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リアクション
第四試合
「第四試合! パラミタコーカサスの剛力丸と、パラミタオオカブトムシのライデンのーーー入場だぁ!」
木々の隙間からこぼれる光に輝く、巨大な角。
「いいっ!? つ、角が3本もある!」
解説のヴェッセルは思わず放送席のパイプ椅子から立ち上がった。
「コーカサスカブトムシの一種・パラミタコーカサスじゃ」
左右2本の角と、その間がから伸びる太く立派な1本の角。
セコンドの緋桜 ケイ(ひおう・けい)と悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、真ん中の角につかまって、ぶらさがっての入場だ。
「ははっ。行くのだ、剛力丸!」
「この子こそ最強であろう!」
バトルステージの真ん中で、ケイとカナタは角から飛び降りた。
「角が多ければ強いってものじゃないと思います!」
パラミタオオカブトムシのライデンが、その背中にセコンドのナナ・ノルデン(なな・のるでん)を乗せて入場してきた!
ナナはライデンの背で仁王立ちし、戦意は充分だ。
そんなライデンの後ろをてくてくと歩いてついてきているのは、ナナのパートナーであるズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)だ。
「何か、ナナを取られた気がしないでもないんだけど……」
両者、バトルステージに立った。
「少し体格差があるなぁ……」
全長20メートルほどあるライデンに対し、剛力丸は10メートルほど。
剛力丸も充分に大きいのだが、並ぶとだいぶ小さく見えてしまう。
「レディーーー……ファイッ!」
試合開始! だが双方とも動かない。
ざわつく客席のため、放送席のヴェッセルとファタが解説する。
「まずは出方を見てから……っていうことか」
「コーカサスもカブトムシも、それほど素早くはないからのぅ」
「だが、どちらかも同じくらいのパワーを感じるぜ!」
「組み合ったら一気に試合が動くじゃろうて」
ファタが言い終わった時。
ガシイィィン!
剛力丸とライデンは、立派な角をからめて組み合った!
「力比べか!」
「ライデンさん、負けないでー!」
ほんのわずか、パワーが上回る剛力丸が最初に動いた。
角を振るってライデンを突き飛ばす!
突き飛ばされたライデンは、ぐらりとバランスを崩した。
「踏ん張ってライデンさん!」
ピピーッ! ピッピッ!
ナナは笛を吹いてライデンを応援した!
ライデンはこの音が好きなのだろう。全身に力を込めて体勢を立て直すと、今度は剛力丸に向かって角を突き出した!
ライデンの角は、やや小柄な剛力丸をはじき飛ばした!
「まだじゃ、剛力丸よ! ギャザリングへクスじゃ!」
カナタの援護、ギャザリングへクス!
水鉄砲に詰められた液体が、剛力丸の口元に飛んでいった。
そして次の瞬間!
ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……。
「剛力丸が……でっかくなっちゃったー!」
ライデンに比べて小柄だった剛力丸の体は、ライデンとほぼ同じ20メートルほどまで巨大化した!
「ターーイム!」
レフェリークロセルが、念のためアイテム援護にあたるかどうか、放送席にいるファタと、携帯でエリザベートに確認をとった。
「特殊能力で生成された薬が投与されたように見えましたが……」
ファタは首を横に振って答えた。
「様子を観察するに、大きくなったからといって力や堅さ、速さは変わりない。
体格差がなくなってバトルに迫力が出た、という感じじゃの」
エリザベートも、特に問題と感じていないようだった。
「ただ迫力が出ただけでしたら、ルール違反にはあたりませんわぁ。
大いにおもしろくしてくださいな〜」
エリザベートからGOが出たことにより、試合は再会した。
互角のサイズとなった剛力丸は、ライデンに突進!
ガァン! ずずず……。剛力丸はライデンを場外に落とそうと試みたが、ぎりぎりでライデンは踏みとどまった。
再び角を絡めて組み合う2匹。
「このままじゃ……力は少しだけ剛力丸さんの方が強いみたい」
「男なら勝ちにいかないとだよね? いっけー、ライデン!」
ズィーベンは氷術を、2匹の足元に放った!
つるん。
足元が滑って、2匹の組みが外れた。
「ライデン、突進だよっ!」
そのまま氷術でできた氷の床を、ライデンは滑って剛力丸に突進!
ツツツツーーーー。
今度はライデンが剛力丸を場外ギリギリまで追い詰める!
だが、先ほどライデンをステージ端まで追い詰めておいたのが幸いし、あと一歩のところで剛力丸は踏みとどまることができた。
その時!
