校長室
選択の絆 第一回
リアクション公開中!
VS,業魔戦 前 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、東側を探索している大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)と通信をとっていた。 『先程幻の少女に遭遇したのだが、逃げられたんだ』 「なるほど。そっちにも出現してたんだ」 『そっちにも?』 「あぁ、さっき消えちゃったんだけどさ。ただ、少女の名前【エルピス】ってんだけど、エルピスの居場所、分かったぜ」 渋井はエルピスの情報をあらかた教える。 『よし、分かった。ありがとう。またこちらでも分かったことがあれば連絡する。……ところでそちらの状況は今どんな感じなんだ?』 「……いや、実は……」 渋井は少し周りを見回して、苦笑いする。 「亡者の群れに囲まれちゃってやべぇんだよ。簡潔に言うならば、最悪だ」 言った瞬間、渋井の周辺の通信機器が流れ弾で吹っ飛ぶ。 「うおッ!! くそっ!」 そんな渋井を見て、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が護衛につく。 「大丈夫? 誠治。まぁ大丈夫だと思うけど、それより【光条兵器】が幾らか有効みたいよ。全員に伝えて!」 渋井はやれやれといった表情で、 「まぁ、そういうことだ! 今ちょっと切羽詰まってんだ! 切るぞ!」 ■■■ 今回出現してきた亡者達も、多くは侍と忍者であったが、一人だけ、常軌を逸した者がいた。 「我が名は【業魔】。滅びし大陸の生き残り――ソウルアベレイター(魂の逸脱者)の一人。まどろっこしい事は抜きだ。戦いを始めよう」 手が六本ある3メートル強の巨漢の男は、業魔と名乗った。腰に数々の名刀を携え、彼は突撃する。絶望と破壊をもたらす為に。 「見つけた」 業魔は低い声で呟く。何を見つけたのか、対峙するスウェル・アルト(すうぇる・あると)とアンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)とマネキ・ング(まねき・んぐ)には分からなかったが、聞き返す前に業魔は言う。 「ここへの侵入者の中で、最も強く、澄んだ心を持っている者。ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)!」 瞬間、場の視線がハイナに集まる。 当の本人、ハイナはきょとんとした後、「私が狙いか」と呟き、険しい表情を浮かべ、武器を握る。 「まぁ、そういう事だ。行くぞ」 言うが早いか。弾ッッ!! と地面を蹴った音がしたかと思うと、業魔は疾走してくる。 「フフフ……ハイナは、我にとっても奇特な品を発注してくれる商売上の大切なお得意様であるからな。守るのは必然であろう。さぁ、我の為にもハイナを守るのだ!」 マネキは偉そうに言う。 言われなくてもと、スウェルとセリスが業魔の前へ立ちふさがった。 「総奉行は、やらせない」 「総奉行を守るのも、俺たちの役目だからな……全力は尽くすさ……」 それぞれ言って、スウェルは【海神の刀】、セリスは【双龍刀【一閃爪】】を構える。 対し、業魔は一本の長く大きい刀を取り出し、どしりと構える。 セリスは【羅刹解刀】を発動しながら言う。 「あの刀、何か変だぞ。気をつけろ」 「分かってる」 (あのどっしりした構えから見ても、パワータイプね。なら、速さと技術で対抗するまで) スウェルが先に仕掛けた。 「【燕返し】」と、刀を、振る。 その瞬間、がうぃん、という鈍い金属音が鳴り響き。 スウェルが後ろに、ぶっ飛んだ。 