校長室
選択の絆 第一回
リアクション公開中!
ポムクルさん 神殿内を行く一行が少女の幻(エルピスの幻)と再開を果たした、正にあの瞬間より少しばかり前のこと。 全員で神殿の奥に進むのではなく、一カ所に留まって周辺の調査を行い「女王器」の手掛かりを探そうという中、 「あっはー! 階段見ーっけなのー!!」 及川 翠(おいかわ・みどり)は迷うことなくその階段を駆け下りていた。その手には『銃型HC弐式・N』が握られており、今まさにオートマッピングの最中だったのだが、処理が完了するのを待つよりも未知なるステージへのワクワク感が勝ったようだ。 「えー」 困惑したような声が聞こえる。パートナーのミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が彼女を追って階段を降りてみると、翠が一人、立ち尽くしていた。 「うぅ……狭いなの……」 翠は涙目になっていた。どうやら上の階のように広い通路やエントランス部分があることを期待していたようだが、実際には狭く薄暗い通路があるだけだった。 「マッピングしやすくて良いんじゃない?」 「そうだけどぉ〜」 がっかりした気持ちはそう易々とは晴れないもので。翠は何とも重い足取りで通路を歩み始めた。完全に先走って階下に降りてきた2人だったが、そんな2人を追って来る者たちも少なくなく、 「おっ! いいねぇ、いいねぇ」 狭い通路を歩み始めてすぐにボビン・セイ(ぼびん・せい)が目を輝かせて言った。 「見ろよ、ここ、俺が言ってんのはこういう所なんだよ」 彼が指したのは壁面の下部に空いた小さな通気孔だった。 「さすがにそこは……通れないんじゃないかな?」パートナーのカッチン 和子(かっちん・かずこ)が言う。 「何でだよ! こんなに大きいんだ、余裕で通れるだろ」 「ん……」 そりゃあ、身長1cmのボビンからすれば大きな孔かもしれないけれど。いくら少女が小さいかも、と言ってもそこに入れるほど小さいとは和子も思ってはいなかった。 2人が調べているのは神殿内の「低い位置」や「隙間」だ。少女の幻を見つける事が女王器に繋がる鍵だ、という点は同意だ、しかし少女の容姿については皆が考えるものとは違っていた。 幻は所詮幻であって、本当の彼女はもっとずっと小さいのではないか。それならば「低い位置」や「隙間」こそ重点的に調べるべき箇所である、と。 そして2人と同様に「狭い箇所」を調べているのが奏輝 優奈(かなて・ゆうな)とレン・リベルリア(れん・りべるりあ)だ。 「あー、あかん、ここにも無いわー」 特に優奈は人一倍熱心に目を凝らして通路の脇や壁面の剥がれ落ちた箇所などを調べ続けているのだが、その理由は――― 「やっぱり無いんかなぁ、錬金術に使えそうなエエ物」 動機も目的も思いっきり個人的なものだった。 「姉さん……いい加減あきらめようよ」 壁面に空いた穴から顔を抜き出してレンが言った。 「いくら昔の神殿だからって、そう簡単に珍しい素材なんて見つかるはずが―――」 「はぅあっ!!」 「……姉さん?」 反対側の壁面に顔を突っ込んだままに優奈が叫んだ。 「見つけてしもた」 「見つけたって、何を?」 「…………砂金や」 「へー、そう、よかったね…………………………えっ?」 にわかには信じがたかったが、震える優奈の手のひらには確かに金色に光る砂が乗っていた。 「ウチ………………金を見つけてしもたっ!!」 「なんてこった!!」 ミイラ取りがミイラに、は違う。本末転倒、が適切か? もちろん嬉しい限りの事ではあるが。 金に換える素材を探していた2人は一握りの砂金を見つけ、手に入れたそうな。 ……………………………………意味ないじゃんっ!! 「あんまり女王器には近付きたくないわね」 冷めた声でそう言ったのはグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)、イルミンスールの利己主義者だ。砂金を見つけて浮かれまくっている優奈たちと比べると、その温度差は絶大だった。 「過ぎた力は身を滅ぼすわ」 「それでも、興味はある。だからこそこうして調査にいらしたのでしょう?」パートナーであるシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の問いに、グラルダは素っ気なく「そうね」とだけ答えた。 シィシャはシィシャでいつものままの無表情のままにこれに続ける。「しかし、そもそも最初の女王器とはどの様な姿形をしているのでしょうか」 「さぁ? 実際に目にすれば分かるでしょ」 「もちろんそうですが」 「でもそうね。案外、足が生えてて、その辺をウロチョロしているかもよ」 「無機物であるとは限らない、と?」 「可能性の話よ」 何しろ相手は最初の女王器。無機物である可能性だって十分に考えられる。 「さぁ、出てらっしゃい。女王器」 そんな風に冗談混じりに言っていた彼女が不意に彼らを発見した。 優奈は思わず息を呑んで――― 「……思った通りね」 「?」 通路の脇、壊れた壁面の奥を覗いたままに彼女は呟いた。 「……やっぱり足が生えてたわ」 それは小さくて可愛らしい人形のような。しかし彼らは自らの足で歩き、大きく腕を振って歩いている。コロコロと転がってる者もいれば、つるはしを担いでいる者や測定器のような機械を手にしている者もいて。 「これは……おっ、お持ち帰りできるかしら………………も、もちろん、彼らの生態を調べるためよっ」 「そうですね。彼らが抵抗を……いえ、拒絶さえしなければ問題はないかと」 今更取り繕っても既に手遅れだが、優奈は語気を強めて彼らに名を訊ねた。すると――― 「ポムクルさんなのだー!!」 神殿内で出会った小人たちの名はポムクルさんというようです。