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エンジェル誘惑計画(第1回/全2回)

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エンジェル誘惑計画(第1回/全2回)

リアクション


第3章 先生と一緒


 ドドドドドドドドドドドド!!
 騒々しい爆音をまき散らしながら、一台のスパイクバイクが薔薇の学舎に乗り込んでくる。
 バイクにまたがるモヒカンは、波羅蜜多実業高等学校の南鮪(みなみ・まぐろ)だ。
「ヒャッハァー! ここに女子高生を思うままに食い散らかす性帝が居ると聞いてやってきた。次はショタっ子か? ヒャッハァーすげえぜ!」
 薔薇の学舎生徒や研修生が唖然としている。
 鮪は、ぽかーんと突っ立っていた砕音の前にバイクを止めると、その周りの生徒たちに怒鳴りつけた。
「テメエら、この御方をどなたと心得るー! 性帝陛下であらせられるぜー!」
 ドルン!ドルン!ドルン!!
 鮪はバイクを無駄に激しく噴かすと、声高に宣言した。
「砕音先生は明らかに外道王であり鬼畜王! 王の中の王、性帝陛下!! ヘタレなのも羊の皮を被っているだけに違いないッ」
「ヘ……………………俺?!」
 砕音は目を点にしながら、自分を指差す。
 鮪はそんな事にはお構いなしに、今度は研修生たちに指を突きつけ、居丈高に命令した。
「今こそ砕音先生を護ろうとする者、慕う者、肉体を狙う者で性帝軍を結成するのだ! 性帝砕音陛下のお情けが欲しい奴ァ一列に並べェ〜! イャッハァ〜!」
 大騒ぎする鮪に向け、一条の鞭が飛んだ。ツタのようだが薔薇の棘を持った茨の鞭が、鮪の体をグルグル巻きにする。
「グハッ! なんだ、これは?! 不意打ちとは卑怯者め!」
 暴れる鮪を無視し、彼を捕縛した薔薇の学舎のイエニチェリルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)が一般生徒たちに指示する。
「こちらの美しさに欠ける闖入者君を、反省室に案内してくれないか?」
「グオー! 離せッ! 俺にはこれから、性帝に献上する美少年どもを拉致るという超重要極まりない任務がーッ!」
 鮪はわめきながら連行されていった。
 いまだ、ぽかーんとしている砕音に、ルドルフが晴れやかな笑顔で、しかし怒りのオーラをまとって言った。
「砕音先生、ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」
 薔薇の学舎においてイエニチェリは、教師よりも偉い。
 砕音は研修初日から、説教されるハメになった。
 もっとも性帝云々についてではなく、研修生への指導方針についての厳重注意だったが。
 だが、しかし。
 薔薇の学舎にとっても砕音にとっても困ったことに、あれが最後の南 鮪ではなかったのである。

 ようやく説教から開放されて、砕音が職員室を出てくる。
 廊下に、一人の薔薇の学舎生徒がいた。両耳の前に髪を一房ずつ下し、他の後髪は高く結い上げる。そして細身だが筋肉質な体つき。藍澤黎(あいざわ・れい)だ。
 砕音が目の前を通り過ぎると、黎は大きくため息をつき、言った。
「やれやれ。ろくに研修生の指導すら出来ないのか。
 せめて今回の引率教師としての責任だけは果たして頂けるのだろうな」
 砕音は一瞬、言葉に詰まるが、困ったような笑顔を黎に向ける。
「学舎の皆には迷惑をかけたね。でも南もそんな悪気があってやった事じゃないと思うんだ。ちょっと振る舞いが派手だけど……学校それぞれの校風を理解してあげてくれないか?」
 黎は舌打ちした。
「今度は校内を騒がせた不良学生の肩を持つとは、驚きだな。まさか彼らに逆らって仕返しを受けるのが怖い、という理由ではあるまいな?」
「パラ実のお礼参りは、確かに怖そうだねえ。あれ? おーい」
 黎は砕音の話を皆まで聞かずに、その場を歩み去った。取り残された砕音が「あうー」などとうめいているが、気にした様子もない。


