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第5章 生息地に潜むもの
「ん? 何だありゃ」
 その日、授業を抜け出し空飛ぶ箒で空を漂っていた緋桜ケイ(ひおう・けい)は、奇妙なものを見かけた。遠方、結構な距離に上がる土埃である。
「お〜、こりゃすごいな」
 生まれてこの方、お目にかかった事がないようなウサギ大移動であった。
「とはいえ、こりゃちょっとおかしいよな」
 ウサギ達は極度の興奮状態にあるようだ。ふむ、と目を閉じ意識を集中させる。
「魔法の気配か」
 ホンの微か感じ取れた、ウィザードとして慣れ親しんだ気配。魔法の痕跡に、ケイは顔をしかめた。
「魔法を悪事に使うとは許せないぜ」
 箒を握る手に力が入る。
「とはいえ、この方向だと行き先はライバル校か……余計な問題は増やしたくないな」
 魔法が関係しているなら、尚更。余計な諍いの種は持ち込みたくなかった。
「とすれば先ずは原因究明だな」
 そうして、ケイは進行方向を、ウサギ達とは逆に向けたのだった。

「ウサギなど放っておけば良いではないか」
「ダメだよ。原因を解決しないとお茶会を楽しめないでしょ?」
 天津諒瑛(あまつ・りょうえい)はぶつぶつ言うサイカ・アンラック(さいか・あんらっく)に、にこやかながら一歩も譲らなそうな笑みで応えた。
「大体、サイカは残ってお茶会に参加すれば良かったのに」
「我とてそのつもりであった。ただ……」
 気づいたのだ。諒瑛がいなければつまらない、と。
「ただ?」
「む、何でもないのだ。さっさと解決しても茶会に戻るぞ」
 勿論そんな事、口に出してなぞやらないが。
「そろそろ森じゃのぅ」
 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)本郷翔(ほんごう・かける)九条風天(くじょう・ふうてん)とパーティーを組んで、調査に来ていた。
「不測の事態にしては整然と動いておりますね。やはり何らかの誘導を受けている可能性が高いですね」
「そういうの、分かるんだ」
 感心したように、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)。アリアは自分はそういう頭を使う事は得意ではないと自覚していた。けれど、だからこそ。
「みんなは調査に集中して。みんなの事は、私が守るから」
 同行させ欲しいと、護衛役を買って出たのだ。
 そして、アリアはパラミタウサギの本来の生息地に近づく毎に、肌にピリピリとするような緊張感を感じていた。
「何か……いる!」
 ズゥゥゥン。
 大地を、森の木々を震わせ、姿を現した『もの』。
「これが、ウサギ達を怯えさせ、逃げ出させたものなの?!」
 剣を構え、その巨体を見据えるアリア。
 それは一言で言えば巨大な長虫だった。目はなく、代わりに顔の部分に鋭い歯の生えた大きな口がある。
「確かにこれは強烈だぜ」
「しかし、何故こんな所にこんなモンスターが?」
 サイクロンは実際、生息地の問題……モンスターと戦う事を予想していた。だが、グランメギドの疑問の通り、相手がこんなものだとは思わなかった。
「デザートワームですね」
 博識な翔が告げる。
 デザートワーム……その名の通り、普通は砂漠に住むモンスターである。間違ってもこんな緑の多い森にはいない。
「とはいえ実際に居るわけだしな。森の生き物達もそりゃ怯えるだろうよ。こんな見た事も無いのがデンと居るんじゃ」
 そう、サイクロンは気づいていた。森が随分と静かな事に。生き物たちが、息を殺して身を潜めている事に。
「……翔」
 セシリアが視線を送る。ここに居る戦力で倒せそうかどうか、翔の判断に従うつもりで。
 向けられる仲間達の信頼に、翔はしっかりと頷いた。
「このまま放っておくわけにはいかないでしょうね」
 それだけで充分だった。誰も、翔のゴーサインを疑いはしなかった。
「先手必勝、ファイアーボールじゃ!」
 セシリアの炎術が炸裂すると同時に、アリアやサイクロンが散開する。
 攻撃を受け、荒れ狂うデザートワーム。巨体が、木々をなぎ倒す。
「……っ?!」
「グランメギド!?」
 思いがけない攻撃に、小型飛空艇のバランスを崩すパートナー。サイクロンは咄嗟に剣を振るい。同時に横合いからの、ランスの一閃。
「こがぁな楽しそうな事、人任せにゃぁ出来ないでな」
 合流した翔一朗は獰猛な笑みを、楽しそうに浮かべていた。
「この先に広場があります、そこに追い込みましょう」
 風天は声を上げ、率先してデザートワームを誘い、追い立てる。
 森の中、開けた場所。生き物や森を傷つけないよう、充分に戦えるように。
「ここなら!」
「ときいえ、長引いたら不利だ!」
 一気に距離を詰め斬り付ける諒瑛、だが、その皮膚は硬く。
「……くっ!?」
 気づいたデザートワームがその頭……口を諒瑛に向け。
「退けっ諒瑛!」
 させじと、サイカの生み出した炎、そして何処からか飛来した炎が、がデザートワームにぶち当たる。
グオォォォォォォォォツ!?
 その隙に諒瑛は距離を取った。
「ありがと、サイカ」
「ふんっ。さっさと解決しないとお茶会に間に合わんからな」
 思わずそっぽを向いてしまう。必死に戦う諒瑛の姿を見、自然と身体が動いてしまったなんて、素直には認められなかった。

「攻撃を集中させて下さい」
「「「ツインスラッシュ!」」」
 翔の指示と共に、風天とアリア、サイクロンのトリプルな斬撃が襲い掛かる。狙うは先ほど、セシリアとサイカの炎が焼いた部分。
 そして、動きの鈍ったところに、翔一朗のランスと諒瑛の剣が繰り出され。

ドォォォォォン

 木々をなぎ倒し、その巨体は地に倒れ伏したのだった。

「これでウサギ達を戻しても大丈夫でしょうか?」
「うむ。ワームも火葬したし、環境は多少は変わったが大丈夫なはずじゃ」
「そうでございますね……どなたですか?」
 戦闘が終わり、ホッと息つく中。
「おっと、俺は原因を調べに来た善意の第三者だぜ」
 ケイは可愛らしい顔でニコリと笑むと、敵意が無い事を示す為に両手を振って見せた。
「先ほどの助太刀はあなた様でしたか」
「まぁ蛇足だったらしいがな」
「いえ、助かりました」
 深々と一礼する翔に、風天達も一先ず警戒を解いた。
「しかし用意周到だな。見たこと無い外敵で動揺させ、魔法で興奮状態にし……多分、方向も誘導されてるよな」
「成る程……魔法学校が関係している可能性はありませんか?」
「さぁ? ちなみに、俺個人の意見としては、イルミンスールは無関係だと思うぜ」
「それにつきましては、私も同感でございます」
 考え込む翔の耳朶を、サイカのキッパリした声が打った。
「難しい話は終わりじゃ! 茶会に行くぞ」