空京

校長室

【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!

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【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!
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リアクション


chapter2.甲板での攻防



「どうしてあれを選んだの……」
 誠治のパートナーヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)は、古王国時代の記憶を一部失った剣の花嫁。今回の戦いが終われば、古王国や女王について色々判明するだろうと期待と不安に満ちていたのだが……シルヴィオの姿を見て、そんなものは吹き飛んでしまった。
 それも無理はない。周りが小型飛空艇で移動する中、シルヴィオは乗用大凧に乗っているのだ。本人は至って真面目だが、彼がなぜ大凧を選んだのかは誰にも分からない。
「来るぞ!」
 誠治の声で、ヒルデガルトは我に返った。見れば、数匹のキメラが向かってくるところだった。シルヴィオは庇護者の構えをとり、アイシスが後方支援に回る。
「こいつをお見舞いしてやるぜ!」
 誠治は弾幕援護でキメラたちを迎え撃った。
「誠治、二匹抜けたわ」
 ヒルデガルトは、弾幕をかいくぐったキメラの一匹を銃型光条兵器で牽制し、更に接近してきたもう一匹には、目に向かって煙幕ファンデーションを投げつけた。二匹のキメラは、一瞬怯んで動きを止めた。
「今だ、翼を狙うぞ」
「おう!」
 シルヴィオのかけ声で、彼と誠治は同時に轟雷閃を放った。二人の轟雷閃はそれぞれキメラの翼を捉え、翼を焼かれた二匹のキメラは戦闘不能に陥った。
「ナイスコンビネーション!」
 誠治たちの見事な連携を見て、沙幸が思わず声を上げた。特に、シルヴィオには感心したようだ。
「この状況で大凧って……ニンジャの私にも、その発想はなかったよ」
「負けていられませんわね、沙幸さん」
 美海が沙幸にウインクする。
「うん。対艦攻撃とか光状砲も脅威だけど、ポーラスターが敵に侵入されるのが一番恐いよね。砲撃からはある程度ルミナスヴァルキリーが守ってくれるし、私たちもキメラを迎撃しよう」
「わたくしたちのチームワーク、見せてさしあげましょう」
 沙幸が小型飛空艇で、美海が空飛ぶ箒でポーラスターの甲板から飛び立つ。二人は一匹のキメラに狙いを定め、前後から挟み撃ちにした。
「翼を使えなくしちゃえば、真っ逆さまよ!」
 沙幸は、キメラの背後から手裏剣を投げつけた。手裏剣はキメラの翼に突き刺さり、キメラは悲鳴を上げる。
「よそ見はいけませんわ」
 そこに美海が氷術を浴びせた。キメラの翼は凍り付き、敵は二人の思惑通り落下していった。
「やりましたわね。さあ今度は――」
 次のターゲットを探して美海が振り向くと、翼をもった人魚のキメラが目に映った。「あら、かわいいキメラちゃんですわ」そんなことを思った美海に、一瞬隙ができた。キメラの繰り出した氷の刃が、美海を襲った。
「きゃっ」
「美海ねーさま!」
 美海が箒ごと落下していく。
「ヒルデ姉さん、今手が離せない!」
「アイシス!」
 誠治とシルヴィオは、キメラを相手するので精一杯だ。味方の危機に備えていたアイシスは、いち早く動きだし、甲板付近で美海を受け止めた。
「大丈夫ですか?」
 アイシスは、すかさず美海にヒールをかける。
「助かりましたわ。わたくしとしたことが、キメラに気をとられるなんて」
「よかった……よくもねーさまを!」
 ヒルデガルトの援護射撃を受けて沙幸がキメラに立ち向かおうとすると、無数の弾丸がキメラに降り注いだ。
「ヒャッハー! 私を差し置いて色仕掛けをしようなんざ、4649年早いのよ。この船には一歩も近づけさせないわ!」
