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エクリプスをつかまえろ!

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エクリプスをつかまえろ!

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 幸と一緒に日食を見るため、天文部に教えを請うつもりで機材運びを担当しているガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は、騎士道精神の持ち主だった。
「幸、ご無理なさらずともこれは私が運びますぞ」
「ありがとう、ガートナ。ケテル、マルクト、もっと色んなお話をしてください」
 幸は、外見が白衣を着たマッドサイエンティスト風の男性なのだが、実は女性である。しかしそうと知らない面々は、195cmもあるガートナに荷物を持って貰い、ぽっと顔を赤らめる幸に心の中で冷や汗をかいていた。
「僕も聞きたいです」
 天体に興味がある葉月と、ミーナ、支倉 遥(はせくら・はるか)ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)もよってくる。周囲には天文部に入部した由香やルークもいた。
 特にベアトリクスは、民俗学をパラミタ大学で修めており、「民俗学の関係で興味があって…その、フィールドワークの経験も必要だと思うんです! 手伝ってください!」と遙を連れ出している経緯があった。
「みんな、星が好きなのね。嬉しい」
 ここ数日、ハードスケジュールで天文部部長としての責務に追われていたため、顔が険しかったケテルにも微笑みが戻ってくる。そういうケテルを見て、みんなもほっとして、笑いがこぼれた。
「地球の伝承では各地に諸説ありますが、大抵日食は不吉なものとされてるんですよ」
 はかなげな風貌の遙がすらすらっと持ち前の博識を披露すると、みんなはほうっと遙に見とれてしまう。
「確か、インドでは日食や月食は阿修羅が起こしている、そう言われていたのですよね」
「素晴らしい、そういうお話が聞きたかったのです、ねえ、ガートナ」
 天文部はエクリプス談義で花が咲いていた。
 
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は友人のシルフェノワール・ヴィント・ローレント(しるふぇのわーる・びんとろーれんと)と一緒に道を進んでいた。誠治は他の女子の荷物を持ってやったり、体の弱いシルフェが転びそうになったら、体を支えて転ばせないように気を遣っていた。
「そういえばさぁ、空京に新しいラーメン屋が出来たんだってさ、シャロが言ってた」
「シャロも来られたら、良かったですね」
「そうだな。シャロがこれなくて残念だよ」

 『スターゲイザー』に到着したのは、既に夕暮れの時間帯にさしかかってきた頃だった。
 行程の途中、魔物や蛮族の気配がする度、クルードやユニ、ウィングたちが撃退し、沙耶や、美咲が陰となって具合の悪い生徒のケアをした。さらにシャンバラ教導団の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は鴉の濡れ羽のような黒髪をなびかせ、軍用バイクを駆って貧血を起こした女生徒を運んだりと、それぞれの活躍によって順調にここまでこれたのだった。
 ケテルがほっとした顔をするのを、英虎とユキノは見逃さなかった。
「ケテルは、気が張ってたから、あれだけピリピリしていたんですね…」
「ただ、気が強いってだけじゃなさそうだぜ。エクリプス・ハンティングを成功させたいんだろう。…ところでユキノは地球で、皆既日食とか見たことある?」
「魂だった時の事は、あまり覚えていないのです…でも、地球で見た綺麗な星空のことは覚えています…」
「そっかー、覚えてないならユキノも初めてみたいなものだな。よし、頑張っていい場所確保してたっぷり天体ショーを楽しもうな!」
 ユキノの頭をかいぐりする、英虎。
「あと、キャンプも初めてでございます! キャンプファイアーってテントを燃やしちゃうんですか? 豪気なレクリエーションなのですね…!!」
「え?! いやいや、それはない!! 燃やしちゃダメ!」

 虚雲は射月と作った地図を見て、土地を観察している。
「『スターゲイザー』は、山に囲まれた丘陵地帯なんだな…空気が綺麗で、観測には最適だ」
 博識の執事、本郷 翔(ほんごう・かける)がまず、キャンプ地にふさわしい場所を探し出す。翔の指示で、キャンプ設営は行われた。黒髪に黒い瞳、非常にストイックで有能な執事として、翔はその場全体の分析をする。
「テントの並び方は、風の方向を気にして下さい。夕方は山からの風が降りてきますから、なぎ倒されないように! 梃子の原理を使えば、それほど力を使わずに設営できるはずです」
 翔をふくめた『てるてるキャンプ』の面々が、どんどんとキャンプ設営にかかっていく。
パートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)に引きずられてきた一色 仁(いっしき・じん)は、シャンバラ教導団仕込みの腕で要領よく、テントを設営していく。その手際の良さに、周囲からはどよめきが起こったくらいだった。ミラは虫除けを各テントに設置して回る。
「力がいるテント設営は任せろ」
 『てるてるキャンプ』の一員、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)がテント設営の実働部隊として動く。
 
「めんどくせえ〜」
「文句を言ってはいけません。しっかりしないと、怪我をしてしまいますよ」
 いやいやながらも、短気で俺様性格のデズモンド・バロウズ(でずもんど・ばろうず)と、その忠実なるパートナー、アルフレッド・スペンサー(あるふれっど・すぺんさー)がデズモンドに気を配りながら、テント設営を手伝っている。
 佐々良 縁(ささら・よすが)はショートボブに山査子花の髪飾りをはためかせ、小型飛行艇で多くのテントに日用品や荷物を運ぶ作業に取りかかっていた。
 おなじく、『てるてるキャンプ』の葉月 ショウ(はづき・しょう)は、テント設営をし、その中に日用品を運び込んでいる。葉月 アクア(はづき・あくあ)と佐々良 縁のパートナーの佐々良 皐月(ささら・さつき)は、設営されたテントにてるてる坊主を一つ一つ、作ってはかけていく。その作業をユキノが手伝ってくれたので、その首にてるてる坊主をかけてあげる。
「わあ、ありがとう!」
 ユキノはとても喜び、そのままてるてる坊主をネックレス代わりにした。ファルも「いいなあ〜それ〜」と羨む。その姿に女子生徒たちはくすっと笑いを漏らすのだった。