天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

エクリプスをつかまえろ!

リアクション公開中!

エクリプスをつかまえろ!

リアクション

「とは言ったものの、大丈夫かな…」
 みこととフレアはざんざんぶりの大雨の中、星見石の丘近くで儀式を始める。ケテルやマルクト、御神楽 環菜校長を含め、天文部やテントにいた生徒たちも、遠巻きに二人を見つめていた。
「これで晴れたら、ちょっとびっくりかもしれませんね」
 フレアがくすり、と笑う。
「大丈夫だ、オレ、晴れ男だから。頼んだよ、フレア」
「ええ、みことさん」
 フレアが天に向かってばっと手を突き上げ、太陽を乞う姿勢をとる。
 その瞬間、周りの空気も一変した。
「我が声、聞こえし精霊達よ。今天空の門を開き、ここに光を! 導きたまえ! こい! シャルバラムの剣のもとに!」
 その瞬間、みことが手にしていた【シャルバラム】の剣をすらり、と抜く。しーんとオーディエンスを含め、あたりが静まりかえったかと思うと、ざざあっといっそう激しく雨が強く降って、滝のようにみんな濡れてしまう。ああ、ここまでか、と思われたその時。
 それが次第に小雨になり、ぽつりぽつりとやんでいき、雲の切れ目が見えてくる。そして太陽の光が、みことが手にしていた【シャルバラム】の剣に煌めき、反射したのだった。
「太陽の光をつかまえたぞ…」
「晴れた…」
「うそ、ほんとに?」
 徐々に雲の切れ間は広がっていく。
「晴れるぞ!」
うわあああ! とキャンプ地が一帯、凄まじい歓喜の声に覆われる。テントに残っていた生徒たちも、びっくりして飛び出してくる。
「晴れてくるぞ!」
「凄い凄い!」
 みこととフレアはにっこりと顔を見合わせて笑い合った。
「笑っちゃいますね、ほんとに晴れちゃった」
「ほら、オレ、晴れ男だから」

 天文部の生徒たちも余りのことに言葉を無くしていたが、文乃がはっと我に返り、叫んだ。
「今が『星見石の丘』に機材を設置する最後のチャンスだよ! もう、時間がない!」
 その言葉に天文部と機材設置担当の生徒たちははっと我に返り、バネがはじけたように次々とテントに駆け戻っていくと、待機させてあった機材を背負い、『星見石の丘』を目指した。
 陽太郎とイブが精密機材を大事そうに抱え、英虎は重い荷物を背中に背負って駆け上がっていく。それをユキノが後から一生懸命、押している。
 カルナスとアデーレ、葉月と由香は機材の雨よけの道具を、幸とガートナ、ベアとマナ、理沙とチェルシーが高性能天体望遠鏡のパーツをそれぞれ卵を抱える親鳥のようにして抱え、走った。
 ミヒャエル、アマーリエ、紅はPCや観測機材一式を、虚雲は紙の資料を濡れないようにと胸に抱えた。みなが『星見石』にひたすら走った。泥がはね、服が汚れるのも構わず、必死で走る。その時だった。
「きゃあ!」
 ぬかるんだ泥に足を取られ、ケテルが丘を滑り落ちていく。
「大丈夫ですか!」
 一番しんがりを走っていた刀真が、ケテルを受け止めると、抱き上げた。
「あ、ありがとう…」
「ケテル、大丈夫か!」
 マルクトが駆け寄ってくる。刀真に支えられ、ケテルはようやく立ち上がったが、その膝から血が噴き出している。
「足怪我してますね、手当てしましょう…」
「だ、大丈夫よ。それよりも先に行かなくちゃ! 機材は無事!?」
「その前に怪我を! ケテルさん!」
「私の怪我なんて、どうだって良いのよ! 離して!」
 刀真の手を振り切ろうとするケテルの頬を、マルクトが平手でひっぱたく。ぱしーん! と言う音が、一帯に響き渡った。
「ええ!?」
「あのマルクトが、あのケテルをぶった!」
 そこにいた生徒たち全員が、びっくりして、二人を見つめている。
「ケテル! 好い加減にしろ!」
 ぶたれた頬を押さえながらケテルもびっくりして、マルクトの方を見つめる。ぶった側のマルクトの方が涙を浮かべ、顔を真っ赤にしていたのだ。
「君は一人で何もかも抱え込んで、カリカリしてばっかりじゃないか…ちょっとは自分を大切にしなよ! それと、みんなのことを信用しなよ!」
「マ、マルクト…」
「これだけの人たちが、みんな、エクリプスを見るために頑張ってるんだ。それをもっと理解しろよ。そんな怪我までして…」
 マルクトはそこまで言うと、はらはらっと涙を流し始め、嗚咽し始めた。
「ケテル、あんたの持ってた機材、俺が持つよ」
 ゆうと、カティア・グレイスがそっと機材を持った。
「大丈夫、機材はかならず私たちが設置するから、怪我を治してもらって」
 理沙とチェルシーがぐっと親指を立ててウィンクする。後のメンバーもにっこりと笑って機材設置のため、『星見石』に駆けだした。
「みんな…」
 ケテルはみんなの後ろ姿を見つめる。
「確かに、みんなのことを信用するなんて、私には出来ていなかったのかもしれないわ、マルクト…」
「ケテル…ごめん、言い過ぎた」
 マルクトが頭を下げるが、ケテルは首を横に振る。
「いいえ、あなたの言う通りだもの、マルクト。私、ずっと一人で頑張らなきゃって思い込みすぎてた」
「えっと、あの怪我を治した方が良いですよね。ケテルさん、マルクト。…月夜、ケテルさんが怪我をしたのでヒールを…あの視線が怖いんですけど」
 ケテルをお姫様だっこしている刀真を、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がじいい〜っとにらんでいた。
「判ったわ。シートを引いたから、そこにおろしてあげて。マルクトも刀真も、さっさと機材設置に向かってください。後から私たちも追いかけるわ」
「じゃあ、あとをよろしくね、拗ねないでね、月夜」
「ごたごた言ってないで、さっさと行く!」
 男二人が去った後、ケテルにヒールを施しながら
「ケテル、皆既日食を見ると、その、パートナーとの仲が良くなるって…本当?」
 月夜はぽっと顔を赤らめる。ケテルは月夜の刀真への気持ちに気がつく。
「え、ええ。そういうふうに伝承には書かれてあったの。でも、私とマルクトはケンカしちゃったしね。噂にしかすぎないかも」
「そうかな。あれはケンカじゃないと思うわ。マルクトのあなたを思う素直な気持ちだわ。それはケテルもわかってるんでしょ?」
「…そうね。なんだか、恥ずかしくて。マルクトにぶたれたのも初めてだし」
「頬のところも、ヒールしとくね」
「ありがとう」