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リアクション
Bブロック
第一試合
「はぁい、Aブロックはなんだかとっても盛り上がっているみたいですけど、同時進行で試合を行うこのBブロックは、私たちが解説をさせていただきますぅ!」
「みなさん、お付き合いよろしくね!」
Bブロックの放送席にはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とセシリア・ライト(せしりあ・らいと)がスタンバイしていた。
「このBブロックの解説には、なんと主催であるエリザベート校長もいらしています。幅広い知識で解説をよろしくおねがいします〜」
「楽しみにしてますわぁ。暴れてくださぁい」
「では、第一試合です。パラミタヤマシログモ、アラクネのアララちゃんと、セカイジュオオカマキリの緑風、入場〜!」
巨大な8本の脚。パラミタヤマシログモのアララちゃんが、ゆっくりとステージの方に歩いてきている。
他の虫たちとサイズ的には大差ないが、脚の本数が多いためだろうか。かなりの圧迫感を周囲に振りまいている。
「頑張ろうアララちゃん。女の意地を見せてやれ!」
セコンドの立川 るる(たちかわ・るる)とラピス・ラズリ(らぴす・らずり)は、試合前のアララちゃんに、しきりに声をかけてあげている。
「アララちゃんを見て、みんなが蜘蛛のことを見直してくれるといいね!」
アララちゃんはバトルステージに上がり、おとなしく相手を待っている。その様子は礼儀正しく、女性らしくも見える。
赤いバンダナが風に揺れる。水神 樹(みなかみ・いつき)と、セカイジュオオカマキリの緑風は、揃いのバンダナを首に巻いての入場だ。
「勝ったらご飯がランクアップだ。頑張っておいで」
緑風も、バトルステージにスタンバイを完了した。
Bブロックでレフェリーをつとめるアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、ステージの真ん中に進み出た。
「試合開始!」
カーン! ゴングが鳴り響く。
「速攻で、ディフェンスシフト!」
樹が開始早々、緑風にディフェンスシフトをかけた! 緑風の防御力が上がった。
ヒュッ!
援護を受けた緑風は、素早い動きで飛び上がった。その名の通り、緑色の風に見える。
「これは速い!」
あっという間にアララちゃんとの距離を詰めた緑風は、鎌をひとふりした!
カキンッ!
「蜘蛛……めっちゃくちゃ堅いじゃないですか!」
樹が目を丸くする。アララちゃんの皮膚は想像以上に堅いようだ。
「今だよ、アララちゃん! 射程内!」
鎌を弾かれた緑風が、一瞬ぐらつくのを見逃さなかった。
アララちゃんから糸が飛ぶ!
その糸は鋭く、鞭のように緑風の体に当たった!
「ちょっとだけ痛かったけど……緑風はこんなもんじゃありません!」
すぐに持ち直す緑風。
「エリザベート校長、この状況はどう見ますかぁ?」
メイベルに問われ、エリザベートは目を輝かせながら解説を始めた。
「アララちゃんはぁ、堅さ自慢のかわりに、速さとパワーに自信がないみたいですぅ。緑風ちゃんは速いけどあんまり丈夫じゃないですねぇ」
速さと堅さの勝負。素早く連続攻撃を繰り出す緑風と、それに耐えながら機会をうかがうアララちゃんを、観客は固唾を呑んで見守っていた。
そして試合が動いた。
「アララちゃん、今だ。攻めて!」
防御で攻撃に耐えていたアララちゃんだが、緑風が至近に着地した瞬間に、攻撃に転じた!
「アララちゃん、いけーーーっ!」
セコンドの2人が声を重ねて叫ぶ!
その声に応えたアララちゃんの一撃はクリティカルヒットとなり、緑風をとらえた!
「しまった……緑風ーーーーっ!」
パタ……。ステージの真ん中に、緑風は倒れ込んだ。
「カウントをとる。ワーン、ツー……」
レフェリーアルツールが緑風の傍らに立ち、カウントをとり始めた。
「り、緑風……」
祈るように見つめる樹。
ぐぐ、ぐぐぐぐ……。
緑風が最後の力を振り絞り、なんとか立ち上がろうとしている!
「セブーン、エーイト……」
しんと静まりかえった会場。皆が、緑風を見つめている。
「ナイン!」
その時。緑風が一瞬、樹の顔を見た。
『ごめんなさい』
樹には、緑風が謝ったように見えた。そして……。
パタン。
緑風は再び倒れ込んだ……。
「テーン! 勝者、アララちゃん!」
レフェリーアルツールが、アララちゃんの勝利を宣言した!
