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ざんすかの森、じゃたの森 【前編】

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ざんすかの森、じゃたの森 【前編】

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 第5章燃える魔大樹! ざんすかVSジャタ族のこと

 ざんすかに平和的解決を訴えたり、止めようとするものだけでなく、ざんすかと行動を共にするものもいた。
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)、魔女のエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)、ブレイズのパートナーの機晶姫ロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、クロセルのパートナーのドラゴニュートマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は、「ざんすかラリアット団」を結成していた。

 「除草剤なんて撒いたら草生えなくなっちゃうじゃん? だったら燃やしてザンスカールの肥やしに……ほら、なんつったっけ、焼き畑農業? ていうかもうつべこべ言わず炎上させちゃれやー!」
 ウィルネストは、除草剤なんて生ぬるいと、ジャタの魔大樹を燃やすことを提案していた。
 「アーデルハイトにラリアットをかますとは、中々見所のある少女のようだな! 僕が手を貸してやろう!」
 「命令ですから、しかたありませんね……」
 ブレイズはざんすかに感心し、協力を申し出ていた。ブレイズのパートナーのロージーも、同行する。
 「チビッコの願いを叶え悪を挫くのがヒーローの務めなら、これほど条件に一致する案件はなかなかないでしょう」
 お茶の間のヒーローを自称するクロセルも、ざんすかの願いを叶え、悪を滅ぼすのだと、同行していた。
 「イマイチ気が進まないけど、やるからには徹底的にやるよ!」
 マナは、パートナーのクロセルに「瘴気を晴らし魔物がいなくなれば、それは世のため人のためと言えましょう」と説得されてしぶしぶ参加していたが、几帳面な性格のため、ある意味、誰よりも気合いが入っていた。
 ウィルネストのパートナーの守護天使ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)が、必死に一同に突っ込みを入れる。
 「おい、何物騒な事やろうとしてるんだ、おい、ウィル!」
 ヨヤの言葉などまったく聞かず、ウィルネストは空飛ぶ箒に2人乗りしたざんすかに話しかけていた。
 「ざんすかたーん♪ ちなみに好みの男性はどんなタイプぅー?」
 「ミーは森をもっとでっかくしてくれる奴が好きざんす!」
 精霊というものに萌えたウィルネストは、ざんすかを「ざんすかたん」と呼び、口説こうとしていた。
 「ダ、ダメだ、まったく聞いていない……」
 ヨヤはウィルネストの様子に頭を抱えると、今度はクロセルを止めようとする。
 「クロセル!? オマエ、正義の味方だろう、何故止めないんだ!!」
 「瘴気を撒き散らし、魔物を寄せ集める存在は、すなわち「悪」ッ! お茶の間のヒーロー(自称)として見過ごすわけにはいきません。瘴気を晴らし、魔物がいなくなれば、きっとジャタの森も発展することでしょう。なればこそ、魔大樹の精がどれほどカワイイ姿をしていたとしても、心惑わされてはいけないのです!」
 クロセルは拳をぐっと握りしめて力説する。
 「だからって、森がメチャクチャになるぞー!?」
 ヨヤの叫びはむなしく、誰の耳にも届かない。
 「オレも気は進まないのですが、ミアが行くと聞かないので……」
 羽瀬川 セト(はせがわ・せと)も、パートナーのエレミアにつきあわされて、しかたなくついてきたのだった。
 「行くぞ! ラリアット娘。いざ、魔大樹の元へ!!」
 一方、ノリノリのエレミアであったが、今回は、ブレイズ、ウィルネスト、マナにギャザリングヘクスを事前に渡して、魔力の強化を行っていた。
 エレミアは、ぶんぶん腕を振り回して、魔法の箒の一団の先頭を飛ぶ。
 「ああっ、ミア、普通の木にまでラリアットしないでください!」
 セトがあわててエレミアを追う。

