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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

リアクション

 湾内の浮島からも上空の様子は見て取れたし、黄水龍の姿も見る事が出来た。しかしそれでも戦いは止まずに続いていたから、波羅蜜多実業高等学校のウィザード、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は動きを止めるのを許されないでいた。
 雅刀の刀身で魚人の拳を受け、それを弾くと同時にパートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が魚人に向けて雷術を放った。ガートルードは直ぐに体勢を立て直すと、間髪入れずに雅刀の柄尻で魚人の喉下を突いていた。分厚い胸板をしていても喉下の弱点は人間に同じ、魚人は崩れるように倒れていった。
「やったのう、ガートルード」
「えぇ、魚人はタフ過ぎて困ります。2人が心配ですね」
 その2人は海面に対して構えていた。ガートルードのパートナーであるドラゴニュートのネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)とナイトのパトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)にハーレックの視線が向けられたが、ハーレックはその様子に驚きを見せた。海中から跳び攻めてくる魚人と戦っているはずが、次々と2人に襲い掛かっているのは巨大なシーワームとシーサーペントであったからだ。
 ハーレックはネヴィルの元へ駆け寄り問いた。
「どうしたもこうしたもない、さっきからずっとコイツ等ばかりが揚がってくるんだ」
 3メートル近い身長を持つネヴィルが両手でようやく鷲掴める程に大きくて重量のあるシーサーペントが、言っている間にも海面を飛び出してきた。
 ネヴィルはセスタスを装備した拳でシーサーペントの上顎を押さえると、もう一方の拳で口を潰す様に殴りつけた。
 シーサーペントが生みに落ちると同時に今度は2匹のシーワームが同時に飛び出して来たのだが、その体の全てが水から出るより前にパトリシアがランスで薙ぎ払い、迎撃していた。
「2人とも、だいぶ慣れとるのう」
「ミミズも蛇も嫌いですから、容赦は出来ませんの」
「はっはっはっ、パトリシアは頼もしいぞ、打撃に迷いが無いからな」
 言っている間にもシーワームが飛びかかって来たのだが、ネヴィルは顔も向けずに打ち落としていた。その様を見てウィッカーも海面を向いて拳を構えたが、現れたのがシーサーペントだった為、慌ててライトブレードを持ち構えた。
 戦況を見つめてガートルードは一人、空へと目を向けた。
「先程とは明らかに違う。状況を変化させたのは、やはり」
 視線の先には黄水龍、そして。
「あの男……」
 龍の背に乗る男。見える姿は小さくとも、男の異質さはすぐに見て取れた。
 そしてその男、フラッドボルグと黄水龍に向かって行く小型飛空艇と生徒の姿が幾つかに見えていた。


 龍の体は遠くから見たそれ以上に大きく見えた。体長にして20メートル、翼を広げるなら30メートルを軽く超えてしまう。
 怒りを抑えきれないのであろうか、宙に舞い浮いているだけの際にも黄水龍は頻りに体を震わせ足掻いているように見えた。そう見えた時、黄水龍が翼を羽ばたかせて刀状の氷矢を放つ行為は何かを振り払っているようにも思えて、葉月 ショウ(はづき・しょう)は小型飛空艇から憐みの色を目に浮かべていた。
「よく分からないけどな、直に大人しくしてやるからな。ガッシュ」
「了解だよ」
 操縦するガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)は小型飛空艇を黄水龍の顔の前で横切らせた。黄水龍、そしてフラッドボルグの注意が自分たちに向いた事を感じて、ショウは光精の指輪を用いて素早く発光を起こすと、光の中から小型飛空艇のままに飛び込んでかカルスノウトの一撃を龍の眼下に叩きこんでいた。
「ぐっ」
 弾かれた。何て硬さだ。カルスノウトを握る右手が痺れ震えている、たった一撃で。鱗部ではない、顔の、それも眼下を狙ったというの。
「コイつは、面白すぎるぜ」
 ショウが放った光、そして眼下への一撃は、彼らにとっても好機であった、そう思えた。
 空飛ぶ箒を二手に分けて左右から龍の上空へと昇る。
 ショウが一撃を放った直後、箒から飛び出したブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)がフラッドボルグへ雷術を放った。
 眼球が僅かに動いたかに思えたが、雷術はフラッドボルグの体を直撃した。ブレイズが黄水龍の背に降り立つと同時に、パートナーのロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)成田 甲斐姫(なりた・かいひめ)も着地を成し、すぐに追撃を狙ったが、振り向いたフラッドボルグの動きに足を止められた。
 決して。フラッドボルグは、ゆっくりと振り向いていた、それなのに。
 直撃したはずの雷術は龍の背に受け流したのだろうか、ダメージがあるようには見えず、その眼差しは刺すように3人に向いていた。
「俺を止めれば、龍が止まるか。真理ではある」
 言葉が重く投げつけられる、そう思えた。同じ言語であるはずに、男の発する言葉が遅く圧し掛かって来る様であるのだ。
 そんな重さをブレイズが振り払った。ブレイズは天使のリュートを荒々しくデタラメに弾き、右手を空高く上げてからフラッドボルグを指差した。
「貴様は僕とキャラが被るんだ、消えてもらうよ」
 この状況でそう言った、その言動がロージーと甲斐姫の硬直を解いていた。
「ワタシ、加減できそうにない、です」
「わしもじゃ。血反吐を吐かせるまでヤッてしまいそうじゃ」
「仕掛けるぞ!僕に合わせろ!」
 ブレイズの掛け声に2人も合わせて飛び出した。当然に揺れる足場を3人が駆け向かってゆく。
 フラッドボルグは見下すように笑みを見せると、短剣を持った左手を眼前に構えた。