 アーミーショットガンでスプレーショットを放ったのは、シャミアだった。彼女はありったけの弾幕を展開し、キメラをポーラスターに近づけまいとする。
 甲板では、イーオンが味方の位置に注意しつつ、ファイアストームにサンダーブラスト、ブリザードと大技を連発していた。
 しかし、如何せん敵の数が多い。セルウィーがイーオンのSPを回復させているうちに、何匹かのキメラが甲板に降り立ってしまった。
「イーオンには傷一つつけさせません!」
 セルウィーは、イーオンを徹底的に守るつもりだ。
「すまない、防御は任せた」
「イエス、マイロード」
 セルウィーが防御の態勢に入ったとき、不意に目の前のキメラが崩れ落ちた。その後ろから姿を現したのは、シャミアのパートナー、リザイア・ルーラー(りざいあ・るーらー)だった。
 リザイアは甲板に身を潜め、奇襲の機会を窺っていたのだ。
「それほど知能の高い敵ではないようですわね」
 そこに、シャミアも合流する。
「待たせたぜ!」
 シャミアは羊型キメラに相対すると、こう言った。
「その立派な角、あなたオスね。私が、本当の色仕掛けというものを見せてあげる!」
「シャミアさん、はしたないですわ。それに、キメラに色仕掛けなんて通用するわけが……」
 リザイアの制止を振り切って、シャミアはその肉体美をおしげもなく披露する。すると、リザイアの予想に反してキメラの様子が変わった。
「メ、メエェ……」
「ほらほら、興奮してきた」
 シャミアは更に誘惑を続ける。
「メエ! メエエエエ!」
 最早、キメラにはシャミアしか見えていなかった。
「なんということですか」
 リザイアは呆れながらチェインスマイトを放つ。キメラの体が宙に舞った。
「……イーオン、どこを見てるんです?」
「な、何のことだ?」
 イーオンだって男。ついついシャミアに目がいっているところを、セルウィーにジト目で見られた。彼は、気を取り直してファイアストームを放った。
「食らえ、とどめだ!」
「メエェェェ! ラメェ――」
 キメラは丸焦げになり、船の外へと落っこちていった。
「ふう」
 イーオンが息を吐く。と、シャミアが何かに気がついた。
「ちょ、ちょっとあれ!」
 シャミアの指さす先では、甲板に結びつけたシルヴィオの乗用大凧の糸が先ほどのファイアストームで燃え始めていた。
 4人は、大慌てで駆けだした。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「どうしたの? キメラの数が増えているわよ!」
 ポーラスターの中で、砲術長のローザマリアが言った。甲板のシャミアたちの手がふさがっているため、キメラたちが処理しきれていないのだ。
「もっと砲撃を増やすのだ! ただし、くれぐれも味方に当てるでないぞ!」
 {SFL0017517#グロリアーナ}が砲撃手たちに指示を出す。左舷担当のゆる族ほわん ぽわん(ほわん・ぽわん)は、カラフルな色彩に蝶ネクタイを付けたパンダというかわいらしい見かけには似合わず、ハードボイルドな感じで言った。
「これほどの的の数……ふっ、あの地獄のような射的屋を思い出すのでぱんだ……」
 ほわんは『射的荒らし』の異名をもつのだ。
 飛び回るキメラの動きをほわんに伝える役割の孔 牙澪(こう・やりん)は、双眼鏡を覗きながら彼に伝えた。
「なかなか標的を定められないでありますっ」
「任せておくのでぱんだ。台にしっかりくくりつけられた景品を落とすのに比べれば……こんなふわふわ飛んでいるものを落とすなんて、造作もないことなのでぱんだ!」
「駄目でありますっ! 無闇に撃って、味方に当たったらどうするでありますかっ!」
 自信満々のほわんに対して、牙澪はあくまで冷静だ。カルスノウト以外の武装が全て『丈夫な段ボール』である人物の判断だとは思えない。
 牙澪とほわんが狙撃しあぐねている近く、飛空艇の外で、渡辺 鋼(わたなべ・こう)が彼女たちに向かって大きく手を振っていた。
「こっちに気がつかへんかなあ」
 鋼は付近に生徒がいないキメラを見つけ、その周辺に光精の指輪から呼び出した人工精霊を飛ばしていた。砲撃手に的を示そうという意図だ。しかし、砲撃手たちから精霊は見えにくい。作戦はなかなかうまくいかなかった。
