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空を裂く閃光

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第2章 後続部隊の突入

 諜報班からの「敵側に対空兵器はない」という連絡を受け、小型飛空艇を持っていたり、誰かに同乗させてもらえる者は空路で、それ以外のものは陸路、早急に塔へと向かうことになった。

 セイバーのクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)村雨 焔(むらさめ・ほむら)橘 恭司(たちばな・きょうじ)葉月 ショウ(はづき・しょう)、ナイトの鳴海 士(なるみ・つかさ)葵 リノ(あおい・りの)轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)、ウィザードのイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)、ローグの葛稲 蒼人(くずね・あおと)らはグループで塔に侵入し、花嫁救出を目指すことにし、クルードがリーダーを務めることとなった。

 パートナーの剣の花嫁ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)を捕らえられたクルードは、まさに怒髪、天を衝くと言った形相だった。金色の目を爛々と輝かせて塔に侵入するや、ユニの待つ最上階を目指して、日本刀・月閃華で泥人間たちを斬り捨て、突き進んで行った。
「……この俺のパートナーを攫うとは、どうやら命は要らない様だな……。俺を怒らせたこと……じっくりと後悔させてやる!……ユニ……待っていろ……すぐに助け出してやる……邪魔をする者は容赦はしない!道を空けろ!」
 閃光の銀狼の異名を持つクルードは、長い銀髪を振り乱し、ひたすら前進して行った。


 村雨焔もまた、パートナーの剣の花嫁アリシア・ノース(ありしあ・のーす)を捕らえられている。
 常に冷静沈着な彼が、このときばかりは別人のように激昂していた。「漆黒の竜帝」と呼ばれるもととなった黒髪が乱れるのも構わず、愛刀・残月で敵を次々に斬りたおしていく焔。女性と間違われるほど白くなめらかな肌は、興奮のあまり赤みを帯び、その美しさを増していた。
「黒竜の爪牙……その身で味わえ!」
 そう叫びながら、焔は一歩、また一歩とアリシアのもとへと近づいていった。


 橘恭司は、パートナーでヴァルキリーのクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)を同行していた。剣の花嫁を発見したら、クレアに護衛と脱出のサポートをさせようと考えてのことだった。カルスノウトを振るい前進していく恭司の後ろで、クレアも懸命に攻撃を続け、恭司をサポートしながらついて行った。
 恭司が、仲間のパートナーたちを何としても救うと決断したとき、クレアはすぐに自分もついていくと決めた。運命の相手と信じる恭司とはひと時も離れたくない。たとえそれがどんなに危険な場所であっても、クレアに迷いはなかった。
「あんまり無茶はしないでくださいね」
 出発前、クレアは恭司にそう頼んだが、無理な願いだということは重々分かっていた。一見すると、平凡な青年に見える恭司だが、実は15歳まで戦場で育ったという過去がある。戦いの場での彼は、闘争本能の命じるまま、ひたすら敵に立ち向かっていくのだ。


 葉月ショウは、簡単な小型爆弾をいくつか作り、持参していた。パートナーの剣の花嫁葉月 アクア(はづき・あくあ)を、限られた時間の中で救い出さなければ命がないと分かり、ショウは大きな衝撃を受けた。
 しかし、こんなときこそ冷静にならなくてはいけない。感情に任せているだけでは大切なアクアを救うことはできないと、ショウは自分に言い聞かせた。

 持参した小型爆弾は大いに役立った。塔内には厳重に施錠がされている箇所がいくつかあったが、扉を爆破して前進することができたのだ。また、泥人間への攻撃にも爆弾は有効だった。
「アク、待ってろよ……」
 自分が必ず助けに来ると信じているであろうアクアを思いながら、ショウは戦い続けた。


 葵リノは、上階へと突き進む仲間たちの援護を行った。リノはランスを巧みに操り、階下から襲ってくる泥人間たちに一人立ち向かっている。戦闘の場にあっても、リノはその顔に薄笑いを浮かべでいた。リノは、この戦いを心から楽しんでいるのだ。
 もともと蒼空学園に入学したのも、スリルと面白さを追い求めてのことだった。命を危険にさらすような場にあってこそ、リノの血はたぎるのだ。
「ふん、雑魚が……貴様の攻撃は通じぬ」
 リノのランスが、また一体の泥人間を貫いた。


