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リアクション
「あなたのハートに乱れ撃ち☆」(ああ、今私アイドルになってるんだ……! ステージに立って、いっぱいの観客の前で、歌って踊ってるんだ!)
月島 悠(つきしま・ゆう)が、左手はマイクを持った状態で、右手で銃の形を作り、観客のハートを狙い撃つように曲げて、最後に首をチョン、と左に傾けてウィンクを送る。
「キャーユウチャーン!!」
観客席から、麻上 翼(まがみ・つばさ)の黄色い声が飛ぶ。ロボバトルという緊急事態にも関わらず、『アキマス』は滞りなく進められていた。まだまだ歌を歌いたい、想いを届けたい人たちに配慮してのことである。
( ・∀・)イイ!! (;´Д`)撃ち抜かれました
これまで通り採点も行われ、再び白熱したアイドルバトルが繰り広げられる。
(みんな、一様に凄い……この中で、私の歌が届くのだろうか不安だけど……でも、やるからには精一杯歌おう……!)
ステージの真ん中に立ち、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)がスッ、と真っ直ぐに観客を見つめ、そしてヘッドセットから伸びやかな声を響かせる。
それまでとは違う雰囲気に最初は戸惑っていた観客も、響く歌声が浸透していくにつれ、動揺は収まり、唄に聞き入る者、自然と身体を動かす者が増えていく。彼らの中には、この会場を飛び越え、明るい月夜の河川敷、仰向けになって月を眺めながら声を紡ぐ彼女の姿を見るものまで現れ始めた。
(ここまで手をかけてきた甲斐がありました。やはり、お告げは従うべきもののようですね)
ステージ脇から、ここまで彼女をプロデュースしてきた志位 大地(しい・だいち)が満足そうな笑みを浮かべる。他のパートナーと衣装合わせ、振り付けを行った日々が、良き思い出として蘇ってくる。
曲に込められた想いを全て吐き出すように、歌い切った千雨に大きな拍手が浴びせられる。その中を、我に帰った千雨が顔を真っ赤にしながら引き上げていく。
( ・∀・)イイ!! (;・∀・)プロじゃないんですか?
お次は一転して、可愛げな衣装ながらハードなダンスを繰り出す泉 椿(いずみ・つばき)と、妖艶さを感じさせる唄と踊りを見せる緋月・西園(ひづき・にしぞの)のステージに切り替わる。
「さあ、みんなでヒャッハーしようぜ! 燃えろパラ実魂!」
『燃えよパラ実!』と命名された唄は、椿の空き缶、さらにはドラム缶まで楽器代わりに用いた演奏と相まって、パワフルなイメージを観客に据え付けていく。
(校長! 早く戻って来い! またどっかに隠れてるんだろ!)
その唄には、椿の学校を思う気持ちが全面に強調されていた――。
その胸に燃える思いあるなら 青年よ パラ実に立て
世の中は甘くない けれど挫けぬ 心があるなら
その胸に熱い涙あるなら 少女よ パラ実と共にあれ
見せ掛けに 騙されない 真実の愛掴めよ
最後の一押しでドラム缶が宙を舞い、盛大な音を立ててステージに落ち、演奏の終了を告げる。
( ・∀・)イイ!! (゜∀゜)ヒャッハー!!
「ザイン、なんと思おうが今は私の話を聞いてくれ。
野外ステージの醍醐味……それは周りの雑多な喧騒を腹の底から振り絞った声で掻き消し、魂を込めた歌声で観客のボルテージを上げ壮絶なる歌の奔流に歌手観客もろとも飲み込み、本能の赴くまま歌に身を委ねて酔いしれることなんだ!
