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潜入、ドージェの洞窟!

リアクション公開中!

潜入、ドージェの洞窟!

リアクション

 一方涼子を含んだ探索メンバーは、ようやく地底湖へとたどり着いていた。
「や、やっとたどり着いた……!」
「やっと、ついたのですよぉ……」
 と、安堵の声を漏らしたのは四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)。まぁ、ここまで追い立てられる来るはめになったので、それも仕方がないだろう。
「すごい……」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)の、内からあふれるような言葉がその場のすべてを表し、またその場にいた全員の心情を端的に示していた。
 あたり一面緑の輝きが穏やかに照らし出し、隆起した岩肌、静かにゆれる地底湖に朧に反射した光が一つの芸術を作り上げていた。ただ美しく、はかなげで、しいて言葉を上げるとするのなら、「凄い」。
「これがパラミタのヒカリゴケ……!」
 涼子が震えた声を漏らした。その顔はまるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようで。
「これじゃ、明かりも必要ないな」
 手の上に浮かべた火球を握りつぶすようにして消し、芳樹は入り口に座り込む。ここが一番の正念場なのだ。ならば、護衛として一番踏ん張るのはここである。
「なら、私は少し前に出るわね。明かり、また出してもらっていい?」
 とは、芳樹のパートナーアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)。目的地に着いたからといって、油断は出来ないのだ。ここ一番で油断をしないのが、勝つための一番大事なことである。
「さて。さっさと調査をすませましょう! あんまり時間もないわけだし」
 と、涼子の持っていた調査道具の設置を手伝いながら、陽神 光(ひのかみ・ひかる)が率先して手伝い始める。彼女の手元には、トランシーバーが一つ。
「あー、あー、マイクテスマイクテス。こちら陽神、どーぞ?」
 カメラを三脚で立たせ、彼女は起用に連絡を取り始める。
『はい、こちらレティナ。どーぞ』
 帰ってきた返事は彼女の相方のレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)。あえて二人は分かれており、外の状況報告のために残らせていたのだ。
「こちらの状況は順調。そちらは? どーぞ」
『えぇ、何人かに突破されました……。今はしんがりをやってくれた悠さんの手当てをしています。どーぞ』
「かんばしくない、か……」
 おもわしく言っていない状況に、苦虫を噛み潰したような顔を作る光。
『もう少しで全快に……』
『ゆ、悠君!! また来ました!!』
『くッ・・・・・・! 二人とも下がってろ!!』
(なんとか無事でいてよ……!)
 トランシーバーの向こう側にやきもきしつつ、作業に戻る。ここでまともな作業も出来ずに戻ったのでは、笑い話にもならない。彼女たちの時間稼ぎは、いまのこの一瞬一瞬のためにある。
「うわあああああああああ!?」
「きゃあああああああああ!?」
 と、そのとき。悲鳴の二重奏が洞窟の右ルートから響いてきた。
「なんですの!?」
 とは、地底湖の水を採取していた東重城 亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)。いつの間にいたのか、誰よりも早くここにいて地底湖の中にまで潜っていた様である。その足元には錆びた剣やら槍。金貨などが転がっていた。
「はぁはぁ、し、死ぬかと思った……」
「ぜひ……、ぜひ……ッ」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)と、そのパートナーパルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)の二人が、右のルートから突進するように現れ、そしてぶっ倒れてきた。
「リアトリス? なんだってそんなところから……? ユニ」
 とは、この冒険の前に知り合っていたのか、蒼空学園のクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)の声であった。
「はい!」
 プリーストでもあるユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が、クルードがうつ伏せから仰向けに抱き起こしてやった二人に、ヒールをかけるが、
「あら?」
「どうした?」
「これ、怪我したとかではないようですね。ただの過労なのでヒールが効きません……」
「はぁ?」
 とは、クルードの後ろで事の成り行きを見守っていた焔。
「なんか、よくわからねぇんだが。単純に走ってきただけで呼吸がやばいぐらいに疲れるもんか?」
「さ、さぁ? 命がけで走ってきたのでは、としか……」
 もっともである。第一右のルートは左と比べても短く、短距離走として距離があるかないか程度である。たとえ全力で走りきっても冒険者をやってる人間がぶっ倒れる距離ではない。
「ぜひ……、いや……、……っがさ!」
 ぜひぜひ息を漏らしつつ、途切れ途切れにリアトリスが口を開く。
「パラ実の奴らがさ、いきなり洞窟崩して……。んで、みんな入り口へ走ったんだけど……っけるかなぁ〜……て、ドラゴンアーツ使って……」
『…………。』
 絶句。それも呆れがのせられているため、重いのではなく、どこか痛い沈黙があたりを支配した。ドラゴンアーツの借力を使用しながら、命がけでの全力疾走をしたパルマローザの酸素を求める呼吸音が、無駄にみんなの耳に響いた。
「ふふ、そんな見つめるなよ……」
「あほか」
 クルードが支えていた頭をパッとはなす。当然のごとく支えを失った頭は岩肌に吸い込まれ。
「ってぇー!?」
「普通そういう時は入り口に戻るもんだ。生き埋めにでもなったらどうする気だったんだ?」
「うぅ……、ポジティブでいい案だと思うんだけどなぁ〜?」
「走った先が地獄な思考をポジティブと申したか」
 やいのやいの。調査メンバーの一行が妙なテンションに包まれ始めたが、涼子の周りは黙々としていた。というよりも、遊牧民たちの集落へ向かう前に本当に上手くいくのだろうかとやきもきしていた人物と同じとは思えないほどに、彼女は静かに作業を続けていた。
「あの〜? 涼子さん」