 砕音が寮の部屋に戻ると、すぐに薔薇の学舎生徒のパンティー教団 団員一号(ぱんてぃーきょうだん・だんいんいちごう)がドアをノックした。
 一号は名前通りの、とある組織に所属しており、その事に関して悩みを聞いてもらおうと訪れたのだ。かわいらしい容貌の少年だが、今は不安に表情を曇らせている。
 一号はおずおずとした様子で言う。
「あの……先生に相談が……」
「うん? 俺でいいんなら、もちろん相談に乗るぞ」
 砕音は教師として当然の事だと、一号の相談に乗ろうとする。
 一号は彼に純真な瞳を向け、悩みについて話し始めた。
「実は……僕の所属する教団の教祖、蒼☆輝(あお☆てる)様が、男同士なのに、僕にエッチなことを求めているんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「…………」
 いきなり、とんでもない悩みを聞かされ、砕音は絶句する。
 一号はなおも言う。
「べ、べつに蒼☆輝様が嫌いな訳じゃないんですよ! ただ男の人同士でそういう事をするのって……どうなんでしょうか? 先生は経験豊富そうなんで、どうすればいいか知ってると思って……」
 どうやら純粋な一号は、先程の鮪の発言をすべて信じてしまったらしい。パンティー教団などという怪しさ大爆発な組織に入ってしまう程だから、それも当然だろう。
 砕音は言葉に困り、とりあえずタバコを口にくわえる。だが薔薇の学舎は寮も含めて全面禁煙であると思い出し、点火はとどまった。
 一号の涙を溜めた瞳を向けられ、砕音は追い詰められて言う。
「う……。……回数はともかく、人数的には経験豊富とは言えそうにないけどな……。法律では、教祖は通報しとけってところなんだろうが……。州によっては男同士でも結婚できるしな。って、待て。シャンバラ地方に、アメリカの法律が適用できるワケないか」
 砕音は少し考え、言った。
「とりあえず法律問題は置いといて、一号君がいいと思うならいいんじゃないかな」
 考えた割には、実にアバウトな意見だ。
 一号は驚いた様子で聞く。
「えっ……じゃあ、男の人同士でエッチな事をしてもいいんですか?」
「……………………うん
「わかりました! 性帝様の言う通り、これからは男の人にエッチな事をされても、僕、逃げません」
「いや……君が嫌だったら迷わず逃げときなさい」
 一号はポケットから何かを出して、笑顔で砕音に手渡す。
「これ、相談に乗ってもらったお礼です。秘蔵コレクションの使用済みパンティー」
「いるか! ……いやいや、君の気持ちは嬉しいけれど、教師が生徒の相談に乗るのは当然だし、まったくもって大したアドバイスができてないので、お礼をもらうわけにはいかないよ。という訳で返す」
 砕音は断固とした調子で、パンティーを一号に返した。

 一号と入れ替わるように、今度はシャンバラ教導団の青野武(せい・やぶ)が部屋のドアをぶち破る勢いで押しかける。
「ぬぉわははははははは! 此度の授業について、教えてもらいたい事があーる!」
 マッドエンジニアの野武には、トラップの構造について聞きたい事が山ほどあった。
「まずはお近づきの魚心に水心! 我輩の手作りの品を受け取るがいい」
 野武は、愛煙家の砕音が落ち着いて授業できるよう作成してきた、携帯式煙吸引・清浄機をプレゼントする。ちなみに自爆装置付のドキドキ仕様だ。
「ありがとう、ははは……(自爆?)」
 砕音が若干引きつりながら機械を受けとると、野武はさっそく講義でとったノートを広げて聞く。
「ところで、この吊り天井トラップの作動機構だが、動作タイミングをいかに測るかが疑問なのだよ!」
「ああ、これはな……」