「緑風……」
樹はステージに飛び乗ると、緑風の側に駆け寄った。
緑風は申し訳なさそうに、下を向いているようだった。
「謝らなくていいですよ。よくやりました」
そっと緑風をなでてやる。
「立派に戦ったんです。堂々と胸を張って舞台を降りましょう」
立ち上がり、去っていく緑風に、あたたかい拍手が贈られた。
第二試合
「さあ、続いて第二試合を開始しますぅ。赤コーナーからライトニング、そして青コーナーからムカデさん、それぞれ入場ぅ!」
巨大なハサミを振りかざし、パラミタノコギリクワガタのライトニングが威風堂々と入場してきた。
セコンドは菅野 葉月(すがの・はづき)とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の2人。
「ライトニング、とにかくガンガン戦いましょう!」
もそもそもそ。
花道を這ってくるのは……ムカデ。
「ええーっと、エントリー表には種別・ムカデとしか書かれていないんだけど、この子はなんという種類のムカデなの?」
放送席から出張してきたセシリアが、ムカデさんのセコンド柳生 匠(やぎゅう・たくみ)に聞いてみた。
「えー……森で出会ったんだけど、種別なんて気にしたことないぜ?」
ブリーダーである匠も、種別名を知らないのだという。
「エリザベート校長、解説してね!」
困り果てたセシリアが、エリザベートに丸投げした。
「この子の体の大きさを見てみてくださぁい。だいたい30メートルくらいでしょ? このサイズから『センスンムカデ』といわれる種類ですわぁ」
「へぇ。ムカデさん、センスンムカデっていうんだ」
自分の虫の正式な種別を初めて聞いた匠は、ふむふむと改めてペットのムカデさんを眺めた。
「セコンドアウト!」
レフェリーアルツールの指示に従い、セコンドは虫に最後の一声をかけて、バトルステージの下に降りた。
「試合開始!」
カーン!
すぐに素早く動いたのはライトニング。ハサミを広げ、ムカデさんに飛びかかった!
ムカデさんは慌てず、防御の態勢をとっている。
ガンッ! まるでコンクリート同士を打ち付けたような音が響く。
「なかなか堅いですね……」
思っていた手応えを得られなかった葉月は、とにかく数多く攻撃を当てる作戦に転じることにした。
カンカンカン!
続けざまにライトニングから攻撃が飛んでくるのだが、まだムカデさんは動かない。
「防御して機会を待っているのでしょうか?」
放送席のメイベルは首をかしげた。
エリザベートがフォローする。
「それもありますけど、センスンムカデはとにかく動きが鈍いのですぅ。脚がいっぱいあるせいかもしれませんねぇ」
速く動いたら脚が絡んじゃう……ということはさすがにないはずだが、ムカデさんの動きが鈍いことは確かだった。
「速さがないかわりに、堅さと……そしてパワーはけっこうありますから、一撃必殺を狙っているはずですわぁ」
その言葉の通り、ここまで耐えてきたムカデさんが動いた。
ライトニングが近くに来た瞬間に、長い体を鞭のように曲げて、飛びかかった!
バシッ! まさに鞭で叩かれたような音。
パワーはそこそこ持っているムカデさんの攻撃に、ライトニングの体力はごそっと削られた。
「ライトニング、離れて!」
これはたまらないとすぐにライトニングに距離をとるよう指示を出すセコンド。
そうはさせまいと追撃のかまえをとるムカデさん。
もう一撃を喰らわせようとしたが……。
「させないっ! ……氷術!」
ミーナが放った氷術は、ムカデさんの前に白い霧を発生させた。
ライトニングの姿を見失い、攻撃し損じてしまったムカデさん。
「チャンス! ライトニングー!」
葉月の指示にライトニングが応えた。素早く連続攻撃を叩き込む。
一撃一撃のパワーはそれほどでもなかった。だが、何発も命中するうちにじわじわと、ムカデさんの体力は削られていた。
攻撃を喰らったムカデさんは、しばらくの間ふるふると震えてこらえていたが、ついに倒れ込んでしまった。
「ワン、ツー……」
カウントがとられても、ムカデさんは動けないようだった。そして……。
「……勝者、ライトニング!」
第二試合の勝者は、パラミタノコギリクワガタのライトニングに決した。
「ムカデさん、お疲れ様。最高に楽しかったぜ!」
匠がムカデさんに近付くと、ようやく身を起こしたムカデさんが、するすると身をくねらせて甘えてきた。
「無理強いするつもりなんてなかった。一緒に楽しめればそれでよかったんだ。ムカデさん、ありがとな!」
笑顔で言う匠。ムカデさんは、匠に背を向けて動きを止めた。
「背中に乗れ……って言ってるのか?」
そうだと言わんばかりに、ムカデさんはちょっとだけ頭を上げた。
「疲れてるだろうに……ありがとな」
匠がそっと乗ると、ムカデさんは嬉しそうに花道をゆっくりと歩き始めた。
降り注ぐ拍手の中を、大事な相棒と歩く。匠とムカデさんの、最高の夏の思い出となった。