 志位 大地(しい・だいち)シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)山本 夜麻(やまもと・やま)、夜麻のパートナーのピンクのカバのゆる族ヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)も、ざんすかを支援する気でいた。
 「ガソリン的なものや、プロパンガス的なものを大量に用意しました。これで、生木でもよく燃えるでしょう」
 大地は「危険物」の表示が書いてあるタンクを背負っていた。
 (瘴気って体に悪そうですよねぇ。良く分からないですけど枯らせばいいんですよねぇ? ざんすか様が除草剤を撒きに行くらしいですけれど、絶対持てる量に限りがあるので足りないと思うんですよねぇ。少しでもお手伝いできれば良いんですけれど……)
 シャーロットはそんなボランティア精神から、除草剤の運搬を手伝っていた。
 「あの人をラリアットでぶっ飛ばしちゃうなんて、すごいなーあこがれちゃうなー。面白そうだから全面的にざんすか様に協力させてもらうよ。うん。ぶっちゃけ面白ければなんでもいいんだ。なんで様づけかって? いや、なんとなく」
 「あの木は瘴気をまきちらす邪悪な存在なんだろ? 問題ないない。思う存分やらせてもらうぜ。ヒャッハー! 汚物は消毒だ〜っ!!」
 夜麻とヤマは、微妙にベクトルは違えど、悪ふざけができると完全にはしゃいでいた。

 「ざんすか探検隊っ! 毒の沼地にとうちゃーくっ!」
 望月 あかり(もちづき・あかり)は、「やらせ的探検隊演出」で、ざんすかたちを妨害しようとしていた。
 「人は五〜十歳くらいが一番可愛く、ましてや「おなかすいた」なんて言ってる子がいたら、それは国家総力を上げて保護すべきと主張します!」
 ジャタ族の買収を行い、さまざまな作戦の人員を確保しようとしていたあかりだったが、戦争に熱狂するジャタ族には無視されてしまい、しかたなく一人で準備していたため、なんとなく独り言が多くなる。
 あかりの「毒沼作戦」とは、「沼地を探して、そこに紫色の染料(茄子の色素)を流し込み毒沼を演出する」、そして、沼の淵に潜伏し、沼に近づいたらタックルする、という作戦だった。
 「空飛ぶ箒でびゅーん……って、あれえ!?」
 しかし、ざんすかは「ざんすかラリアット団」と空飛ぶ箒で移動しており、紫色になっただけの沼地はあっというまに通り過ぎていった。
 「予想外だったけど……あかり、負けない!」
 あかりはダッシュでざんすか一行を先回りして、木の上から「毒蛇パニック」を仕掛けることにした。
 「本物の毒蛇は危ないから、青大将をペイントしたものを用意しました!」
 あかりは、ざんすかにむかって、毒々しい色にペイントされた青大将を投げつけた。
 「あ、蛇ざんす」
 「うわ、ざんすかたん、蛇を手づかみできるんだ……俺は爬虫類はあんまり……」
 ざんすかは、平気で青大将をつかみ、ウィルネストはちょっとその様子に引く。
 「リリースざんす!」
 「ぎゃあああああ!!」
 ざんすかが放り投げた青大将は、あかりの頭上に降ってきた。
 「くっ、こうなったら!」
 あかりはさらに全力で先回りして、樹上からビニール手袋の上にさらに軍手でつかんだいぼ蛙を投げ始めた。
 「くらえ! 蛙地獄!!」
 「ぎゃああああああ!! ざんす!!」
 「へぶっ!?」
 大量の蛙にさすがのざんすかも驚き、ウィルネストは顔面で蛙を受けてしまった。
 「どうして空中に蛙が!? ハッ!! まさか、ジャタ族は邪悪な忍者の末裔!?」
 「……ないと思うよ」
 クロセルの妄想に、マナが突っ込む。
 「ユーはさっきから、どういうつもりざんす!?」
 ウィルネストの箒から飛び降りたざんすかが、あかりを追いかける。
 「ざんすか探検隊!! 秘境万歳!」
 「ジャマスルナザンス」
 セトの棒読み台詞とともに、ラリアットが炸裂し、カメラ目線っぽく誰にしていたかわからないアピールを行っていたあかりは吹っ飛ばされる。
 「えーと、すみません、ざんすかにラリアットされるよりはマシだと思ってください……」
 護衛役とはいえ、やはりセトは良心が痛んでいた。
 
