天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

盗んだのはだ~れ?

リアクション公開中!

盗んだのはだ~れ?

リアクション


>>>>洞窟深部<<<<

 洞窟深部で川村 玲亜(かわむら・れあ)は岩陰に身を隠しながら【ヒプノシス】を放つ。
「ああ、もうっ! 全然眠ってくれないよ!」
 体長三メートル以上もあるヒラニプラムカデは、攻撃を食らっても眠る気配がない。
 諦めて【光術】に切り替えるがやはり効果的なダメージは与えられない。
「あっち行ってよぉ!」
 それでも【光術】を放ち続ける玲亜に、ヒラニプラムカデは牙のついた口を開いて威嚇をしてきていた。
 追い込まれて奥へと後退する玲亜は気づいていなかったが、その先にはヒラニプラムカデの卵が存在していた。
 玲亜はヒラニプラムカデの巣に足を踏み入れてしまったのである。
 卵に近づく玲亜に、ヒラニプラムカデは今にも襲いかかる勢いで敵意を向けてくる。
 そんな時、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「こんな所にいた! 玲亜!」
 声のした方に視線を向けると、ヒラニプラムカデの後方で明かりに照らされた川村 詩亜(かわむら・しあ)の姿が小指程度に見える。
 縦穴を抜けてきた生徒達だった。
「お姉ちゃん!? ここ! ここだよ〜!! すっごいピンチなの! 助けて〜!」
 玲亜は【光術】を一発放つと、精一杯手をふった。
 すると、その光で照らされた洞窟内でリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が探していた少女リーラテェロの姿を捕える。
「見つけたわ、リーラテェロよ! ムカデの卵の所にいるわ!」
「あ、待つヨ!」
 すぐさま駆けつけようとするリリアの前に、横穴からもう一匹のヒラニプラムカデが襲いかかる。
 両者の間に入ったロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が【光条兵器】でヒラニプラムカデの湾曲した牙を受け止めた。
「私達がどうにかするヨ――アリアンナさん!」
「ちゃんと避けてよ!」
 ロレンツォの合図でアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)は【サイコキネシス】で天井の岩を落とす。
 素早く距離をとって回避したヒラニプラムカデ。その隙にリリア達はロレンツォの背後を抜けてリーラテェロの達の元へ向かう。
「この子たち、全然眠らないからね!」
「わかったわ! ロレンツォ、しびれ粉貸して!」
 玲亜の情報を受けて、アリアンナはロレンツォから【しびれ粉】を受け取る。
 それをマントに包むと、【サイコキネシス】で落とした岩で逃げ道を塞ぎながら、正面からぶつけた。
「これで、どう?」
 粉まみれになったヒラニプラムカデは全身を震わせて低いうなり声をあげる。
 しかし、動きを鈍らせることに成功したが、完全に動きを止めるまではいたらなかった。
「結構な耐性だこと……」
「ミナサンが戻るまで踏ん張るヨ」
 ロレンツォとアリアンナは怒れるヒラニプラムカデと応戦する。

「お前の相手は俺だ!」
 もう一匹のヒラニプラムカデに向かって、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が玲亜とリーラテェロから引き離すように二槍流で斬りかかる。
 すると、遠野 歌菜(とおの・かな)が背後で声をあげた。
「羽純くん、わかってる!? 倒しちゃだめなんだから!? そういう約束でしょ!!」
「わかってるよ!」
 卵を見つけた生徒達は、ヒラニプラムカデが生まれてくる子供を守っているのだと判断した。そこで無用な戦闘を避けるため、生徒達は少女を助けて大人しく立ち去ることで同意したのだ。
「……とはいえ、そう簡単にいくかっての!」
 飛びかかってきたヒラニプラムカデを、羽純は転がるようにして回避する。
 しかし、それなりの広さのある巣内でも、巨大なヒラニプラムカデが動き回ると狭くなり、羽純の背はすぐに壁にぶつかってしまう。
「しまった――!?」
 食らいつくヒラニプラムカデを二つの槍で抑え、下腹に蹴りを叩きこむが離れる気配がない。
 体重をかけくるヒラニプラムカデの鋭い牙が喉元に近づく。
「羽純くん、いま助けるよ!」
 駆けつけた歌菜が遠心力を込めた一撃を下から槍の柄で叩きこむ。
「――っ!!」
 渾身の一撃でどかすことに成功した歌菜。その手は痺れたように震えていた。
「すまない、歌菜。助かった」
「どういたしまして〜。でも槍が折れるかと思ったよ」
 歌菜は笑いながらも、自身の手に持つ槍を心配そうに調べていた。
「やっぱり傷つけないのはつらいね」
「だから言ったろ? 背中の部分が硬そうだから、そこを狙う、か……」
「後はみんなが救助を終えるまで避け続けるか、ってとこ?」
「そういうことだ」
 羽純は口だけ笑うと槍を構えなおした。