「はい……? わッ!?」
 そんな彼女の目の前に現れたのは、ダンボールの人間だった。なんというかダンボールで、花柄が描かれている彼女の名前はあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)といった。
「そろそろ吸血蝙蝠の戻ってくる時間になりますし、調査を終了して逃げたらどうです? このヒカリゴケもただ光るだけで、まるで万能薬とはかけ離れた別物なのかもしれませんよ? そもそもなんでも直す事が出来るコケって、うそ臭いじゃないですか」
 ダンボールの奥の中の人の目が、じっと涼子を見る。
「なんだ、そんなことですか」
 しかし、涼子は笑った。
「関係ないんですよ、そういうの。たとえ遊牧民の方たちが嘘をついていようと、ただのコケだろうと」
「え……?」
「そういう可能性がある。私はそれにかけたんです。99%まがい物だと思っていても、たかが99%のために、残りの1%を見逃すなんて、もったいないじゃないですか。それに、パラミタの風土、植物を調べることで確実に私の目的には近づきますよ。知識はあるだけあって問題はないのですから」
 そういって作業に黙々と戻る涼子に、華野は口をつむぐしかなかった。はっきり言えば、気おされてしまった。
『華野、聞こえますか?』
「うい?」
 と、不意に入ってきたアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)からの無線に、華野は涼子から少し離れてから受ける。
『一応こちらで少しパラミタヒカリゴケの事を調べてみたのですが……』
「あぁ、流石にニセモノっしょ?」
 まぁ、理解できなくもない話である。人間の病気の類を全て治すとはいっても、人間におこる病はそれこそ星の数である。細菌、ウイルス、先天性のあるものに、食あたりに、それこそガンまで。それらを一括で治すなど魔法にすら不可能な領域である。
『いえ、結構マジですわ』
「うえ!?」
『少々交渉して遊牧民に方たちに譲っていただいたのですが』
「交渉?」
『パラ実の服を着れば一発でしたわ』
「あぁ、そういえば借りてたね貴方」
『えぇ。で、ためしに自分で飲んでみたのですが……』
「ふんふん?」
『体中がものすごく活性して、節々が光り輝きます』
「なにそれ!?」
 そんな訳の分からないステキ事態になったりするのか? と、手近な壁からヒカリゴケをむしりとり、一口いただく。
 と、
「お、おぉぉぉぉ!? こ、これわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
『ね? すごいでしょ?』
 体中にあるだるさに属する感覚が一切消え、はちきれんばかりの高揚感が内側から溢れてくる。で、ついでなのか光る。
「な、なんだ!? ダンボールのロボットが光り輝いてるぞ!?」
「オーバーブーストかましやがった!? なんだ、ヤツにとって非常事態でもおきたんか!!?」
「おぉぉぉぉぉ……!!」
 体中から光り輝くダンボールロボットの勇姿に、その場にいた調査メンバーの目が釘付けになる。
「成程、特定の微生物などの鎮静作用に、人にとっての毒素と結合して、酸素なり有益物質に変換する作用があるのね……。これは確かに万能……ってなんぞぉ!?」
 流石に涼子も驚いた。
「ひ、ヒカリゴケには、まだ私の分からない何かがあるというの……!?」
 しばらくすると、光は消え、華野はまたただのダンボールへと戻った。
「ふむ。妙な働きをする微生物と共に、いくつかの魔力の波動がありますね。それが互いに交差して、奇妙な魔術式を作っているのですね」
 島村 幸(しまむら・さち)が、コケを手にとって、涼子の道具を借りて調べながら呟いた。
「魔力、ですか?」
 ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が、彼女の後ろからコケを覗き込み、尋ねる。
「あぁ。専門じゃないから詳しくは分からないのだけれど、かなり複雑に入り組んで、一つの形を作り上げているのは確かだよ。これがパラミタだからこそ出来たのか、ココだからこそ出来たのか、興味が尽きませんね……!」
 涼子と同じように、彼女もまた静かに、それでいてとても興奮していた。まるで子供のように。
「いや、中々上手くいってしまいましたね。マスター」
「そ〜ね〜。てっきり遊牧民ともめると思って子供拉致してきたのに〜」
「あんたらなにやってんだ!?」
 桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の爆弾発言に、菅野 葉月(すがの・はづき)が悲鳴じみた声を上げる。
「マスターの意向です。大丈夫、私はマスターの言うことを信じれる」
「いや〜? 確実にヒカリゴケを手に入れたかったからちょっときてもらったの〜。ね〜♪」
 と、オリヴィアが抱きかかえていた子供に語りかけると、
「くすふてぐん ふぐるいむ ぐなくする るいえ うがぎふてぐ めね めね いあいあ たんぐすてん もるすぁもるすぁ」
「おい、どう考えてもその子イカレてるぞっていうか、信じれるってなんだ信じれるって! 力技で無理やり信じてるみてぇじゃねぇか!!」
「だ〜いじょ〜ぶよ〜。術解いたら元に戻るし〜♪」
「戻んなきゃひでぇよ!?」
「大丈夫。信じれます」
「だから!」
「信じれます」
「!?」
 円の顔が、葉月のすぐ目の前に迫っていた。
「大丈夫。マスターは絶対で崇高なのです。故にマスターのすばらしさは三千世界のあまねく神々にすら匹敵し、凌駕し、絶対なるものとして存在しているのです。故にマスターの言葉は疑う余地なく正しいことなのであり、その崇高な趣味がちょっとアレだったとしても信じ従うべき絶対の教えであり掟であるのです。さま、まるで問題はありません。大丈夫なのです、なぜならマスターの言葉はマスターからの言葉なのですから」
「あ……、うぅ……」
 まったくの迷いなくつむがれる円の言葉になんだか葉月の思考があさってに飛んで行こうとする。なんだか考えることが疲れちゃったのである。
「ちょっと! 葉月にいったい何をしてるのよ!!」
 と、二人の間に割って入って葉月を確保するものが。ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)である。
「いや、マスターの素晴らしさを伝えていた」
「伝えなくていいわよ!! 葉月にとって素晴らしいのは私だけでいいもんね〜、葉月〜」
「ぱなそにっく」
 ミーナに抱きつかれ頬刷りされながら、うつろな視線で葉月は答えた。

