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スライムとわたし。

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スライムとわたし。

リアクション

 真面目にスライム退治をしている数少ない有志が次々とやられていくなか、残っていたのが柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)だった。
「こんな危険物、放ってはおけないからな」
「そうですね。――あっ、真司。そこにいるスライムたち、集まろうとしてるみたいです」
 ヴェルリアが指しているスライムの集団を見て、真司はショックウェーブで吹き飛ばした。スライムたちは突然圧を受けて強制的に移動させられた先でぼてぼてと落下する。何が起きたか分かってない様子だ。目を回しているのもいる。それに向かって、ヴェルリアが真空波を飛ばした。
 ばらけてぴょんぴょん飛び回っているスライムたちには真空波を飛ばし、固まろうとしているスライムたちはショックウェーブで散らす。固まって集団でこられては厄介だが、基本、こういうやつらは1個1個の個体の力は微々たるものだ。
 周囲で上がっている奇声などは一切無視して淡々と目につく範囲でヴェルリアとともにスライム退治をしていた真司だが、ふとその手を休めて周囲を見渡してみれば、なんだこれはという光景が広がっている。

「……本気で俺たちだけなのか?」

 思わずそんな言葉が口をついたとき。
「どいてどいてどいて〜」
 というリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)の、妙に躍動的な声が後ろの方から聞こえてきた。
 リーラといえば、後ろでやはり同じようにスライム退治をしているはずだった。真司の言いつけに
「え〜? なんで私だけ〜? みんな、あーんなに楽しそうなのにぃ〜?」
 と思いっきり不服そうに口先をとがらせていたが、ヴェルリアのとりなしもあって、真面目に小型のスライムを両肩のドラゴニックアームズの火炎で燃やしていた。少なくとも、最後に見たのはその姿だった。
「真司、あれっ!」
 先に振り返ったヴェルリアが真司の服を引っ張った。
「ん?」
 肩越しにそちらを見ると、リーラがこちらへ向かってドドドと一直線に走ってきている。
 後ろには中型、大型のスライムが。
「なん……っ!」
「いやーーん、こわーーい、真司助けてーーーん ♪ 」
「って、おまえが「怖い」って柄か!」
 しかも後ろに ♪ マークついてるぞ! まともに演技する気もないな、こいつ!
 両手を前に持ってきて、かわいこぶりっこ走りをしていたリーラは、真司にぶつかると思われた瞬間ぴょんと跳んだ。軽々と真司の真上を飛び越えて行く。
「あとはよろしくねん ♪ 」
 ウィンクまでする余裕っぷりである。
「ったく」
 リーラの悪ふざけはいつものこと。全部まるっとお見通しな真司はピカーっと照射された桃色光線などはひょいっと避ける。避けられなかったのはヴェルリアだった。
「ヴェルリア!?」
「ふぇっ?」
「あらあら。どんくさい子ねぇ〜」
 まともに浴びてしまったヴェルリアを見て、リーラも逃げるのをやめて後ろで腰に手をあてる。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!
 ヴェルリア! おい、大丈夫か!?」
「……ふぇ〜、真司ぃ〜、なんか、暑いですぅ〜」
 ぽーっと湯あたりしたような、焦点の合ってない目で見つめられ、そこではたと思い出した。
「あーーつーーいーー」
「わーーーっ!! ばかばかばか!! こんな所で脱ぐなーーーっ!!」
 ヴェルリアがはずしたボタンを、はずすそばからとめていく真司。
「べつにいーじゃないのー、暑いなら脱いだって」
 私なんか全然ヘーキよ、ほらほらほらっ。
「ヴェルリアとおまえを一緒に――って、ばか! おまえまで脱ぎだすな!」
 収集がつかなくなるだろっ!
 しかしまだ収集がつくと思っているのは、残念ながら真司だけだった。
「もーっ、そんなに言うなら、真司も脱げばいーのですー」
「そりゃどんな理屈――うわ!」
 ぐいっと首のところをひっぱられ、仰向けにさせられてしまう。そしてそのまま馬乗りになった半裸のヴェルリアが、今度は真司を脱がしにかかった。
 力の入りにくい体勢だが、それでも強引にいけば逃げられる。しかしそうすると今の状態のヴェルリアだとけがをしてしまうかもしれない。
「リーラ、たすけ……」
 ――駄目だ。リーラはこの状況を完璧面白がって、いそいそ取り出したカメラのレンズをこっちに向けている。
 かくなる上は、せめて氷壁で目隠しを、と周囲にアブソリュート・ゼロを放った真司だったが――アブソリュート・ゼロは残念ながら一瞬しかもたないんだ、すまないな、真司。
「さあ観念して、真司もはだかになるのれすー。はだかって気持ちいいれすよー」
「うお!? ちょ!? ばか、やめ……っ」
「〜 ♪ 」
 真司がはたしてどこまで脱がされたかは不明だが、リーラのコレクションがさらに厚みを増すのは間違いないようだった。