 「なんでしょう、あの騒ぎは……うわっ!!」
 大地は、一瞬気を取られた隙に、足元の細い糸を切ってしまった。やかましく鳴子の音が響きわたる。
 「大丈夫ですかぁ?」
 「音が出るだけの罠みたいだね」
 シャーロットが心配そうに覗き込み、夜麻が冷静に指摘する。
 「ジャタ族の罠でしょうか……って、きゃああ!!」
 「シャーロットさんっ!!」
 「わーん、お洋服が汚れちゃいますぅ」
 今度は大地が心配する番であったが、たいして深くない落とし穴があっただけだった。
 高月 芳樹(たかつき・よしき)が、ざんすかと協力者に対して仕掛けた嫌がらせトラップの数々であった。
 「イルミンスールの平和は僕が守る!」
 「ザンスカールの森の精が、乱暴なことをするなんて……」
 芳樹のパートナーのヴァルキリーアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、ざんすかと敵対することに戸惑いを感じていたが、ざんすかを捕縛することを優先しようと決めた。
 「こまごま罠仕掛けて、面倒くさいざんす!」
 そこに、罠を踏みつけては発動させ、発動させては引きちぎったらしい、ロープや網を引きずったざんすかが走ってきた。
 「あっ、あんまり効いてない! 一旦退くぞ、アメリア!」
 「わかったわ!」
 芳樹は、コショウや小麦粉が入った袋を投げつけてざんすかを撹乱し、逃げようとするが、なかなか当らない。
 一方、菅野 葉月(すがの・はづき)は、ざんすかの同調者をまず倒そうと、攻撃を仕掛ける。
 「義をみてせぬは勇なきなりです! こんな暴挙、知った以上は知らんぷりできません!」
 しかし、葉月のパートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、あまり興味なさげであった。
 「ミーの味方を攻撃する奴は許さないざんすよ!」
 「くっ!」
 ディフェンスシフトでざんすかのラリアットを潜り抜ける葉月であったが、それを見るなり、ミーナの顔色が変わる。
 「こらあああああ!! 葉月はワタシのもの! 近づく虫は駆除に限るよね!」
 大好きな葉月が傷つけられそうになったからと、ミーナは全力でざんすかを攻撃する。
 「誰が虫ざんすか!!」
 ざんすかが振り払おうとするも、ミーナは執拗に攻撃を続ける。
 「絶対、泣かす!」

 ざんすか一行とざんすかを止めようとする勢力の争いに、新たな者達が加わった。
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)とパートナーの機晶姫ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、森に被害をもたらす相手を手当たり次第に攻撃していた。
 (地図を見る限りザンスカールの森もジャタの森も繋がっておるし、どちらかの森に被害がでるともう片方の森にも悪影響がでるんじゃなかろうか。とりあえず未然に防がないといかんじゃろう。事態の解決は他の者に任せておけばよいさね)
 ファタはそう考え、パートナーのジェーンに小柄な自分を抱えさせて運ばせていた。
 「それそれ、虫を服の中に入れてやるのじゃ!」
 「マスター、ジェーンさんもそれはえぐいと思うであります」
 「そうか? かわいいもんじゃと思うがのう」
 
 「ぎゃあああああ!!」
 虫の話をしていたせいか、ミーナが服の中に虫を入れられ、あわてて取り出そうとする。
 ざんすかへの攻撃は、一時的にやめられた。

 「は〜あ……。せっかく遠出してきたっていうのに、何でこう騒がしくなるのかしら。森林浴くらいのんびりさせて欲しいわね、全く。こうなったら静かな森を取り戻すより他ないわ。行くわよっ、キュー!」
 リカインは、森林浴を邪魔する相手はすべて敵と認識し、攻撃を仕掛ける。
 リカインのパートナーのドラゴニュートキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)は、慌てた。
 「お、おい、誰彼構わず襲うつもりか!? 気分を害されたのは分かるがそれでは騒ぎが大きくなるだけ……。 ……止められるなら苦労などしないか。出来るは少しでも早く終わらせることのみ」
 キューは、周囲の木々を傷つけないよう、魔法を使わないつもりだったが、大混戦の中、周囲の木々はさすがに無事ではすまず、キューはそれを見て嘆くのであった。

