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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

リアクション

 龍の巨体が浅瀬に墜落した。
 浅瀬に誘導したは津波を起こさせない為、追撃に支障を来たさない為である。
 波を受けにくい高い場の岩場の上。教諭の合図で人魚たちが一斉に「巡情の唄」を歌い出した。
 魚人は胸の中に人魚を抱きしめ、人魚は身を丸めたままに唄を歌う。
 その歌声は人魚の口からではなく、一度、魚人の頑強な体の中で共鳴させ、屈強な肺から押し出される事で轟音とも言えるような声量の歌声が魚人の口から響き出るのである。
 「巡情の唄」を歌う為の術ではない、教諭は同様の事を生徒たちにも遣らせていた。
 「子守唄」を習得している生徒は特にしっかりとした体をした生徒を見つけ、魔力を用いて自身の歌声を相手の体で共鳴させて発するをさせる、これは正に即戦力となっていた。
 人魚と魚人を多く集めたのも、生徒たちを一同に集めたのも、全てはこの為であった。
「キュォォォォォォォォォ」
 黄水龍が悲鳴を上げるように雄たけびを上げている。「巡情の唄」が効いているという事である。
 人魚と魚人の間に伝わる協奏歌「巡情の唄」は怒りを鎮める為の唄ではない。
 己の中で燃え滾る怒りを外力によって鎮めるには、膨大な力を要する上に、その体内で消火させて滅するという事になる為、例え鎮める事が出来たとしても体への負担は大きい。
 「巡情の唄」は怒りをエネルギーとして、一定量にした上で体の隅にまで巡らせるのである。感情から発したエネルギーを均一化する事で精神を安定へと導き、体中に巡らせ、取り込ませる事で、そのエネルギーをそのまま力とする事が出来る。
 消すのではない、変換させるのだ。生じさせたエネルギーは自身のものなのだから、それを力として利用すれば良い、それは精神すらも安定に導くことになるのだから。
 歌声が響いている間、フラッドボルグは歌声を発している本陣に対してシーワームとシーサーペントを嗾けていた。
 本陣前に立ちはだかるのは、シャンバラ教導団のメイド、朝霧 垂(あさぎり・しづり)と蒼空学園のプリースト、今井 卓也(いまい・たくや)である。
 大鎌を構える垂に、パートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)はパワーブレスを唱えた。「垂、完了したよ」
「よぅし、ありがとう。じゃあ、遠慮しないで行くぜ」
 そう言って垂は光条兵器の鞭も取り出して構えた。
 シーサーペントは開いた口ごと大鎌で真っ二つにし、数で攻めてくるシーワームは4メートルもある光条兵器の鞭で、一網に打尽で叩き落としてゆく。
「わぁぁ、垂さん、凄いです」
 卓也はライゼに並んで拍手をしている。パートナーでウィザードのフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)はシーワームに向けて火術を放っていたが。
「卓也、俺も彼女のサポートに回っても良いか?」
「えっ、そう? どうして?」
「どうしてって、その方が効率が良いだろ」
 垂の活躍を見れば、この思考は正当だと言える、が。
「美しいお譲さん方を守る為だ、いや、守りたいのだ、今は守られているが」
 と言った想いがフェリックスにはあるのだが、これは誰にも言う必要はないだろう。
 黄水龍へ視線を向ければ、体の震えも瞳の色も収まってきているのが見て取れた。
 怒りによって目覚めた黄水龍、その怒りを自身の体に取り込んでしまえば、暴、そして動への動機も消えてしまうわけで。
 湾内に歌声が響く中、遂に黄水龍の体が光輝き、その光りを収束させると同時に具現化していた龍の体も光りの球体へと姿を変えてゆく。
 収束、凝縮の先に光りは両手で持てる程の大きさになりて宙をゆっくりと降りてくる。
 それを待ち構えているのはフラッドボルグ。一番の笑みを浮かべていた。
 光りの球体の中に女王器がある。黄水龍に怒りのままに破壊の限りを尽くさせながら、怒りが収まるのを待つのも一興とも考えていたのだが。黄水龍を女王器に戻す事は、彼にとっても都合が良かったのである。
 舞い降りてきた光りの球体にフラッドボルグが手を伸ばした瞬間、両腕を銃弾が襲い掛かったのである。
 フラッドボルグは銃弾を素早く避けながらも、球体に手を伸ばそうとするが、その手を事如くに銃弾による銃撃が阻止していた。
 銃撃と球体に気を取られていたのであろう、フラッドボルグは隠れ身によって寄り来ていた志位 大地(しい・だいち)に気付くのが瞬間に遅れていた。
 全てを込めた一撃、ブラインドナイブスを、大地はフラッドボルグに放った。
 大地の漆黒の太刀を短剣で受けたが、受け切れずにブラインドナイブスの一撃を、腕を裂き開くように右腕に受けていた。
 左の短剣での反撃に体は動きだしていたが、先程の銃弾が体に向かい来ているのを感じて、瞬時に後退した。しかしそれもすぐに方向を変えさせられた。5メートル近い巨大なランスが振り降りてきているのを感じたからである。
 ランスを避けたフラッドボルグは体勢を立て直して戦況を見つめた。
 巨大なランスを構えるロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)、漆黒の太刀を構える志位 大地(しい・だいち)、そして彼らの後方には多くの生徒たちと魚人の姿が見える。加えて。
 女王器は……。
 光りの球体は今、大地の手元にある。
 ダンッ、ダンッ。
 フラッドボルグの足元に向けて銃弾が撃ち込まれた。そう、加えて謎の狙撃手も居るのだ。
 顔を歪めて、彼はサンダーブラストを自身の周りに放ち、同時に地に爆炎波を放って爆発と大量の煙を発生させた。
 大地は身構えた、が、すぐに光りの球体を取り上げられるのを感じた。しかしそれはフラッドボルグではなく、ノーム教諭であった。
 煙が晴れた時、フラッドボルグの姿はどこにも無かった。
「何とか、守りぬく事が出来たねぇ」
 教諭の言葉に、一同の緊張が一度に和らいだ。
 皆の前にルファニーが立って頭を下げた。
「あの、この度は、皆さんにご迷惑をお掛けして、本当に」
「待った」
 教諭が言葉を遮った。無理に彼女の頭を上げさせて、生徒諸君の顔を見せた。
「不満のある顔も、不細工な顔もあるけれど、それは君を責めるものじゃあ、ない。わかるだろぅ?」
 なんて言い草だ。それでも涙を呼ぶには十分だったようだ。
 安堵、嬉しい、哀しい、楽観、悔しさ。ひとことに笑みと言ってはみても、どれに当たるかは顔次第、いや、心次第であるのであるが、パラミタ内海ヴァジュアラ湾、ひととき以来の平穏が顔を覗かせていた。