第三試合
「第三試合〜! 赤コーナーから……あらかわいい。パラミタルリスズムシのフォルテくん! そして青コーナーからパラミタオオクワガタのブラックサンが入場しますぅ!」
りんりんりん♪
美しい音色を響かせながら、森の音楽家・パラミタルリスズムシのフォルテさんが入場してきた。
「わあぁ、きれいな声!」
客席の女性や子供達が、その音色に喜んで聞き入っている。
「今日も素敵な音だわ……フォルテくん」
「フォルテくんは音楽家だけど……やるからにはムシバトル王をとらせてあげたいんです」
フォルテくんのセコンドはフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)とセラ・スアレス(せら・すあれす)。2人とも、フォルテくんが奏でる音が大好きだった。
ざわっ。観客席がざわめく。続いて出てきたブラックサンは、森の宝石といわれているとても高価なパラミタオオクワガタだ。
「偶然の出会いから、遂にここまで来れたでありますな!」
比島 真紀(ひしま・まき)がいとおしそうに、ブラックサンの脚をなでてあげた。
「ブラックサンと出会ったのも、この森だったよね」
サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、懐かしそうに周りを見回した。一ヶ月前に発生した昆虫戦争「次郎さん事件」。その際、これほどまで高価なクワガタとはつゆ知らず、真紀とサイモンが人助けのために捕獲したクワガタ。それが、ブラックサンとの出会いだった。
「では双方正々堂々と……試合開始!」
レフェリーアルツールが高らかに、試合開始を宣言した!
ぴょ〜〜〜ん!
フォルテくんが自慢のジャンプ力と素早さを生かし、飛び上がった!
先制のスズムシキックが炸裂!
「ブラックサンのボディは、これでやられちゃうほどヤワではないであります!」
すぐに立て直したブラックサンは、間合いをとって、長さのあるハサミを振り下ろした!
フォルテくんは素早く回避を試みたが、ほんの少し反応が遅れたため、脚にダメージを受けた。
「スズムシさんは近距離、クワガタさんは中距離の間合いが欲しいみたいですわぁ」
「欲しい間合いに相手を持ち込めるかどうかがカギだね!」
メイベルとセシリアの解説通り、2匹はさかんに動き回り、間合いを探っているように見えた。
りんりん♪ ブラックサンの倍は速く動けるフォルテくんが、連続攻撃を仕掛けた。
ドスドスッ! 連続スズムシキックがブラックサンの腹部に命中した!
さらに追い打ちをかけようとしているフォルテくん。
「そこまでだよ! 目くらましっ!」
サイモンから放たれた氷術が、もやもやとフォルテくんの周囲に霧を発生させた。
「今だ、ブラックサン! 突っ込んでー!」
霧の間から、ブラックサンのハサミが突き出される!
「フォルテくん! あぶなーいっ!」
たまらず、セラが轟雷閃を放つ!
ブラックサンの攻撃が外れた!
バトルステージの上は、もやもやと広がる霧と、それに反射する轟雷閃の光で、一切何も見えない状況に陥ってしまった。
りんりん♪
霧の中からフォルテくんの鳴き声が聞こえる。
「その鳴き声の方向であります!」
ブラックサンは、声がした方向にフォルテくんがいると信じ、全力でハサミを突き出した!
「フォルテくんっ!」
だが、その場所にフォルテくんはいない!
「しまった……上でありますか!」
フォルテくんは鳴き声でブラックサンを引きつけた後に、上空に飛び上がっていたのだ!
そして、最後の力を振り絞ったスズムシキックがブラックサンに命中!
ハサミ攻撃が外れて前のめりになっていたブラックサンは、そのまま場外に落とされてしまった!
「……場外っ! 勝者、フォルテくん!」
勝敗は決した。レフェリーアルツールにより、フォルテくんの勝利が宣言された!
「放送席、放送席! こちらレポーターのセツカや!」
Bブロック担当レポーターの桜井 雪華(さくらい・せつか)とヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)が、ブラックサンのセコンドサイドでレポートを開始した!
「あの、リポーターのヘルガです! Bブロックでは私たちがレポートするさかい、よろしゅう!」
「いや〜〜、しっかし惜しかった! 今のお気持ちは?」
雪華の質問に、真紀は笑顔で答えた。
「ブラックサンは頑張ってくれたから、満足であります!」
「それにしても、パラミタオオクワガタを連れているなんて、すごいなぁ!」
「ブラックサンがどんな虫でも関係ないであります。出会えて、一緒に楽しくやっていられることが幸せなのでありますから!」
真紀は誇らしげに、ブラックサンを見上げて言った。
「ええ関係やな。いつまでも仲良うしてや」
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