「剛力丸ーーーーーっ! 根性だーーーー!」
「悠久ノ殿、剛力丸、ここは逆に好機だろう!」
客席から、剛力丸への大きな声援が飛ぶ!
声の主は、観客席にいる和原 樹(なぎはら・いつき)とフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)だ。
「悠久ノさん、応援に来た!」
「おぬしら……来てくれたのか」
樹はもともとカナタと付き合いがあった。カナタがこの大会に出場することを聞きつけ、応援に駆けつけていたのだ。
「剛力丸! 今こそ力を見せる時!」
客席から落ちそうなくらい乗り出して応援する樹の服を、フォルクスはしっかりと掴んで引っ張っていた。
「そんなに身を乗り出すと落ちるぞ、樹」
「でも、今こそ剛力丸に声をかけなきゃならないんだ」
「周囲の客にも迷惑がかかるだろう、座っておけ」
「うう……剛力丸ーっ!」
セコンド2人に加えて、客席から加わった力強い応援が、剛力丸に力を与えた。
パワーでライデンを上回る剛力丸は、ステージ端でなんとライデンの巨体を持ち上げたのだ!
「しまった、捕まれちゃった! ライデンさぁんっ!」
ずどーーーーん!
剛力丸は、ライデンを場外に落とした!
「場外っ! 勝者、剛力丸!」
レフェリークロセルが、剛力丸の勝利を宣言した!
「よくやった、よくやったぞ剛力丸!」
「やったじゃないか!」
セコンド以上に、客席の樹とフォルクスが喜んでいるようだった。
「おぬしらのおかげじゃ。感謝する!」
樹とフォルクスは、剛力丸とそのセコンドチームに、ぶんぶんと腕がちぎれそなほど手を振っていた。強い応援の気持ちは、虫に届くのだ。
『……』
試合に勝った剛力丸は、場外に落ちてひっくり返っているライデンに、自らの角をそっと差し出した。
「剛力丸……?」
剛力丸はライデンに自分の角を掴ませ、ゆっくりと引き起こした。
『……』
最後に見つめ合う2匹の間には、良い戦いができた感謝と、友情が芽生えていた。
そしてライデンはきびすを返し、セコンドのもとへ戻ってきた。
「ライデンさん……」
ナナは試合に負けたライデンを決して責めなかった。
傷ついた体を手当てし、丁寧に体を拭いてあげた。
ライデンは気持ちよさそうにナナに寄り添い、身をまかせていた。
「いい戦いだったよね。友達もできたもん」
ズィーベンが蜜をあげながら言うと、ライデンはこくんとうなずいたようだった。
剛力丸とライデン。戦う宿命を持ったカブトムシたち。彼らにしか分からない何かがあるようだった。
「また剛力丸さんに会えるといいね!」
ナナが元気に語りかけると、ライデンは角を持ち上げて答えた。
第五試合
「では、次の試合! パラミタオオカブトガニのトノサマンと、セカイジュオオカマキリのストライカーが入場だあっ!」
カブトガニ……? 客席がざわついている。
がらがらがらがら。花道を通ってきたのは、巨大な水槽だ。
その中でじっとしているのが、パラミタオオカブトガニのトノサマンだ。
「おーい、それは虫なのかー?」
客席から、当然ともいえる疑問の声が飛んでくる。
その声に、トノサマンのセコンドである朝霧 垂(あさぎり・しづり)が大声で答えた。
「節足動物だし、クモ類の近縁とも言われている。と言うか、文句があるならコイツが虫ではないと言う証拠を見せてみな!」
その様子を見ていたレフェリークロセルが、携帯でエリザベートに連絡を取り、見解を求めた。
「おもしろそうですしぃ、トノサマンの虫バトル出場は問題ないこととしますぅ」
それを聞いたレフェリークロセルが、トノサマンサイドに確認を行う。
「エリザベート校長が許可しているので出場に問題はないですけど、戦うときはバトルステージに上がっていただく必要があるので、水槽に入ったままですと場外となりますが……」
「だぁいじょうぶぅ」
垂のパートナーライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、クロセルに笑顔で言うと、トノサマンの水槽に近付いた。
「もしもし〜。お仕事だよ〜」
するとどうだろう。
トノサマンがばしゃーーんと水槽から飛び出して来たのだ!