 野武が砕音の部屋を訪れてから一時間程後、薔薇の学舎生徒でシャンバラ人のナイトバロム・アーチェスが砕音の部屋を訪ねに来た。
 バロムはシモンのパートナーで、それだけに責任を持って砕音の事を守らなければと考えている。
 彼は、何か困っている事や嫌がらせをしてくる者がいないかを、砕音に直接、聞きに来たのだ。
 と、室内からかすかに「痛い……」と声が聞こえてくる。
(な、なんだ?!)
 思わずバロムは耳を澄ませる。部屋の中で、さらに声が言う。
「そこじゃない」
「……どうだ、うまくハマると気持ちいいものだろう」
 バロムは顔を赤らめながら、ドアを勢いよく開く。
「な、何をしてるんだーッ?!」
「ん?」
 バロムの視界の先。野武と砕音は小型のトラップの作動実験をしていた。直前の会話はもちろん、罠に関してのモノである。
 固まったバロムの上に、金ダライが降ってきた。ゴインと音を立てて彼の頭に命中する。
 砕音がすまなそうに言う。
「すまん。そこは今、トラップの実物を作って見せてたんだ。……大丈夫か?」
 野武はバロムの背中をバンバンと叩き、言う。
「ぬぉわははははははは! 自爆は男のロマンであーる!! みずから罠に飛びこんだおぬしの心意気は尊い物ぞ!」
「は、はは……先生に何事も無くて良かったよ……」
 バロムは頭をさすりながら、引きつった笑いを浮かべた。


「なあ、シモン。これはさすがにヤバイんじゃないか?」
「せっかくトラップをしかけても邪魔する奴らに解除されちゃうんだから、直接やるしかないだろう?」
「うーん」
 廊下の陰で、シモンとその仲間が身を隠すようにしゃがみこんで、ヒソヒソと言い合っていた。その手には生クリームたっぷりのパイやトマト、生卵などを持っている。
 もうしばらくすれば、授業を終えた砕音が職員室に戻るために、そこを通るはずだ。
 シモンはきっぱりと言い切る。
「これなら『先生が華麗に攻撃を避けるのを見てお手本にしたかった』とでも言っておけば大丈夫だよ」
 そう言うシモンの腕を、くいくいと引っ張る者がいる。
「だめだよぉ。いじめは、だめぇ」
 見ると漆黒の鱗のドラゴニュート、ビート・ラクスド(びーと・らくすど)がシモンの腕に取り付いて、真っ黒いクリクリした瞳で彼を見上げている。
「先生をいじめるのは、よくないよぉ」
「は、離せよっ」
「いやー」
 シモンはビートを殴ろうと拳をあげる。しかしビートは、チワワのようにウルウルと潤んだ瞳で彼を見つめる。
「…………ダメだ。かわいい……」
 シモンは振り上げた腕を下ろし、がっくりとうなだれた。彼も、愛らしい小動物系のビートには、手が出せない。
 そこにビートのパートナー、薔薇の学舎生徒の藍園彩(あいぞの・さい)が駆けつける。
「先生には校庭の方へ避難してもらったぜ! 嫌がらせなんて、やめるんだな! それとも俺が相手になってやろうか? ……もちろんケンカのな!」
 彩に大声で言われ、シモンの取り巻きは及び腰になる。シモンは息をつく。
「そんな気分じゃなくなったから、ここは引いてあげるよ。……君は、かわいいパートナーでいいなぁ」
 シモンはボヤくように言って、仲間と共にそこを去った。彩はビートの頭をなでる。
「ビー、よく頑張ったな」
 実は、シモンたちが待ち伏せているのに気づいた彩は、ビートが彼らを見張っている間に砕音を避難させに行っていたのだ。
 ただ砕音には、シモンの嫌がらせだとは伝えずに
「先生、青が校庭で落とし穴の作り方について聞きたいって呼んでたぜ」
 と言ってある。
 実際、野武が穴を掘って中に怪しげな機械を設置していたのは見たので、そう外れたウソにはならないだろう。
 だが、その間にビートがイジメっ子を止めに入っているとは、彩にも予想外だったが。彼に頭をなでられて、ビートは嬉しそうに、えっへんと胸を張る。
「僕はすべてに全力をかけるよ〜!」


