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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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 合コン会場にはすでにたくさんの人が集まっていて、その中で、カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が料理をふるまっていた。
「はいはい、料理できたよー! 揚げワンタンに水餃子! 金魚の形や翡翠の餃子もあるから、どんどん食べてねー!」
 中華料理屋で鍛えた料理の腕を、カッティがここぞとばかりに見せている。
 その料理をむしゃむしゃ食べながら、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)はカッティに尋ねた。
「甘いものはないのー?」
「あるよあるよー、杏仁豆腐にマンゴープリン!」
「わーい、頂きますー」
「ふむ。この激辛の麻婆豆腐は美味である」
 カッティが用意した超激辛をいとも簡単に平らげるマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)を見て、カッティは「さすが……」と小声で呟く。
 そして、いそいそと働くカッティの後ろで、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)がサングラスをかけて、偉そうに座っていた。
「ちょっと何してるの、イレブン」
「いや、団長よりも怖そうな雰囲気を醸し出したら、逆に団長が優しそうに見えるのではと思ってな」
「……イレブン程度じゃ、あの人たちに叶わないよ」
「あの人?」
 カッティの指さす先には、南 鮪(みなみ・まぐろ)ご一行様の姿があった。
 モヒカン頭の大柄な男の後ろに、緑のモヒカンの小さな女の子アリスニニ・トゥーン(にに・とぅーん)が続き。
 さらにその後ろに南蛮鎧を着込み、朱色のビロードのマントを身に付けた織田 信長(おだ・のぶなが)
 そして、さらに……。
「なんで、ハーリーさんが普通に合コン会場に入って来てるんですかー!?」
 自分のパートナーである、イギリス競馬界における伝説の競走馬の英霊エクリプス・ポテイトーズ(えくりぷす・ぽていとーず)を外に置いてきた織機 誠(おりはた・まこと)は、ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)を見て、思わず声を上げた。
 アンチエコロジーな刺々しいデコレーションがされている大型バイクが平然と合コン会場を横切り、そして、鮪がマリー・チャンを捕まえて、団長の居場所を聞き出した。
「よう、金団長ってのはどこだ?」
「き、金団長でしたらあちらに」
「ヒャッハァー! 了解した、愛の事なら天下の博愛主義者、パラミタで最も愛を知る男にお任せだ。で、あっちってどっちだ?」
「こちらだ。案内しよう」
 鮪に威圧されるマリーを見て、イレブンが案内を申し出た。
「おんやぁ。教導団の生徒がお目付け役か?」
「いや、私もちょっと団長に眉を描きたいのでね。共に行くとしよう」
「い、イレブンさん?」
 誠が何か言いたそうな顔をしたが、鮪に気づかれたくなかったのか、それ以上声をかけることができず、見送ることになってしまった。
「あ、あの、大丈夫……ですか?」
 鮪に声をかけられて震えているマリーに、誠が優しく声をかける。
「は、はい。ありがとうございます」
「ビックリしちゃいますよね。教導団にはあんな人いないでしょうし。……って他校にもあまりいないと思うのですが」
 誠はマリーを安心させるために、世間話をし、
「金様はお酒はいける口ですか?」
 と聞いたあと、個人的な質問をすることにしてみた。
「マリーさんは、その、恋人とかいらっしゃるんです……か?」
「え?」
 誠に問いの意味を聞こうと、マリーがした時、
「あ、有名人の織機プロデューサーがいる! きゃー、感激です!」
 黄色い歓声が誠に飛んできた。
「え? え?」
 自分に黄色い歓声?
 もしや、何かの罠?
 そう疑いながら誠が振り向くと、そこには百合園の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の姿があった。
「ゆ、有名人、でしょうか?」
「はい、とっても有名人ですよ! と、さっき、イレブンさんらしき人がいた気がするのですが……気のせいかなぁ?」
 柄の悪そうなイレブンらしき人が、もっと柄の悪いモヒカンの鮪たちと共に行ってしまった方を、歩は眺める。
 そして、視線を戻すと、歩はマリーに挨拶をして質問をした。
「はじめまして、この度は百合園からお邪魔させて頂きました。よろしくお願いいたします」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。歓迎いたしますわ。教導団の女性は、恋愛的なことに興味のない方がほとんどなので……百合園の方が来てくださって、刺激になってくださるとうれしいです」
「はい! あたしも歓迎って言ってくださってうれしいです! ルカルカ先輩とか宇都宮先輩とかイリーナ先輩とかはそうでもないのに、教導団の女性たちは一般的にそうなんだね。そういえば、合コン会場よりも、スタッフの方で、教導団の女性を見る方が多かった気がします」
 メイドのサガというべきか。
 歩は目ざとくそのあたりに気がついたらしい。
「そうですねえ……皆さん、ちょこちょこお話を聞いていると、団長のことをお嫌いではなく、応援して下さるようなのですが……『男性としては』あまり興味を持ってくれない、のですよ……。まあ、先ほど言ったようにそもそも恋愛に興味がない方が多いのかも知れませんが……」
 やっぱりモテないのかしら、あの人。
 と言いかけた言葉を飲み込み、マリーが溜息をつく。
「ま、まあ、うちのコーメイ……いえ、黄 明(うぉん・みん)はちょっとアレかもしれませんが、金様を慕っているのは本当なので、そんな落ち込まなくても大丈夫かと……」
「えーと……ほら、団長さんにもいいところがあるじゃないですか。関羽さんなんていう超有名な神様にもなる歴史上の人物がパートナーなんてすごいですよね!」
「な、七瀬さん、それはフォローとして微妙な気が……」
 歩の言葉に誠が慌てる。
 しかし、歩は何かを考えているらしく、誠の動揺に気づかないまま、話を次に移す。
「でも、団長さんはきっと、モテないってわけじゃないと思うんです」
「そ、そうでしょうか?」
 これもフォローの続きなのかと思うマリーに、歩は大きな可愛らしい瞳を向け、笑顔を見せた。
「ええ。団長さんは結構カッコいいと思いますよ! 女性に縁がないのは……」
 そこで言葉を区切り、歩がじっと、マリーを見る。
「縁がないの……は?」
「実はマリーさんが本命なんじゃないでしょうか!」
「ええっ」
「え?」
 歩の推理に、誠とマリーが驚きの声をあげる。
「な、なんでそんなことに?」
「何となくわかるの、女の勘です!」
 ビシッと人差し指を立てて、歩は女の子の感を断言する。
「だって、マリーさんが女性の中では団長さんの一番おそばにいそうですし……。例えば、団長さんと一緒にいて、素敵だと思うところは何ですか?」
「団長の素敵なところ……」
 マリーは珍しく腕を組んで考えこむ。
「地味でもめげないとか……関羽様のお祭りで誰も自分に声をかけてくれなかったとかでもいじけないとか……」
「あ、あの、マリーさん?」
「そういえば私、なんで団長に仕えてるんだったかしら……」
「マリーさーーーん!?」
 あんまりなマリーの言葉に、誠の背中に嫌な汗が流れる。
「そ、そんなんでいいのですか?」
「いいんじゃないでしょうか? どこかの人が『PCが割り込む隙もないようなNPC同士のラブラブ関係とかっていらないよね』と……」
「うわーうわーうわーー!!!」
 禁則事項を話しかけるマリーを、誠が慌てて止める。
「そ、そ、そういえば、団長さんは大丈夫なのでしょうか? 鮪さんが行ったようですが……」
 なんとか誠が話を変えようとしたとき、いきなり、会場の明かりが落とされた。