「ああっ、真司さん!」
 マウントをとった半裸の女性に服を脱がされるという真司のオイシイ――違う、うらやま――それもあるが、とんでもない――これだ! 桃色状況に、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は思わずそっちへ一歩踏み出した。
 直後。

「だめです、陽太」

 どこからともなく聞こえてきたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の声がその動きを制した。
 ぴたりと陽太の足が止まる。
「でも……っ」
「彼1人を助けても、根本的な解決にはなりません。それに、見えませんか? すでに彼らは包囲されているのが」
「……ああっ!」
 言われて初めて気づいたと、陽太は驚愕する。
 3人とも自分のしたいことに集中していてまるっきり気づいていなかったが、彼らを二重三重にととりまく輪は完成していた。――スライムによって。
 今はじりじりとその包囲を縮められている。――スライムによって。
 あとは間合いに入ったが最後、一斉に桃色光線や溶解液を浴びせられるか飛びかかられるだけだ。――くどいようですが、スライムによってです。

「おにーちゃん、こらえて。あの人たちを救うのはもう無理だよ」

 今度はノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の声がした。エリシアと同じで、やはり姿はどこにもない。
「早く行こう! それがあの人たちを助けることにもなるんだし!」
「……くっ。真司さん、すみません……!」
 陽太はぎゅっとこぶしにした両手がぶるぶる震えるくらい力をこめ、歯を噛み締めてそうつぶやくと、背を向けて走り出す。
「シャンバラ大荒野で、モヒカンを相手に桃色光線だろうが溶解液だろうがいくらでも吐いてくれてかまいませんが、環菜と陽菜のいるツァンダに危険(?)なスライムを近づけるわけにはいかないんです! そうやって我が身を犠牲にしてスライムをおびき寄せてくれている、あなたの痴態行為は決して無駄にしません!」
 真司が聞いたら「まだそこまでむかれてない! あと、痴態って何だ痴態って!」訂正しろ、と詰め寄ってきそうなことを叫んで、ラスボスらしい、ぴょんぴょん飛び跳ねる中型スライムの間から部分的に見える巨大スライム目がけてまっすぐ敵陣を突っ切って行こうとする陽太に、桃色光線が四方八方から照射される。
 桃色光線もスライムの体当たりも龍鱗の盾ではね退けて進む陽太の雄姿に、ノーンから声援が飛んだ。
「がんばれ、おにーちゃん! 負けるなーっ!」
 しかしすべてをかわしきることはできず、桃色光線だけはなんとしても防ぐ! と決めて動いた結果、陽太のビジネススーツは溶解液を浴びて元が何であったかも分からないほどボロボロになっていた。
 その様子にエリシアがうなる。
「これはいけません。このままではこのシナリオにR−18規制がかかってしまいます! これがかわいいノーンやわたくしのようなナイスバディな女体ならば、それをひと目でも見られるなら本望と言う参加者たちも大勢いるかもしれませんが、陽太の裸体ではブーイング100%間違いなしです!」

