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リアクション
◆ ピアス捜索:午後三時 ◆
「いないねぇ……ピアスさん、一体どこにいるんだろう? 帰って来てるんだよね?」
ルカルカは、小さく溜息をついた。
(ピアスさんはきっと「皆を楽しませる為に、なる話のオチを言わずに去った」んだと思う)
死の恐怖から開放された生存の快楽が、怪談が好まれる理由でしょ?
だからそれを、ルカルカ達に教えて欲しい──
「もしかして、もう誰かが見つけているのかも。……ピアスさんに強硬な手段を取る人には、平和にお話し合いで解決しなきゃ。誠意をもって話し合えば、説明してくれると思うから」
「でもよぉ、あの話って……かなり怪しくないか?」
ダリルの問いに、ルカルカも苦笑しながら曖昧に頷く。
ピアスの言ってた事件そのものを、裏づけ調査として、ダリルはネット検索を行ってみた。
あの話が本物として成立するには生存者が必須だ。
少年の空間と繋がり話が残ってるって事は、その状態からの生還がなければいけない。
だが、そんな情報はどこにもない。
「俺は例の話を聞いてないから全然怖くない──それに、本当に怖いのは、生きてる人間だぜ?」
意味深な笑みを浮かべて、淵が言った。
「確かにな」
過去ニュースの検索で、ピアスの言う死んだ友人の事件も調査したが……
これと言ったものは、まるで無かった。
「…あいつ、もしかして……」
「え?」
──全て、嘘か?
一応、ルカも信じてはいないようだが。
「……いや、なんでもない」
早く解決して安心させてやりたい。だけど、確信でない事を言うべきではない……
「──ねぇねぇ、ピアスさんいたぁ?」
ひょっこりと顔を出した北都が声をかけてきた。
「呪いを解く方法を調べようと思って、聞き込みとか図書館に行って調べものしてたんだぁ」
青い瞳がくるくる回る。
「でもねぇ、よく分からなかった……」
「そうか」
「で、眠くなってきたんだぁ。怖いと思うから怖いんだし、寝ている間に「その時」が過ぎればいいんじゃないかな? と思ったんだけど……」
「?」
「……あ。いた」
北都の指差した方角には、ピアスの姿が。
明らかに悪さくをしていた子供が、親に見つかったような顔をして、一目散に逃げ出した。
「このお、待て──!」
皆の足が走り出した。
携帯が鳴った。
葉月は慌てて電話に出た。
「もしもし!?」
「ピアスさんがみつかったよ! そっちに行ったと思う! 挟み撃ちするよ、よろしく!」
ルカルカの息せき切った声が携帯から聞え、そしてすぐに回線が切れる。
「……今の電話、誰?」
「え? こっちに? こっちに?? わ、わーわーわー! 来ます! 来ますよ、ピアスさんが!」
「えぇえ!?」
ピアスの行方を突き止めることを第一に考えていたが、いざ、やって来るとなると緊張感が走る。
ミーナは素っ頓狂な声を上げて驚いたが、心を落ち着かせるために、深呼吸した。
「来る……んだね、よし!」
頬を二、三度叩いて覚悟を決める。
「葉月はそっちを見張って! ワタシはあの木の向こう側で待機する」
「もし、やって来たら──」
「叫んで!」
「はい!」
葉月は大きく頷いた。
「──…え? え? え? なんか……動きがあるみたいですが……」
陽太は二人の様子を離れた場所から見ていた。
もしかして、ピアスが見つかった?
「くくく来る? 来るんですか?? ここここれで、怪談の回避方法がやっと聞けます」
「本当ですわね──…っと」
エリシアの携帯が振動する。メールだ。
「……ど、どうしたんですか? 何か書いてあ…」
「来ますわ」
「えっ……?」
「今、温室付近でピアスを見かけたとの情報が来ました。こちらに向かって追い立てていると、北都からの連絡ですわ」
「わ、分かった。頑張ります、絶対捕まえます!」
「──お〜い!」
「あれ?」
ケイとカナタの二人が駆けて来た。
「見つかったんだな、今、ちあきから電話をもらった」
「はい、そうみたいです」
やっと回避方法が聞ける……
ケイは誰にも気付かれないようにガッツポーズをする。
(日本にはああいう怪談がゴロゴロあるし、俺も日本人だから、そういった話には弱いんだよ)
ピアスを見つけたら話の続きをして、絶対絶対回避方法を聞き出してやる!
「………」
そんなケイを。
冷ややかな目でカナタは見つめていた。
あの時の仕返しに、ケイを怖がらせなければならない。しかし──
回避方法を聞かねば、今の状態では気分が悪い。
カナタは顎に手を当てて考える。
怖がらせるか回避方法を優先させるか……悩むところだ。
「二手に分かれて隠れましょう。私達はあの茂みの中へ!」
「おう!」
陽太達がいなくなり、二人きりになった瞬間──カナタはここぞとばかりに、あの怖い話を切々と語り思い出させてやった。
「こんな感じだったかのう、あの話は?」
ケイは笑っていたが、頬が引きつっているのをカナタは見逃さなかった。
「も、もう行かなきゃ……」
くるりと背を向けて離れようとしたケイの肩に、何を思ったか、カナタは手を乗せた。
「──……〜〜〜〜〜〜〜〜きゃあああ!!!!」
女の子のような悲鳴をあげて、しゃがみこんだ。
「…あれ? びっくりしたようだな?」
涙目になりながら、ケイはカナタを睨みつける。
「なんじゃその顔は? ただ手を置いただけだろう?」
上から見下ろすカナタは、胸を反らした。
「……〜〜〜〜〜!!」
ふふ。
よほど怖かったらしい。
「そっちに行ったよー!」
ちあきの叫び声が、辺りに響き渡った。
外来の入口だか窓口へ行って、構内放送でピアスが呼び出してもらおうと思ったが、私的なことは駄目だと却下された。
仕方ないので道行く人に聞きまくっていた、ちょうどその時。
いたのだ、ピアスが!
「カチェ、捕まえて!」
「ぼ、ぼぐがづがまえるのぉおおぉお?」
「泣いてる場合じゃないでしょ! これが終われば、片が付くんだよ! 回避方法教えてもらえるんだよ!」
「うん〜わがっだ〜〜〜」
ピアスはスカートを翻して走り続ける。
中の下着がちらちらちらちら……
見て良いものやら悪いものやら。
カーチェは、手で顔を覆い、指と指の隙間から覗き見するような形で、ピアスを追いかけた。
(これで帰れるぅうううう〜〜〜)
そう思うたび、余計に涙が出てくる。
「泣くな〜! 捕まえろ〜〜〜!」
ちあきの叫びに我に返る。
「うわぁあああぁ〜」
情けない声を出して飛び掛る。
だが、外れた。
「──ぎゃふっ!」
すかさずそこへ、葉月、ミーナ、北都、ルカルカ、ダリル、淵がやってきた。
「飛び掛れ〜〜〜!」
淵の声で、皆が一斉にじゃんぷする。
陽太、エリシア、ケイ、カナタが、その光景を目の当たりにする。
「あ……」
ピアスが下敷きになった。
右手を地面に叩きつけながら、ピアスが叫ぶ。
「──お、重いんじゃ〜〜! 殺す気か、お前ら〜〜〜! 実が出る〜〜」
「み……ミ?」
下品な言葉で、そこにいた全員の時を止めてしまったピアスだった。
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