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【GWSP】サルヴィン川、川原パーティ

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第5章 キノコは定番?

「この時期のお花も、とても綺麗です」
 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)は、真っ白な花を重そうなほどに咲かせた木の下で、1人花見を楽しんでいた。
「賑やかな――声」
 花達は何も話しはしないけれど、遠くの方から人々の声が響いてくる。
 目を凝らせば、パーティや水浴びを楽しんでいると思われる人々の姿が見えた。
「とても、元気で楽しそうです」
 表情までは分からないけれど、声と動きで集まった人々がとても楽しんでいることがわかった。
「こちらまで楽しくなってしまいます」
 ふわっと微笑んで、アリアは立ち上がった。
 そっと、風が吹き渡り、花びらがふわふわと舞い飛んだ。
「パートナー達にも見せたかったです」
 手を広げて花びらを受けて、アリアは目を細めた。

「準備が終わりましたら、焼かせてもらってもいいでしょうか?」
 女性ばかり集まっているグループに、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)は食材を持って加わり、準備を手伝っていた。
「よろしければ、お茶いかがですか?」
 そして、アリアも水筒を持って近づいたのだった。
「是非お願い。あたしはキノコの料理から始めるよ!」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は籠の中から、採ってきたキノコを取り出していく。
「ところでのぞみ、なんでそんな怪しい色のキノコを採ってきてるんですか」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は、籠の中のキノコを指差して眉を寄せた。
「ん? これピンク色でかわいいよねー」
 のぞみはそのピンク色の水玉キノコを手にとって、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべる。
「いえ、あのですね……」
「大丈夫っ、毒キノコは採らなかったから。勘だけどねー!」
「勘、ですかっ。……やっぱりこれも必要なようですね」
 真言は苦笑して、自分が採ってきたものを取り出していく。解毒効果のある薬草数種類だ。
 くすくすと笑いながら、ジーナは野菜や肉を網の上に置いていく。
 ジーナが持ってきたのは、空京で購入したオージービーフで作った、生ソーセージだ。
「うちの実家ではこれをスナッグと呼んでいました」
 火の加減を見て、ジーナはソーセージを網の上に乗せていく。
「手作りだね!」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が皿を持って目を輝かせながら近づく。
「中まで火通るかしら?」
 少し太めのソーセージに、未沙に続いて訪れた小谷 愛美(こたに・まなみ)が小首を傾げた。
「焼き方、心得てますので大丈夫です。……とはいえ、実際にバービーで焼いたことはないのですが。あっ、バービーはバーベキューのことです」
「うん、そういう呼び方の国もあるみたいだよね」
 愛美の言葉に頷いて、ジーナは語り始める。
「私の実家では、何かあるたびにバービーをしていたのですが、男性陣が焼く係を独占して、私は準備か下ごしらえしかさせてもらえなかったんです」
「男性上位の考え? どこの国でもそういうのってあるよね。素敵な男の人だけなら許すんだけど。ああでも、運命の人には焼いてもらうより、焼いてあげて食べさせてあげたいかも」
 ジーナは笑みを浮かべる。
「父は……私のシャンバラへの壮行バービーでも焼く係をさせてくれませんでした」
 家族を懐かしく思いながら、ジーナはくすくすと笑うのだった。