 岩場の陰に隠れるように、右腕を押さえているフラッドボルグに笑みながら歩むのは、鏖殺寺院・一般メンバーのメニエス・レイン(めにえす・れいん)とパートナーのロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)である。
「あなたは、あたし達の上司に当たる、という事になるのかしら」
 自身の右腕にヒールを唱えながら、フラッドボルグはメニエスに背を向けた。
「今回の件は、あなたの独断なの? 召集をかけるなり連絡があれば協力したのに」
「黙れ」
 それ以上に言葉を言わずに、彼は岩場の陰に姿を消した。結局、彼から聞き出せた事は何も無い。女王器の事も、鏖殺寺院の活動についても。
 メニエスは、ため息だけを小さく吐いていた。


 笑みを交わして、互いを労っている、笑みあっている。
 その集まりの端に、そっと加わる男が一人。スナイパーライフルを持った蒼空学園のソルジャー、影野 陽太(かげの・ようた)である。
 ライフルだけは誰にも触れさせないようにしながら、熱を感じられないようにしながら。
 陽太自身も、緊張の糸がやっとに切れた事から、上手く体の自由が効かないでいた。
 機会を窺い、ひたすら地味に集中と我慢と自意識を。
 一番自分を信じたのは、彼だったのかも知れなかった。

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 公開予定日(予定時刻)を遅れてしまいまして、大変申し訳ありませんでした。
 ゲームマスターの古戝正規です。
 皆さんのアクションのおかげで、ヴァジュアラ湾に無事、平穏を取り戻す事ができました。
 ありがとうございます。実はこの後、皆さんに感謝の気持ちを込めまして、人魚と魚人たちが「感謝祭」を開いてくれる事になったそうです。
 番外編としまして、「感謝祭」のシナリオガイドも近日公開予定です。

 登場した「青龍の女王器」は、今回一時的にノーム教諭が保管する事になりますが、今後は「青龍の女王器」を巡る争いや事件に発展してゆく重要なアイテムになります。
 その為「女王器」ついての詳細についてなど、明かせない部分があった事は事実です。
 都合の良い話になりますが、今は謎のまま、どうかご期待下さい、として挨拶に代えさせて頂きたく思います。
  
 再びに、お会いできる時を楽しみにしております。