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森の王と森の王妃

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森の王と森の王妃

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 第 3 章


 森付近に住む住人達を連れ、北都と白銀 昶(しろがね・あきら)を先頭に数十人の村人を護衛しながらひとまずイルミンスール魔法学校を目指す事にした。
「後ろどうだ? 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
 昶が振り向きながら最後尾を守る詩穂へ大声で確認すると、詩穂もそれに倣って大声で答える。
「大丈夫よー! 今の所何もないわ昶ちゃん」
「いや、だから昶ちゃんって……」
「それ以上は言わない事だねぇ、昶……」
 
超感覚で周囲の気配を探っていたためか、狼の耳と尻尾を持つ昶と同様北都にも犬の耳と尻尾が生え、和む姿に住人の中には小さな子供も居て揺れる尻尾や耳に触りたがってしまう。
「うお!? お、おい……だから尻尾掴むなって……」
 昶の真後ろを歩く子供が時折尻尾を掴んでしまい、そのたびに母親が謝って離させるという事がしばしば繰り返されていた。


 暫く歩いたところで、急に足を止めた北都と昶が住人達を庇うようにジリ、と後ろへ下がる。
「いますねぇ……こんな所まで瘴気の影響が出ているとは」
 前方の気配を察した詩穂は持っていた『浄化の札』を背後と住人の周り数か所に置いて瘴気を寄せ付けないようにすると北都、昶と並んで前方へ出る。

「この瘴気って、人間には影響ないんでしょうか……動物や植物とはいえ、本来無害なものをモンスター化させるって良く考えたら酷いですよね」
「そうですねぇ……出来たら、傷付けずに済ませたいです」
 ガサっと茂みを揺らしたと思えば普通の動物の跳躍力とは思えないジャンプ力で3人の足元に着地したのは尻尾が二又に分かれたキツネ。しかし明らかに正気を失い、血に沸いたような赤い瞳を向けて今にも飛びかかろうとしている。
「ホワイトアウト!」
 北都が咄嗟にキツネの周りに猛吹雪を起こし、動きを封じている間に住人達を庇いながら昶と詩穂がその先を急ぐと同時に昶の視界へイノシシが飛び込んできたが、構えた『霊断・黒ノ水』で峰打ちする。
「……多分、森に瘴気が広がり始めたんだな。これだけ早いって事はその悪霊ってのが蘇ったんじゃ……?」
 峰打ちの衝撃に目を回したイノシシを街道の脇に寝かせながら昶が森の方へ視線を向けた。
「そうだとしたら、のんびりしているわけにはいきませんねぇ……急ぎましょう。悪霊を何とかすればこの動物達も元に戻れるはずですし」

「なるほど、思ったより瘴気の広がりが早いようですね」
 ティアラを手にしたザカコとエース、リリアが林道から姿を現しながら北都達へ神器の片割れを見せる。
「ひとまず、悪霊を弱められるティアラを奪い返す事が出来たんだ。これを持っていけばもしかしたら瘴気の広がりも抑えられるかもしれない、俺達は先にこれを森で奮闘している人たちに届けてくるよ」
「あ……それなら、ティアラは私が預かってもいい……? 神聖な力を扱う事が出来るし、もしかしたら封印も」
 詩穂の言葉にティアラを持っていたザカコはそれを託した。

「任せましたよ、じゃあ自分は君の代わりに北都さんや昶さんと一緒に住人の避難を手伝おう。それでいいかな?」
 神器を受け取った詩穂が大きく頷き、北都と昶が励ますように親指を立てる。
「では、俺とリリアがお嬢さんと一緒に森へ向かうとしよう。住人の避難が済んだら君達も勿論……森へ戻ってこい。――待っているから」


 二手に分かれると詩穂の手に委ねられたティアラは淡い光を湛え始めていた。