 放課後の教室。その日の授業を終えた砕音は、生徒たちと雑談していた。
「薔薇の学舎って、もっと静かな雰囲気だと思ってたんだけど、そうでもないんだな。特に俺の行く前の方や後の方で、破壊音がしたり、言い争う声がするような気がするんだけど……あれは、なんなんだろう? 雪催、知らないか?」
 砕音はそばにいた薔薇の学舎生徒の雪催薺(ゆきもよい・なずな)に聞いてみた。
 机に座っていた薺は、ポケットに手を入れたまま肩をすくめて見せる。
「さあな。別に興味ねえし」
 そんな冷めた態度だが、実は薺は砕音を守ろうと考えている。特にヘルには警戒していた。
(全く脈もない相手を無理やりっていうのは、どうも許せない。他の奴にも手ェ出してるみたいだしな)
 無関心な様子の薺に代わり、藍澤 黎が砕音にまた冷たい瞳を向けて言う。
「校内の様子も把握できないとは……教師としての実力に問題があるのではないか?」
「うぐっ……」
 痛い所を突かれたようで、砕音は苦笑いを浮かべる。
 薺は止める様子もない。直接的な被害の出るイジメでなければ、手は出さないつもりだ。
 イルミンスール魔法学校のレヴィアーグエルアシス(れびぃあーぐ・えるあしす)が小柄な体で、へこんだ様子の砕音にぴたりと身を寄せる。
「先生、元気を出してください。先生の教員免許はまだ無事です」
 研修に参加するのに男性生徒のフリをしているため、いつもとちょっと口調が違う。
 エルアシスはそう言って彼にキスしたかったが、身長が足りないので届かない。砕音も174センチとそう高くはないが、エルアシスは140センチしかない。
「ははは、ありがとうな」
 砕音は笑いながら、エルアシスの頭をぽんぽんと軽く叩くようになでた。彼女の青色のツインテールが揺れる。
(なんだか、すごく子供扱いされているような気がしますわ)
 エルアシスはそう思うと、やにわにイスの上に立ち、砕音の頭を強引にぎゅむっと胸に抱いた。
「こらこら、何をする?!」
 少々あわてた様子の砕音に、エルアシスは言う。
「先生を慰めるのです。イチャイチャすれば、先生を狙ってる他の生徒もきっとあきらめます」
「それはそれで別の問題になりそーだぞ」
 砕音は、黎の冷凍視線をひしひしと感じながら、エルアシスの腕から逃れ出た。