『わッ!? エマージェンシー!! コウモリが!?』
「!?」
 いきなり入ってきた通信に、洞窟内メンバーに緊張が走る。
「まずいな……、右のルートはふさがっちゃってるみたいだし……。涼子さん、調査のほうは?」
「大丈夫、もう終わったわ。機材もすぐに片付け追えるから」
「しかし、なんだってこんなに早く……。まだコウモリの戻る時間には余裕があったはず……」
 亜矢子が回収した成果をほかのメンバーと小分けにまとめながら呟く。
「まさか、雨のせい……?」
 涼子の片づけを手伝いながら唯乃。
「ほら、雨がでて暗くなるのも早かったし、気温も低かった。それでコウモリ達の生活リズムが微妙にズレたってことはないのかな?」
「どうかな? よくはわからないけど、向こうにいったアメリアやほかのメンバーが心配だし、僕は先に行くよ」
 と、芳樹が洞窟の入り口へと歩を進め始める。
「それじゃ〜、俺も一緒にいこうかね〜。流石に露払いをしておいたほうがよさそうだしね〜」
 とは藤本 雅人(ふじもと・まさと)。彼の言うことにも一理あるので、何人かは彼らに連れ添っていった。
「さて、これで撤収準備は整ったけれど、どうやって突破しましょうか……?」
 と、急に不安そうに涼子が尋ねる。いくらほかのメンバーがいようとも、涼子自身にモンスター相手に抵抗する手段はない。
「先にいったメンバーが牽制している隙に、一気にこちらが突破できればいいんだが……」
 とは邦彦。
 どうしたもんかと一行が首をひねる中、自分用にと小瓶の中に入れていたヒカリゴケを見つめていた時枝 みこと(ときえだ・みこと)が、
「あ」
 っと声を上げた。
「どうしたのですか? みことさん」
 フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)が素っ頓狂に口をあけたまま小瓶を眺めているみことに、いぶかしげに声をかけた。
「いや、涼子さんがさ、俺たち並に動けないんだったらさ、動けるようにしちゃえばいいんだよ!」
 その手には、壁から剥ぎ取ったヒカリゴケが少々。
『あぁ』
 そういやその手があったと、全員が奇妙な納得感に包まれた。