 
 浮島の一つから、空中で起きた光を見上げていたのは波羅蜜多実業高等学校のレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)のパートナーで、ナイトのオーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)である。見上げ見た彼女は海面に向いているレベッカの背へと視線を移した。
「ねぇ、レベッカ、空のアレは、気にしなくても良いのですか?」
「気にしなくてイイネ、ワタシの仕事、魚人たちのアイドルになる事ヨ」
 真っ赤なビキニ姿のレベッカは、海面を睨みながら、顔を出そうとするシーワームやシーサーペントを機関銃で撃ち込みながら牽制していた。彼女の狙いはあくまで魚人であるのだ。
 ところが先程から、魚人たちの姿が見えなくなっていたのだった。先程、いや、シーワームとシーサーペントが現れてから、であるように思えた。
 そこへレベッカの携帯が着信を伝えた。
「レベッカ、こっちは準備できたわよ」
 電話の相手はパートナーの明智 ミツ子(あけち・みつこ)であり、同じくパートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)と一歩に罠を作成していたのだが、今し方それが完成した事を伝えるものだったのだが。
「居ない? どうしてですか?」
「分からないネ、ワタシが眩し過ぎて、離れてしまったカ?」
 それは違うでしょう。と電話越しにミツ子とアリシアは首を傾げた。そしてアリシアの助言により、レベッカとオーコは離れた海面を凝視していた。そこには海面に浮かぶシーワームの姿と、激しい衝突音、そしてシーサーペントと組みあう魚人の姿が微かに見えた。その事を伝えると、アリシアがミツ子から携帯を取り言った。
「やっぱり、そうですわ。現れたシーワームとシーサーペントは魚人にとっても敵なのです、ですからシーワームとシーサーペントが多く居る2人の傍に魚人たちは近寄らなくなったのです」
 黄水龍の封印が解かれた時、海面、海水、そして浮島も大きく揺れた。揺れの中、魚人たちが離れて行くのが見えた、アリシアの話が正しいとするなら、それ以降、魚人たちはレベッカの元へ近寄っていないという事になる、それすなわち、魚人たちはレベッカの水着姿を見ていないという事になるわけで。
「それなら追い払えば良いという事ネ」
 そう言うとレベッカは殺気を灯した瞳で海面を舐めた。機関銃を向けて狙う、狙いは勿論に魚人の敵、そしてそれはレベッカにとっても敵なのであるのだ。
「あの、レベッカ? いくら蛇とミミズでも殺してはダメですよ」
 聞こえた? いや、そうには思えずオーコは、ため息をついた。確かに魚人が現れなければ、ミツ子発案の罠も役には立たない、それは恐らくミツ子の逆鱗に触れかねないのだが。
 魚人を引き付ける事は湾内や水中にいる生徒たちにとっても大きな助けになる事は間違いないのだが。
 現れたシーワームとシーサーペントは水中の状況も変えていた。
 魚人、シーワーム、シーサーペント、黄水龍にフラッドボルグ。事態を収束させるには、生徒たちが立ち向かう相手と種類は、今や、あまりにも多くなってしまったのだった。