 仲間達のおかげでヒラニプラムカデの卵が集められた場所まで近づくことができたルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 卵の中で埋もれるように横たわるリーラテェロを発見する。
「よく眠ってる。これは将来大物になるかもね」
 寝息を立てているリーラテェロを見て、ルカルカはクスリと笑いを漏らした。
 その横で手に付着する粘液を気にしながら時見 のるん(ときみ・のるん)が卵をどかす。
「どうする〜? このまま眠っててもらうのかな?」
「そうしたいけど、体調を確認しておきたいから起きてもらうよ」
 ルカルカは揺さぶってリーラテェロを起こす。
 周囲ではどこからかガスが噴き出しているため、微かに鼻を突く匂いがしていた。。それがリーラテェロの体調に影響を及ぼしてないか心配したのである。
 また、ガスに気づいただろう生徒達は、既に火器の使用を控えてヒラニプラムカデと戦っていた。
「ん、むぅ……」
 リーラテェロが眠たそうに目を覚ます。
「起きた? どこか痛い所ない? 目とか痒かったり、痛かったりしない?」
「だい、じょうぶぅ……なんで眠って……だれ?」
 寝ぼけながらリーラテェロは、初めてみるルカルカの姿に首を傾げた。
「ルカはルカルカ・ルーって言うの、よろしくね。すぐに皆の所に帰してあげるから、もう少しじっとしててね」
 そんな時、薄い黄色をしたヒラニプラムカデの卵を手にのるんが叫んだ。
「急いだ方がいいかも! もうすぐ生まれそうだよ!」
 まるでリーラテェロの起床を待っていたかのように胎動を始める卵は、今にも殻を破って飛び出してきそうだった。
「げほっげほっ……」
 リーラテェロが咳き込む。
「ガスが充満してるから吸い込まないように注意して」
「こいつを使ってくれ」
 リーラテェロの背中を摩っていたルカルカに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が自身が使っていたパワードマスクを渡してきた。
「ありがとう。助かるわ。……どうかした?」
 受け取りつつ不思議そうにするルカルカ。
 何故かエヴァルトは青ざめた顔を逸らしてマスクを渡していた。
「虫はちょっと……」
「なるほどね。じゃあ卵はルカ達がどかすか、その間警戒を――」
 ――頼むね。その最後の一言を告げる終わる瞬間。殻が破れる音が鳴り響き、空気が一気に張りつめる。
 一つ、二つと卵が割れ、ヒラニプラムカデの幼虫が呼応するように次々と孵化を始めた。
「まずい! リーラ、悪いけどゆっくりしている時間はないみたい!」
 ルカルカは未だ覚醒前のリーラテェロの手を引き、急いで立ち上がらせた。
 すると、突然リーラテェロが耳元で叫び声をあげる。
「ひィ――きゃあああああ!?!?!?」
 幼虫の一匹がリーラテェロの腕にくっついていたのだ。
「ちょ、ちょっと暴れないで!?」
 パニックを起こすリーラテェロを必死に落ち着かせようとするルカルカ。
 そんな時、横からアフィヤ・ヴィンセント(あふぃや・ゔぃんせんと)がひょいっと幼虫を摘まんで放り投げた。
「これで大丈夫やろ?」
 安心させるように笑うアフィヤの胸に、リーラテェロはワンワン泣きながら飛び込んできていた。
「ほんな。お嬢ちゃんも無事助かったことやし、ぼちぼち退散しよか」
 アフィヤは後は任せたとエヴァルトにリーラテェロを預けると、剣を抜いて怒りの奇声をあげる親ムカデと対峙する。
「時間稼ぎや!」
「殿は僕たちが引き受けるよ!」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)はリーラテェロを連れた仲間達を先にいかせる。
「少しの間大人しくしてもらうよ!」
 リアトリスは巨大な刃を持つスイートピースライサーをかまえた。
 親ムカデは我が子の栄養源を逃すまいと牙を広げて襲いかかる。
 リアトリスはそれをフラメンコを踊りながら避けると剣を地面に叩きつけ、強烈な衝撃でムカデを仰向けに転ばせた。
「っと……あんまりやりすぎると崩れてきそうだ」
 思いのほか脆くパラパラと壁や天井から転がり落ちる小石にヒヤリとしながら、リアトリスは慎重に戦闘をこなす。
 生徒達が続々と縦穴をあがっていく。
「長居は無用だね。僕たちもそろそろ退散するとしよう」
「はいな!」
 もう一匹の相手をしていたアフィヤは攻撃を受け流すと、背中を踏みつけて縦穴へと向かった。
 仲間の【空飛ぶ魔法↑↑】を受けて、壁を蹴りながら生徒達は次々と昇っていく。
 その足元から二匹のヒラニプラムカデが濁流の勢いで追いかけてくた。
「道を塞ぐ! みんな巻き込まれるなよ!」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が発動した【グラウンドストライク】により、眼下の道を鋭い岩が遮っていく。そこに仲間の氷魔法が加わることで、僅かな隙間を埋めていった。