「!? スウェル!?」 アンドロマリウスは反射的に吹っ飛ばされるスウェルを受け止める。スウェルは、アンドロマリウスの腕の中で気絶していた。 (気絶しているだけですか。よかった……。いや、しかし、何が起こったのです!? 後ろから見てましたが、業魔が動いた様子は全く無かったように思えますが) そうしているうちに、業魔が口を開いた。 「種明かしをしてやろう。この【蛇刀・裏】は刀自体に命が宿っているかのようにリモートで動くという代物だ。コイツは『先端恐怖症』故に、剣、槍などの『切っ先という切っ先』を全て狙い弾く。つまりは、刀などの類ならば構えているだけで勝手に防御してくれる刀だ。……自ら攻撃に転じることはないのだが、先程の娘は軽すぎたのだろう。いなされると同時に、刀のいなす力に耐えられずに自分も吹っ飛んだということだ。あぁ、そうだ。時々ギャアギャアと叫ぶことがあってな。それを除けば良いものだ」 業魔は【蛇刀・裏】をしまい、もう一本の似たような刀を取り出す。 「面白い事にこの【蛇刀】はもう一本、性質が全く逆のものがある。それがこの【蛇刀・表】。性能はまぁ……、身を以て知るがいい」 言って、業魔はセリスを視界に入れ、近づく。 「くっ……」 セリスは思わず、双刀を構える。構えてしまう。 瞬間、業魔の持つ【蛇刀】が唸り、自動的に、セリスを、いや、セリスの刀を狙った。 「なっ……!?」 そこでセリスは、奇妙なものを目にした。 業魔の【蛇刀】の刃部分が大きく2つに割れて、ばぎりばぎりと、セリスの【双龍刀【一閃爪】】を喰らっていた。 「全く逆、とはこういうことだ。この【蛇刀・表】は『先端を好む』刀だ。『切っ先という切っ先』に噛み付き、全て喰らい尽くす。刀などの類ならば、構えているだけで勝手に攻撃してくれる刀だ」 残骸となったセリスの刀を見て、勝負はついたと、業魔は刀をしまう。そして護衛を失ったハイナを見て、 「もう、終わりか。つまらんな。ハイナ・ウィルソン、次は貴様が抗いてみせるか?」 ■■■ 少しだけ時間は遡る。 強襲してきたのは業魔だけではない。業魔が操っている侍や忍者などの亡者も襲来している。 椎名 真(しいな・まこと)はその亡者たちと対峙していた。 (これだけいると後ろをすぐにとられそうだね。【不可視の糸】で気配は察知できる。あとは……) 「諒、俺の右後ろ斜め方向。かっとばせ」 椎名は言って、そこらにある岩を適当に放る。 「はいよぉ……。ちみちみ遠くから攻撃してんじゃぁねぇよ紙忍者ァッ!!」 瞬間、ゴガッと鈍い音が炸裂する。椎葉 諒(しいば・りょう)のバットが、岩を捉えた音だった。 岩は見事に忍者に命中。首が変な方向に折れ、二度と動かなくなった。 「あー畜生! MAXな俺の怒りを喰らえ賃金上げろクソ上司がー!!」 吼えながら亡者の群れに突っ込む諒。完全に八つ当たりであった。 「さて、暴れ回るのも久しぶりだからな。余す所なく亡者共をバラしてやらないといけないよな……?」 そんな物騒なことを言い出すのは、七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)である。刹貴は短刀を弄びながら、周りの様子を伺う。そうしていると、槍をもった侍が一人突撃してきた。 刹貴は迎え討とうとするが、 「【古代の力・熾】!」と、背後から声があったかと思えば、光の分身が侍を襲った。 「全く、刹貴、前に出すぎんなって言ったろ……。あとボーっとすんな」 言いながら刹貴に近づくのは、七枷 陣(ななかせ・じん)である。 「ボーっなんかしてないよ。さっきのだって俺が殺るつもりだったんだぜ?」 「あーあーそうか。まぁ頑張って。