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エンジェル誘惑計画(第2回/全2回)

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エンジェル誘惑計画(第2回/全2回)

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第10章 誘拐


 薔薇の学舎の【黒薔薇の勇士】久我輝義(くが・てるよし)は携帯電話でヘルに連絡を取った。
「貴方のパートナーのような傀儡ではなく、新しい下僕は必要ありませんか? 暇つぶしにも、盾としても……。あなたの側で、あなたが行おうとしている事の手助けをしたいのです」
「ふうん、じゃあ、こっちおいで」
 輝義はテレポートされ、どこかの豪華な寝室の中に現れた。キングサイズのベッドに座ったヘルが「いらっしゃーい」とニヤニヤする。
「ここは?」
「見ての通り、ベッドの部屋っ」
 いきなり腕を引かれ、輝義はヘルに組み敷かれた。ヘルは楽しそうに言う。
「さっそく役に立ってもらおうかな、下僕執事さん」

「あああぁあッ……!」
 輝義が声をあげ、のけぞる。
 ヘルはそれでも彼を離さず、指を執拗に動かし続けた。そして、輝義の耳へ息を吹きかけながら、からかうように言う。
「智彦みたいな人形相手じゃ、満たされなかったんでしょ? 可哀想に。おわびに僕がたぁっぷり可愛がってあげるよ」
 輝義は、ヘルに吸精幻夜を使われても己の博識で抵抗しようと考えていたが、人間技を超えた異能の愛撫には抗えなかった。
 まるで指にいくつもの間接があり、太さも長さも自由に変えられるようだ。そして今、輝義に埋め込まれているモノも、突起や触手など自由に付け加えることができるようだ。
 先程から続けざまに絶頂を強いられ、輝義には話をしてヘルから情報を引き出す余裕は無い。体も自分の意思を無視して、ガクガク動いている。
「うああぁ……」
 輝義は体を震わせながら意識を飛ばし、ベッドの上に崩れ落ちた。

 どれだけ眠りこんでいたのだろう。目を覚ました輝義はハッとして起き上がろうとするが、体のあちこちが悲鳴を上げ、とても動けない。
 エンジェル・ブラッドが孵る寸前には、ヘルの集中力も切れてスキが出来るだろう、と予測した輝義は、その時にヘルを裏切って宝石を取り返す助けをしようと考えていた。
(間に合うようならば、行かなければ……)
 輝義は動かぬ手足に力を込めようとする。だが彼の死角にいた人物が、姿を現して言った。貴族風の青年だ。
「ようやく、お目覚めか。せっかくのヘルからの報酬だ。楽しませてもらおう」
「報酬……?」
 輝義の疑問に、青年は残酷な笑みを浮かべて返す。
「そうさ。私たち、反薔薇の学舎を掲げるレジスタンスは、ヘルの奴に色々と便宜を図ってやったのだからな。このくらいは追加で報酬をもらわないと。……あいつの使った後というのは気に食わないが、なかなかの上玉じゃないか」
 タシガン貴族の青年はベッドに跳び乗ると、乱暴に輝義を押さえつけた。


「誰もいないな……」
 薔薇の学舎。無人の魔法実習室に入り、砕音はつぶやく。ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)など、砕音を守る生徒も一緒だ。
 砕音は今、ヘルのパートナー黒田 智彦(くろだ・ともひこ)を探していた。
 ヘルに関する情報を得るため、また智彦がヘルから新たに別の指示を受ける可能性があるためだ。
 本来なら、もっと早くにその可能性に気づいて智彦を確保しておくべきだったのだが、砕音は生徒への指示、フォローに忙殺されて、対応が遅くなってしまった。
 先程、智彦が魔法実習室に向かったらしいと聞いてやってきたのだが、今その部屋には誰もいない。
「どこに行ったかなー」
 砕音はボヤきつつ、窓から校庭に現れた沼の様子を見る。が、ハッとして身を翻す。机の陰から飛び出してきた何かが、砕音がそれまでいた窓際の壁に突っ込んだ。石の壁にサッカーボールほどの穴が開いた。
「黒田?!」
 突っ込んできたのは、探していた智彦だった。
「はいはーい」
 智彦は振り返ると、何も無かったような笑顔で答える。拳に壁の破片がついているが、ダメージを負った様子は無い。
「黒田、ちょっと大人しくしててくれないかな?」
「いやー」
 智彦が砕音にまた突っ込む。ラルクは智彦に発砲する。と、後方から走り出たクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、ラルクの大柄な体に抱きついた。
「んん?! なんだ?!」
 攻撃にしては妙な行為にラルクが戸惑い、クリストファーを見る。
 と、その視界が揺らぎ、次の瞬間には彼らは別の場所に立っていた。背後に「ラルクッ?!」と砕音が叫んだ声が聞こえたような気がした。
「な、なんだ、ここはぁ?!」
 暗い空、妙に黒っぽい草が生い茂る草地だ。
 驚くラルクに、飛んできたロープがグルグルと巻きつく。
 クリストファーはすでに身を離している。少し離れた場所には智彦もいて、意味もなく笑っていた。
 彼らの前にヘルが現れ、クリストファーの肩を抱き寄せ、頬にキスする。
「うまく行ったね、クリストファー」
「このお土産、気に入ってくれた?」
 クリストファーに言われて、ヘルは魔法のロープで全身を縛られたラルクを見る。
「うーん。趣向はバッチリ好みなんだけど。美青年ならいざしらず、ヒゲの大男……。砕音の趣味って分かんないな」
 ラルクはニヤリと笑って、ヘルに言う。
「妬くな、妬くな。こんな事やってたら、逆にどんどん気持ちを失ってくだけだぜ」
 ヘルは言った。
「君には、しばらく人質になってもらうよ。生き埋めになりたくなかったら、大人しくしてな。……智彦、このおっさんを見張ってて」
「はーい」
 智彦がやってくると、ラルクの足元を中心に、半径2m程の円形に地面が凄まじい勢いで陥没していく。あっと言う間に、ラルクは智彦と共に10m程の深さの穴の底にいた。

