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【第三章 ゲーム外での戦い】


……蒼空学園、コンピューター室……
 涼司たちがデスクエストで奮闘しているころ、合宿場の隣にあるコンピューター室でも解析班の静かな戦いが繰り広げられていた。彼らの目的はデータを解析し、可及的速やかに『欺瞞の冠』の入手方法を見つけ出すことだ。
 解析班は呪われている椎名 真(しいな・まこと)當間 零(とうま・れい)當間 光(とうま・ひかる)の携帯電話を借り、パソコンとケーブルで接続してデータ解析にあたっていた。
「デスクエスト……思ったよりすごいゲームじゃん」
 蒼空学園コンピューター部に所属しており、得意のプログラム解析でデスクエスト攻略を手伝う皆川 ユイン(みながわ・ゆいん)がうなるようにして言った。
「ああ。呪術的な力でどんどんプログラムが更新されている。まるで生きているみたいだな」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が同意する。
「これじゃあ攻略どころじゃないわよね」
「いや、ゲームの骨子は同じだ。そのデータさえ解析出来ればなんとか『欺瞞の冠』の入手方法くらいは見つけられるはずだ」
 イーオンが複雑なプログラムが羅列するモニターを見ながら、すごい速さでキーボードを打ち込んでいく。
「イオ。例の資料です」
「ん。そこに置いておいてくれ。アル、次は例の少女の調査を頼む」
「イエス・マイロード」
 イーオンの指示をてきぱきとこなすアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)香華 ドク・ペッパー(こうか・どくぺっぱー)が感嘆の声をあげる。
「アルゲオさん、かっこいいですね〜。出来る女性って感じです〜」
「いえ、そのようなことはありません。私は電子機器に疎いのでこの位しか出来ないだけですから。それでは」
 アルゲオがきびきびと教室を出て行った。
「甲斐甲斐しいね〜。ユイン帝国にぜひ欲しい逸材だよ、美味しそう」
「あはは〜。ユインちゃん何言ってるんですか? アルゲオさんは食べ物じゃありませんよ〜」
「アルに変なことを吹き込むなよ。あれは真面目なのはいいが、冗談が通じんからな」
「むふふ。はたして冗談かな?」
「おいおい……。それよりさっさとプログラムの解析を進めるぞ」
「そうですね〜。あと少しですからね」
「それは私よりもあっちに言ったら?」
 ユインが視線を向ける。そこには解析班に名乗りを上げた九条院 京(くじょういん・みやこ)文月 唯(ふみづき・ゆい)がいた。
 京は普段兄貴面をしている唯がパソコンに詳しくないのをいいことに、ここぞとばかりに威張り散らしていた。
「唯、京が欲しいのはこれじゃなくあっちの資料なのだわ」
「え!? でもさっきはこれだって……」
「気が変わった。情報とは常に移り変わるものなのだわ。これだから素人は」
 京が肩をすくめる。「ぐ……」唯は喉まで出掛かった文句を呑み込み、もみ手をしながら指示に従う。
「あー、デスクワークは肩がこるわ」
「はいはい。わたくしめがお揉みいたしましょう」
「いまいち。もういいのだわ。それより京は喉が渇いた。お茶を入れるのだわ」
「はい、こちらに。最高級の宇治茶でございます」
「熱っ。なんだこれ! 京が猫舌と知ってのことか!」
「ああ、申し訳ありません、ただ今淹れなおしま――」
「もういい。それよりそこで三回まわってワンと鳴くのだわ。至急!」
「はい、お安い御用――て関係ねーじゃん! 人が下手に出てりゃつけ上がりやがって!」
「あ。ばれたのだわ」
 ついにキレた唯が京を捕まえてこめかみを拳でぐりぐりとする。
「に゛ゃ――――っ。痛いのだわ! やめるのだわ!」
「うるせぇ! お仕置きだ!」
 ユインが大きくため息を吐いた。
「またやってるよ。懲りないね〜」
「あれじゃあしばらく戦力にならんな。俺らがやるしかない」
「でもわかりますよ〜。こうやってみんなで作業するのって心がわくわくしますよね」
 能天気な香華が「楽しー」と言いながら別の世界へとトリップしてしまう。こうしてまた戦力が減る解析班なのであった。