 シャーロットは、ざんすかを追う者達を一手に引き受けようと、立ちふさがる。
 「ここは私に任せて先に行くざんす!……あ、口調移りましたぁ……」
 「ありがとう、君の犠牲は無駄にしないよ!」
 「俺達がおまえの分まで暴れてきてやるぜ!」
 「がんばってくださいね!」
 夜麻とヤマ、大地が走り去ると、対ざんすか組、第三勢力の面々がシャーロットを取り囲む。
 「え? や、やっぱり、ちょっと、待っ……きゃああああああ!?」
 シャーロットは即効でフルボッコにされた。
 「ひ、ひどいですぅ……! 女の子にはもっと、優しくするべきだと思うざんす……あ、いえ、思いますぅ……!ダメ、口調がなかなか治らないですぅ……」
 「ざんすか語」に侵食され、シャーロットは精神的にもダメージを受けるのだった。

 ジャタの魔大樹周辺では、巫丞 伊月(ふじょう・いつき)が、ざんすかを迎え撃つ罠を設置していた。
 「じゃたちゃんを言いくるめて除草剤戦争にできたら、もっと面白かったのにねぇ。うふふふふふ」
 カオスな状況をもたらそうと、楽しそうに罠を設置する伊月を、パートナーの剣の花嫁エレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)が手伝いつつも冷徹な視線で見つめる。
 (何だか、下等生物が妙に笑顔で怖いのです。コイツ絶対ろくな事考えていないのです。でも、エレノアには関係ないのです)
 そこに、ざんすか一行が走りこんできた。
 「全軍突撃ざんすーっ……って、ぎゃああああ!?」
 「あっ、ざんすかさん! うわあ、生ゴミの落とし穴ですか……」
 「おお、腐った卵とか入れてある。本格的だなあ」
 大地は思わず顔をしかめ、夜麻はちょっと感心していた。
 「これをしかけたのはユーざんすね!?」
 落とし穴から脱出したざんすかは、隠れていた伊月を見つけ、にらみつける。
 「エ、エレノアちゃーん?」
 「いいからさっさと逝くがいいです、この下等生物☆」
 高見の見物をするエレノアは、伊月がラリアットでぶっ飛ばされるのを笑顔で見守るのだった。

 「待ちなさい、ざんすか!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ざんすか達の前に立ちはだかる。
 「除草剤を撒いたら、美味しい『ジャタ松茸』がとれなくなっちゃうじゃない! 私はジャタ族に協力するわ!」
 美羽は、脚線美のまぶしいレッグラリアットで、ざんすかに対抗しようとする。
 「くっ、すごい攻撃ざんす! 何が一番すごいかって、スカートの中が見えないことざんす!」
 美羽のレッグラリアットをさばきながら、ざんすかが叫ぶ。
 美羽の蒼空学園制服のスカートは「動きやすいしかわいいから」という理由で超ミニであるが、これだけ激しく動いてもまったく中が見えなかった。
 「これはすなわち……乙女の魔法よ!」
 力強い宣言とともに、美羽はさらに攻撃を繰り出す。