 ジーナの出身地であるオーストラリアの田舎町では、バーベキューは男が焼くものという慣習があったのだ。
「っと、弱火にした方がよさそうですね」
 一旦網を上げると、炭をいくらか取り出して、火を弱めるとまた焼いていく。
「結構難しそうだね」
「いい匂い」
 未沙と愛美が微笑みを浮かべた。
「初めてですから、父達ほど上手くは焼けないようですが、焦げないよう注意しますね。あ、こちらのお肉はもう焼きあがったようですよ」
 ジーナは十分火の通った肉を、未沙と愛美の皿の上に乗せていく。
「ありがとう」
「戴きます」
 未沙と愛美は肉や野菜の乗った皿を持って、一足先に椅子に並んで腰掛けた。
「どうぞ」
 アリアが紙コップに注いだ冷たいお茶を、2人に配る。
 未沙と愛美は礼を言ってお茶を受け取り、アリアは続いて全員分テーブルに並べる。
「キノコも焼けたよー。キノコ汁もお勧めだよっ」
 のぞみが皆の皿に、キノコを乗せていく。
 そして器には出来立てのキノコ汁を入れていくのだった。
「わー、戴きます」
「いただきまーす」
「ご馳走になります」
 未沙と愛美、それからアリアも焼肉と野菜、キノコ、そしてキノコ汁を受けとって、食べ始めた。
「ソーセージも焼けた? 貰っていい?」
 未沙がジーナに問いかける。
「ええ、ちょうど良い焼き具合なようです」
「じゃ、一番!」
 未沙は箸でソーセージを掴んで、皿の上で2つに割ってふうふう息をかける。
「中、熱いから注意しないとね。はい、マナ、あ〜んっ」
 男性がいないせいか、愛美も気兼ねなく大きく口を開ける。
 ソーセージを口にいれてもらい、噛んでいく。
「うん、凄く美味しい」
 笑顔を見せて、愛美は残りの半分に箸を伸ばして掴んだ。
「全部食べたら悪いから、未沙さんもあ〜ん」
「うん」
 未沙も口を開けてソーセージを待つ。が、愛美はちょっと意地悪をして、掴んだソーセージを自分の口の方に持っていく。
「もうっ」
「うそうそ冗談」
 愛美は笑いながら未沙の口にソーセージを運んだ。
「ん。ホント美味しい〜。もう1本半分こしようね!」
「うん」
 もう1本、ソーセージを皿に乗せて、半分に割いてまた食べさせっこする。
「ふふ、他の人とはこんなことしないよ、マナだけ特別だよ」
「お互いに、運命の人が現れるまではねっ! カルビもどうぞ〜」
 互いが運命の人だといいんだけどなあと思いながら、未沙もキノコをタレにつけて、愛美の口に運ぶ。
「運命の、人……もしかして、あなたが私の運命の人……」
 突如、本当に突然。愛美が呟き声を上げた。
「マナ?」
 名前を呼んだ未沙の顔に手を伸ばして、両手で顔を包んだ。
 そして顔を近づけてくる。
「マナ、な、なんか大胆!?」
「カッコいい人……」
「ん? あたしカッコよくないよ」
「お花が満開ですね。ああ、なんて素敵な花吹雪なのでしょう〜」
 ほわほわと、キノコ汁を手にアリアが微笑んでいる。
「未沙夫さん」
 愛美は、がばっと未沙に抱きついてきた。
「の、のぞみー! やっぱり、やっぱり毒キノコじゃないですかっ」
 皆が幻覚を見ていると気付き、真言は急いで薬草を切って、サラダのように調理していく。
「こんなに美味しくて、可愛いのに毒なわけないよー」
 言いながら、のぞみは虚ろな目で周囲を見回していく。
「それにしても、キノコがいっぱいね。テーブルにも椅子にも、鉄板からもキノコが生えてる。あ、真言の口からも」
「生えてませんっ! しっかりしてくださいーっ」
 がばっと真言は薬草サラダをのぞみの口につっこんだ。
「もうマナったら……大丈夫? 口移しで食べさせてあげようか」
 そう言って薬草を受け取るも、しばらくこのままでもいいなーと未沙は酔ったような状態の愛美を抱きしめていた。
「ええっと、お肉を食べませんか、お肉を」
 ジーナは皆の皿に焼けた肉を分けていく。
「パラミタのバービーってなんだか凄いです。肉よりもキノコがメインなのですね。これは実家の家族に報告しないと」
 ジーナは真面目にそう感想を漏らした。
 見回せば、他のグループのテーブルにもキノコ料理が沢山並んでおり、皆とても楽しそうだった。