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リアクション
(ふ・ふ・ふ〜、意外とバレないもんだね〜。さーて、撮って撮って撮りまくって、そんでもって優勝したアイドルの写真を売れば一儲けっと! もしこの中から未来のスーパーアイドルが出たりなんかしたら……やる気出るなぁ!)
不敵に微笑みながら、時雨塚 亜鷺(しぐづか・あさぎ)がカメラを手に出場者たちのステージの様子を写真に収めていく。彼女の傍にはジェイムズ・ブラックマン(じぇいむず・ぶらっくまん)が付き従い、彼女を排除する者がいれば身を張ってでも立ち塞がろうという覚悟で臨んでいた。
「……そうだ、2名。……ああ、監視を続けてくれ。ステージ中は大事にはしたくないのでな」
しかし、二人の光学迷彩も、一般人が相手なら誤魔化せたかもしれないが、契約者も多く関わっている場であること、どうせ同じようなことを考える輩は多数いることもあって、ステージ傍でスタッフとして監視するグレンには見破られていた。
大体の場所を絞りこみ、少し注意深く観察をすれば、そこに何かが潜んでいることは明白なのである。
「どう、ハク!? みんな、ステージであんなに輝いている。あの場に立って歌うのがハクの夢だったんじゃないの?」
「すぅ……すぅ……」
「……って、寝るなーっ!!」
隣で酒瓶を抱いてスヤスヤと眠る代音 ハク(しろおと・はく)から酒瓶を奪い取り、秋田 ネル(あきた・ねる)がハクの頭を殴って目を覚まさせる。
「いたっ!! ……あ、ネルさん、おはようございます」
「おはよう、じゃないわよっ! ねえハク、あれを見て何か感じないの?」
ビシッ、とステージを指すネルに、ハクはぽやんとした顔のまま視線をステージへ向けて、そしてピタッ、と動かなくなる。
「……ハク?」
ハクの顔の前でネルが手をひらひら、とやっても、ハクは反応することなく、そして眠ることなくステージに見入っている。
(……何か感じるものがあったのね。とりあえずこのまま見守りましょ。……あたしは諦めないからね。ハク、昔のひたむきだった頃のハクに戻ってもらうまで、あたしは……)
強い決意を胸に秘め、ネルがステージに視線を向ける。特別ステージとして、ティセラとリーブラ、ミルザムとシリウスのペア同士が一つの歌を歌うという試みがなされていた。容姿だけ見れば同一人物が両方に存在しているという不可思議空間の中、四者の歌と踊りがステージを盛り上げていく。
(あぁ、ティセラお姉さまとこうして共演出来るなんて、夢のよう……!)
(へっ、やっぱ歌っていいよな。あんなに激しくぶつかってた二人だって、こうしてくっつけちまうんだからさ)
おそらく、ステージを観覧する観客の多くは、ティセラとミルザムが命の奪い合いを行うほどの争いを繰り広げてきたことは知らないだろう。そして、これからもあえてそのことを知る必要はないだろう。
今はただ、自らの想いを込めて歌うのみ。
剣を交えるだけでは分からなかった想いが、そこにある。
「――!!」
曲が終わり、ピタッ、と決めポーズを取った四名へ、惜しみ無い拍手と歓声が送られる。
「キャー! ティセラー! かわいいわー! サイコー!」
ライブを見学していたリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)もその一人だったが、その内フヒヒ、フヒヒヒヒ……と果たしてスタイリッシュと呼べるのか怪しい笑みを浮かべだした所で、リュシエンヌを肩車していたキアラ・オルテンシア(きあら・おるてんしあ)がすっ、と一枚の紙を差し出す。
「……TTSファンクラブですって!? ちょっと、どうして先に教えてくれなかったの!? ……今から申し込んでも1番取れるかしら……いいえ、1番を取った人を聞き出して、そいつから奪い取るまで……!」
何やら危険な思考を口走りながら、リュシエンヌがキアラに肩車をさせたまま、ファンクラブ受付場所へと向かう。
「うーん、凄い盛り上がりやなぁ。……そういえば、TTSって何の略だっけ?」
「TTSは、Twelve Twincle Starの略じゃな。折角じゃから覚えておくとよい」
ステージを見学していた七枷 陣(ななかせ・じん)の問いに、スタッフを務めているイルが答える。ありがとう、と礼を述べた所でふと、陣は小尾田 真奈(おびた・まな)の姿がないことに気が付いた。
「あれ? なあ、ここにメイド服の女の子がいたと思ったんやけど……」
「うむ、それなら少しばかりご協力願った。ちょうど我が主もメイド服でな、ユニットを組ませたら面白う思うてな」
イルの発言に首を傾げる陣は、しかしステージに現れたアイドルの中に、見知った影を見つける。パッフェルを中心に、左に鈴鹿、右に真奈といった布陣で、往年の女性3人組アイドルが行っていたようなダンスパフォーマンスを行っていた。
(え、えっと、あれ? どうして私はここに? ……また道にでも迷ったのでしょうか?)