 追っ手から逃げ切り、元の道に戻った生徒達は安心して一息つく。
「もう大丈夫だな……怪我した奴がいたら言ってくれ」
 エヴァルトをはじめ、複数の生徒達が怪我の治癒を率先的に行った。
「リーラテェロちゃんは大丈夫?」
 歌菜はリーラテェロの顔を心配そうに覗きこむ。
 リーラテェロは体験したことのない怖い思いに体を震わせていた。
 すると、歌菜が歌を奏で始める。
「移動を再開するまで隣で歌っててあげる♪」
 顔をあげたリーラテェロに歌菜はにっこり笑いかけた。
 その優しく包みこむような歌声は、洞窟内で反響して生徒を芯から温めていく。
 しばらくして、全員の体調確認が終わると、一同は出口に向かって進みだした。
「リーラテェロちゃん、この辺滑りやすいから気を付けてね」
 だいぶ落ち着いてきたリーラテェロも、歌菜に手を引かれながら自分で歩いていた。
「ねぇ、リーラテェロちゃん。ちょっと質問してもいいかな?」
「なに?」
「どうして洞窟に来たの? 実は本当の犯人を知ってたりする?」
「……知らない」
 リーラテェロが短く答えると、今度は隣に並んで歩き始めたアフィヤから質問が飛んでくる。
「僕知りたいなー。お嬢ちゃんがどうして此処へ来たのか。お嬢ちゃんがどんな気持ちで此処へ来たのか。僕は知りたいな? 僕と嘘の無い、内緒話をしよか?」
「…………」
「あらら、嫌われちゃったかな?」
 俯き黙ってしまうリーラテェロ。
「俺達で出来る事なら、力になってやる」
「…………」
 羽純の申し出にもやはり無言にままだった。
 皆が心配しているにも関わらず、リーラテェロはなかなか話そうとしない。
「ちょっとちょっと!? なんでみんなしてリーラを苛めてるの!?」
「違うっての」
 隊列から抜けて寄ってきたルカルカに羽純が事情を説明する。
「そっか……でも、話したくないこともあるよね。話したくなったらでいいんじゃない? ほら、今はこれでも食べて元気に――ふぇ!?」
 ニコニコしながらルカルカがポケットから苺ドロップを取り出した時、洞窟内が大きく揺れた。
「じ、地震!?」
「いや、なんか違う感じだっ――」
「あ――――――――――!!!!」
 羽純の言葉を遮ってルカルカが叫ぶ。
「どうした!?」
「飴玉おとしたぁ〜」
「…………拾うなよ」
 三秒ルールは適用されません。岩に大量の苔が生え、ぬかるんだ土と泥水で出来た道で、三秒ルールは適用されません。要重要。
「大丈夫! まだあるから!」
 ルカルカはそう言って再びポケットから苺ドロップを取り出すと、今度こそリーラテェロへと手渡した。
「まったくなんなの?」
 その後も出口へ向かっている間、洞窟内は地震とは違う何かによって断続的に揺れていた。