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スライムとわたし。

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スライムとわたし。

リアクション

「こーら絶景やなぁ。竹鼻稲荷かレマン湖いうとこか?
 ほんま、あちらのおにいさんもこちらのおねえさんも、ええ感じやないのん」
 しゃがんでひざで頬杖をついた蚕 サナギ(かいこ・さなぎ)がにししと歯を見せて笑ってるそばで。
「みんな……まさか、こんなことって……」
 自分の目で見ながらも、信じられないというように小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は愕然とつぶやく。
「セレンさんやさゆみさんたちまで、あんな簡単に……」
 一方でコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は対照的なほど冷静だ。
「どうかな。むしろ、彼女たちだからこそじゃないかな。こうなるのは目に見えてたよね」
「ええ、まあ……」
 同意を求めるようなコハクの言葉に、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はちょっとしたスライムの小山状態になって、その下でもぞもぞ動いているらしいセレンフィリティやさゆみの姿に目をやり、申し訳なさそうな声ながらも同意する。
 しかし美羽には聞こえていない。
「だからってひるんだりしない! 待っててタケシ! 今あなたのかたきを討ってあげるから!」
 真っ青な空を見上げながら美羽は叫ぶ。

「この空に誓って!」

 今彼女の目には、半透明になったタケシが白い歯を光らせて超イイ笑顔で親指立てる姿が映っているに違いなかった。
「美羽、タケシはあそこだよ」
 元は制服だった布の残骸に埋もれて現実逃避、たそがれているタケシの背中を指さしてコハクが言うが、もちろん美羽はそんな不都合なこと耳に入れちゃいない。

「あなたをそんなふうにしてしまった憎い相手を、私がぎったんぎったんに成敗してあげる!!」

「それ、コアさんのこと?」
 ちなみにコアは今、新たないけにえとして、その辺でたむろってるモヒカンたちを探し出しては服を奪うバンディッツと化している。その服もまた全部体に合わないものだから満足しきれず、キョロキョロ周囲を見渡しては、なぜか偶然とおりかかる次なるいけにえを探していて……。
 蒼空学園男子のコハクとしては、タケシの二の舞は避けたい。絶対彼の視界に入らないよう気をつけていなければと心に誓い、常に彼を視界の隅に置いていた。
 そて美羽だが、そのツッコミだけはなぜか耳に入っていたらしい。

「何言ってるのコハク! あのスライムたちに決まってるじゃない!」

「――ああ、うん。そうだね」
 もういいや、この際どうでも。暑いし。
「コハクくん、そこで投げやりになっては駄目ですっ」
「だってさぁ……」
「美羽さん、落ち着いて聞いてください。タケシさんはですね――」
 ツッコミをやめてしまったコハクに代わり、ベアトリーチェがあわてて美羽に説明しようとするが、これもまた、なぜか美羽の耳にはい入っていなかった。
「さあ気合い入れて行くわよコハク! これはタケシの弔い合戦なんだから!」
「はいはい。……ふーっ」
「あ、待ってください、2人とも」
 無駄にアツい美羽を追ってコハクが、そして2人に置いて行かれまいとベアトリーチェもスライムだらけの戦場(?)に突撃した。
「絶対あんな危険なスライムをツァンダに近づけさせたりするもんですか!」
 オイルヴォミッターを脇にかまえ、彼らに気づいて向かってくるスライムへと次々に発射する。
 体面積があってそれなりに大きく見えても、ぶよんぶよんのスライムは軽い。ぶつかってくるオイルに簡単に押し戻されて、地面にぼたぼた落ちて転がるスライムに向かい、コハクとベアトリーチェがファイアストームなどを飛ばして燃やす。
「コハク、あそこの固まりもお願い!」
 オイルを発射し、コハクに合図する。しかしなぜか火が飛んでこなかった。
「コハク?」
 不思議に思ってそちらを向いたが、コハクは全くよそを向いていて、美羽の呼び声にも無反応だ。
 何に気をとられているのかと視線を追うと、そこにいたのはすでに半裸の女性だった。
 小型スライムに溶解液を吐きかけられてもものともせず、むしろそれを楽しんでいるかのように鼻歌まじりに天津 のどか(あまつ・のどか)はモデルウォーキングで、まだスライムを女性に向かって投げつけていたアキラへと近づく。
「ねえそこのあなた? 私といーことしません?」
「……を?
 おおっっ!!」
 アキラが自分の方を向いたのを見て、のどかはマイクロビキニ並になった服の破れがさらにひどくなるのもかまわず悩ましげなシナをつくる。
「ふおーーーーーーーっ!!」
 見えそで見えない、ギリギリのトライアングルラインに、アキラの目は釘づけになった。
「うふふん」
 アキラの前のめりな態度に脈ありとみたのどかは、さらに近寄ってアキラの胸に指をつつつと這わせる。
 まつ毛越しにじっと意味ありげな視線を送ったりと、したたり落ちそうな色気がアキラを誘惑する。
「ちょっとチョット! なにヨ、アナタ! いきなり現レテ!」
 アリスがお父さんの上から憤慨の声を発したが、アキラものどかも耳に入れている様子はない。
「ねえ? あなたもこんな無粋な物、脱いでしまいませんこと?」
「え? いや、えーと……」
 あまりの桃色な光景に、あわよくば自分もくんずほぐれつ……など想像して、ぐふぐふ笑っていたアキラだったが、いざその場面がくるとやっぱりためらってしまう。
 それにどうもこの女性、桃色光線を浴びてこんなになっているようでもなさそうだ。
 そんなアキラの心の内を読んで、のどかはくすりと笑う。
「あらあら。そんなに警戒らずともよいでしょう? 私はべつに、あなたを油断させてどうにかしたいなんて思っていませんわ。ほら、何も持っていませんでしょう?
 私は、ただあなたに、これを、脱いで、ほしいだけ……」
「えーー、っと」
 アキラはきょろきょろ周囲に目を配る。
 他人の裸を見るのと、自分が裸になるのとは、大分違いが……
 そんなアキラの様子に、のどかはあとひと押しと見た。
「この手で何ができるか、教えてさしあげます。そうしたらあなたも安心できますでしょう? それに」と、のどかはアキラの首元に唇を寄せ、触れさせてささやく。
「ねえ……? 肌と肌って、密着させると、すごく……気持ちがいいんですのよ……?」
 こんなふうに、としなだれかかったのどかは、そのまま自分の体の重みをアキラに預けて押し倒しにかかる。
「せっかくのスライム騒ぎです。
 私たちもしっぽりと楽しんでしまいましょうよ」
 のどかに圧倒されたまま、アキラは何も言い返せない。

