校長室
選択の絆 第一回
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幻が幻に 夢魔やらゴーレムやらの群れを無事退けた一行は再びに神殿内を歩んでいた。 先頭を行く永井 託(ながい・たく)は今回の探索の目的を反芻しながらに呟いた。 「幻の少女を捜せと言われてもねぇ」 「託にい、幻の少女じゃないよ、少女の幻だよ」パートナーの那由他 行人(なゆた・ゆきと)が訂正した。 「そう変わらないんじゃない? 本当に居るかどうかも怪しいし」 「そんなことないよ! 託にいだって会ったじゃないか!」 「それはまぁ、そうだけど」 考えれば考えるだけ彼女の存在を裏付ける物は何一つ無い。魔法や道具を使って幻を見せる事はそう難しい事ではないし、催眠術の類や夢を見ていただけかもしれない。 夢の中でだけ会える少女なんて、いかにも乙女チックでロマンティックじゃないか…………まぁ2人とも男ですけど。 「だいぶ困ってるみたいだったし、助けてやりたい気も無くはない」 「でしょう? …………って、そんな程度なの?」 古代の超兵器だの最初の女王器などと言われても正直ピンと来ない。 場所の指定も曖昧だったし、周りの状況などについて彼女は一切に語っていない。助けてほしいと言われて「ほいさ」とやってくる、そんなお人好しばかりが集まって探索を行っているわけで。もちろん託もその内の一人なわけだが――― 「しかし情報が少ないねぇ……」 託が一人、思考を巡らせていると、 「おーい! 幻の女の子ー!」 行人が大声で少女に呼びかけていた。 「助けに来たよー!」 「……それで会えたらいいなぁ」 「やってみなくちゃ分からないだろー」 「まあ、そうだな」 「おーい! 幻の女の子ー!」 「ってゆーか思いっきり幻の女の子って言ってるじゃねえか」 「あ……」 『呼んだ?』 「うわっ!!」 不意に背後から声がして。振り向いてみれば確かにそれはあの時に見た―――貫頭衣姿の少女がそこに立っていた。 いや、よく見れば少女の体は色彩が薄く、どこかゆらゆら揺れている。目の前にいる少女もまた実体ではなく幻という事なのだろう。 それにしても……。 呼べば会えるのかよっ! なんて心の中でツッコんでいたら――― 「退がって!!」 茅野 菫(ちの・すみれ)の声が響いた。少女に迫るは巨大な影、狼型の夢魔が4体、少女の頭上に襲い来ていた。 「ふっ!!」 菫は飛び来た夢魔に『神の審判』を放って迎撃した。効果の程は光輝属性のそれには届かないが、弾き返す事には成功したようだ。 残りの3体はというと―――通路の壁を蹴っては駆けたり登ったり。 狙いは撹乱か。小賢しい。 通路の上部には中二階のような場所が見える。4体はそこから飛び来たようだ。 「パビェーダ!!」 「はい!」 すぐにパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)がこれに応える。彼女は5体もの『召喚獣』を呼び出して獣壁を形成した。 「待って!!」 菫も『召喚獣』を呼び出しながらに少女に叫ぶ。 「逃げないで! 話があるの! 聞きたいことが山ほどあるの、だからそこに居て!」 夢魔の襲撃に驚いたのか、少女は背を向けて姿を消そうとしていた、それを間一髪、菫が気付いて呼び止めた。それでも彼女の恐怖心が消えたわけではない。 「まぁまぁ、まずはカレーでも食べて落ち着くデース」 アーサー・レイス(あーさー・れいす)が皿を差し出した。それは見るからに美味しそうな、それでいてなぜか湯気が上がった「熱々カレー」だった。予期していたのだろうか。 「出来たてに勝るスパイスはありまセーン! さぁさぁどうぞ」 「何でカレーなのよ! 明らかに場違いじゃない! ジャマカレーよ!!」 「レトルトなんかと一緒にするなデース!!」 割って入った日堂 真宵(にちどう・まよい)がアーサーとギリギリのやり取りをした後すぐに、 「時間がないわ! 分かるわよね!」と少女に詰め寄った。 「女王器はどこ? どこにあるの?!!」 言葉尻は強く、ズイと顔を寄せて、 「わたくしたちは女王器を探しに来たの! 知っている事があるなら教えなさい!」 『ぇ………………あの…………』 「安心して! 女王器はもちろん、あなたも保護するから、だから言いなさい!」 本人にそのつもりは無いのかも知れないが、完全に目は血走っている。 「どこ?!! 女王器はどこにあるの!!」 いつまた敵が襲い来るか分からない、まだ見ぬ敵が現れるかもしれない、だからこそ一刻も早く女王器を発見しておきたい、その気持ちは分からんではないが。 『ぅ……………うぅ…………』 「泣かない! 泣いてる暇があるなら言いなさい!」 『ぅぅうううっ………………』 少女は既に涙目だ。もはや完全にカツアゲ状態、しかもそこにどういうわけだか――― 「わはははは!」 全裸に薔薇学マントを羽織っただけの変熊 仮面(へんくま・かめん)が割って入った。 「喜べ、助けに来たぞっ!」 『ひぃっ!!』 最悪のタイミングで最悪の人物がフレームイン。汚れを知らない幼気な少女に変態の汚肉も「ピコン」と挨拶をした。 「どこに行けばいいにゃ。今言え! すぐ言え! 早く言え!」同じく全裸マントのにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が凄んで、ジ・エンド――― 『うわぁぁああああああん!!!』 絶叫疾走大号泣で少女は走り去っていった。 ようやく出会えたというのに。せっかく菫とパビェーダが時間を作ったというのに。 少女は再び幻と消えてしまった。