空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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【3】ニルヴァーナ、降り立つ

 そこは氷壁遺跡を望むニルヴァーナのとある高台――。
 董 蓮華(ただす・れんげ)は胸の前で、勾玉の形をした女王器リンク・オブ・フォーチュンをぎゅっと握りしめる。
 かつてパラミタと地球とを繋いだそれを、蓮華は氷壁遺跡で使うつもりでいた。
(そうすればきっと……ニルヴァーナとパラミタとの繋がりも――)
 もちろん、保証はない。
 が、やらないよりかはやるほうがましだ。
 蓮華はそれをパラミタでもずいぶんと多く学んできたつもりだった。
 と、そこに――スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)と、ラクシュミ・ディーヴァこと空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)がやって来た。
「よっ、蓮華」
「スティンガー……それに、ラクシュミも……。――来てくれたのね」
「ええ、もちろんよ! ニルヴァーナの危機に、黙ってられる私じゃないわ!」
 ラクシュミは言って、ぐっと拳を握りしめる。
 その気合いと怒りに、蓮華は苦笑し、スティンガーはほほ笑んだ。
「まあ……その怒りの矛先は、遺跡でぶつけてもらうとして――蓮華、準備は?」
「もちろん、ばっちり」
 蓮華は手の中にあった勾玉を二人に見せる。
 ラクシュミが感嘆の息を呑んだ。
「わー……すごい……。ポムクルさんはなんでも造れるのね」
「でも、今回は運が良かっただけだけど……。特別な素材が必要みたいだし、無理を言って造ってもらったの」
 最初の女王器が収められていた聖櫃から削り取った稀少な素材だ。
 恐らくもう二度と、滅多なことでは製造することが出来ない。それだけに、その使用には覚悟とタイミングが必要だった。
「――やれるか?」
 スティンガーがたずねる。蓮華はうなずいた。
「もちろん。その為に……ここまで来たんだもの」
 と、そのとき、威勢よく声をあげた一団が遺跡へと突入していった。
 遺跡の奥へと潜ったアルティメットクイーン、それにグランツ教徒を追うシャンバラ軍の一団だ。
 蓮華も、それを追いかけなくてはならない。
「行きましょう――!」
 蓮華の言葉にラクシュミとスティンガーもうなずき、彼女たちは遺跡へと向かった。



 氷壁遺跡の中へと突入してゆくシャンバラ軍の一団を、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は見つめていた。
 その傍らにはヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)の姿がある。
 二人はルドルフの補佐官として、指揮の助言や情報分析をしていた。
「ヴィナ。各校の部隊はどうなっている?」
「はっ……。薔薇の学舎、百合園、空京、ニルヴァーナともに、契約者の部隊が編成されています。それぞれ、通信手段を準備。いつでも、前線の様子がこちらに報告可能です」
「ふむ……」
 ルドルフは思案げにうなる。
 そこにウィリアムが言った。
「各医療班もすでに配置についています。また、各部隊に最低限一名ずつの医療隊員を配属。各部隊のスキル・特技もリストアップしています」
「なるほど。それは良い報告だ」
 ルドルフは思わず微笑を浮かべた。
「やはり医療体制は万全にしておかないといけない。何かあってからでは困るからな。――ウィリアム、こちらと前線との通信は遮断されないよう気をつることを、前線へ伝えてくれ。ある程度、通信員は距離を保つように」
「了解です、ルドルフ校長」
 ヴィナは恭しく頭をさげ、すぐに前線に通信機を通じて命令を伝えた。
 同時にヴィナは、敵の動きを監視することも伝えておいた。
(こちらがアルティメットクイーンに気を取られているうちに、司令部を攻撃される可能性もあるからね……)
 もちろん、すでにその場合の対策も講じてあるが――行動は早いほうがいい。
 通信包囲網を構築するつもりでいた。
「ヴァーリー卿」
 ヴィナに呼びかけられ、ウィリアムは静かにうなずく。
 ルドルフにその場を離れることを伝え、ウィリアムはまだ大勢残っている各部隊へと命令を伝えに向かった。
「突出する者がいては困るね……。あくまでも戦線は堅くしておかないと」
「その通りだ、ヴィナ。指示は徹底しておくといい」
 ルドルフがヴィナの独り言を肯定した。
 まだまだ先は長い。氷壁遺跡へと追走は、始まったばかりだった。