 「待たれよ、ザンスカールの森の精!」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、ジャタ族のシャーマンの装束を着て、大仰な物言いで登場する。
 「ボクは『魔大樹の巫女』! 魔大樹に害を成そうとする者には罰を与えるぞー!」
 魔大樹とは言えイルミンスールの森と同じ樹木、それを除草剤で枯らそうなどとはもってのほかと考えたカレンは、ざんすかを止めようと、ジャタ族の仲間になったのだった。
 「魔大樹様の怒りじゃ、神の雷をくらえ〜!」
 カレンはサンダーブラストを放ち、ざんすか一行を攻撃しようとする。
 一方、カレンのパートナーの機晶姫ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、お団子髪を解き一時的に緑の染料で髪を染め、緑色のブラウスを着て、森の精に扮していた。
 「何故、我がこの様な事をしなければならない……すか」
 ジュレールがつぶやく。「語尾を『〜すか』にしなさい」と、カレンから厳命されているのだ。
 「我はざんすかの妹、すかーる。姉とは真逆の性格なの……すか」
 「すかって、自分のことなのに、わからないのか?」
 ブレイズのもっともなツッコミに、ジュレールはかぶりを振る。
 「語尾が疑問形になる事への突っ込みは受け付けない……すか」
 「だあああ! どっちなんだ!」
 ブレイズがイライラして叫んだ隙に、ジュレールはざんすか一行の除草剤をひったくった。
 「あっ、こら! 追うんだ、ロージー!」
 「すみません……これも命令ですので……他意はありませんが、お覚悟を!」
 ブレイズの命令に、ロージーが答え、ジュレールに攻撃する。
 「我は除草剤を撒いたりはしたくないの……すか」
 「だからどっちなんだ!」
 律儀に「すかーる」の演技をして逃げ回るジュレールに、ブレイズがやはり律儀に突っ込む。
 
 そんな中、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)はじゃた側勢力として、さらに混乱を招こうと画策していた。
 「ざんすかさんも己の森の痛みを知れば矛を収めることでしょう」
 とはいえ、ジュリエットの本音といえば、「お祭り騒ぎは大好きですわ」であった。
 ジュリエットは、ザンスカールから借りてきたロバに乗せて運んだ除草剤を、ジャタ族に配る。
 「これで、ザンスカールの森との全面戦争に突入ですわ! ザンスカールの森に除草剤で報復攻撃をかけるのですわ!」
 ジャタ族たちからは歓声が上がる。
 ジュリエットのパートナーのシャンバラ人ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、
 「相手の痛みを己の身で感じることなくして、真に相手への思いやりを身に付けることなぞ出来はしませんわ。ざんすかさんにも痛みを知っていただくことで、融和の機運ができるのですわ」
 と、姉に言いくるめられて、しかたなく騒動に参加していた。
 「これで痛み分け、ということになればよいのですけれど……」
 ジュスティーヌは、ため息をつく。

 イルミンスールの新米保険医戸隠 梓(とがくし・あずさ)は、白衣姿で魔大樹を守っていた。
 「魔大樹の根元には赤い水玉の、食べると巨大化できるキノコが生えてるんだそうです! 除草剤を撒くのはやめてくださーい!」
 あからさまに出所の不確かな話がきっかけだったが、梓の森を守りたいという気持ちは本物であった。
 「ざんすかちゃんも今度、一緒にキノコ鍋、どうですか?」
 キノコを焼きながら、梓がにこやかに言う。
 パートナーのシャンバラ人キリエ・フェンリス(きりえ・ふぇんりす)は惚れた弱みで突っ込めない。
 「これ、とってもきれいな色ね。ひとつ味見してみようかな……」
 「わーっ!! やめろーっ!!」
 紫色のキノコを焼いて、試食しようとする梓を、キリエが羽交い絞めにする。
 「えー、どうして? キリエくんの分もあるから、心配しないで」
 「そういうことじゃないんだよ!」
 (ああ、もう、いっそ、キノコなんか森ごと枯れてしまえばいいのに……)
 梓の暴走が不安なあまり、不穏なことを考えるキリエだった。
 「そんな怪しいキノコ食えるかざんす!」
 ざんすかが、魔大樹の根元に座っていた梓に除草剤を思いっきりかける。
 「つ、つめたい! こらっ、だめじゃないのっ!」
 怒っても怖くならない梓は、「えいえいっ!」と思いっきりキノコを投げ始める。
 「ガフッ、ほ、胞子がすごいざんす!」
 口にこそ入らなかったものの、ざんすかの顔面にはキノコが直撃し、白い粉が舞った。
 「おいっ、梓になんてことするんだよ!」
 ずぶぬれになった梓を見たキリエは顔を紅潮させて動揺し、殺意を持ってざんすかに殴りかかる。
 「それはこっちの台詞ざんす!」
 ざんすかが応戦する。

