天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

モンスター夫婦のお宝

リアクション公開中!

モンスター夫婦のお宝

リアクション


その3 戦い!

「だいぶ奥まで来たわね……」
 洞窟の奥を目指す、何人かが歩いていた。その真ん中付近、『幸せになれるお宝』の噂を聞きつけてこの場所に入った雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が、小さく呟いた。
「さっきから、ずいぶんと静かですねえ」
 雅羅の少し後ろを歩く、遠野 歌菜(とおの・かな)がそれに応えるように口にする。
「殺気は感じるんだがな」
 歌菜の隣を歩く、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が周りに目線を巡らせながら呟く。
「確かに、そうですね」
 集団のいちばん後ろを歩くのは、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)、通称ロゼだ。彼女は時折、後ろを警戒するように振り返っている。
「モンスターの気配はあるんですが、襲ってくる様子がないね。私たちを警戒しているのか、それとも、」
「この奥にいるものを警戒しているのか、だな」
 羽純がロゼの言葉に続けた。ロゼは頷く。
「大丈夫だぜ!」
 集団の一番先頭を歩く、特徴的な髪型をした男が振り返った。
「この俺様が先頭を歩いている限り、どんな凶暴なヤローが来たって返り討ちにしてやらあ! それに、俺様のモヒカンレーダーがビンビン反応してやがるんだ、お宝はこっちだってな!」
 洞窟中に響くような、大きな声でしゃべるこの男はゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)だ。
「待ってろよ雅羅。お宝は俺様が頂戴して、お前にプレゼントしてやるからな。モンスター夫婦だかなんだか知らねえが、ボッコボコにしてやるってんだ!」
「ちょっと待って」
 ゲブーのすぐ隣を歩く、幼い顔をした少年――想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)がゲブーの方を向いて口を開く。
「悪いけど、お宝を手に入れるのはオレだからね。雅羅さんに幸せな宝物をプレゼントするのもオレ。そんな変な髪をした人に、雅羅さんはもったいなさすぎるよ」
「あんだと? てめえ、女みたい顔をしてまた生意気なことを」
「誰が女だよ! オレは男だ!」
 二人は偶然にも、『お宝を手に入れて雅羅にプレゼントする』という同じ目的があるため、どっちが先だそっちは後だと、洞窟内で合流してから言い合いばかりをしていた。
「近づきがたいというのもあるのかな……」
「言うな」
 歌菜が賑やかな最前列を見て言う。羽純は目を反らすようにして口にした。
「おい見ろよ、どうやら着いたようだぜ」
 ゲブーがモヒカンをぴんと反応させて言う。
「そのようですね」
 夢悠も前を向いた。洞窟の先には開けた空間があり、そこの眩しい光が洞窟の内に漏れ出ている。
「おっしゃ、先に行くぜ!」
「負けないよ!」
 二人は雅羅たちの静止の声も聞かず、奥の空間へ駆け足で進む。後ろに続く者たちも駆け足で空間へと飛び出ると、洞窟の内部とは思えない開けた空間と、そしてその中心に、大きな椅子があった。

「よお、今度こそ来たな」

 その椅子に座っているのは大柄な一人の男だ。そして、膝の上には彼に寄り添うように、一人の女性が腰かけている。
「てめえがお宝を隠し持ってるとかいうヤローだな!?」
「ああ? 隠し持ってるってわけじゃねえよ」
 ゲブーの言葉に男は答え、立ち上がる。
「てめえらはなんだ、そのお宝って奴を奪いに来たとか、そんなんか?」
「その通りだぜ!」
 ゲブーが握りこぶしを作って口にする。
「てめえをボッコボコにする、んで、お宝はいただく! てめえは大人しく俺様の拳の中で眠ってろ!」
「かっかっか、面白いじゃねえか」
 男は肩に掲げた巨大な斧を片手で振りかぶった。
「いいだろう。俺に一撃でも与えられたら、宝を拝ませてやる……ありがたく思え」
「一撃だとぉ? はっ!」
 ゲブーは地を蹴り、一瞬で駆けた。
「なら早速やってやんよぉ!」
 男は斧を両手で抱え、その場で大きく振り回した。振り回した衝撃で、周囲の空気が震える。
「おおおおおっ!」
 掲げた斧を、もう一度振り回す。その場にいた者たちは、周囲の空気がまるで白い刃のように見えた。
「衝撃波!?」
「下がって!」
 不穏な空気を感じたロゼが叫ぶ。が、走り出したゲブーは止まれず、風をまともに受ける。体が宙を舞い、一瞬で元いた位置まで弾き飛ばされていた。
「ヒール!」
 ロゼが回復魔法でゲブーを回復させる。雅羅もゲブーの元へと駆け寄った。
「いきなり飛び出すから!」
「……はは、雅羅よぉ、お前の胸の中で死ねるなら本望だぜ……」
「馬鹿なこと言ってないで、怪我は治ってるよ」
「あべしっ」
 どさくさ紛れに雅羅の胸元に手を伸ばしたゲブーの頭を、夢悠が軽く叩いた。
「それにしても……」
 雅羅が立ち上がり、男を見る。
「これで終わりとは言わねえよなあ?」
「まさか」
 男の言葉に、二人の人物が前へと出た。歌菜と、羽純だ。
「最強だとか言われてるみたいだけど、私だって、強いんだからね。腕試し、させてもらうよ!」
 歌菜の周りを、光が覆う。光が彼女の体を包み込み、体に巻き付き、そして、光が弾ける。すると、歌菜の姿は、魔法少女の姿へと変貌していた。
「アルティメットフォーム! さあ、これからだよ!」
 その隣に羽純も並び、長い槍を一本、構える。
「相当な使い手だ。無理はするなよ」
「わかってるよ」
 羽純に対しては、無邪気な笑顔を向ける。しかし、その表情は一瞬だけで、すぐさま真剣な眼差しを男へと向けた。
「ラブラブ具合なら、私と羽純くんだって、負けてないもん!」
 羽純がわずかにバランスを崩した。
「かっかっか! 夫婦対決ってか。おもしれえな」
 男が少し下がっていた女に目配せすると、女は一歩前に出て、扇を広げた。
「わたくしたちだって、負けませんわ。どちらの愛情が強いのか、勝負ですわ」
「望むところよ!」
「望むなよ……」
 羽純は頬をかいた。
「俺は飛影。こいつは美影だ。やりあう前に、名を聞こうか、人間」
「遠野歌菜! またの名を、魔法少女アイドル、マジカル☆カナよ!」
「……月崎羽純」
 歌菜はノリノリで、羽純は息を吐くように答える。
「俺様はゲブー・オブインだ! てめぇら、おぼえておけ、がははっ!!」
「いやもうオレたち蚊帳の外だから……」
 立ち上がって叫ぶゲブーに、夢悠が言う。
「おう、そっちの兄ちゃんたちもかかってきな」
 飛影はあごでゲブーたちを示し、口を開く。
「その方が楽しいだろ? なあ?」
「そうですわね」
 美影も応えた。
「わかってんじゃねえか。だったら、遠慮なくやらせてもらうぜ」
 ゲブーが身構える。
 夢悠は少し考えたようだが、大きく息を吐いて彼も身構えた。
「サポートは任せて!」
 ロゼと雅羅は少し下がった。
「いよっしゃ、じゃあやろうぜ」
 飛影は巨大な斧を、両手に構える。
「久しぶりに……面白くなりそうだ!」
 振りかぶり、大きな声で叫んだ。