「おねーちゃん、メメタいっ!」

「陽太! しかたありません! これまでです! わたくしたちを使いなさい!」
 ハアハアと荒い息を吐き出しながら、決死の思いで盾を掲げて桃色光線を退ける陽太には当然エリシアやノーンの会話に耳を貸している余裕はなく、ただ最後の言葉だけが聞こえていた。
「……2人とも……出番です!
 陽太が最後の力で解除の言葉を叫ぶと同時に彼の持つ機晶魔術増幅装置ティ=フォン5からエリシアとノーンが飛び出す。
「おにーちゃん、ここはワタシに任せて!」
「よくやりました、陽太。あなたはもう下がりなさい。その姿は(健全な読者の)目の毒です」
「……? うん……?」
 もうほとんどギリ! かなりヤバいとこまであらわになっている自分の格好にまだ気がついていないようで、陽太は2人の後ろでひざに手をあてて息をついている。
 そうやって前かがみになると、さらにヤバとこがヤバく……。
「だから男のブラ××でR−18規制はだれも望んでいないんですってば!
 こうなったら……ノーン、ホワイトアウトです!!」
 すべて白く塗りつぶして、光の乱反射で見えなくしてしまうのです!! その隙にわたくしが陽太をなんとか(シナリオから抹殺)しますから!
「んんっ? えーと……、よく分かんないけど、ホワイトアウトだねっ!」
 キラッ☆ と星が見えそうな笑顔で、ノーンはホワイトアウトでスライムを攻撃する。その隙に、とエリシアが陽太へにじり寄ったときだった。

「そのひと言は聞き捨てならんな!」

 スライムの波間の向こうから、何やら音程が上がったり下がったりする不安定な声でだれかが言った。
 ぼよんぼよんぼよん、ぼよんぼよんぼよん。
 左右に分かれたスライムによってできたスライムの道を、大型スライムが飛び跳ねて陽太たちの方へ近づいてくる。そのスライムの上に肩幅の広さで足をおっぴろげて立っているのは、だれあろう――というか、この人以外いないよね――変熊 仮面(へんくま・かめん)その人だった。
「男が裸体をさらしたくらいでR−18規制になるのであれば、俺様が現れた時点ですべてがR−18規制だ! ――あ、でも、それもいいな。歩くR−18規制……なんてすばらしい二つ名だ」
「ノーン、見てはいけませんっ!」
 そちらを見ようとした瞬間、エリシアがパッと飛びつくようにして目を覆う。
「えー? なんでー?」
「いいから!」
「はーい。
 えーと。じゃあそこにいる人ー、あなたはだれですかー?」
 目隠しされたノーンからの無邪気な質問に、変熊はどこからか取り出したホームセンターのビニール袋をガサガサいわせ、なかから取り出した茶色の物体を突き出した。

スライムとたわし。

 ……は?

「だから、スライムとたわし。

「たわしさんですかー?」
「違う。俺様は変熊仮面だ。
 これは「スライムとわたし。」のわたしに対してタワシを掛けるという、非常に高度で難解な、それでいて洗練もされているという緻密に計算され尽くした日本語のテクニックであってだな」
 ――いや、ゴメン。全然意味分かんねえっす。


「というか、どうしてあなたがそっちにいるのよ」
 しかもスライムたちにかなりなじんで、とスライム退治をしていた手を止めて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が姿勢を正してこちらを向いた。
 あらためて見るとやはり周囲でぴょこぴょこ飛び跳ねているスライムは変熊には一切無反応で、むしろ大型スライムの上に仁王立ちしている姿を見る限り、どちらかというとスライムの仲間……。
「む? やはりそう見えるか」
 変熊は不満そうにあごに手をあてて考え込む素振りを見せる。
「実は俺様もおかしいと思っていたのだ。桃色光線を吐くスライムが出現したと聞いて、ついに俺様が主役となるときが来たか! と小躍りして来たのだが……」