 「おお、なんと禍々しい! ガソリン的なモノをドラゴンアーツで大量に運んだかいがあったというものです!!」
 「それそれ、ガソリン的なものやプロパンガス的なものですよー!」
 「ヒャッハー! 汚物は消毒だ〜っ!!」
 「ヤマダったらはしゃぎすぎだよね。あれじゃパラ実の人みたいじゃないか。僕は花に水やりするみたいにお上品に除草剤を撒くよ。そぉれ、ですとろ〜い」
 クロセルと、大地と、夜麻と、ヤマが、それぞれ魔大樹の根元に危険な液体を撒いていく。

 「かーかっかっか、わらわ等『ざんすかラリアット団』に敵などおらんわ。皆準備はよいかぁ」
 「ざんすかラリアット団」はエレミアのギャザリングヘクスで魔法を強化し、ブレイズ、ウィルネスト、マナ、そしてエレミアが、四点同時火術を放つ。
 「今こそ! 我等の力を見せ付けてやるのだ!!」
 「ほれー、ふぁいやふぁいやー!」
 「燃えろおーっ!!」
 「わらわの魔力其の眼に焼き付け逝くがよい!」
 ブレイズ、ウィルネスト、マナ、エレミアのかけ声で炎が放たれ、魔大樹が炎上する。
 炎上した魔大樹からは、真っ黒い瘴気が撒き散らされる。
 「しょ、しょうかきしょうかきしょうかき……あわわわわ」
 ヨヤが慌てて、ウィルネストに渡されていた謎のボンベを開封するが、消火器ではなく除草剤であった。
 炎上する魔大樹に、さらに除草剤がそそがれる。

 「駄目駄目な考えの子達は、皆潰して土に還してあげちゃいますっ」
 巨大分銅を大量に持ち込んでいた桐生 ひな(きりゅう・ひな)は、エレミアに狙いを定めた。
 「ざんすか組のリーダーはあなたですねっ! ざんすか組もじゃた組も、喧嘩両成敗、仲良く潰れて土に返りなさいと思っていたですけど、まずはざんすか組をとめないとですっ!」
 言うなり、ひなは、分銅を背負ってエレミアにカミカゼタックルした。
 「必殺確殺っ、カミカゼタックルなのですーっ」
 「ごちゃごちゃうるさいざんす! って、さすがに止められぬかっ!?」
 「ぷちゅっ……」
 「むぎゅー……」
 ひなとエレミアは、2人とも仲良くぺっちゃんこになった。

 「うわー、ミア!」
 セトが、空気入れを持って、ぺらぺらになったエレミアを膨らませる。
 敵対していたとはいえ、放置することもできないので、セトはひなにも空気を入れてあげた。
 苦労人であった。
 