「鋼くん、油断しちゃ駄目だよ」
 セイ・ラウダ(せい・らうだ)は、防御陣形をとって鋼を守っている。二人が相手しているのは、ワシとパンダのキメラであるワシパンダ。今はもしゃもしゃと笹の葉を食べていた。
 うっとうしいのか、ワシパンダはまとわりつく精霊を腕で振り払った。すると、その拍子に笹の葉が落っこちてしまった。ワシパンダは体をぷるぷる震わせたかと思うと、いきなり鋼たちに襲いかかってきた。
「下がって!」
 セイがナイトシールドを構える。鋼はその後ろから雷術を放った。
「大人しくしててくれ!」
「ぎゃあああっ! 雷でありますっ!」
 その瞬間、牙澪は船内で段ボールの中に隠れた。彼女は雷が苦手なのだ。
「ただの雷術なのでぱんだ。……あれは?」
 鋼の雷術がきっかけとなり、ほわんの目にワシパンダが映った。
「こんなところで同じパンダに出会うとは……これも運命、どっちが真のパンダか、白黒つけるのでぱんだ!」
 ほわんはワシパンダに狙いを定めた。
「中の人が気付いたみたいだよ。さあ鋼くん、巻きこまれちゃ大変だ。離れよう」
 セイは鋼をしっかりと抱きしめ、ワシパンダから遠ざかった。
 ほわんが砲撃のボタンを押す。しかしその瞬間、牙澪が彼にぶつかってきた。
「雷はっ! 雷は収まったでありますかっ!?」
 ほわんの手元が狂い、レーザービームはワシパンダを外れる。しかし、別のビームがワシパンダを撃ち落とした。
「なんだ、簡単じゃないか」
 そうつまらなそうに言ったのは、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)だ。こんな物言いではあるが、非力な自分では直接対決をしてもキメラには勝てないだろうと彼女なりに考え、砲撃手となっている。
「お見事です、透玻様」
 パートナーの璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は、クリステーゼを賞賛した。
「この調子でどんどん撃墜していきましょう」
「億劫だが、多少の手助けはするか。空中戦はいい経験になりそうだしな。この船は装甲に難がある。早めに片付けるぞ」
「はい、透玻様」
「ナビゲーションをしろ」
「あちらのキメラなど、危険度が高そうです。優先的に倒した方がよろしいかと」
 クリステーゼは、鋼やスカイフェザーの手を借りてキメラを撃破していく。彼女の逃したキメラは、スカイフェザーが着実に処理をした。
「はっ、一般人に遅れをとるとは……私としたことが、不覚でありますっ!」
「うるさいやつだな、なんだ貴様は」
 いつのまにか復活した牙澪に、クリステーゼは面倒臭そうな視線を送った。
「貴様とは失礼なっ! 負けられないでありますっ! 右30度より目標接近! いけるでありますか?」
「二度も外すパンダは……ただのパンダなのでぱんだ」
 軍人として、クリステーゼたちに情けないところを見せるわけにはいかない。牙澪は冷静でありながらも闘志を燃やし、ほわんとのコンビネーションで徐々に本領を発揮し始めた。

「シューティングゲームみたいで面白そうだね。ボクも混ぜてよ」
 右舷では、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が砲撃手の位置についていた。
「ほう、余裕の発言じゃのう」
「分かってるって。冗談だよ。やられたらタダじゃ済まないもんね」
 ミア・マハ(みあ・まは)に言われて、レキは表情を引き締める。
「ボク、目はいい方だし、シャープシューターのスキルも生かせると思うんだよね。うーん、そこだ!」
 レキがビームを発射する。しかし、それはキメラには当たらなかった。銃と飛空艇のビーム砲では勝手が違う。それに加え、前述の通り標的は常に空中を飛び回り、味方のことも考えなければならないのだ。そう易々と命中するものではない。
「ほっほ、情けないのう」
 ミアは馬鹿にしたように笑った。
「何? ミアならできるっていうの?」