ただ、コイツらみんな殺すつもりで来てるんだ。油断はすんなよ」 わかったって、と刹貴は呟き、改めて短刀を構える。 「さて、恨みは無いが許せ。汝等、斬死に処す……!」 ■■■ 時は戻り、業魔がハイナに近づこうとした時だった。 「ちょぉっと待ってくれるかねぇ、そこのデカブツ!!」 という大声とともに、業魔に向かって突撃する【蹂躙飛空艇】があった。 「楽しそうなことやってるじゃあないの! 俺も混ぜとけよ!」 威嚇するように、そしてどこか楽しそうに吼えるのは、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)であった。 飛空挺は止まろうとはせず、そのまま業魔に突っ込む。もろに直撃した。 ドッ! という音が響く。辺りに粉塵が広がる。 「……粉塵でよく見えないが、まぁ生きてるだろうな」 突っ込む寸前に飛び降りていた白津は、粉塵を見ながら呟く。 「そんじゃまぁ、あとは頑張ってねぇ。竜造。戦闘の邪魔はさせないように、雑魚をどうにかしておくよぉ」 同じく飛空挺に乗っていた松岡 徹雄(まつおか・てつお)は【さざれ石の短刀】を取り出しながら言って、亡者に突っ込んでいった。 「うし、んじゃまぁ、いっちょやってやるか! 【錬鉄の闘気】! 【潜在開放】! 最初から全力で行――」 そこで思わず、竜造の言葉が詰まる。自分の背後から、何かの気配がしたからだ。 ばっ、と、振り向いた。そこには、三本の腕を振りかぶり、いつでも殴れる状態の業魔がいた。 「飛空挺で突っこんで来るとはな。クク、面白い事を考える」 (ッ!? マズい!) 【斬撃天帝】を防御に回そうとしたが、そこで頭をある思考がよぎる。 飛空挺の突撃をもろに喰らって、傷一つ無さそうなこの男の攻撃に、こんなちっぽけな大剣が耐えられるか? 竜造は一瞬止まってしまう。それは、業魔が殴るという行為を行うには、十分すぎる時間だった。 思わず、目を閉じた、その時。 「何呆けとんねんアホォ!!」 と、日下部 社(くさかべ・やしろ)が竜造に飛び込み、回避させた。 「おぉぉおおぅ! あっぶな! 死ぬとこやったわホンマ! あ、大丈夫か? アンタ」 「あ、あぁ。大丈夫だ」 竜造はなんとか、立ち上がる。 「よぉーし、じゃぁ未来! 雑魚はよろしくなー!」 「任せてー! 邪魔はさせないようにするー! 勝ってね!」 響 未来(ひびき・みらい)は日下部にそれだけ伝え、亡者の群れに消えていった。 「護衛のお姉さん方もよろしくー!」 竜造がハイナの方を向くと、いつの間にか度会 鈴鹿(わたらい・すずか)、織部 イル(おりべ・いる)がハイナの護衛にまわっていた。この関西弁と一緒に来たのか、と、竜造は適当に思う。 「んじゃぁ、やりますか!」 「あぁ、今度はしくじらねぇ!」 日下部は【歴戦の立ち回り】を発動、ナックルを構える。竜造は【ゴッドスピード】を発動、大剣を構える。 そして2人同時に業魔に急接近する。 業魔は、ふむ、とうなずいて、【蛇刀・表】を取り出した。 そこで、 「黒髪の方!! ストップだ! 待て! 剣は駄目よ、喰われる!」 ハイナが竜造に叫ぶ。 竜造は、え? とギリギリで立ち止まる。剣の破壊は免れた。 「ふむ。やはりあの女、先に始末すべきか?」 業魔の標的が、ハイナに再固定される。 「させるかよぉッ! 【鳳凰の拳】!!」 行かせまいと、日下部は業魔の懐に入り、胴を貫く。巨体が少し、揺らいだ。 「むっ、面白い。だがッ!!」 業魔の大木のような腕が、日下部の胴を掴み、振り上げた。そしてそのまま。 「えッ、ちょまっ……」 硬い地面に、力一杯、垂直に、叩き付けた。人の体から発せられてはいけないような音が炸裂する。日下部は動かない。