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空を裂く閃光

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空を裂く閃光

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第1章 諜報班による情報収集

 それは一瞬の出来事だった。突如巨大な閃光が上空を走り、蒼空学園の校舎上部をかすめた。窓ガラスが割れ、生徒たちは一気にパニックに陥った。

「あの光は……光条兵器!」

 山葉 涼司は、嫌な予感がした。パートナーの剣の花嫁、花音・アームルートが昨日から行方不明なのだ。
 涼司のその予感は的中した。花音だけではなく多くの剣の花嫁が姿をくらましていた。

 御神楽 環菜は、生徒たちを集め、指示を出した。
「ここから南西20キロの地点に出現した塔、“光条砲台”に向かうのじゃ!」
 環菜の口調が変わったのには訳があった。

「わしはコイツの口を借りてしゃべっておるのじゃ! よいか、急がないと剣の花嫁たちの命はないぞ!」

 声の主は自らを剣の花嫁の制作者と名乗り、環菜の口を借りて語りかけてきた。その話によれば、制作者は剣の花嫁が作られた国「ポータラカ」の人間であり、剣の花嫁たちは今、砲台のエネルギー源にされているのだという。

 次の光条発射は3時間後。それまでに砲台を破壊しなければ、光条の直撃によって蒼空学園は大ダメージを受け、花嫁たちの精神は確実に崩壊し、絶命に至ってしまう。しかし、塔の周囲は無数の泥人間によって守られている。

「泥人間……まさか、アイツが」
 環菜には思い当たるところが有るらしく、自ら砲台の破壊に向うと言う。多くの生徒たちも、剣の花嫁たちの救出と砲台の破壊のために戦う決意をした。
 涼司のように、さらわれたパートナーを救いに行く者だけではない。パートナーを案じる友人の心中を思って力を貸そうとする者、学園を危機から救おうという使命感に燃える者、日頃から戦闘に加わって暴れまわりたいとうずうずしている者……。さまざまな目的を持つ者たちが力を合わせることとなった。

 その頃花音は、多くの剣の花嫁たちと共に砲台内の機関室にいた。
 光条発射の影響で、花音は朦朧としている。
「涼司さん……あたしたちを……助け……」
 そのまま花音は意識を失ってしまった。


 3時間という時間制限があるため、小型飛空艇で砲台へ駆けつけたいところだが、敵が対空兵器を所持している可能性もある。そこで、まずは少数の部隊が対空兵器の有無の確認と、可能な限りの諜報活動を目的として、小型飛空艇で砲台へ向かうことになった。

 諜報班のメンバーは、セイバーの時枝 みこと(ときえだ・みこと)、同じくセイバーの甲斐 英虎(かい・ひでとら)、ローグのエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)だ。エドワードは学園の臨時講師であり、みことと英虎はその生徒、という関係だ。

 みことはパートナーの剣の花嫁フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)を敵に捕らわれており、大切なフレアを何としても救出しようと決意している。

 英虎のパートナー甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)も剣の花嫁だが、常に英虎についてまわり、寝るもの一緒、風呂も一緒……という暮らしぶりが功を奏し、今回の事件に巻き込まれずに済んだ。英虎は、砲台にユキノを同行した。ユキノならば、自分と同じ剣の花嫁たちの気配を感じ取り、砲台内で捕らわれている場所を見つけだせるかもしれないと考えたからだ。

 エドワードは、パートナーでシャンバラ人のファティマ・シャウワール(ふぁてぃま・しゃうわーる)を環菜たちのもとに残して行った。ファティマは電波状況に関係なくエドワードとの会話、意思疎通する能力を持つ。そのためエドワードはファティマに、諜報班からの情報を後続の仲間たちに伝える役目を任せることにしたのだ。

 みこと、英虎とユキノ、エドワードの乗った小型飛空艇は塔に近づいていった。剣の花嫁の制作者の話どおり、塔の周囲には無数泥人間の姿があったが、飛空艇への攻撃はしかけてこない。どうやら敵は対空兵器は所持していない様子だ。エドワードはそれをファティマに知らせ、みこと、英虎、ユキノと共に塔の壁を破壊して、侵入した。
 塔の周囲を守っていた泥人間たちの一部は、諜報班を捕らえるべく、塔内に入り込んできたようだ。しかし、諜報班の目的はあくまでも情報収集だ。泥人間に発見されないように移動しつつ、塔内の探索を始めた。

 ユキノは、塔の上の方から剣の花嫁たちの気配が感じられると言う。その言葉を信じ、一同は塔の上部へと向かった。最上階に近づくにつれ、ユキノは一層強い気配を感じた。
 みことも、ユキノの意見に同意した。

「間違いない。花嫁たちは最上階にいるんだよ。光の精霊たちがオレにそう言ってる」
 召霊の儀式を受けているみことは、精霊たちの言葉を聞きとる力がある。光条を使う剣の花嫁たちは光の精霊と同じ属性らしく、みことに「花嫁たちを助けてあげて」と囁き続けているのだ。

 パートナーのフレアを助けるべく最上階に乗り込む、というみことを、エドワードが制した。最上階には多くの泥人間たちがいる様子だ。今、少人数で突入するのは無謀というしかない。ファティマを通じて連絡を受けた後続の仲間たちが今頃こちらへ向かっているはずだ。その到着を待ちつつ、諜報活動を進めることを優先させるべきだ。

 英虎も、無謀なことをして、もしみことの身に何かあれば一番悲しむのはフレアだと言って、みことを説得した。
 みことは納得し、一同は下の階へと移動していきながら塔内を調べていった。ここでは、ローグのエドワードのピッキングのスキルが大いに役立った。塔内に数多く取り付けらた鍵を難なく解除できたのだ。

 しかし移動中、彼らは泥人間たちに遭遇してしまい、戦闘を避けられなくなった。英虎が、カルスノウトで泥人間たちを斬りつけながら叫んだ。
「こいつらは俺が止める! みんなは先に進んでくれ! もうすぐ仲間たちも着くはずだ。それまでの間ぐらいは俺一人で何とかなる!」
 日頃、周りからは頼りなく思われている英虎が、別人のように凛々しく見えた。
「トラと離れるのは嫌です!」
 泣きながら訴えるユキノに英虎が言った。
「わがまま言わないでくれ。ユキノが頼りなんだ。仲間を助けたいだろ?」
 するとユキノは体内から光条兵器・光の大弓を取り出し、英虎に手渡した。
「トラはいつも無茶ばかりだから心配なのです……でも、行きます!」
「ああ、また後でね」

 立ち去り際、エドワードが英虎に叫んだ。
「甲斐くん。もしもの時は、この子の面倒は私が見ましょう! それが嫌なら、生き残ってみせろ!!」
「はい!」
 そう答えると、英虎はユキノから受けとった光の大弓で泥人間に狙いを定めた。

 先に進んだ諜報班は、光条エネルギーの制御を行う端末を発見した。エドワードとみことによる調査の結果、エネルギー源にされている花嫁たちを救出する前に砲台を破壊すると、エネルギーの逆流が起こることがわかった。その場合、おそらく花嫁たちは死亡してしまう。

 エドワードは再びパートナーのファティマに、この事実を知らせた。すると、ファティマが言った。
「ねえ、死ぬんじゃないわよ」
 日頃からエドワードを『自分が実体を得る為の手段』としか思っていないはずのファティマの意外な言葉に、エドワードは驚いた。
「……あなたが死んだら、私が困るんだから」
 そういうことかと、エドワードは苦笑した。