 タシガンの街が夕闇に包まれいく。
 蒼空学園の久慈宿儺(くじ・すくな)は「お話があります」と砕音を誘って、小さな酒場に来ていた。
 宿儺は、地球での芋焼酎にあたる酒の中から安くて旨そうな物を選び、砕音はウィスキーをロックで嘗めていた。
 宿儺は店の主人に、持ってきたスルメを渡して言う。
「親父さん、これを軽く炙ってもらえませんか」
「イカかい? この街じゃ珍しいな」
 主はしげしげとスルメを眺めながら、火にかける。その煙を見て、砕音が遠慮がちに「いいかな?」とタバコを見せる。
 宿儺はふふっと笑う。
「どうぞ。学舎内は禁煙ですからね」
「ありがとう。授業中に吸いたいなんて無茶言わないから、せめて校内に喫煙所が欲しい……」
「薔薇の学舎の御仁は、もっと危険な煙を焚いているという噂もありますよ」
 宿儺の言葉に、砕音は「うへぇ」という顔をする。
「それが何なのかは考えたくないな」
「まったくもって同感です」
 そんな事を話しているうちに、スルメが炙られて皿に乗せられてくる。
「先生のお口に合うといいのですが……」
 スルメは初めて食べるという砕音に、宿儺はそれを細かく裂いてやる。砕音はそれを一本取って、口に放り込んだ。
「……うん。見かけはロープの破片みたいだと思ったけど、香ばしいガムみたいだな。けっこう好きだ」
「それは良かった」
 宿儺は笑顔になる。それから少々表情をひきしめ、言う。
「それでお話したい事と言うのはですね。薔薇の学舎の生徒が、先生のことで対立しているようなのです」
 宿儺は、シモンが砕音に嫌がらせして追い出そうとし、それに反対する生徒たちと対立している事や、ヘル・ラージャという吸血鬼が砕音を狙っているらしい事など、学舎内で聞き知った事を説明する。
 砕音は少々驚いたように、それを聞いた。ただヘルに関しては首をかしげる。
「そのヘルって生徒、俺は知らないと思うけどな。蒼空の生徒や教職員のパートナーの吸血鬼の血筋とかかねぇ?」
「分かりませんね。ですが、世の中には面識が無い相手へ勝手に想いを募らせる者もいますから、注意が必要でしょう」
 宿儺のアドバイスに、砕音はうなずいた。
「確かに、どこで見られてるか分からないもんな。でも色々と知らせてくれて助かるよ。ありがとう」
 宿儺、さすがバトラーと言ったところか。
「先生、ひとつ提案なのですが……危機的演出をしてイジメをしている生徒を驚かし、そこを先生が救うような手はどうでしょう? たとえば生徒が誤って時限爆弾のスイッチを押すように仕組み、それを先生が解除。嫌がらせを叫んでいた生徒にも好印象、というあんばいです。ああ、もちろん爆弾は偽物ですよ」
 砕音は紫煙の先を見て考える。
「うーん。時限爆弾って、爆発するかもってショックだけで発作起こす人もいるからな。それに、生徒を騙すのは、これ以上ちょっとな……」
「そうですか。でも一人で抱え込まないようにしてください。言ってくれれば、自分も何がしかお手伝いしますから」
「そうか。ありがとう」
 笑顔になる砕音。宿儺は少し考え、言った。
「……先生は素直なタチですね。先程から何度も礼を言われています」
「え、そうだっけか? それは久慈が親切だからだろ。こう言ったらイケナイのかもしれないが……さすがは若く見えてもお兄さん。いや、俺も約三十歳だから、人の事は言えないけど」
 なお、宿儺は外見こそ二十歳前だが、実際は三十路手前の年齢である。
「二十五歳はまだ若いですよ」
 しかし砕音は宿儺のそんなフォローにも、タバコの煙をはぁと吐き出す。
「いやいや、毎日ピッチピチの中高生の相手をしてると、俺も年食ったなぁとしか。中身は全然ガキのままなのに、それで教師とか、どうするんだ?という感じだよ」
 アルコールが回ってきたのか、砕音から愚痴が飛び出す。宿儺は笑顔で言った。
「大丈夫です。ここに、まったくピチピチしていない学生がいますから、気にする必要ないでしょう」
「そ、そこは渋いとか、ダンディって言葉でごまかすんだ」
 二人はそのような、とりとめのない話に華を咲かせた。

 宿儺は朝が早いので、それほど遅くならないうちに二人は酒席をお開きにし、酒場を出る。
 帰りの道すがら、宿儺は砕音に「どうぞ」と飴玉の詰まった袋を渡す。
「タバコ代わりになれば、と思って」
「おっ、ありがとう。タバコ休憩に抜け出せない時になめさせてもらうよ」
 砕音は笑顔でさっそくひとつ、飴を口に入れる。
 この夜の酒席で宿儺は、砕音と仲良くなれ、また彼のストレス発散にもなったようだ。
 宿儺は、砕音を酒の席に誘って良かった、と思った。