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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

リアクション

「ポッキーゲームも王様ゲームもないし、スタッフさんに荒れるお酒はダメって言われて、うちのマリーとマリー・チャンの飲み比べもできないし、つまんなーい」
 カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)がもぐもぐ食べながら、不満を言う。
「まあ、仕方ないと思うぜ! そんなときもある!」
 パラミタ刑事シャンバラン神代 正義(かみしろ・まさよし)は麻婆豆腐を食べながら、(※仮面があるのにどうやって食べてるの、などとつっこんではいけない)ヒーローらしく、カナリーを励ました。
「俺も団長にこのヒーローのお面を被って欲しかったが……、ヒーローキャラの熱さが、残念ながら団長には通じなかったぜ!」
 正義は地味キャラ、空気キャラと言われる金団長に、ヒーローキャラクターの素晴らしさを一生懸命語ったのだ。
「俺が子供の頃、TVで観たヒーローから勇気をもらったように、俺自身も誰かに希望を与えられたらなぁ……って思う」
 シャンバランのその語りは、団長よりもシャンバランのファンの人たちに注目された。
 団長は語りを止めようとしたが、生徒たちが聞いているので、遠慮して続きを聞いていた。
「だいたい団長はいっつも司令官ポジションを気取っているのか、全然、外に出てこないじゃないか。他の学校の校長は、いろんなところに顔を出しているのに、団長は全然……」
 というか、李少尉とかも、空気なのですが……。
 教導団は特に既存のNPCが使われな……と、それはさておき。
 正義の熱い語りが続く。
「そんなん今時、特撮でも流行らない! 今時の司令官は、味方が苦戦しているところに颯爽と現れ、変身して戦うヒーローなんだよ! という事で団長はこの変身お面をつけて活躍して下さい!」
「……味方を苦戦させておいて、何が颯爽だ。司令官ならば、自軍をそのような形に追い込んだことを恥じるべきだ。そのときに自らの顔を隠すような真似はしてはならん」
 話は聞いているらしいが、内容が正義と団長でズレている。
 ズレてはいるが、団長は真面目に答えているようだった。
「大丈夫! 団長がヒーローになっても教導団にとってはローリスクハイリターン!むしろリターンしかない!」
 否定する団長に、さらにマスクを押しつけながら、正義は熱く熱く語る。
「団長のキャラは立つし、今までは軍人的なイメージで子供から恐れられていたけど、団長が正義のヒーローとなれば、触れあう事が出来ます! 子供達も将来喜んで教導団に入団して来てくれる! そうだ! 技術科と経理科に頼んで、団長フィギュアやヒーローショーも計画しよう!」
「教導団の装備はかなり不十分だ。空賊などが出ているにもかかわらず、機甲科や航空科に十分な装備がない。そのような中で、俺のフィギュアだの、くだらないことに予算を回す余裕はない」
「く……」
「それに子供たちと触れ合うヒーローならば、君がやれば良かろう。私は団長という職がある。物事は適材適所だ。やる気のない私がやるよりも、誰かに希望を与えたいと思ってヒーローをやる君の方が向いている。君の提案に考慮の余地はないな」
 そう切り捨てられた正義だったが、瑠樹はその話を聞き、小さく首を傾げた。
「んとさ、それって、ヒーローとしてがんばれってことじゃないのかねえ」
「ヒーローとしてがんばれ?」
「うん、適材適所なんでしょ。つまり、自分より、ヒーローに向いてるって言われてるんだと思うよぉ」
 瑠樹はそう団長の話にフォローを入れた。
「団長さ、なんだろうな〜、真面目すぎるんだよねぇ。言い方とかそういうのも含めて。オレみたいにたまにはゆるゆるっとしてみてもいいと思うんだけど。そこが団長のいい点かもしれないしねえ」
 あまり団長のことをあれこれ言ってるのはどうかなと思ったのか、瑠樹は話題を変えた。
「そーいやさぁ。趣味とか色々あるけど、各自の興味あるものとかってある?」
「団長」
 瑠樹の言葉に、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)が迷わず答える。
「は、早いねぇ」
 サミュエルと瑠樹は校長会議でお互いを見知っていた。
 間髪いれないサミュエルの言葉に戸惑いながら、マティエが話をする。
「だ、団長さんって、あの表情、怒ってないですよね? 真面目で厳しい方ってイメージがあるのですが……実はちょっと怖いです……」
「え? 団長は可愛いデスヨ」
 サミュエルは断言した。
「団長がいるから教導団に入ったんデス。本当は夏に団長を花火とかに誘いたかっタ……団長今日もカッコイイ素敵。息してるだけでモウ最高」
 熱の入った言葉に、マティエはタジタジになりながら、サミュエルを促した。
「あ、あの、そしたら、団長さんのそばに行けば……」
「でも、いろんな人がいるシ……」
 団長を想う気持ちは自分が一番! と思っても、人を押しのけて、という場の雰囲気を壊すことは……とサミュエルは思っているらしい。
 正面だと自分がでかくて邪魔だし、とも。
「サミュエル・ハワード」
「ハ、ハハハハハ、ハイ!!!」
 団長の声がして、サミュエルの声が派手に裏返る。
 機械仕掛けの大型人形のような動きでサミュエルが、団長の方に顔を向ける。
「もう、傷は癒えたか?」
 団長自らがサミュエルに話しかけたので、自然と場所が開き、サミュエルは団長のそばに動いた。
「だ、大丈夫デス!」
「二階級特進をしないで良かったな。昇進は生きてするといい」
「地位は要りマセン、お側に居たいんデス」
 団長大好きです、を何とか言うのを留め、サミュエルは団長にハードディスクを渡した。
「団長! これ読んでクダサイ!」
 それはサミュエルの想いを、2TB綴ったものだった。
 内容を知らない団長はひとまず受取った。
「何かの読み物か。時間があったら読むとしよう」
「はい!」
 なにせサミュエルが団長への思いを毎日綴り、便せんが不足して、原稿用紙下書きし、二百枚以上書いたが終わらずが終わらずデータ化して、それが2TBになったものだ。
 団長が読むとしたら、相当に読み応えがあるかもしれない。
「金団長。そろそろ武闘会のお時間でござります」
 皇甫 嵩(こうほ・すう)が恭しく声をかける。
 嵩の服装に、歴史に詳しい教導団員はビックリした。
 まるで嫁入りの親族代表かの如くの衣装で団長に対していたからだ。
 それを団長が気づいていないはずはないのだろうが、丁重に気づかないふりをしていた。
「ああ、そのような時間か。では行くとしよう」
「団長、武闘会を見に行くのデスカ?」
「行くぞ」
「それでは、一緒に連れて行ってクダサイ!」
「良かろう」
 サミュエルは同行を認められ、喜んで付いて行った。
「…………」
 嵩は何かを言いたげだったが、黙って後を追った。