だからザイン! 歌うぞ!」
燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)を以上の口上で丸め込んだ神野 永太(じんの・えいた)が、学生時代ヴィジュアル系バンドで女装していた過去を彷彿とさせる衣装でベースを持ち、荒々しく掻き鳴らす。
先程のステージの影響を引き継ぐ形で、観客が激しく首を上下に振り、熱狂的な歓声が木霊する。
(……ああ、なるほど。永太の言っていたことは、こういうことでしたか)
永太の言う『人々と一体となり歌の奔流に飲み込まれる』感覚は、きっとこういうものなのだという思いを得たザインが、今この瞬間だけは言ってもおかしくないであろう『感じるままに』声を振り絞り、歌い奏でる。
この不安定な時世に訪れた束の間の休息への喜び。
東西に分断された驚き。
かつての友に刃向ける不条理への怒りや悲しみ。
友を傷つけてしまうかもしれないという恐怖や恐れ。
忌むべき敵への嫌悪。
そういった感情を思い起こさせつつ、それ以上に、
明日へ歩む力を沸立たせるような幸せの歌を――。
( ・∀・)イイ!! (´Д`)明日も生きてみようと思います
(こんなに大勢の方達の前で歌うのは久しぶりです……皆さんが私の歌を楽しんでいただけると良いのですが)
歌を聞かせる雰囲気に続くように、ステージに登場した迦 陵(か・りょう)が歌声を響かせる。上空で繰り広げられるロボバトルの最中、目を閉じその全身で感情を表現する陵には、『戦場の歌姫』という言葉が相応しい。
「わ、わわ……ひ、人の熱気が凄くて……はう〜……」
陵を客席で見守る禁書目録 インデックス(きんしょもくろく・いんでっくす)は、本人が半ば流されるように『アキマス』に出場したように、会場を流されるように彷徨った結果、ちょっと太めな男たちの間に入ってしまったらしく、放出される熱量にふやけそうになっていた。
( ・∀・)イイ!! (`・ω・´)我らに勝利を!
ステージで歌う彼女たちは、皆、輝いていた。
(……そう、そうよ! 私たち秋葉原四十八星華は、アイドル! 私たちアイドルは、歌声を武器に出来る!)
そして千代が、自分たちアイドルが、そしてこの『四十八☆ロボ』が持つ唯一絶対の武器、『歌声』を以て『ARB28』に最後の攻撃を仕掛ける。
「やってやるぜ〜!」
「じゃ、俺もいっちょ協力しますか!」
塔子がマイクの音量を調節し、フランシスがスピーカーを前方へ向ける。そこから流れ出す音楽に合わせて、一人一人ではなくチームとしての『秋葉原四十八星華』の歌を響かせる――。
モノクロの空
横切っていく風
ねえ、何を運ぶの?
変わらない真っ白な時間、それに並行する空間
それから抜け出したくて
手探りで探していく
此処にあるのかな
ボクがボクであるための
一筋の理由を……
ココロの翼広げて
いつか見た果てない蒼へ
きっと見つかるはずだから
さあ、今、手を伸ばそう
『ま、まさか、歌を武器にするなど……』
『か、身体が動きませんわ!』
『ぱ、パーツを保てない――うわああぁぁ!!』
歌がもたらす衝撃の嵐に飲まれた『ARB28』の、パーツが一つずつ剥がれ落ち、やがてそれは人の姿を取っていく。どうやら『ARB28』もまた、アイドルがロボットの一パーツとして組み合わさって出来た代物のようだった。
次々とパーツを剥がされ、頭と胴体だけになった『ARB28』から、途切れ途切れに言葉が紡がれる。
『……そうね。アイドルは歌うもの、だったわね。武器で戦うアイドルが、歌を武器にしたアイドルに負けるのは当然だわ。
……ありがとう、大切なことを気付かせてくれて。今度は、ステージの上で勝負したいわね――』
やがてそれらも嵐に消え、吹き飛ばされた彼女たちは神田川に水没する。
この、パラミタ出身のアイドルグループが秋葉原のナンバーワンアイドルグループに勝ったという情報は、早くもネットのあちこちで騒がれ始めていた。
文化的にまだまだ立ち遅れていると思われていたパラミタの台頭は、今後双方のアイドルにとって良い刺激となるかもしれないし、多くの軋轢を生むことになるかもしれない。
しかし、彼女たちには歌がある。どれほど憎み合い、争ったとしても、歌うことを忘れなければ、最後には必ず分かり合える。
今日も彼女たちは、唄を歌う。
それぞれ胸に秘めた想いを、形にして――。
「ぬぉおおお!! 認めん、我輩は認めんぞぉおおお!!
こんなありきたりの展開など、我輩が爆砕してくれるわぁあああ!!」
直後、野武の仕掛けた自爆装置が爆発し、展開していたバリアーの影響か、パーツ化が解けたアイドルたちが揃って神田川に水没する。
救出されたアイドルたちはずぶ濡れになりながらも、何かをやり遂げたという達成感に溢れていた――。
『AKIHABARAM@STER ZEROGROUND』 完
あ、『アキマス』はまだまだ続きますよ。