 コハクが見ていたのは、まさにそういう光景だった!

 コハクも年相応の男の子。結婚しているとはいっても、やっぱりエロエロな光景には目を奪われてしまうわけで。
 つい、期待にごっくりのどを鳴らしてしまう。
 そんなコハクの姿に、カーッと美羽の頭に血がのぼった。

「コハク!!」


「うわっ、は、はいっ!! あ、美羽……って、はっ!
 ち、ちがっ……、こ、これは……」
 えーと、えーと。
 男のサガといいますか、純粋に、ただの好奇心であってですね、べつにあの女性、スタイルいいなぁ、胸大きいなぁ、とか、アキラさんと代わりたいとか、代わった自分を想像したりとかは、あの、ぜんぜん、これっぽっちも………………まあそりゃ、まったくゼロってわけじゃないケド……。
 とかなんとか。そんなことをばか正直に口走ったものだから、美羽はますますヘソを曲げてしまった。
「やっぱり考えてたんじゃない! コハクのばかっ!!」
「ち、違うよ! 美羽、違うんだってば!」
「知らないっ!」
「あらあら。おふたりの結婚後初めての痴話げんかでしょうか」
 どう見ても修羅場な光景なのだが、ベアトリーチェにはまた違ったふうに見えているのか、ふふふと笑う。
 そんなベアトリーチェの視界を横切って、2人に近づく中型スライムが。
 2人は互いに夢中で、気づいている様子はない。

「ふたりとも危な――って、間違えちゃいましたああああああっ」

 つい、いつもの調子でスライムの射線上に身を挺してしまったベアトリーチェは、ピカッと桃色光線を浴びてしまった。
「ベ、ベア……?」
「ああっ、どうしましょう!? いけないと分かっているのに手が勝手に動いてっ。
 しかもそれを恥ずかしいと思えないだなんて、そんなの私らしく……ああでも、脱ぎたくて脱ぎたくてたまらないんですっ」
 いそいそと制服を脱ぎだすベアトリーチェだったが、やはり生来の育ちの良さからか、きちんと脱いでは1つずつその場でたたんでいく。
「あ、見とれてる場合じゃなかった」
 ブラウスの前をはだけだしたベアトリーチェを止めるべく前に回ったコハクは、ブラをはずさせまいとブラホックのある背中に手を回す。
 しかし大人ランジェリーなブラはフロントホックだった!
「何やってるの、コハク!」
 まるで半裸のベアトリーチェを抱きしめようとしているように見えて、美羽が怒髪天に叫んだ。
「だって、美羽――」
 弁明しようとするコハクの腕に隠れた、ちょうど胸のあたりからレースのブラがはらりと地面に落ちる。
(やばい、みんなに見られたと知ったら、きっとベアは立ち直れなくなる!)
 瞬間的にその考えに達したコハクは、ベアトリーチェを抱き寄せた。
 自分の体を使って、ベアトリーチェを守ったつもりだったのだが…………。


「ええ、もう、そのあとはね。本当に地獄でしたよ……」
 大分時間が経過して、その当時のことをあらためて振り返ったコハクは、どこか遠くを見る眼差しを空に向けて、フ、と笑ったという。