(あの、これは一体……先程までご主人様とライブを鑑賞していたはずですが……)
二人の戸惑いは、曲が終わった後の拍手と歓声に霧散して消える。裏で色々根回ししていたらしいイルも、うむうむ、と納得の出来であった。
「レイミィ、皆さん凄く可愛いですね! 特に今のグループのステージ……可愛いです!」
「…………」
隣で自分を忘れてはしゃぐ有栖橋 こころ(ありすばし・こころ)を、ソリスティア・レイミィ(そりすてぃあ・れいみぃ)が無表情のまま見つめる。彼には最初、どうしてこころがここまで楽しそうにしているのか分からずにいたが、その内理由などはどうでもよく、ただ楽しそうにしているこころを見ていることが、楽しい、と思えるようになっていた。
(我も、楽しいと感じている……? この感情はどこから……?)
自分が失って久しい感情の正体に戸惑っている頃、感極まったこころはステージにありったけの声で叫んでいた。
「皆さん! お友達になってくださーい!!」
すると、そこかしこから「じゃあ俺も」「いいや俺もだ」「俺がご主人様だ!」「何を言う、俺が本当のご主人様だ」といった声が上がる。もちろん、こころを冷ややかな目で見る人もいただろうが、少しでも一体感を感じられたことに、こころは清々しい気分になった。
「な、何なのこの熱気は!? つか、先にパッフェルに真似されるなんてやられたわー。すっごいやり辛いじゃない」
「メイド服であのダンスをやるとは、考えましたね……彼女は前々から考えていたのでしょうか」
「そうじゃないと思うわ。だって、ステージに上がる前あたしの方見てフッ、って笑ったもの。あの時は何か分からなかったけど、そっかこういうことだったのねー」
ステージ脇で、セイニィとシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)のユニット、『Les Leonides』が出場の時を待っていた。彼女たちもダンスパフォーマンスをメインとしたステージを考えていただけに、先手を打たれたことで必要以上のプレッシャーがかかっていた。
「はい、じゃあ早速出てきてもらおっか!」
先にステージに出てきていた呂布 奉先(りょふ・ほうせん)の紹介で、仕方なくステージに進み出る二人。
「あっ、ツンデレだ」
「ツンデレツンデレ!」
すぐに、セイニィを見た観客の幾人かが、ツンデレと口にする。
「なっ!? だ、誰がツンデレよっ!」
反論するセイニィだが、その反応が火に油を注ぐ結果となる。
「うおぉぉ、ツンデレ萌えー!」
「ここまでテンプレ通りのツンデレがいたなんて……」
「やっぱツンデレは金髪ツインテだよな」
「あと貧乳」
「貧乳言うなー! べ、別に好きでツンデレやってるわけじゃないんだから! 勘違いしないでよっ!」
予想外の事態に、すっかり舞い上がったセイニィが尽く燃料を投下し、会場は大いに盛り上がる。既にこの時点で、先程のステージの影響はすっかり払拭されていた。
(……やるわね、セイニィ。どうするか見物だったけど、こういう手段で空気を入れ替えるなんて。……ふふ、実にあなたらしいわ)
ステージ脇で様子を見守っていたパッフェルが背を向けると同時、曲が流れ始め、セイニィとシャーロットのステージが幕を上げた――。
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