したら……という表情のソララに、フランソワはにっこり笑ってみせた。
「あら、失敗したって大丈夫よ♪ もし変な声が出たって、可愛く響くように弾くわ。私がおまじないをかけてあげるから、あなたはその綺麗な声で思いっきり歌って」
「忘れちゃ困るわ、私達だっているんだからね!」
「頼ってくれていいわよ」
 パチンとウインクしたフランソワに、ニッコリと合図した佳奈子とエレノアに、ソララの肩から余計な力が抜け。
 そして、フランソワの踊る音符に導かれ、SoLaLaはその歌を解き放つ。
 そこにいたのはそう、一人の『歌姫』であった。

(「すごいっ!」)
(「本当に……さっきまでしょげてた女の子とは思えないわね」)
 それぞれソプラノとアルトでコーラスをしながら、佳奈子とエレノアは興奮を抑えきれなかった。
 ピアノの詩人、F・フランソワ・ショパンの英霊に導かれた歌姫は、一音ごとに高みに駆けあがって行くようだった。
(「鳥肌ものだよ!」)
 歌姫誕生の瞬間に立ち会えた幸運を、佳奈子は声に乗せた。
「すごいね、キレイだね!」
「うん、来て良かったわね」
 それは顔を輝かせる玲亜や詩亜を始めとする観客達も同じだっただろう。
 観客もスタッフも皆、その心地よい旋律に抱かれる幸福を甘受する中。
「良かった……世界が、喜んでます」
「白花?」
 ポツリ零れた呟きに、当麻は傍らのパートナーを見た。
 そこにあったのは嬉しそうな、なのにどこか泣きだしそうな、顔。
「私は時々自分を責めてしまいます……あの時、私は踏み出すべきではなかったと、刀真さんの手を取るべきではなかった、と」
 世界はかくも美しい、だからこそ。
 責め苛む声は止まない。
 かつて影龍を鎮め民を守る『御柱』としての役目を全うできなかった自分は、影龍を浄化した時点で消えるべきだったのだ、と。
「責める人はもう居ません。だからこそ、私自身がずっと自分を責め続けると思います」
 守るべき民は責めるべき人々は裏切ってしまった者達は、既に遠い遠い過去だ。
 彼らを置き去りにして犠牲にして、自分だけがこの美しい優しい愛しい世界にいると言う、罪。
 それを責める声は止まない、なのに。
「……それでも、そうしてでも私は刀真さん達の傍に居たいんです」
 そう言ってただ微笑む白花に掛けてやる言葉を刀真は持たなかった。
「白花、その表情はずるい……抱きしめたくなる」
 代わりに伸ばした、手。
「白花!」
 その手が白花に触れるより先に、月夜が白花に抱き付いていた。
「……あれ?」
「仕方ないよ! だって嬉しいんだもん」
 ぎゅってした月夜は、SoLaLaが皆をステージに招いているのに気付き、白花の手を引いた。
「白花、ソララが呼んでる……一緒に歌おうよ!」
「はいっ!」
「…えっと、その、なんだ、伸ばした手のやり所に困るし、俺一人置いて行かれて寂しいんだけど」
「今日は刀真の白花じゃなくて私の白花なの〜! だから一緒なの〜!」
 さっさとステージに行ってしまった二人、伸ばした手で軽く頭をかいてから刀真もまたその後を追ったのだった。
 ステージでは。
「皆、ノリノリで行っくよぉ〜!」
 完全復活した花音が、
「ええっ、私は無理だよ」
「まぁまぁいいじゃないのいいじゃないの」
 引っ張り込まれたオデットが、
「こういうのって、いいよね!」
「グランドフィナーレって奴ね、ほら優夏も♪」
「いやいや流石にもう時間外労働やろ」
 夢悠がフィリーネが優夏が。
「折角だしアインもいきましょ」
 歌姫や出演者、果てはスタッフが、声を合わせていた。
 いや、それだけではない。
「うわっステージ上がるならもうちょっと良い格好してくるんだったわ」
「理沙ちゃん理沙ちゃん、笑って笑って」
 タンバリンをリズミカルに鳴らしながらのピノに、慌てて笑顔を作る理沙。
「うわぁ夢が叶ったでふ」
「良かったな、てか俺も歌うのか……?」
「リーダーありがとでふ♪」
 無邪気な笑顔のリイムと若干挙動不審な宵一。
「音が足りてねぇ……仕方ないか、今日は特別に普通に弾いてやるよ」
 ヴァイオリンを手にしたソーマは、歌に合わせて音を繰り。
「いやいやいやいや、歌とか本当ムリだよ。ヘタっぴだし」
「この中じゃ分からないわよ。エンジュも奈夏の歌、聞きたいわよね?」
「……はい」
「う……仕方ないか」
「うん、やっぱりヘタだけど、楽しめればいいんじゃない?」
「そうですねぇ、ふふっ」
 音程を外しつつヤケクソっぽく歌う奈夏を優しく見つめるジュジュと美羽、ベアトリーチェ、それからエンジュ。
「……照れマスネ★」
 入口で風船を配り終えた伯爵は、突然当てられたスポットライトに、シルクハットを取り優雅に一礼してみせた。
「それから今日、頑張ってくれた司会サンに、どうか拍手を!」
 最後は紅月の声と共に上がった大きな拍手に、北都が顔を赤らめ。
 そうして、音楽祭は幕を閉じた。
「ソララの歌もナマで聞けたし、これはこれで結構楽しかったな」
「これで優夏も立派に勇士ね」
 ふっと頬を緩めた優夏は、にんまりとしたフィリーネにハッと気付いた。
「しまったぁー!これはリア充の罠か〜!?」
「うふふふふふふふふふ〜♪」
 嘆きの声と楽しげな笑い声もまた、鳴りやまない拍手と歓声に混じって溶けていった。