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【『両国の絆』 第二話「留学生」】

南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)


「長い付き合いねえ……どういう関係?」

 エリュシオン帝国オケアノス地方の洞窟。
 出雲しぐれと正面から向き合って、光一郎は質問を続けた。
「おや、もう知られているかと思ったのですが……あの人は私の隊長です。尤も、振られてしまいましたので、元、ですが」
「ん、しぐれちゃん、何、まだ隊長さんにぞっこんなワケ?」
「ええ」
 冗談めかした言葉へ、返ってきたのは即答だった。本気かどうかさっぱり判らない、そのにこやかな笑みに、光一郎は更に問いを続ける。
「それって、薔薇的な意味で?」
「……どう、思いますか?」
 茶化してみたが、返ってきたのはぞくりとするような響きを持った声だった。真意は悟れないのに、不気味な熱を帯びているのを感じて、敢えて挑発するように光一郎は「もしそうなら、残念だったな」と口の端を上げて見せた。
「氏無ちゃんは俺様と長い夜を過ごすような仲だぜ」
 勿論大嘘もいいところだが、しぐれは何故か「おやおや」と目を細めると、すい、とその顔を僅かに近づけて、瞬きもせずに光一郎の目を覗き込む。思わずのけぞりそうになった光一郎に構わず、しぐれは「どうです?」と囁くように声を漏らした。
「率直に聞きましょう、あのひとは好かったですか? 泣いて縋って甘い声でも漏らしました? それともあなたの方が乱されるほうですかね」
「お、おう?」
 妙な空気に当てられたように光一郎がのけぞると、今までの雰囲気をさらりと消して、しぐれはくつくつと喉を鳴らした。一体今のはからかっていたのか、ペースを自分の方へ引き寄せようとしてのことか、或いは本心なのかどうか、と考えている内に、いつの間にかしぐれはその背を近くの壁に預けるようにして距離をとっていた。