校長室
選択の絆 第一回
リアクション公開中!
夢魔&ゴーレム 目指す場所があるならば少なからず障害が立ちはだかるものだ、そんな事は分かっている。どこぞの頭でっかちな学者が言わなくても己の人生の中で嫌と言うほど思い知らされている、重々理解しているつもりだ、しかし――― 「我は獣狩りをしに来たのではないっ!!」 胸部の一部をトランスフォーム。ユピーナ・エフランナ(ゆぴーな・えふらんな)は夢魔の群れめがけて『機晶バスター』を砲射した。 機晶エネルギーを凝縮したビームは切り裂くように次々と夢魔の体を貫いていった。 「ぃ良し!! さぁどうだ! これでもまだ我に刃向かう気のある者は―――ぬっ!!」 同族の死を間近で見ても夢魔たちはユピーナに向かってきた。狼の体躯をしたモンスターが牙を剥いて飛びついてくる。 「ふんっ」 再びに砲身を向けるユピーナの背後から大矢が飛び過ぎた。矢は彼女めがけて真っ直ぐに猛進してくる夢魔の喉元を見事貫き、仕留めてみせた。 「アイリ」 「どうだ? 横取りしてやったぞ」自慢するように『龍牙の大弓』を揺らしながらヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が言った。 「余計なことを」 「まぁ、そう言うな。さっさと片付けようぜ」 「当然だ」 皆の夢の中に現れては自分のことを超兵器だと公言したあの少女に会って「約束」の内容を聞き出すまで。そのためにも、こんな所で立ち止まっている訳にはいかないのだ。 「滅びし大陸で最初のロゴスに触れた者、か」 数体のゴーレムを前にして使役である『召喚獣:フェニックス』を呼び出しながらに涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は呟いた。 「どんな真理に触れたのか知らないが、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長の魂を奪いに来ると予告した上、さらにこれだけのモンスターを残していくとはこれは……」 石の巨兵に炎属性の技が通用することはここまでの戦いで明白だ。フェニックスも十分に通用するだろう。 「これはもはや立派な宣戦布告だ、それなら私もそれ相応の対応をさせてもらうよ」 両の拳を振り上げる巨兵めがけて、フェニックスを放つ。しかしそれでも直撃はさせない。そうすると見せかけてゴーレムの周りを飛び回らせる、さすれば他の巨兵たちの注意も引けるというものだ。 「後手に回るのは好きじゃないんでね」 『ホワイトアウト』を放って、一網打尽。フェニックスを追っていたはずのゴーレムたちは、気付けば猛吹雪の中に迷い込んでしまったかのように。石の体は徐々に凍りついて固まってゆく。 「吹雪も効く、か。見かけ倒しな身体だ」 時間をかけすぎると相手も次の一手を打ってくる、そうなる前に決着をつけたい。 「どうやら、光の技が非常に有効なようですよ」 口調は丁寧、それでいて光の刃を振るう様は実に鋭く美しい。クナイ・アヤシ(くない・あやし)が振っているのは『我は射す光の閃刃』だろうか。 彼の言葉の通り、光の刃はまるで砂で出来た家をブルドーザーで解体していくかの如くに、豪快に、またいとも簡単にゴーレムの足を砕いていた。 「動きを封じられればと思っていたのですが、どうやらそれ以上に期待できそうです」 足の次は胸部を斬り上げて、最後は首を刈った。虫も殺さないような笑顔でゴーレムを壊していく様は……パートナーの清泉 北都(いずみ・ほくと)から見ても、ちょっと恐怖だった。 「ち、違いますよ? 私が鬼畜なのではなく、ゴーレムが脆いだけですよ」 「あ〜、うん、そうだねぇ〜」 ゴーレムの体は決して脆くはない、ただ「光の技」が効き過ぎているだけだ。まぁどちらにしてもクナイの戦い様がエグい事だけは間違いないが。 「光の技、かぁ」 北都は己が武器を見て、自分が使える技を思い返してみた。 それは決して悪いことではない、数ある技の中から光輝属性のものを見つけ使用した方が有利に働くことは明白なのだからそうするべきだ、しかしここは戦場、辺りを敵に囲まれた、しかもその「ど真ん中」である。