 ↓ここから回想スタート。
 本当に踊りながら大荒野に現れた変熊仮面。
 行進するスライムの前に喜び勇んで飛び出して、さあスポットライトならぬ桃色光線をこの肌に存分に浴びせよと迫ったのだが、スライムはちっとも吐いてくれなかった。
 ↑ここで回想終わり。

「というわけで、しかたないのでスライムの上に乗っているというわけだ」
「いや、どこが「というわけ」なのか分かんねーし、「しかたない」のかも分かんねーんだが」
 ルカルカの横にいた謎の青年が相当あきれ返ったツッコミを入れるが変熊は動じない。
「そんなことはない!
 見よ、この跳ねるスライムの躍動感。まるでバランスボールみたいではないか!
 そしてその上で立っている俺様、まるでスライムナイトのよう」
 フッと笑い、その姿を想像して1人悦に入っているが、周りの彼を見る目はどう見ても「かわいそうな子」を見る目である。「かわいそうに、ちょっとおつむが足りてないのね。まだ小さかったらバカも愛嬌で済んだのに、もうあの歳ではどうしようもないわね」という目だ。
「なぁ、ルカ言ってやれよ」
「えー? そっちこそ」
 こそこそ押しつけあっていたとき。

「そんなの、当たり前なのですー」

 巨大スライムの肩付近にちょこんと座ったフードマントの少女が、当然といった口調で2人が押しつけあっていた言葉を口にした。
「桃色光線は、皆さんにためらいなく裸になってもらうためのものなのですー。すでに裸になってる人には不必要なものなのですー」
「そうそう」
 謎の青年がうなずく。

「俺も裸でいて、ナニが恥ずかしいのかサッパリ分からねえ。服なんざイラネェだろ」

 え? とそれを聞いた全員が目を瞠るなか、青年は唐突に服を脱ぎ始める。豪快にシャツの前をはだけ、引き締まった胸板があらわになったところで変熊が「おおっ」と今にも食いつきそうな勢いで身を乗り出したが、
「やめてえええっ」
 とルカルカが飛び出して視界をふさいだ。
「人に化けてるときは外でそんなことしないでって言ったでしょ!」
「ちッ」
 面倒くさそうに舌打ちをした次の瞬間、シェイプチェンジを解いてドラゴニュートの姿に戻った。カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だ。

「ほら、これで裸でもナニも恥ずかしくねぇだろ。
 人族と違って、ナニも鱗の下だから見えねぇしw」

 最初っからこの姿でいいじゃねえか。なんで人にチェンジしとく必要があるんだよ、とぶちぶち言うカルキノスにルカルカは「だって服着てないとスライムが寄ってこないじゃない。そうすると退治が面倒になるのよ」と言い返す。その言葉どおり、カルキノスが人間をやめて裸体になったとたん、スライムは興味を失ったように彼の周りから離れて行った。
 そしてそれは変熊も同じだった。
 期待して前のめりになっていた分、脱力感はハンパない。力の抜けた足が、そのときスライムの上でつるりとすべった!

「を? ――あひゃうっ!!」

「ちょっ、どうしたの?」
 突然奇声を発した変熊を振り返ったルカルカの前、変熊はスライムの上でうんこ座りをして、お尻の真ん中を両手で押さえていた。
「へ、平気平気……お、俺様薔薇学だから」
「ああ、 ピー に刺さったのね」
 そのスライム、タマネギ型してるし。
「いるか? ボラ○○ール」
 震えて痛みを我慢している背中を見てるうち、なんかかわいそうになってきて。
 なんなら買ってきてやるぞ、と翼を広げるカルキノスの隙を突くように動く影たちがいた!
 放たれる桃色光線!
「おっとどっこい」
 カルキノスはブレードうちわで桃色光線を別方向へそらす。その先にいたのはなぞの占い師だった。

「大体こーいうのは元を絶たないと駄目なんだよ。
 占い師、オメェも脱げよ、全裸は涼しいぜ」

 幼女の全裸を望んでいるアブナイやつ発言をしたという自覚がないのか、わははと笑って光線の飛ぶ先を愉快そうに見る。
 そのとき。