 そんな大混戦の中、ざんすかの行動を植林事業と勘違いしているパラ実の棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)バウエル・トオル(ばうえる・とおる)は、有機肥料をまきまくる。
 「森を茂らせてつなぐとな? 農学科として協力しアドバイスせにゃならん!」
 「植林事業ですか。よい心がけですね。パラミタも日本……CO2排出量50%減目標にエコを頑張りましょう!」
 「ジャタ族の肥溜めから現地調達した新鮮な肥料じゃ!」
 「じゃた様も、この有機農学的に清浄な空気を堪能してくださいね☆」
 炎上して瘴気を撒き散らしている魔大樹の周囲に肥料を撒いているので、辺りにはすさまじい臭いが立ち込めた。
 日堂 真宵(にちどう・まよい)は、ざんすかの暴挙を防ごうと、やはり堆肥を用意していた。
 「除草剤でジャタの森が枯れるのを防ぎたい? ざんすかの足止めが超婆様でも難しかった? オッケーよ、良い手があるわ。枯れる以上の速度で樹木が育って生える様に栄養をばら撒けば良いのよ。そしてここに良い肥料が有るわ。じゃじゃーん! パラミタ堆肥〜! パラミタの生命力溢れるドラゴンをはじめとした動物達のうんちをじっくり寝かせてパラミタ的醗酵させた強烈な肥料よ。勿論激臭、うっかり燃やすと数キロ四方に気化した激臭が満ち溢れるから取り扱いは要注意ね。これさえばら撒けばどれだけ枯れても燃えても森は次から次へと異形の樹木へと超成長!」
 誰に説明しているのか、真宵は深夜の通販のごとく、テンポよく解説した。
 それに対し、真宵のパートナーの吸血鬼アーサー・レイス(あーさー・れいす)はカレー大好きなため、カレーをまいて布教しようとしていた。
 「ははは〜皆さん知っていますかー? カレーには人間だけでなく植物も元気に健康にする力があることを!こと我輩特製のカレーともなれば魔大樹だろうが元気になります。 魔大樹の精霊なんかが居れば、押し倒して愛で尽くして、血(樹液)を吸い尽くしたくなる位元気になります。さあ皆さんカレーを食べましょう! さあ皆さん森にカレーを撒きましょう!」
 根拠のない理論を振り回すアーサーだったが、真宵を見て驚く。
 「おやおや珍しいですねー? 真宵もカレーを用意してらっしゃるんですね」
 「ふっふっふっふっふ、育て〜育ってしまえ! ザンスカールの森もジャタの森も正悪を超越して生命力溢れる原始にかえってしまいなさい!」
 真宵はパラミタ堆肥を周囲に撒き始めた。
 「ええっ、そ、それは……」
 この期に及んで自分の世界から復帰し、ショックを受けるアーサーだったが、真宵はパラミタ堆肥を魔大樹に撒き始めた。
 「ざんすか、あなたも育ってしまうがいいわ!」
 「な、何をするざんす! ぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
 真宵はざんすかにもパラミタ堆肥を撒いたのだった。
 「す、すごい! 俺様達も負けていられんのう!」
 「こちらもせっせと撒きましょう!」
 亞狗理とバウエルも、対抗してせっせと肥料を撒く。
 こうして、堆肥のせいでさらに異臭が発生し、大騒動になってしまうのであった。

 「無益な争いは止めるのです」
 比島 真紀(ひしま・まき)の声とともに、網でブレイズ、ウィルネスト、クロセル、マナは捕まってしまう。
 「は、放せー! 僕はきれいな空気のところに移動するんだ!」
 「ぎゃー、この状況で身動きできないってどうするんだよー!」
 「攻撃しながら争いはやめろとか、なんなんですか!」
 「いや、私はこの状況で責任を取らされるであろうことは予想していたよ……」
 ブレイズとウィルネストが叫び、クロセルが真紀を責めるが、マナはあきらめたような口調で言う。
 真紀のパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、網に引っかかった4人に小麦粉入りの小袋を投げつけてみせる。
 「これが除草剤だったら? お前も樹になってみて考えろ」
 「何を言う、僕たちは邪悪な魔大樹を滅ぼしに来たんだぞ!」
 「そうだそうだ! 俺たちはざんすかたんのためにいいことをしたんだ!」
 「あ、あの。今気づいたんですが、魔大樹……育ってませんか?」
 「ほ、本当だ! まさか、除草剤も吸収しているのか?」
 サイモンの説教に、ブレイズとウィルネストが反論しているうちに、クロセルとマナは魔大樹の様子に目を見張る。
 「なにっ!?」
 サイモンがふりむくと、確かに魔大樹は除草剤をかけられ炎上しているにもかかわらず、大きく育っている。
 肥料をかけたからだけとは思えなかった。
 サイモンは、ガソリン入りの小袋も用意していたのだが、驚きで落としてしまい、網の上にかかってしまったところ、あわてて4人は脱出する。
 そして、火の粉のかかってしまった網だけが燃えるのだった。

 魔大樹からは、真っ赤な炎と真っ黒な瘴気が吹き上がり、周囲は夕闇に包まれたようだった。