拳を上げてクナイに襲いかかるゴーレムの背後から夢魔が飛び出してきて――― 「ダメだよ、不意打ちは。なんて言っても分からないか」 まるで無防備に見えたのに、北都はまるで「何でもない」といった様子で『神威の矢』を放ち、これを沈めた。神に祈願して放つ矢の一撃も夢魔には効果があるようだ。 「光の技なら、」 ヴァルキリーであるクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は、突進してきた夢魔を『龍鱗の盾』で防ぎ止めると、 「私たちの出番だよねっ!」 強く地を蹴り、体重を乗せる。繰り出したのは『ライトブリンガー』、光輝属性の一撃が夢魔の体に突き刺さった瞬間、まるで風船に刃を突き立てたかのように夢魔の体は勢いよく破裂した。 「うわっ! びっくりしたぁ」 「大丈夫か? クレア」 「お兄ちゃん」 叫び声を聞いて涼介が駆け寄ってきた。 「へーき、へーき。ちょっとびっくりしただけだから」 「って、腕の所、怪我してるじゃないか」 「これは……さっき噛みつかれて」 「救護班の所に行ってこい。毒性が無いとは言い切れないだろ?」 隊の後方では三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)らが救護班として待機している。夢魔の牙に毒性があるのか、体内に残っているのかも併せて調べてくれる事だろう。 「じゃあ、あとちょっとだけ。もうちょっとだけ一緒に戦わせて」 自分の技が非常に有効だと分かった今、ここで避がることはクレアには出来なかった。それにすでにやる気全開、アドレナリンマックス状態だ。止まれと言われてもそう簡単には止まれない。 「さて、ヒーローらしく戦闘員と戯れますかね」 クレアとは少しばかり種は違えども、佐々木 八雲(ささき・やくも)もまた非常に滾っていた。 「さぁ来いゴーレム共。思いっきり遣り合おう」 声高な名乗りもそこそこに八雲は悪霊払いの術『悪霊退散』を繰り出した。 「……足だけ残されてもねぇ」 横たわるゴーレムの肢体を前に佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が溜息を吐いた。肢体とは言っても残っているのは両足のみ。上半身やら臀部やらは『悪霊退散』を喰らった瞬間に消滅してしまった。 「だから悪かったって」慌てて八雲が弁解する。「こんなに効くとは思わなかったんだよ。事故みたいなもんだ」 「事故ねぇ」 まぁ意図せず予期せず命を落とすという点では大差ないか……いや、戦場に赴いてる時点で覚悟も予期もある程度はあるか。 「とまぁそんな事はどうでも良いとして」 弥十郎はゴーレムの足を手に取った。 「気になるねぇ……このゴーレムたち、パラミタとは違う魔法形式みたいだし。持って帰って調べるとしようかな」 戦況は有利。ゴーレムにも夢魔にも光の技が効果的だ、と分かった事でこちらが圧倒的に押している状況だ、間もなく制圧できる事だろう。 あとは……。 「んっ!!」 少しばかり後方ではルーチェ・ヴェリタ(るーちぇ・う゛ぇりた)がゴーレムを跪かせていた。 「しばらくそこで”おやすみなさい”」 唱えたのは『ヒプノシス』、ゴーレムは跪いたのではなく眠らされたようだ。 彼女のパートナーは救護班の三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)。傷を負った契約者たちは皆、彼女の元で治療を受けては再びに戦場へと戻ってゆく。制圧間近とはいえ戦力の回帰と維持が出来るのはやはり大きい。 のぞみが治療に専念できるよう「自分が盾となり」彼女を守ってみせる、とルーチェは近づいてくる敵に『ヒプノシス』を唱え続けていた。その結果――― 「……なるほどねぇ」 弥十郎の位置から見てもそれは異常だとはっきりと分かる、一目瞭然だ。救護班の前方、ルーチェの足下には巨大な体をした石の巨兵がゴロゴロと横たわり転がっているのだから。 「………………あれも、持って帰ろうか」 サンプルにするなら足だけよりは明らかに良い。ただし一体だけで十分だが……。 戦況がもう少し落ち着いてから選定するとしよう。