 鳴海士は、パートナーで魔女のフラジール・エデン(ふらじーる・えでん)を伴い、仲間たちと前進を続けていた。
 しかし、葵リノが一人で、後方を守っていることに気づくと、すぐにリノのもとへと駆けつけ加勢し始めた。 士は、以前リノに救われたことがあり、いつかはその恩返しをしようと心に決めていたのだ。

 士が現れたことに気づくと、リノは戦いの手は止めることなく声をかけた。
「何をしている! ここは我一人で、充分だ。皆の手助けに向かえ」
 士もまた、攻撃を続けながら答えた。
「僕は、リノさんが傷つく方が……嫌だから。皆、大切な人達を救う為に闘ってる。……なら、僕が、今、ここで闘う理由は、リノさんを守る事です。だから……助けに来ました!」
「それが……鳴海殿の答えなら……恩にきる!」


 士のパートナー、フラジールもまた、リノに加勢をした。フラジールにとってかけがえのない存在である士。その士が信じる、リノもまた、フラジールには大切な人なのだ。
「ワタシは……士が、いない、と、ダメ、だから……」
 たどたどしい言葉で、フラジールは懸命に自分の思いをリノに伝えた。
「だか、ら……士、が、信じ、るキミ……ワタシも、し、んじて……る……」
 その言葉に、リノは苦笑して答えた。
「まったく……二人とも、似た者同士だな。」
 リノ、士、フラジールは戦いながら、互いの絆を強く感じていた。


 轟 雷蔵にとって、パートナーで剣の花嫁のツィーザ・ファストラーダ(つぃーざ・ふぁすとらーだ)は、決して「単なる契約の相手」などではない。亡き姉妹に似たツィーザは、雷蔵にとって大切な家族も同然なのだ。
「家族をさらわれて黙ってられるかよ!」
 そう思い、雷蔵はこの場に駆けつけた。自分がまだまだ駆け出して、力不足だということは分かっている。それでも戦闘に臨むことに迷いは無かった。いざとなれば、命をかけても惜しくはない。それほどの決意が雷蔵にはある。雷蔵は懸命にランスでの攻撃を続け、一歩、歩と前進して行った。


 人より優れた能力を数多く持ち、「天才」と呼ばれることも多いイーオン・アルカヌムは、日頃、他者を見下すような態度を取ることも珍しくない。しかし、実は情に厚い面も持っている。今回の戦いに加わったのも、まずは友情のためであった。更に、光条砲台そのものに対する関心も、イーオンを駆り立てた。
「研究資料でもあれば、押収したいものだ」
 そんなことも内心考えていた。
 バーストダッシュですばやく移動しながら、イーオンは花嫁たちのいる最上階を目指した。ここぞというときのために、魔力を使いすぎないようにする冷静さも忘れない。

 そんなイーオンのパートナーで、ヴァルキリーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)は、イーオンに妄信に近いほどの想いを抱き、忠節を誓っている。イーオンが戦いに挑むとなれば、アルゲオも当然のごとく同行してきていた。
 イーオンの指示で、アルゲオは攻撃力を温存しつ、前進していた。しかし、そうするうちにイーオンが複数の泥人間に取り囲まれた状態になった。
「アル、頼む」
「イエス・マイロード」
 こう答えると、アルゲオは一瞬にして別人になる。冷徹な戦士となったアルゲオは表情一つ変えることなく、敵を次々に倒していった。


 最上階を目指す面々の中に、黒髪を束ねた少年の姿があった。一見、美少女かと見まがうほど端正な顔立ちのその少年の名は、葛稲蒼人。パートナーで、剣の花嫁の神楽 冬桜(かぐら・かずさ)を助けにやって来た。

 リターニング・ダガーを操り、敵を倒していく蒼人の姿は、一幅の絵を見るような美しさだ。
 しかし、その優雅な姿とは裏腹に、蒼人の心中には怒りの炎が燃えさかっていた。幼い頃から共に育ち、いつでもそばにいた冬桜。彼女の生命が今、危機にさらされている。
「すぐに行く。待ってろよ冬桜!」
 不安をかき消そうと、蒼人は心の中で何度もそう呼びかけていた。


