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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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 別荘地帯と言っても広大で、小屋の建つ地帯とキャンプ地帯、河川敷広場の如き場所もある訳で。
 「ハートのクイーン(12)」と戦っているセイバーの東條 カガチ(とうじょう・かがち)は敢えて、だだっ広い平地での戦いを選んだ。
「小屋は昼寝をする為の場所、被害を出す訳には、いかないでしょう」
 そう言って挑んでいるカガチが今、正に宙に投げ出された。
 飛び追ってくるクイーン、すぐにカガチは体勢を立て直すも、一撃を剣で受けるので精一杯だった。
「ぐうっ」
 地面を抉りながらも着地した。離れて見ていたパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)がチヨチヨと駆け寄ってきた。
「カガチっ、がんばれ!」
 カガチの息が荒く大きい。汗は包むように流れている。
「参ったねぇ、楽しすぎるよ彼」
 言い終える前に飛び出して、カルスノウトで斬りつける。
 涼しい顔でクイーンは受けて弾いて、斬りつけるから主導権を握る。
 重い剣撃が自由を奪う。それでもカガチは狙っていた、戦いの初撃に躊躇ったソニックブ
レードを放つ瞬間を。剣を交えた、その事で、あの威圧感も和らいでいた。
 肩膝をついて受け止めるカガチ。次撃が振り降ろされた、その初動。弾ける様に飛び上がり、クイーンの剣を避け舞った。
 クイーンの剣は降り下りている、開いた上半身にカガチがソニックブレードを放……。
「がっ」 
 カガチの剣が動き出すよりも速く、クイーンの手がカガチの足を掴み、引き寄せ振り回して地面に叩きつけていた。
 腹への追撃、拳が左、右。足を踏み降ろされて、終劇だった。
 カガチの手からカルスノウトも零れて落ちた。
 クイーンはカガチを見下ろしてから踵を返し、東に向かって歩き出した。
「カガチっ」
 駆け寄るなぎこ、大きな瞳には涙が溢れていた。
「カガチ、カガチっ」
「大丈夫だ、なぎさん。大丈夫だ」
 必死にヒールをかける、なぎこ。空を見つめてカガチ。
「あんなに強いとはねぇ。楽しかったよ」
 なぎこの涙が止まらない。それでもカガチは笑みを得た。
 ヒールが温かい。背中が少し硬いけど、気持ち良い昼寝になりそうだ。

  
 箒に跨り、追いている。「ダイヤのエース(1)」が逃げている、山脈地帯から出ていきそうである。
「当たれぇ、当たってぇ、お当たりになってぇ」
 箒を使っている事もあり、追いつくことは出来るにしても、八畝 八尋(やつせ・やひろ)の攻撃がどうにも当たらないのである。
 パートナーのイスタ・フォン(いすた・ふぉん)が時間差で火術を放っても、瞬間的に判断するのであろう、どうにもこうにも避けられてしまう。
「イスタさん、凄いね、あの子、あんなに避ける」
「術の発動と判断を速くする事、もっと軌道を読む必要もありますね」
「ねぇねぇイスタさん、あの子、お腹とか空かないのかな」
「お腹、ですか?」
「うんっ、お腹すいたら動きも鈍くなるでしょう?休憩するかもしれないし」
「どうでしょう。擬人化がそこまで忠実であれば愉快ですね」
「よし、私もお腹空いてきたし、あの子と私、我慢比べよ♪」
 レベルが低ければ工夫する。そうして成長してゆくのだ、しかも、二人のように楽しんでいるならば。
 必死に逃げる兵とは対照的に、二人には笑みが浮かんでいた。


 数字兵を追っている。パートナーのカノン・コート(かのん・こーと)が願った通りに、ナイトの水神 樹(みなかみ・いつき)は「ダイヤの6」を追いていた。
 樹海の中の木々の枝上から奇襲をかけた、初撃、次撃を避けられた事が樹には驚きだった。防衛本能、危険察知能力が非常に高い。そして身のこなし。
 欲を言えば攻撃をしてきて欲しいが、カノンとすればこれで安心なのであろう、樹が傷付く事はないように思えるからだ。しかし。
 樹の意識が離れていた間に、空飛ぶ箒に乗ったカノンが数字兵の前に回りこんでいた。
「僕が倒せばっ」
 プリーストのカノンが放つはバニッシュ。光り輝く魔術の波が辺り一面に放たれる。
 数字兵にも当たってはいた、しかし、止まることなく走った為に、カノンの目の前に現れたのだ。
 数字兵にとっても予期せぬ事だったのだろう、とっさに手が出たのであろう、リターニングダガーをカノンに振りていた。
「カノンっ!!」
 樹が飛びつこうにも距離があった、間に合わない。咄嗟に樹は空飛ぶ箒を槍の如くに投げ放っていた。
 箒は空を滑りゆき、兵の背中を撃ち叩いた。兵はそのまま地を転がり、木に衝突して伸びてしまった。
「カノン! 大丈夫?」
「あ、うん、ありがとう」
 辺りを見回して、改めて箒に目をやった。
「箒を投げるなんて、凄い発想だよ」
「いや、体が勝手に動いたのよ、考えたわけじゃないわ」
「咄嗟に勝手に動いた事が大正解なんて。理想だよ」
 カノンに言われて、言葉に圧された。
 空を翔る箒。人が乗らずに飛ぶのか、真っ直ぐ飛ぶのか、そもそも飛ぶのか。
 考えれば不確定要素はたくさんにあれど、戦いの場では瞬間である。
 強き相手と戦うこと、それだけが自身を向上させるにあらず。
 カノンが私を気遣ってくれるなら、その範囲内でも強くなれる。
 カノンを護りたい、そう思った瞬間の成長。護れる強さを磨こうと樹は胸に刻み込んだ。


