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第六章 卓球場で遊ぼう

 卓球場にキラキラ光る金色の影が1つ。
「やあ、まるでボクたちの貸し切りのようだね!」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)がとても前向きな言葉を言った。
 制服をそれはもう派手に、イルミンスールの金色の人、と言われれば誰にでも分かるほどに改造したエルは、その派手好みな性格から分かるように、性格も明るかった。
「さ、では、始めるとしようか!」
「はい、わかりました。始めるのです」
 鷹野 栗(たかの・まろん)はエルの金ぴかさと前向きすぎる態度にひるまず、ラケットを持った。
 栗もエルと同じイルミンスールの生徒なのだ。生物部の部長で、ドルイド学科の所属、エルと同じ依頼を受けたこともある。
 だから、エルにはある意味慣れていると言えた。
「さあ、デートとは言え、勝負だから手加減はしないぜ!」
「もちろんなのです。手加減なんていらないのですよ」
 エルの挑戦に栗は微笑みを見せる。
「いい心がけだ!」
 栗の言葉に、エルはそう返したが、実は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
(デートのOKがもらえた!)
 それだけでエルの心の中は昂揚感でいっぱいだった。
 なんといっても久しぶりのデート!
 ドキドキワクワクする気持ちが抑えられず、ちょっとにやけそうなのを顔の筋肉に頑張ってもらって抑えていた。
「さ、行くのですよ」
 栗が白いボールを持ち、ラケットを手にして、サッとそこから動きもせずに、ボールを打った。
「えっ?」
 驚くエルの横をボールが過ぎ去っていく。
 ポカンとしているエルを見て、栗が笑みを浮かべた。
「私は【前陣速攻型】なのですよ」
「前陣速攻?」
「はいなのです」
 前陣速攻型は卓球台から離れずに攻めるタイプの戦い方。
 高い動体視力と反射神経が必要だが、ナイトの栗にはそれがあった。
「……鷹野さん、卓球好き?」
「割と」
 そう答える栗の手をエルは注目した。
「…………」
 ラケットの持ち方が妙に様になっている。
 それを見て、エルは気持ちを切り替えた。
「なるほど……経験者というわけだ。それならボクも本気を見せよう! ボクのゴールデンスマッシュを受けてみるといい!」
「やっぱりそこも金なのですね」
「もちろんさ。黄金は僕のシンボルマークだよ。行くよ!!」
 二人のラリーが開始され、鮮やかな技の数々が披露される。
「『沈むループドライブ』なのですよ」
 栗の打ったボールがエル側のネット近くで弧を描いてバウンドし、さらに低く、エルのコート内でバウンドする。
「……粋な技を」
 しかし、エルも負けていない。
「いくぞ〜ゴールデンスマッシュ!」
 少しでも甘いと判断したボールは、エルが容赦なくスマッシュを叩きこんだ。
 小さなスイングで叩きつけられた、直線で速いボールが栗のコートを駆け抜ける。
 2人はそのまま華麗な技を繰り広げつつ、卓球を楽しんだ。

「……そろそろ、食事にでも行こうか」
 どれくらい経っただろう。
 秋の日が傾きかけていて、卓球場の中を照らしていた。
「そ、そうですね」
 さすがに同じく疲れたらしく、栗が賛成する。
「何か好きなものないかな? せっかくのデートだから、おいしいもの食べたいし」
「なんでもいいのですよ。2人でどこかおいしそうなお店を探しましょう」
 卓球の高揚感を残しつつ、2人は卓球場を出て、お店探しへと向かっていった。