「り、陸で活動できるのか!? 解説よろしく!」
「パラミタオオカブトガニは、地球のカブトガニとは違う。短時間なら、陸で問題なく活動することができるのじゃ」
水をしたたらせたトノサマンは、バトルステージに上っていった。
「私たちも負けずに頑張りましょう!」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)と雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に先導されて、セカイジュオオカマキリのストライカーが堂々と入場してきた。
「俺様のストライカーが一番強いところを見せつけてやるぜ。よしっ。行ってこい、ストライカー!」
ばささっ! 最後はふわりと飛んで、ストライカーもバトルステージにスタンバイを完了した。
「レディーーー……ファイっ!」
カーーン! 試合開始のゴングが鳴り響く。
「先手必勝! パワーブレスっ!」
開始と同時に、ライゼがトノサマンに向けてパワーブレスを放った。
最初から攻撃力を上げていく作戦のようだ。
「さぁて注目はパラミタオオカブトガニだ。陸で動くカブトガニなんて見たことがないから、一体どういう動きをするのか……」
放送席のヴェッセルがそう言いかけた時だった!
カサカサっ!
「は、速い!」
地面を流れるように動くトノサマン!
誰もが予想できなかったスピードで動いている!
ガァン!
そのスピードのまま、ストライカーに体当たりを喰らわせた!
パワーブレスで強化された攻撃力で、ストライカーの体力は大きく削られた。
「まさか、このストライカーよりも速く動くカブトガニだなんて……」
ストライカーサイドも、初めて見る陸上カブトガニの動きに驚いていた。
「まだまだこれからだ! ストライカー、よく狙っていけ! おまえの鎌なら一撃だぜっ!」
ベアの指示を聞いたストライカーは、トノサマンに向けて自慢の鎌を振り下ろした!
スザザァツ!
鎌が命中したトノサマンは、たまらず後ろへ飛び退いた。
「パワーブレスを使ったトノサマンの一撃も強烈じゃったが、もともとのパワーは明らかにストライカーの方が上じゃ。双方とも体力をいきなり大きく失ったから、次の一撃が勝負になるじゃろう」
ファタがマイクを握りしめて、興奮気味に解説した。
体勢を整え直したトノサマンは、ストライカーにトドメの一撃を喰らわせようとしていた。
「がんばれトノサマン! 勝ったらおやつが待ってるぞ!」
セコンドの垂も、この一撃で決めさせるつもりで叫んだ。
トノサマンがストライカーに迫った、その時!
「まぶしくなっていただきます!」
ストライカーのセコンドであるソアが、雷術を放った!
『!』
まっすぐに突進を試みていたトノサマンは、まともに光を見てしまった。
一瞬、視力を失う。
「今だぜ、ストライカー! コードネーム・電光石火!」
その声を聞いたストライカーは、羽を広げて飛び立った!
そして、まだ視力を取り戻せないトノサマンに向かって鎌を振り下ろした!
ずうぅぅん!
「決まった……」
全身の力を尽くした攻撃に、ストライカーはややふらついていたが、確かに立っている。
そして、トノサマンは舞台にうずくまってしまっていた。
「カウント! ワン、ツー、スリー、フォー……」
レフェリークロセルがカウントをとる」
「……テン! 勝者、ストライカー!」
トノサマンは立ち上がることが出来ず、ストライカーの勝利が確定した。
「よくやったぜ、トノサマン」
垂はトノサマンをそっとなでて、ねぎらった。
「疲れたでしょ。もうお水の中に戻っていいからね!」
ライゼが声をかけると、トノサマンは巨大水槽の中に戻っていった。
やはり水の中の方が居心地がいいのだろう。気持ちよさそうにしている。
「さて、戦いのあとはきちんとしなきゃだな」
垂は、トノサマンが動いて泥だらけになったバトルステージをきれいに片付けた。
「対戦相手や他の虫たちへの敬意は忘れちゃならないし、バトルのマナーは守らなくちゃな」
負けても礼儀正しい垂たちに、客席からは大きな拍手が贈られた。
第六試合
「いよいよ! いよいよAブロックもこの試合で最後だ!」
マナが「Aブロックファイナル」と書かれた、ちょっと大きめの看板を首に提げて、ふらふらと頑張って飛んでいる。
「選手入場! イルミンスールクロゴキ……ゴキブリ!? ゴ、ゴキブリの年男と、パラミタキイロミツバチの四郎さん、カモーーン!」
「キ……キャアアァ!」
「いやあーーーっ!」
客席の女性から悲鳴が上がっている。
かさかさかさかさかさかさ。
「ほら年男。しっかり歩いてください!」
セコンドにつくのはガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)とシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だ。
美しい2人が連れてきたのが、巨大ゴキブリ。その見た目のギャップもまた観客の驚きを誘った。
「まさか年男と大会に出ることになるなんて……」
「これも縁じゃのう」
ガートルードと年男の出会いは、まさにいくつもの偶然が重なってのものだった。
この大会から遡るほど一ヶ月ほど前。後に「次郎さん事件」と呼ばれる、昆虫戦争(?)が起こったことがあった。
ガートルードは、その混乱に乗じて高価な虫の捕獲を企てたのだが、何がどこで間違ったのか、手に入ったのはこのゴキブリ……年男だったのだ。
「お〜、ゴキブリ……。そりゃ叫ぶわな」
パラミタキイロミツバチの四郎さんを連れた樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も、ゴキブリの年男を呆然と見つめてしまっていた。
「相手はゴキブリだけど、後で体はキレイにしてあげるから、安心して行っておいで」
刀真は、ちょっと不安そうにしている四郎さんをなでながら言った。
ぎゅっ。
月夜は、四郎さんを抱きしめた。とはいえ四郎さんは巨大だから、見方よっては抱きしめられているようにも見える。
「四郎さん頑張れ」
四郎さんはその声に、ふるふるっと身を震わせて答えた。
「セコンドアウト!」
ゴキブリとミツバチ。前代未聞のバトルが今始まろうとしていた。
「ファイッ!」
カーン!
