天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

リアクション公開中!

【番外編】金の機晶姫、銀の機晶姫

リアクション




その4 黄色い海と赤い桜の元でお茶会を。


 まだ料理班が調理を開始した頃、会場の飾り付けを率先して行っていたのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)と伏見 明子だった。彼女たちの指示を受けながら牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)も会場に花を飾っていく。とは言うものの、と考えながら黒髪の少女は少し足を止めて庭園を見渡した。

 学園から徒歩で3分ほどのその場所に、深緑のアーチが出迎える、菜の花が咲き乱れる庭園がある。
 春の花ばかりが植えられており、菜の花が黄色い海のように風にたなびいていた。
 大きな桜の木が中央にあり、その周りを囲うように今回使われるテーブルとイスが設置されている。中央にて咲き誇るその桜の花は濃いピンク色をしている、地球で言う寒緋桜というのと同じ種類であると、植物学の教員が説明していたのを、牛皮消 アルコリアは思い出していた。
 小さな手にカメラを構えているのは樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)だ。会場の黄色い海に埋もれながら、空の写真を撮っていた。彼女のレンズに、わずかに菜の花が入り込み、菜の花に囲まれた青空が映し出される。満足げに微笑んでいる横で、黒髪を風にたなびかせた完全装備のナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)と銀色の髪を二つに結ったシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は辺りを警戒していた。

「……金の機晶姫、さぞ強いのでしょうね……腕が鳴るわ。銀の機晶姫とやらも、マイロードのためにこの私が……」
「ナコト。お前ボクより頭いいが、バカだろう?」

 ため息混じりにそう呟かれて、「はぁ!?」と魔道書が人化したナコト・オールドワンがつり目をさらに釣り上げて睨みつける。

「ボクらは、金の機晶姫、銀の機晶姫を護るために着たんだぞ?」
「え?」

 素っ頓狂な声が響いている頃、テーブルのお花の飾り付けがようやく完了しようとしていた。白いテーブルとイスに、霧島 春美のお店で買った青い小さな花が所々飾られている。ディオネア・マスキプラが、五月葉 終夏と集めたシロツメクサの小さな冠が、テーブルを彩る花瓶にかけられる。

「ディオが摘んできたシロツメクサもいい感じね!」
「えへへ〜。終夏やニコラといっしょに作ったんだよね〜?」
「ふふ、この私がつくった冠が一番だな」
「もうわかったったら」

 ため息交じりにパートナーからの言葉を交わすと、ヴァーナー・ヴォネガットが背筋をピンと伸ばして、桜の木を見上げているのが目に入る。

「真っ赤な桜、綺麗ですねぇ」
「緋寒桜、または寒緋桜ともいうのよね。日本だと、沖縄って要る南の島に1月ごろ咲くんだけど……気温として考えると、これも春の花なのよね。きっと」

 伏見 明子が眼鏡を持ち上げながらヴァーナー・ヴォネガットの隣に立つ。恐る恐る歩み寄ってきたのは、簡素な白いワンピース姿のニフレディだった。

「あ、あの。お手伝いすることはありますか?」
「あら、主賓はおとなしくしてていいって言ったじゃない」
「でも、姉さんもお料理のほう手伝いに行っちゃいましたし、私も何かできないかな、と」
「ニフレディちゃんは、このお席で座って待っててくださいなのです」

 ヴァーナー・ヴォネガットは菜の花と青い花で飾りつけたイスを持ってきてにっこりと微笑んだ。サイドテールが可愛らしく春風に揺れる。ニフレディも微笑み返すと、「では、お言葉に甘えて……」と腰掛ける。そこへ、一式 隼と三月 かなた(みつき・かなた)が訪れた。かわいらしいラッピングを施した箱を抱えており、ニフレディの姿を認めると浮遊して移動している三月 かなたはさらに速度を上げてニフレディのそばによった。

「あ、あの! 初めまして。ワタクシ、三月 かなたですわ。ニフレディ様、本日はお招きくださりありがとうございます」

 丁寧に一礼され、ニフレディも立ち上がって頭を下げる。頭を上げると、ヴァーナー・ヴォネガットに教わった挨拶を彼女にする。いきなりハグされて、緑色の瞳をまん丸にするが、すぐににっこりと微笑む。

「私、姉さんみたいにお友達が多くないから、今日来てくださった方とは皆お友達になりたいんです。かなたさん、お友達になってくださいませんか?」
「もちろんですわ。同じ年頃の機晶姫同士、なかよくしてくださいませね」

 遠巻きに、そのやり取りを見ていた一式 隼は薄く微笑んで持ってきたニフレディのための衣装を伏見 明子に手渡す。「あら、直接じゃなくていいの?」と彼女が言う。

「せっかく楽しそうなのに、水を差しては悪いですしね。この服、知り合いにつくってもらったものですが、着回しができるように、と思って持ってきたので、少し地味かもしれませんが」
「女の子は、そういうのがうれしいんだよね」

 桐生 円はお気に入りの真っ黒なゴスロリドレスをまとって口を挟んだ。ニヤリ、という風に見えるが彼女なりの心遣いが伺えて、一式 隼はもう一度口元をほころばせた。おそろいのゴスロリドレスを纏った七瀬 歩は、準備が一段落したメンバーに紅茶を振舞い始めていた。その横で、コーヒーを豆から挽いていたのは浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だった。執事の格好をさせられた横には、パートナーたちがメイド服で談笑している。

