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【第五章 謎の少女を追え!】


……蒼空学園、執務室前……
「それでは失礼します」
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が執務室から出てくる。彼女たちはもう夜の十一時過ぎだというのに学園に残って仕事をしていたルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)に相談をしにきていたのだ。ルミーナは嫌な顔ひとつせず路々奈たちの話をきいてくれた。
「どうだった?」
 廊下で待っていたシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が訊いてくる。アリアが顔を横に振った。それに「そうなの……」シルバのパートナー雨宮 夏希(あまみや・なつき)が残念そうに呟いた。
「ああもう、もどかしいなぁ! ルミーナさんの力で電波を遮断できたりしないかな? そうすればもしかしたら呪いも解けるかもしれないよね!」
「路々奈ちゃん、ルミーナさんはそこまでできないと思いますよ。それにそんなことしてデータだけ飛んだら危険すぎますよ」
 興奮する路々奈をヒメナが落ち着かせる。すると彼女は「そっか〜」と肩を落とした。
「でも気になることを言っていたわ」
 アリアが言った。それにシルバが尋ねる。
「蒼空学園の今までの学生名簿を調べてもらったんだけど、市川まことという生徒はいないらしいの」
「何だよそれ。じゃあ今、生徒たちを呪いまくってる謎の少女は誰なんだ?」
「……わからないわ。そもそも呪い自体があやしいものね。いずれにせよ私の呪いの期限は明日まで……。私に何かあったらそのときは事件解決に役立てて」
 アリアが真剣な眼差しで四人に頼んだ。彼女は呪いを受ける覚悟を決めていたのだ。
「またそうやって自分を犠牲にしようとする〜。アリアちゃんの悪いくせだよ。誰も呪われないよ! ゲームはハッピーエンドで終わるもの! ね、ヒメナ!」
「そ、そうじゃないのもありますよ。でも私はハッピーエンドが好きです」
「……シルバ……悲しい……」
「あっはっは! アクアが呪いにかかるのは夏希も嫌だってさ!」
 路々奈たちが笑ってみせる。アリアが瞳にうっすらと涙をうかべた。
「みんな……ありがとう」
「ささ! じゃあ次は謎の少女を探しにいきますか〜」


 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)は電灯の影に隠れながら時計台広場にある二つの影に険しい視線を向けていた。彼女はデスクエストに呪われた一人一人に話を聞いて、撮影された人数が一番多いところに網を張って謎の少女を捕まえようとしているのだ。
「犯人は現場に戻ってくる……」
 普段は陽気な翔子が渋く決める。完全に刑事になりきっていた。そこに一緒に張り込んでいる秋庭 千夏(あきば・ちなつ)が買出しから戻ってくる。こちらも役になりきっていた。
「アニキー! 夜食の買出しに行ってきましたぜ!」
「千夏……それは新米刑事というよりヤクザの舎弟だ……」
「おっとぉ! そいつはうっかりしてたでヤンス!」
 千夏が自分のおでこをぴしゃりと叩く。こちらはキャラが定まっていないようだ。受け取ったコンビニの袋からパンを取り出すと、翔子は時計台広場から目を離さずにそれを口に運ぶ。
「ぶ――――っ」
 そして盛大に吹いた。
「ちなっちゃん! これカレーパンじゃん!」
「え、そうだよ? だって翔子ちゃんカレーパン好きでしょ」
「そうだけど張り込みにはアンパンと牛乳でしょ! アンパンのつもりで食べたからすごい違和感だったよ!」
「おい〜、なに騒いでるんだよ」
「これでは気付かれてしまいます」
 永夷 零(ながい・ぜろ)とパートナーで機晶姫のルナ・テュリン(るな・てゅりん)が声をかけてくる。時計台広場にいた二つの影とはこの二人だった。零たちは謎の少女は涼司のような典型的な蒼空学園生徒を狙っていると仮定し、「一緒に冒険しようぜ!」「ルナは俺が守る!」など主人公っぽい台詞やポーズを演出して犯人をおびき寄せようとしていたのだ。
「でも例の女の子現れないね。やっぱり零君たちの主人公力が足りないのかな?」
「俺たちのせいかよ! 台詞とかポーズとか案外難しいんだぜ、あれって」
「翔子ちゃん、今度はあたしたちで囮役やってみない?」
「それは面白そうだね! ちなっちゃん頭いい!」
「ボクも演じるのが疲れていたところです。それでは今度はボクたちが見張り役ということでいいですね」
「じゃあ俺が先輩刑事でルナが新米役だな」
「ゼロ……そこはやらなくてもいいのではないですか?」
 こうして翔子たちは役割を代えて、引き続き張り込みをするのであった。