ゴングと同時に、双方が地面を蹴って飛び出した!
「速い……! ど、どちらも速い! とてつもなく速いぃ!」
ヒュンヒュンヒュン!
風を切る音が聞こえるほど、双方の動きは素早かった。
「すごい……。四郎さんの速さについてきてる」
速さに絶対の自信を持っていた四郎さんサイドは、予想外の年男の動きに驚いていた。
それは、年男サイドも同様だった。
「年男と速さは同じくらい……いや。ちょっと負けてる……?」
ほんの僅かだが、速さは四郎さんが上回った。
一瞬のスキをついて、年男の脇腹に体当たりを喰らわせた!
「よしっ! いいぞ四郎さん!」
だがダメージは小さかったようで、すぐに年男は体勢を戻した。
「年男! 餌代の分くらいきっちり働いて下さい!」
ガートルードが、鋭い目で年男を睨み付ける。
『か、かさかさ……』
やらなきゃ絶対怒られる。気合いを入れ直した年男は、四郎さんに突っ込んだ!
ヒュンッ!
年男の攻撃は空を切った。
「避けられた!?」
素早さを生かして攻撃を避けた四郎さんは、再び年男に当て身を喰らわせた。
「年男ー! 気合いが足りんのじゃ!」
ここまでの年男の動きにしびれを切らしたシルヴェスターは、空に向かって轟雷閃を放った!
『びくぅぅぅ』
やらなくては絶対にあとが怖い! 焦った年男の戦意が増大した!
素早く攻撃態勢を整え直した年男の攻撃!
「ああ、四郎さん!」
攻撃は四郎さんにヒットし、四郎さんの動きが一瞬鈍った。
どうにか立った四郎さん。双方ふらふらになってきていた。
「年男! 勝負をかけて下さい!」
「四郎さん……」
ヒュンヒュン! 双方最後の力を振り絞って、再び風のように動き回る。
「くっ……相手のミツバチ、速い……!」
一瞬、四郎さんの姿が消えたようだった。
ヒュッという音だけが響く。
四郎さんの、速さを生かした連続攻撃が年男にヒットした!
「年男!」
『かさかさかさ……』
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
まるで年男はそう言っているかのように最後に身を震わせ、ころんと場外に転げ落ちた。
「場外! 勝者、四郎さん!」
予選Aブロック最終戦の勝者は、パラミタキイロミツバチの四郎さんに決まった!
「放送席ー、放送席。善戦むなしく惜しくも敗れてしまった年男選手のセコンドにインタビューしてみたいと思います」
レポーターのエドワードが、ガートルードとシルヴェスターにマイクを向けた。
「いやあ、いい戦いでした。年男の強さは、普段丁寧にお世話しているたまものですね」
「お世話? 私、していませんよ」
「……え?」
「イルミンスールの生徒を軽く脅し……いえ、お願いしてやっていただいてるんです。ゴキブリ、苦手ですもの」
「あ、ああ。じゃあせめて、戦いを終えた年男をねぎらってあげてください。なでてあげるとか……」
「なでるなんてとんでもない! 年男に触ると濃い油がついてしまうけん、絶対に触りたくはないのう」
「……はは。なかなか個性的な年男選手のセコンドインタビューでした」
こうは言われているものの、餌をもらってお世話もされている年男は、わりと幸せなゴキブリなのかもしれない。
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