「大神官メルキオスは第二形態まであり。魔人ガミスピラは右手の「絶望の剣」に注意」
 同コンピューター室。解析班に携帯電話を提供しているのでデスクエストに参加できない椎名真がパソコンを使っている。解析班までとはいかないが、中々こなれたタイピングだ。
「椎名、さっきから何やってるんだよ」
 そう尋ねるのは同じく携帯電話を提供している當間兄弟の双子の弟、光だ。當間兄弟は外見は瓜二つなのだが性格は間逆と言っていいくらい違う。光が暇を持て余し落ち着きなく可動式の椅子をくるくる回しているのに対し、兄の零は趣味である料理の本を大人しく読んでいる。
「ああ。攻略サイトを作ってるんだ」
「攻略サイト?」
「ほら、デスクエストってゲーム自体は面白いだろ。でも呪われるってところがネックなんだよ。だから実践班と解析班の情報を元に攻略サイトを作って安心して楽しめるように、てね」
「面白そうですね。僕も手伝いますよ」
 読んでいた本をぱたりと閉じ、零が向き直った。
「零もやるなら俺もやるぜ! だいたいゲームって怯えてやるんじゃなくて、みんなで楽しむもんだもんな!」
「それで椎名はどのくらいまでまとめたのですか?」
「原作の情報とアプリ版は『絶望の剣』まで。デスクエストって三十年前くらいのゲームで、知る人ぞ知る『鬼畜ゲー』だったんだ」
「鬼畜ゲー? なんだそりゃ?」
「攻略難易度が極端に高いゲームのことです」
 光が首を傾げているので零が補足した。
「そう。それで知る人ぞ知るってことは裏を返せば超マイナーなわけで……情報もあまりなくてさ。このくらいかな。ああ、あと四つのアイテムのことがあった! なんでもあれってもとは魔王を倒したタニード王の持ち物で、復活した魔王が恐れて封印したんだってさ。あれがないと魔王に傷一つ付けれないらしい」
「うはは、こてこてだな。しかしデスクエストって妙にレトロなところあるよな。キャラクターの台詞とか何故かひらがなだし」
「もしかしたら『欺瞞の冠』はゲームを一時間放置するとか、コマンドで上右上右下左下左とかかもね。レトロゲーってそういう意味のわからない裏技があるし」
「ふふふ。まさか……」
「わかったぁ!」
 そのとき、解析班のユインが立ち上がった。そして叫ぶ。
「『欺瞞の冠』の入手方法は、ゲームを一時中断してから上右上右下左下左と入力して1時間放置、それから再開すると宝箱が出現するんだって!」
 椎名真と當間兄弟が顔を見合す。
『嘘ぉ!?』
 そして三人が綺麗にハモった。

……デスクエスト内、とあるカジノシティー……
 ところ変わってはデスクエスト内にあるカジノシティーだ。ここは多くの賭場がひしめき合っており、一夜にしてどこぞの小国くらい動かせる金が動いている。
 酒場兼カジノを合わせたような店、そのカウンターで青空幸兎が酔いつぶれていた。寝言でしきりに「オラの装備は本物や〜」と呟いている。
「ダブルアップ! ダブルアップでござる!」
 一際大きな声が響く。同じ店内にデスクエスト攻略をほっぽりポーカーに興じる坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)がいた。彼の後ろにはパートナーの姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が三角座りで小柄な身体をよりコンパクトにしながら不満げにジャンケンマシーンをしている。
「雪〜。そんなローレートやってないで、拙者と一緒にポーカーするでござるよ」
「うるさい、ですわ。わたくしは嫌々付き合っているだけです。大体、なぜカジノなのですか?」
「こういうゲームはとりあえずカジノに入り浸る。これ常識でござるよ!」
「そんな常識知りません。涼司殿の手伝いをしなさい。ゲームは得意なのでしょう?」
 鹿次郎が遠くを見つめるようにして儚げな表情をみせる。
「ふっ。それは野暮ってものでござるよ。拙者は彼らを信じてるでござる。だから拙者には拙者の出来ることをするでござるよ」
「出来ること?」
「呪いで死ぬまでこのゲームを遊び尽くす!」
「いえ、それって信じてないってことじゃないですか」
 ずびし、と親指を立てる鹿次郎に雪が冷ややかに突っ込んだ。
「いぐざくとりぃ!」
 後ろから大きな声がする。鹿次郎たちが振り返るとそこには初島伽耶とアルラミナ・オーガスティアが立っていた。
「鹿次郎くんだっけ? あなたの生き様、感銘をうけたわ」
「ほう……」
 鹿次郎が目を細め二人を見据える。三人の鋭い視線が交錯した。そしてしばらくの沈黙の後、三人が固く握手を交わした。
「なんでですか!?」
「相当の猛者とお見受けする」
「あなたも、ね」
「ワタシたちこれから裏カジノに行こうと思ってるんだけどキミも来る?」
「無論」
 雪をそっちのけで三人が和気あいあいと歩いていく。
「鹿次郎……あとで覚えてなさいよ」
 雪がその後を追う。こうして四人は夜のカジノ街へと消えていった。