「当然じゃ。こう見えても長く生きているのでな、わらわがキメラの動きを推測してやろう。おぬしはただ撃つだけでよい」
「ホントに?」
「まあ、見ておれ。ふむ、あれにするか。翼はあるが、横にしか移動できないと見た」
 自信ありげなミアは、手近なところにいるスベスベマンジュウガニキメラを指さす。
「よいか、2秒後に右じゃ。……今じゃ!」
 レキがビーム砲を撃つ。キメラはあざ笑うかのように上に移動し、ビームはむなしく空を切った。
「……」
「……わらわに逆らおうとは愚かな」
 こちらも簡単にはいかなそうだった。
 右舷側の空には、白菊 珂慧(しらぎく・かけい)がいた。
「大迫力だね。帰ったら、是非この光景を絵にして残そう」
 眠たげな表情をした珂慧は、戦場を眺めながらそんなことを言った。
「さて、ポーラスターには立派な砲門がついてるけど、接近されると弱そうだね。僕たちは、ビームの死角を重点的に守ろうか」
「分かりました。この剣、あなたのために役立てましょう」
 クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)は、珂慧の提案に同意する。
「でも、あまり飛空艇から離れないでくださいよ。あなたは方向音痴なのですから。空の上で迷子になられては困ります」
「分かってる。ビーム砲の巻き添えになるのもごめんだし」
 珂慧たちがキメラの迎撃に出ようとする。そこに、峰谷 恵(みねたに・けい)エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)を連れて声をかけてきた。
「待って、話は聞かせてもらったよ。ボクたちも同じことを考えてたとこなんだ! 協力しない?」
「……別にいいけど」
 陽気な恵とは対照的に、珂慧は素っ気なく答えた。
「それじゃあ決まりね!」
 恵を戦闘に、4人はポーラスターのビーム砲の死角となりそうな場所に位置取った。
「たくさんいるわね……いいわ、まとめて片付けちゃうもん! どうせ獣なんだから、火に弱いでしょ!」
 恵はファイアストームを唱え、炎の嵐で広範囲のキメラを巻きこむ。空飛ぶ箒にロープで体を固定したエーファは、則天去私で恵に続いた。
「私もお手伝いさせていただきましょう」
「思いっきり撃ちまくるのなんて、久し振り。……少し楽しいかも」
 相変わらず淡々とした口調の珂慧も、黒薔薇の銃を使い、スプレーショットでやはり辺りに弾丸をばらまいた。運良く眠らせることに成功したキメラもいる。
 三人の攻撃をくぐり抜けてきたキメラには、クルトが対処した。
「怪我を負いつつも尚向かってくる相手は、五体満足のそれよりも厄介。小型飛空艇を操縦しつつの剣を扱うのは少々難しいですが……」
 クルトは小型飛空艇の速度を緩めずキメラに接近し、すれ違いざまにバスタードソードで斬り払った。
「きりがないわね……」
 攻撃を続けてしばらく。SPタブレットを口に含み、恵は考えた。今のところは力押しの戦法でキメラを足止めできているが、このままではマ・メール・ロア突入までもたないかもしれない。
「そうだ!」
 と、恵はある名案をひらめいた。
「ケイ、どうしたのですか?」
「えっとね……」
 恵が自分の案を耳打ちすると、エーファは賛同の意を示した。
「それはいい考えかもしれませんね」
「次は何だい?」
「ついてきて」
 恵は再び珂慧たちを率いると、今度はキメラたちの下に潜り込んだ。
「こうするのよ!」
 彼女は、ファイアストームで下からキメラたちをあぶり始める。
「なるほど」
 恵の意図を解した珂慧も、攻撃に加わった。
 恵たちの攻撃を嫌がったキメラたちは、段々下から上へと追いやられていく。やがて、キメラたちはビーム砲の射線上にやってきていた。
「そろそろいいかな」
「よし、退却!」
 恵たちがキメラのもとから離れる。直後、いくすじもの光が、効率よくキメラの群れを殲滅した。
「ほれ、見たか! あのキメラたち、わらわの言った通りの動きをしたじゃろう!」
「今のは、明らかにあの人たちが誘導してくれたんじゃん……」
 ぺったんこの胸を張るミアに、レキがツッコミを入れた。