 ヘルはクリストファーを抱きかかえたまま、離れた草地へと飛んでいく。
 クリストファーはすねた表情で、ヘルを見上げる。
「もう、期待だけさせるなんてずるいよ。隷属も覚悟してるから、ヘルくんの本当の味を教えてほしいな」
 ヘルは妖しく微笑んだ。クリストファーの首筋のアザに目を細める。
「今日はまだ水ぐらいしか飲んでないよ」
 そう言って、ヘルはクリストファーの唇を奪った。二人は深く、濃密に舌をからめあう。流し込まれた唾液を、クリストファーはノドを鳴らして飲みこんだ。その間にヘルの手が、胸から下腹部をなでまわす。
「……んッ」
 弱い所をつかまれ、クリストファーがうめいた。ヘルが耳元でささやく。
「もっとイイモノ、飲みたい?」
 クリストファーは熱にうかされたような潤んだ瞳で、うなずいた。


 シャンバラ人のナイトクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、ヤドカリとの戦いの列を離れる。
(もう……! こんな時になって、なんの電話だよ)
 パートナーのクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)から電話がかかっていた。校舎の前まで行って、電話に出る。
「もしもし?!」
 始めは何も聞こえない。だが何か息づかいのような音が聞こえたような気がして、クリスティーは耳を澄ます。
「……アッ、アアッ! いいッ……すごっ……」
 突然、クリストファーの嬌声が耳に飛び込んでくる。
 クリスティーは目を見開き、携帯を耳にあてたまま硬直する。

 クリストファーは服を脱ぎ捨てる時に、パートナーへ密かに携帯電話をつないでいた。(これからの音、クリスティーに聞かせてみよっと。こういうからかい方をすると反応が楽しいものね)
 それによってさらに興奮を増し、クリストファーはあられもない声を出し続ける。濡れた肉の立てる音まで、携帯は拾っているだろう。

 一方、クリスティーは人気のない教室に入りこみ、床に座りこんでいた。
 携帯からは、聞くに堪えない声や音が流れ続けるが、切ることが出来ずにいる。
 クリスティー自身の体も熱を持ったようで、息が荒い。自身の体の変化に戸惑いを覚える。

「どうだった、僕の味は?」
 クリストファーの汗に濡れた髪をかきあげながら、ヘルが聞いた。
「すっごく、熱い……」
 うっとりした表情でクリストファーが答える。ヘルは満足そうに笑う。
「かわいいね、君は」
「……砕音先生よりも?」
 思わぬ事をすねた口調で言われ、ヘルは苦笑する。
「気になる?」
 クリストファーは素直にうなずいた。
「だって気になるじゃないか。先生が奴隷になるなら、この騒ぎも収めるって言ってるくらいなんだから……」
 ヘルは吹きだした。
「ああ、あれ? 確かに『予定変更もアリ』とは言ったけど、どーゆー風に変更するかは僕の自由だしー。砕音がそれで奴隷になるとか言い出しても、僕にとっては何の意味も無いしね。あれはむしろ砕音の周りの奴らが、彼を僕に突き出そうとしたり、守ろうとする連中と争いになるのを狙って言ったことだから。砕音には、彼が守ろうとしてる生徒や人間が、どれだけ守る価値の無い、恩知らずで自分の事しか考えない奴らかを思い知ってもらわないとね」
 そう言ってヘルは狡猾な笑みを浮かべ、クリストファーを抱きよせる。
「安心した? じゃあ次は飲みあいっこしようか」
「あッ……」