すぐに竜造が駆け寄る。 「おい! 大丈夫か! あぁ……心臓は動いてるな。気絶しただけか」 一安心したのもつかの間。 業魔は既にハイナに近寄っていた。 護衛の2人が立ち塞がる。 「……そなた、ハイナ殿に何用だ? 何故そんなに執拗に狙う? そこらにいる亡者のように、傀儡にでもしたいのか? だとすれば、一体何の為にそのような事企む?」 護衛をしていたイルは業魔に問う。業魔は、 「ふん。答える必要もない」 言いながら、【蛇刀】ではない、別の刀を取り出す。 (何? 何か……変に禍々しいですね) 度会は警戒する。 「警告だ。邪魔をすれば容赦なく切るぞ」 「命掛けで来ている人間に失礼なことを言いますね」 度会は【龍鱗化】を発動させ、業魔の刀を見据える。やがて業魔は刀を構え、振る。それを度会は、避け続けた。 (……やはり変です。刀もそうですが、攻撃方法がどこかおかしい。『殺す』ではなく、『傷つける』を目的にした攻撃みたいです。念のため【龍鱗化】を発動しておきましたが、やはり『受け』なくて正解でしたかね。おそらくこの刀は、傷つけることで何かが起こる! 例えば……傀儡化とか!) 「……ふぅッ!」 「何だ。もう体力切れか?」 度会は一旦距離をとり、 「いえ、まぁ、十分に気はそらせたって感じですかね」 と、意味ありげに言う。 ? と、業魔が疑問に思ったその時、 「【サクロサンクト】、喰らえ」 業魔の上空から、セドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)が降ってきた。 セドナの手には槌。その目標は、 「セドナさん! 刀を狙って下さい! ただし絶対に生身で触れないよう、注意して!」 度会が叫ぶが、 「気をそらされて空をとられるとはな。だが甘い」 業魔は刀を瞬時に下げ、セドナを拳で迎え撃つ。 「ぐぅうッ……」 セドナは少し吹っ飛ばされるが、空中で威力が半減されたようで、ケガをしたような様子はない。起き上がり、言う。 「首、注意した方がいいかもしれんぞ」 「ぬっ……、何だ、これは」 業魔の首元には、何か小さな黒い塊が浮遊していた。 (……何か、マズい!?) 「マズいよ。そいつは【アンダーテーカー】によるブラックホールのようなものだからな。段々近づいて、首まで来たらもうアウトだ」 「!?」 業魔は慌てて背後に振り向く。そこにはセドナのマスターである瀬乃 和深(せの・かずみ)が立っていた。 「ククク、面白い。この攻撃の為の、先程のフェイントの数々か。だが、やはり甘い!」 言うと、にやりと嗤いながら、業魔は自分の首元のブラックホールを、拳で握りつぶした。 「残念だったな。この程どッ……!?」 「残念だったな。そいつもフェイクだ」 瀬乃はふぅ、とため息をつく。 「【エンド・オブ・ウォーズ】。俺と目を合わせたことで発動したんだ。あんたはもう起き上がる事はできない」 ぐぅッ……と、倒れかかる業魔。 「やったか!?」 思わず、セドナが言う。 しかし。 「ククク……。まぁ、それなりに、愉しめたぞ」 その声に、瀬乃は思わず業魔の方を見る。 いなかった。 先程までうずくまっていたはずなのに。 「まさか……術はかかってたハズだろ!?」 瀬乃の疑問に答えるように、瀬乃の真横から、声がする。 「その程度の術は、我には効かん」 そして、瀬乃の右半身に、大きな岩が3つ同時に衝突するような痛みが走る。業魔が、3つの腕で、殴りとばしたからだった。瀬乃は地面に叩き付けられる。 業魔は、【蛇刀・裏】を抜き、どしりと構え、言う。 「さて、次は誰が相手だ。身体も温まってきたことだ。もっと強い奴をだしてこい。相手になってやろう。ハイナ、貴様はそれからだ」