                ★

「卓球は、これを着なきゃ始まらないぜ!」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)が取り出したのは、210センチというかなり大きなサイズの浴衣だった。
「…………渋井、こんなのどこから見つけて来たノ?」
 不思議そうなサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)を見て、誠治は胸を張る。
「空京のあらゆる店を回って、探して来た!」
「渋井……!」
 誠治の言葉にサミュエルは目頭が熱くなった。
「わざわざ用意してくれたンダネ。ア、アリガト」
「なんだよー、サミュエル。でっかいくせに、涙腺もろいんだから」
 大きなサミュエルの背中をパンパンと叩き、誠治は卓球場の人に一室を借りて、二人で浴衣に着替えた。
「よーし、卓球らしくなってきた!」
「うん、卓球らしいネ!」
 サミュエルは浴衣を気に入り、ニコニコと笑みを浮かべる。
「久多も来れれば良かったのになあ」
「また、それはそれで来ればいいさ。俺も……シャロと来れなかったからさ」
「……渋井」
 今度は先ほどとは逆にサミュエルが誠治の背中をぽんぽんと叩く。
「でも、落ち込んでばかりもいられないぜ。さ、卓球やろうぜ、卓球」
 誠治は立ち直ると明るくサミュエルを促し、卓球台に立った。
「よし、ヤロウ、渋井」
「……サミュエル、それはなんだ?」
「ジャパンの伝統的なテーブルテニスはこれ使うって本で読んだことがあるヨ」
 サミュエルの手にはスリッパがあった。
「わかった。サミュエルはそれでやれ!」
「OK」
 渋井の言葉にサミュエルは頷き、スリッパを渋井にも渡す。
「オレもか……?」
「当然ダヨ。道具は同じじゃないとフェアじゃない」
「なるほどな。それじゃ行くぜ!」
 誠治がスリッパを構えて、ボールを持つ。
「言っておくけど、オレは負ける気しかいないぜ!」
「……負ける気しか?」
「……いや、今、言っておくけど、オレも全然負ける気ないから、って言おうとしたんだが……誰かの陰謀で変えられた!?」
「言っておくケド 俺リーチ長いからカンタンに勝てると思わないでよネ」
 そんなマスターの陰謀はさておき、二人は卓球を始めた。
「俺の白い恋人シャロ〜。白い日傘をくるっと回し、俺を見つめてくれるー♪」
 どう考えてもひどい歌詞だが、愛を込めて歌いながら、誠治は自作の歌を歌う。
「シャロの白いロリ服可愛いヨナ。ピンクのツインテールに、白いリボンも似合うシ」
 サミュエルも相槌を打ちながら、球を打って行く。
 意外とスリッパでも続くものらしい。
 その間に、誠治の歌が2番に進む。
「俺のハラペコ吸血姫シャロー。黒いドレスに赤い血が月の光に照らされるー♪」
「絶対領域だしな、黒いシャロ。……って怖いシ」
 シャロへの愛の歌を歌いながら、誠治はステップをうまく使って、サミュエルのコートにボールを叩きこんでいく。
「おのれチョコマカと!」
 怒りに燃えたサミュエルが、スマッシュを叩きこむ。
「団長とキャハハウフフ待って団長つかまえてごらんなさーい したかったバックハンドスマッシュ!!!!」
「久多のことじゃなくて、団長なの!?」
 思わず突っ込んでいる間に、誠治のコートをボールが過ぎ去る。
「久多より団長。団長と関羽カワイイ。プレゼントしたの使ってくれてるカナ……団長に会えないカナ……」
 自分の(所属する教導団の)団長のことを思い出し、サミュエルがうっとりする。
 そこを見逃さず、誠治が攻めに入った。
「俺だって シャロとこの夏最後のアバンチュールを 過ごしたかったぜドライブ!!!!」
 最後に誠治の必殺技が決まり、卓球勝負は誠治の勝ちになった。

 しかし、すぐ後に誠治の敗北が待っていた。
「わあ、なんというか……すごくカラフルで美味しそうだな!」
 サミュエルのお弁当を見て、なんとか褒める言葉を出した政治を褒めてあげてください。
 緑色のおにぎりはミント味。
 ピンクの炊き込みご飯はイチゴの香り。
 黒いおむすびは……
「具はチーズスナック、ダヨ」
「…………」
 心優しい誠治はそれを食べきった。
「大丈夫……、渋井?」
 食べた後に倒れた誠治を見て、サミュエルは声をかける。
「大丈夫……ある意味、死ぬほど美味かっ……た」
「渋井ーー!?」
 卓球場にサミュエルの悲鳴が響くのだった。