『謎の少女捜索隊』として調査にあたっていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)宮坂 尤(みやさか・ゆう)リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)グロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)荒巻 さけ(あらまき・さけ)がお互いの情報を交換していた。
「私はね、デスクエストに呪われた人たちから話を聞いてみたの。そうしたら一番前に呪われた人でも六日前だったよ。みんな呪われるような心当たりはなくていきなり写真を撮られたんだって。それと写真を撮ってきたのは女の子だって見た人全員が言ってたよ」
 沙幸の後に尤が続ける。
「私は噂を知っている人から情報を集めました。それで怪談話にすごい詳しいという人を教えてもらったんですが、今学校を休んでいるらしく会えませんでした。つまり進展なしですね」
 尤が肩をすくめた。今度はさけが調査報告をする。
「私はまず市川まことについて調べましたわ。彼女を自殺に追い込んだ友人たちに報いを受けさせようと考えてましたので。でも調べて驚きました。過去の学籍名簿をたどってみても市川まことという生徒はいなかったのですから」
「オレたちも調べましたが、市川まことは例のゲームの噂だけでそれ以外の情報はまったくありませんでしたよ。ねえ、グロリア」
「ええ。リュースが聞き込みをしている間、私は図書館の新聞検索でなにかの事件に関わってないかあらってみたけど、それらしいものは見つからなかったわ」
「なにか市川まことという人物があやしく思えてきますね。今学園に出回っている謎の少女は市川まことなんでしょうか?」
 尤が疑問を投げかけるが誰もそれに対する答えを持ち合わせていない。一同が頭を悩ませているとそのとき、大きな声がする。
「誰か来てくれ! 謎の少女が現れたぞ!」


 羽入 勇(はにゅう・いさみ)東條 カガチ(とうじょう・かがち)、橘恭司のパートナー・クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)和佐六・積方(わさろく・せきかた)瀬島 壮太(せじま・そうた)ミミ・マリー(みみ・まりー)も謎の少女を探していた。一行が学園のキャンパスを歩いていると、不意にかしゃりと音がする。目をやるとそこには携帯電話をこちらに向けている少女がいた。
「まさか」
 積方が言葉を呑む。そのときクレアの携帯電話の着信音が鳴った。
「これって!」
 彼女の携帯電話に『デスクエスト』がダウンロードされたのだ。
「あいつだ! 謎の少女だ!」
 壮太が叫ぶ。謎の少女はびくりと跳びあがり慌てて逃げ出した。クレアを除く一同がそれを追う。ちなみに呪われてしまったクレアは全然落ち込んでおらず、逆に「恭司が慰めてくれるかもしれない」と軽い足取りで合宿場へとむかった。
「こないで!」
 少女が逃げながら叫ぶ。そして振り返り携帯電話をこちらへと向けてきた。写真を撮ろうとしているのだ。あれに撮られたら呪われてしまう。狙われた積方が飛び込むようにして近くのベンチ裏へと隠れる。そこには壮太とミミがいた。
「おい、積方。ここは定員オーバーだ。他のところに隠れろよ」
「駄目だよ、壮太。今出て行ったら呪われちゃうってば。ここにいていいからね、積方さん」
「え、あ……いや、その、あー、はい、すみません……」
「ぐお……はみ出るっ」
 少女が積方たちがいるベンチに向かって第二射を放ってくる。その死角に入ろうと、積方と壮太はミミを挟むようにして抱き合った。
「うにー、苦しいよぅ」
「くっそう。何で野郎と抱き合わなきゃならねーんだ!」
「す、すみません……」