 一方、その、お宝が隠されているという奥の部屋に、不穏な気配があった。
「………………」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だ。彼は雅羅たちが騒いでいる最中、隙を見て奥の部屋に忍び込んでいた。
「ぬっふっふっふっふ」
 そして、不穏な気配がもう一つ。
「あっちで騒いでいるうちにここまで来れたでありますよ。これで、財宝は自分の物であります!!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、恭也に気づかずに彼の近くを通った。恭也は無言で、彼女の首根っこを掴む。
「わ、な、なんでありますかっ!?」
「それはこっちのセリフだ」
 吹雪を無理やりこちらに向かせ、顔を近づける。
「お前も財宝狙いか。悪いが、財宝は俺がいただく、手ぇ出すな」
「なにを勝手なことを言ってるでありますか、自分だって、財宝が欲しいでありますよ!」
 腕を払い除けて距離を取り、吹雪は恭也を睨みつけた。
「財宝が欲しいなら、自分を倒してからにするのであります!」
 吹雪は一瞬で銃を取り出し、恭也に向けた。が、吹雪が狙いを定めたその先、恭也はもういない。
「……悪いがお前は後回しだ」
 気づけば恭也はすぐ隣にいた。しかし、吹雪は対して驚くこともせず、「そうでありますね」と小さく答えて後ろを向く。
 並んで立った恭也と吹雪を取り囲むように、美影の侍女たちが足音も立てずに移動して立ち塞がる。そして、その中心には一人、人間がいた。
「ごにゃ〜ぽ☆」
 どの国の言語だろうか、聞いたことのない言葉を口にして立つその女性は、鳴神 裁(なるかみ・さい)だった。彼女はびしりと二人を指差し、さらに口を開く。
「それって、普通に略奪だよね? 悪いことなんだよ?」
「その通りよ」
 裁の言葉に答えるように言い、今度は三人の人間が姿を現す。
「そもそも、キミたちが手に入れて嬉しいようなものじゃないんだからね、お宝ってのは」
 高崎 朋美(たかさき・ともみ)、そして、
「その通りどす。そんな物騒な方々は、お引取り願いたいどすなあ」
 彼女の契約者であり玄祖母でもある高崎 トメ(たかさき・とめ)
「そうですわ。あんたがたの出る幕はないねぇ」
 トメの分霊に当たる存在の、高崎 シメ(たかさき・しめ)だ。
「僕たちもいきますよ、カルカー少尉」
「了解です!」
 そして、トマス・ファーニナルと、カル・カルカーご一行も現れる。
「ホール、お前は服を着たらどうだ」
「それはできないぜ。これは、男と男の勝負の結果なんだからな。ここを出るまでは、俺はずっとこの格好でいるぜ!」
 ちなみにドリル・ホールは野球拳で負けた結果、パンツ一丁だった。
 人数としては人間が九人と、得体の知れぬ侍女たちが複数人。それを前にしても、恭也も吹雪も、動じる気配はなかった。
「面白いでありますね」
 吹雪がライフルを構え、笑みを浮かべる。
「そこの義眼男、とにかくこの戦線を突破するでありますよ」
「……ふん」
 恭也は吹雪の言葉に鼻を鳴らし、小さく一歩前に出る。
「テメェらの価値の無い首なんて、要らねぇ」
 手にしていた異形の大型リボルバーを握りしめ、周囲のものたちをにらみつける。
「だからさ、命だけ置いてけや」
 その言葉を合図に、恭也と吹雪が駆けた。立ち塞がるものたちが、それぞれの武器を構えた。