 西の森で同じくトランプ兵を待ち伏せているのは、蒼空学園のソルジャー、弥隼 愛(みはや・めぐみ)である。木々の枝上から監視していたが、今まさに歩み来るトランプ兵の姿を発見したのだった。
「おっ、あれは……」
 瞳を細めて見つめ見る。絵柄は、「ダイヤのジャック(11)」である。
「うわっ、ラッキー、強い相手だ」
 愛は愛用のアサルトカービンを構え持つ。初撃はシャープシューターで撃ち抜く、その自信もある、イメージも出来ている。
 敵は愛に気付いていない。
「行けるっ」
 歩み寄り来たジャックに、愛が狙い撃ったのだが。
 銃弾を察知したジャックは小さく体を傾け、剣で弾を弾き斬った。
 振り向き、目が合うジャックと愛。と、次の瞬間。
「うそっ」
 ジャックが駆け出したのだ。言い方を変えれば逃げ出したのだ。完全に見切られた、受けられた、それなのに。そもそも逃げるのは数字兵の役割じゃないんかぃ!
「待ちなさいよっ!」
 木の上から飛び降りて追った。急に振り向いて待ち伏せる、そんな事をする事も無く、ジャックは一目散に逃げていった。
「待てぇぇぇ」
 愛はジャックを追い駆けていた。


 南の別荘地帯、小屋の陰。チーム「王族を狩る者」は「スペードのクイーン(12)」を狙っていた。
 警戒はしているのだろう、クイーンの歩みは決して速くない、それがチームの緊張をより高めているようだった。
 小屋の陰にソルジャーの二人、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)大草 義純(おおくさ・よしずみ)、二人は少しに離れているが、しっかりとクイーンに狙いを定めていた。
 二人が決めていた位置まで、二歩、一歩、今だっ。
 二人は同時に飛び出してアサルトカービンで狙い撃った。
 不意打ち、挟み撃ち、銃弾は二つ。撃ち抜ける、本人たちも、また追撃の姫神 司(ひめがみ・つかさ)ジェニファー・グリーン(じぇにふぁー・ぐりーん)も思えたからに飛び出した、が……。
 クイーンは素早く体を反転させると、一撃を一弾に、そしてほぼ同時に体に当たろうかという二弾を剣の柄尻で受け弾いた。
 その動きに驚いた為に、司とジェニファーの追撃に隙が生まれた。
 振り下ろしたジェニファーの一撃を受け弾き、司の突きも剣で受けて、突進の勢いに押されるものの踏みとどまり、弾き払ったのだった。
 空中で反転、体勢を整えて着地した司。ラルクと義純はすでに駆けだしていた。
「不意打ちも効かんとはのぅ」
「面白ぇ、こうでなけりゃ痺れねぇぜ」
 司のパートナーでプリーストのグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が司とジェニファーに駆け寄った。
「お二人とも、怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。ジェニファー、今度は正面からコンビネーションで行くぞ」
「おうっ、必ずあたしが隙を作って見せるよ」
「お二人とも、無茶はなさらないで下さい」
「無茶をしないと倒せそうにないがな」
 そう言って二人も飛び出した。グレッグは何時でもヒールが出来るように戦況を見守っている。
 四人で一つの城を崩す。このターンの攻撃もコンビネーションは悪くない、敵の戦力を知る為のターンだったのだ。
 剣を交え、強さを知ってゆく。たった一度の一瞬にチームの勝利を願い動けた時、強大な城を打ち破るのだろう。


 別荘地帯、森との境目。森から数字兵が歩み来る。
 数字の大きさ「ハートの8」、清泉 北都(いずみ・ほくと)が仕掛けた罠の場所より、幾らか離れているようで。
 ロープの罠から離れて森の中、数字兵が足を踏み入れたのは合図のポイント。
 デリンジャーを構えた北都が木々の陰から飛び出した。無論に敢えて気付かせる、逃げる先にはパートナーのプリースト、クナイ・アヤシ(くない・あやし)がホーリーメイスを振りかぶる。
 メイスでの一撃は大した事は無いのであるが、数字兵はこれも避けるのである。避け駆ける数字兵に今一度に北都が攻めかけて、二度目の進路強制をすれば罠に向かって走らせる事が出来……。
「何っ」
 数字兵は木の枝に飛びついたのだ。そのまま枝と枝とを飛び逃げるなら、木の幹の下部に設置した罠が作動しない。
「くっ」
 状況を読んで判断していた一瞬の内に飛び出していたのはクナイだった。いや、自分の役目が終わった瞬間に追い走っていたのであろう、次の枝に飛び移ろうとした数字兵の前に飛び出し、メイスを持って叩き落としたのだ。
 落ちた先は罠エリア。ロープの輪が締まり、数字兵の足を取る、間髪入れずに北都がデリンジャーを押し当て放った。数字兵はトランプへと戻ったのだ。
「クナイ、良い判断だった、助かったよ」
「いえ、私は。有難き言葉、感謝します」
「ふぅ、それにしても、強さが一定でも同じ動きをするとは限らないのか。少し焦ったよ」
 北都が手元のカードに目をやる。たった今の「ハートの8」、そして獲得済みの「ハートの10」。
「罠を改良するか。まぁ体術の訓練にはなるけどね」
 北都は罠の改良に、クナイは木に登りて数字兵を捜し見る。単純な罠を仕掛けた事が、自由度を増していた。変わりゆく戦況の中、手持ちを見据えてどう動くのか。実戦ならではの経験を二人は多く積んでいるようだ。