 一匹狼タイプのローグ、綿御 零矢(わたみ・れいや)も、この日は自分と同様、パートナーをさらわれた仲間を小型飛空艇に同乗して、塔へ乗り込んできた。
 何としてもパートナーを救いたい……。それは、剣の花嫁をさらわれた者たち全員の共通の願いだ。

 塔に着くと、零矢は胸に光るペンダントを握り締めた。
「待ってろよ、エミリア……!」
 そう呟くと、零矢は、パートナーのエミリア・スコティーニャ(えみりあ・すこてぃーにゃ)のために突進していった。
 零矢はすれ違いざまに、カルスノウトで数体の泥人形に斬りつけた。泥人間たちはその場に崩れ落ちたが、突き進むうちに零矢はあることに気づいた。どうやら斬っただけでは、泥人間たちの傷口はしばらく時間が経つと塞がれてしまうようだ。
 一度は倒れた泥人間が復活し、再び襲いかかって来る。休むことなく倒し続けなければ、花嫁たちのもとにはたどり着けない。
 せめて光条兵器が使えれば……と零矢は思った。そのためにも、一刻も早くエミリアを救い出さなければならない。


 セイバーのウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、パートナーで剣の花嫁のファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)と共に小型飛空艇でやって来た。
 ウィングとファティが所属する魔法剣術部には、剣の花嫁が多く所属している。このところ、彼女たちの行方不明事件が立て続けに起こったため、ウィングはファティも何者かに狙われているのではないかと警戒し、独自に調査をしていた。
 そして、ファティをつけ回す怪しげな者の存在に気づき、撃退したためファティをさらわれることは回避できたのだが、犯人の捕縛には至らなかった。

 ファティを伴っているウィングは、光条兵器を使うことができる。塔に到着するとすぐ、ファティは片刃剣の光条兵器をウィングに手渡した。半透明の刃には、ポータラカの紋章が刻まれている。
 その剣を振るい、ウィングは戦い続ける。ファティもウィングをサポートしながら、後に続いた。
 ファティにヒールをかけてもらいながら、ウィングは、恐れることなく、突き進んでいった。


 ナイトの光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は、無類の喧嘩好きである。この、命がけの戦いの場でさえも、翔一朗は、「大好きな喧嘩を思い切りやれる絶好の機会」と捉えている。
 ランスを手に敵に向かっていく翔一朗の姿は、水を得た魚のように生き生きとしている。
 パートナーを救おうとしている仲間たちが少しでも早く最上階にたどり着けるよう、翔一朗はもっぱら後方から攻めてくる敵の相手をした。
 とどまることのない敵の攻撃に、思わず攻撃の手を緩める者がいると、翔一朗は士気を高めようと、大声で煽った。
「われが手ぇ抜いとると、花嫁らが死ぬんじゃ!」
 それは、果てしなく続くかと思われる戦いの中で、翔一朗自身を鼓舞する言葉でもあった。


 ローグの支倉 遥(はせくら・はるか)は、いつもパートナーの剣の花嫁、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)と連れ立って登校する。
 しかし今朝ベアトリクスは、「ちょっと忘れ物したので先にいっててください。すぐに追いつきますから」と言い、遥は一人で学校へ向かった。そして、それきりベアトリクスは姿を消したのだ。
「そうかあれはベタな失踪フラグだったのか……」
 パートナーがさらわれたと分かり、遥はそんなことを呟いた。

 リターニングダガーで敵を斬り倒しながら、遥はベアトリクスが待つ機関室へと一直線に進んでいった。


 大切なパートナーを助けるために、変装をして塔に侵入する者もいた。波羅蜜多実業の生徒で、ソルジャーのレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)だ。
 スパイクバイクにまたがり、全速力で塔の近くまでやって来たレベッカは、バイクを隠すと、ライダースーツを着こみ、スーツにしまいこんだ巨乳の下に、バイク用の防水シートに包んだ銃や爆薬を押し込んだ。
 その上で、前進に満遍なく泥を被り、レベッカは泥人間に成りすました。敵の姿に変装することで、自由に塔内を調べ、移動できる。本物の泥人間だと思った仲間たちに攻撃されることがないよう注意を払いつつ、レベッカは、罠が仕掛けられている場所や、監視システムの存在を、壁の目立たぬところ等に、口紅で書き記していった。
この思い切った作戦で、レベッカは蒼空学園の生徒たちをサポートしたのだった。