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怪談夜話(第2回/全2回)

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怪談夜話(第2回/全2回)

リアクション


◆ ピアス捜索:午後三時 ◆

「いないねぇ……ピアスさん、一体どこにいるんだろう? 帰って来てるんだよね?」

 ルカルカは、小さく溜息をついた。

(ピアスさんはきっと「皆を楽しませる為に、なる話のオチを言わずに去った」んだと思う)

 死の恐怖から開放された生存の快楽が、怪談が好まれる理由でしょ?
 だからそれを、ルカルカ達に教えて欲しい──

「もしかして、もう誰かが見つけているのかも。……ピアスさんに強硬な手段を取る人には、平和にお話し合いで解決しなきゃ。誠意をもって話し合えば、説明してくれると思うから」

「でもよぉ、あの話って……かなり怪しくないか?」

 ダリルの問いに、ルカルカも苦笑しながら曖昧に頷く。
 ピアスの言ってた事件そのものを、裏づけ調査として、ダリルはネット検索を行ってみた。
 あの話が本物として成立するには生存者が必須だ。
 少年の空間と繋がり話が残ってるって事は、その状態からの生還がなければいけない。
 だが、そんな情報はどこにもない。

「俺は例の話を聞いてないから全然怖くない──それに、本当に怖いのは、生きてる人間だぜ?」

 意味深な笑みを浮かべて、淵が言った。

「確かにな」

 過去ニュースの検索で、ピアスの言う死んだ友人の事件も調査したが……
 これと言ったものは、まるで無かった。

「…あいつ、もしかして……」

「え?」

──全て、嘘か?

 一応、ルカも信じてはいないようだが。

「……いや、なんでもない」

 早く解決して安心させてやりたい。だけど、確信でない事を言うべきではない……

「──ねぇねぇ、ピアスさんいたぁ?」

 ひょっこりと顔を出した北都が声をかけてきた。

「呪いを解く方法を調べようと思って、聞き込みとか図書館に行って調べものしてたんだぁ」

 青い瞳がくるくる回る。

「でもねぇ、よく分からなかった……」

「そうか」

「で、眠くなってきたんだぁ。怖いと思うから怖いんだし、寝ている間に「その時」が過ぎればいいんじゃないかな? と思ったんだけど……」

「?」

「……あ。いた」

 北都の指差した方角には、ピアスの姿が。
 明らかに悪さくをしていた子供が、親に見つかったような顔をして、一目散に逃げ出した。

「このお、待て──!」

 皆の足が走り出した。



 携帯が鳴った。
 葉月は慌てて電話に出た。

「もしもし!?」

「ピアスさんがみつかったよ! そっちに行ったと思う! 挟み撃ちするよ、よろしく!」

 ルカルカの息せき切った声が携帯から聞え、そしてすぐに回線が切れる。

「……今の電話、誰?」

「え? こっちに? こっちに?? わ、わーわーわー! 来ます! 来ますよ、ピアスさんが!」

「えぇえ!?」

 ピアスの行方を突き止めることを第一に考えていたが、いざ、やって来るとなると緊張感が走る。
 ミーナは素っ頓狂な声を上げて驚いたが、心を落ち着かせるために、深呼吸した。

「来る……んだね、よし!」

 頬を二、三度叩いて覚悟を決める。

「葉月はそっちを見張って! ワタシはあの木の向こう側で待機する」

「もし、やって来たら──」

「叫んで!」

「はい!」

 葉月は大きく頷いた。



「──…え? え? え? なんか……動きがあるみたいですが……」

 陽太は二人の様子を離れた場所から見ていた。
 もしかして、ピアスが見つかった?

「くくく来る? 来るんですか?? ここここれで、怪談の回避方法がやっと聞けます」

「本当ですわね──…っと」

 エリシアの携帯が振動する。メールだ。

「……ど、どうしたんですか? 何か書いてあ…」

「来ますわ」

「えっ……?」

「今、温室付近でピアスを見かけたとの情報が来ました。こちらに向かって追い立てていると、北都からの連絡ですわ」

「わ、分かった。頑張ります、絶対捕まえます!」

「──お〜い!」

「あれ?」

 ケイとカナタの二人が駆けて来た。

「見つかったんだな、今、ちあきから電話をもらった」

「はい、そうみたいです」

 やっと回避方法が聞ける……
 ケイは誰にも気付かれないようにガッツポーズをする。

(日本にはああいう怪談がゴロゴロあるし、俺も日本人だから、そういった話には弱いんだよ)

 ピアスを見つけたら話の続きをして、絶対絶対回避方法を聞き出してやる!

「………」

 そんなケイを。
 冷ややかな目でカナタは見つめていた。
 あの時の仕返しに、ケイを怖がらせなければならない。しかし──
 回避方法を聞かねば、今の状態では気分が悪い。
 カナタは顎に手を当てて考える。
 怖がらせるか回避方法を優先させるか……悩むところだ。

「二手に分かれて隠れましょう。私達はあの茂みの中へ!」

「おう!」

 陽太達がいなくなり、二人きりになった瞬間──カナタはここぞとばかりに、あの怖い話を切々と語り思い出させてやった。

「こんな感じだったかのう、あの話は?」

 ケイは笑っていたが、頬が引きつっているのをカナタは見逃さなかった。

「も、もう行かなきゃ……」

 くるりと背を向けて離れようとしたケイの肩に、何を思ったか、カナタは手を乗せた。

「──……〜〜〜〜〜〜〜〜きゃあああ!!!!」

 女の子のような悲鳴をあげて、しゃがみこんだ。

「…あれ? びっくりしたようだな?」

 涙目になりながら、ケイはカナタを睨みつける。

「なんじゃその顔は? ただ手を置いただけだろう?」

 上から見下ろすカナタは、胸を反らした。

「……〜〜〜〜〜!!」

 ふふ。
 よほど怖かったらしい。



「そっちに行ったよー!」

 ちあきの叫び声が、辺りに響き渡った。
 外来の入口だか窓口へ行って、構内放送でピアスが呼び出してもらおうと思ったが、私的なことは駄目だと却下された。
 仕方ないので道行く人に聞きまくっていた、ちょうどその時。
 いたのだ、ピアスが!

「カチェ、捕まえて!」

「ぼ、ぼぐがづがまえるのぉおおぉお?」

「泣いてる場合じゃないでしょ! これが終われば、片が付くんだよ! 回避方法教えてもらえるんだよ!」

「うん〜わがっだ〜〜〜」

 ピアスはスカートを翻して走り続ける。
 中の下着がちらちらちらちら……
 見て良いものやら悪いものやら。
 カーチェは、手で顔を覆い、指と指の隙間から覗き見するような形で、ピアスを追いかけた。

(これで帰れるぅうううう〜〜〜)

 そう思うたび、余計に涙が出てくる。

「泣くな〜! 捕まえろ〜〜〜!」

 ちあきの叫びに我に返る。

「うわぁあああぁ〜」

 情けない声を出して飛び掛る。
 だが、外れた。

「──ぎゃふっ!」

 すかさずそこへ、葉月、ミーナ、北都、ルカルカ、ダリル、淵がやってきた。

「飛び掛れ〜〜〜!」

 淵の声で、皆が一斉にじゃんぷする。
 陽太、エリシア、ケイ、カナタが、その光景を目の当たりにする。

「あ……」

 ピアスが下敷きになった。
 右手を地面に叩きつけながら、ピアスが叫ぶ。

「──お、重いんじゃ〜〜! 殺す気か、お前ら〜〜〜! 実が出る〜〜」

「み……ミ?」

 下品な言葉で、そこにいた全員の時を止めてしまったピアスだった。