「あんなカメラの使い方許せないよ! 絶対に捕まえてやるんだから!」
 写真をこよなく愛し報道カメラマンを目指している勇は憤りを隠せないでいた。
「おいおい、勇ちゃん落ち着きなよ。あのカメラで撮られたら終わりだって」
「携帯のカメラって次に撮るまで少し時間かかるでしょ。そこを狙って近づけば大丈夫だよ!」
 少女が積方たちの隠れるベンチに向かってシャッターを切った。「今だよ!」勇が勢いよく飛び出す。
 しかし。
「きゃん」
 こけてしまった。こちらに気づいた少女が優に向かって携帯電話を向けてくる。
「勇ちゃん!」
 カガチが地面を強く踏み出し一足飛びで勇へと近づく。そして彼女を盾にするようにして後ろに隠れた。
 かしゃり。勇がばっちり撮影される。
「ちょっと――――! 普通そこは身をていして庇うところでしょ!」
「ごめんごめん。ノリで」
「なんのノリだ――――!」
 かしゃり。二人がぎゃあぎゃあと揉めていると今度はカガチが撮られてしまう。
「あはは……おそろいだねぇ」
「全然嬉しくないよ!」
 勇がカガチに突っ込んだ。
「そこまでですよ!」
 荒巻さけの声が響く。彼女はスキル・バーストダッシュで一瞬にして少女に近づきカルスノウトを突き付けた。
 少し遅れて駆けつけた『謎の少女捜索隊』のメンバーが少女を包囲する。すると少女は観念するように崩れ落ち泣き出してしまった。

 一同は少女が落ち着くのを待ってから事情を聞いた。少女は近山アイという名前で、噂の市川まことではなかった。
「どうしてこんなことをしたのですか?」
 さけが尋ねる。
「私、怖い話が大好きで携帯電話でそういったサイトをよくみているんです。それで六日前に噂のゲームの話が載ってて、そのページを開いたんです。そうしたら突然……」
「デスクエストがダウンロードされてしまったのですね」
 少女が頷いた。
「それですぐにメールも来たんです。それには携帯電話で五十人分の写真を撮れば呪いは解けると書いてありました。確認しようともう一度サイトに接続したんですが、そのページは消えていて……。だから私……。ごめんなさい……怖くて……」
 少女がまた泣き出してしまう。それを聞いていた壮太が乱暴に地面を蹴った。
「けっ。なんだよ、それ。自分勝手にもほどがあるぜ。勝手に呪われてろよ、胸くそわりぃな。帰るぜ、ミミ!」
 壮太が肩をいからせながら去っていく。
「わわ、待ってよ壮太。えーっと、みんな壮太を誤解しないでね。ちょっと乱暴だけど本当は優しいんだよ。ハンバーガーとか三つも買ってくれるし。ね?」
「ほう、それは優しいですね」
 食い意地の張っているリュースにしかわからないフォローを入れた後、ミミが彼の後を追っていく。
「あはは、なんか空気が重いですね。ここは一つ美味しいものでも食べて――もごもご」
「あなたは黙っていて」
 グロリアがリュースの口に手をあてる。
「近山アイ、確かにあなたのしたことは褒められることではないわ。でもあなたも呪いの被害者の一人であることには違いない。合宿場の人たちに事情を話して参加させてもらいましょ」
「でも私……すごく迷惑かけてしまって……許してもらえないですよ」
「だ〜いじょうぶだよ。あそこの皆は超がつくほどお人よしだから。私たちも一緒に頼んであげるから、ね?」
 沙幸がウィンクすると一同が頷いた。
「みなさん……」
 こうして近山アイについてはひとまずの決着がついた。しかし市川まことの件については謎に包まれたままなのであった。