「いいなぁ、私もお料理班の手伝いしたかったなぁ」

 黄色いツインテールを揺らしながら、サファイア・クレージュ(さふぁいあ・くれーじゅ)深々とため息をついた。永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)はわずかながら苦笑して、「でも向こうは人足りてましたしね」と付け加える。

「せっかく、私の料理の腕前を披露できると思ったのになぁ」
(別の意味で凄い腕前が披露される事になるんですけど)

 コーヒー豆をゆっくりと挽きながら、パートナーの恐るべき料理スキルを脳内再生して、浅葱 翡翠は冷や汗を拭いていた。遠巻きにニフレディを眺めていると、彼女の周りには人が自然と集まり(お茶会の主賓だから当たり前なのだが)、誕生日というわけでもないのに沢山の贈り物が彼女の元へと届けられていた。一足先に、家から作ってきたらしいケーキを振舞っているものがいた。苺クリームがたっぷり使われたロールケーキは、スポンジも桜色をしており春のケーキにはぴったりだった。早速一口勧められ、ぱく、と食べたニフレディは、ん〜! と声を上げながら顔を明るくした。

「凄くおいしいです! ありがとうございます」
「よかった! このロールケーキ、シェイドがつくったんだよ」

 乳白色の髪をたなびかせたミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は自慢げに、パートナーの吸血鬼を前に押し出してにっこりと微笑んだ。シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)は目を丸くしたが、すぐに照れ笑いを浮かべる。その後ろに隠れるようにしながらも赤い瞳でニフレディを伺っているのは、ロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)だった。

「ロレッタって言うんだけど、人見知りするんです。ゴメンね?」
「え、ロレッタさん、どうぞ仲良くしてくださいね」

 こそ、と顔をもう一度出して、手を出そうとがんばるのだが、やっぱり引っ込んでしまった。シェイド・クレインも「ごめんなさい」と代わりに謝ってくれて、むしろニフレディのほうが「ごめんなさい」と謝り返した。あまり謝るので、ミレイユ・グリシャムは話題を変えて、もう一皿のロールケーキを取り出していった。

「あとで、このケーキルーノさんにも渡しに来るね!」
「きっと姉さんも喜びます。ありがとうございます!」

 姉の話が出ると満面の笑みを浮かべるニフレディをみて、ミレイユ・グリシャムも思わず微笑み返していた。

 そのうち、ニフレディが榊 花梨から洋服をプレゼントされて,料理班の手伝いに行ったころ,他のプレゼントを用意したものたちは簡易の更衣室とハンガーラックを用意していた。

「さ、衣装をもって来た人たちはこちらへどうぞ」

 鷹野 栗は先日夜通し用意したメンバーの服を一足先にハンガーラックにかけながら、周りのメンバーに声をかけて回った。
 色鮮やかに染め上げられた衣装が、青空の下でより一層輝いて見える。
 アイリス・零式は、赤嶺 霜月が用意してくれた赤いドレスと緑色のドレスをもって、ループ・ポイニクスに差し出した。

「お願いするであります」
「あ、アイリス……様」

 小さな声で言葉をかけてきたのは、御薗井 響子(みそのい・きょうこ)だった。一見すると少年のようにも見えるが、背中についたマニピュレータが機晶姫であることを示し、その名前が女性であることを示していた。その後ろにいるのは、別の衣装を抱えたケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だ。こちらはピンク色のポニーテールに、褐色の肌を持った流浪の民であるが、一見するとかわいらしい少女のようにみえる。

「ん? 響子、知り合いかい?」
「……以前、お世話に」
「あ! 響子様!」

 乳白金の髪をたなびかせ、子犬のようにかけてきたのは、ホワイト・カラー(ほわいと・からー)だ。

「お久しぶりです! アイリス様も!」
「響子さん、ホワイトさん、またお逢い出来てうれしいのであります」
「……ボクも」

 小さく呟いた御薗井 響子の言葉に、同じ赤い瞳を持つ二人の機晶姫は、顔を見合わせて微笑んだ。数少ない言葉で、再会を喜んでいることが伝わって着たのか、三人は和やかに話を始めた。

「そっか。響子も友達ができたんだなぁ」

 ケイラ・ジェシータは今はなき想い人のことを思い出し、その人と生き写しの少し口下手なパートナーを、眩しそうに見つめながら鷹野 栗に衣装を預けた。ハンガーラックは一旦布に覆われて、その姿を隠した。一通り預け終わった頃には料理も整えられ、ルーノ・アレエとニフレディも戻ってきたのを、ケイラ・ジェシータは出迎える。

「や、お帰り」
「ケイラ・ジェシータ、きてくださってありがとうございます」
「いいよ。なんだか、他人のような気がしないからね」

 ニフレディがあ、と小さく呟いて、ルーノ・アレエが短く聞き返すと、ニフレディはうれしそうに二人を見つめた。

「姉さんと、ケイラさん、髪の色と肌の色が少し似てて、姉妹みたいだなって。こうしてみると、姉さんが二人いるみたいです」
「ああ、そうですね」
「そっか、そういわれてみれば、そうかも。それに、妹みたいなものがいるのも似てるし……自分は兄貴分って所だけど」
「え? ケイラさん男性なのですか? そんなに綺麗なのに」

 くすくす、とケイラ・ジェシータがわらって「ありがとう」とニフレディに返す。

「内緒にしてるわけじゃないんだけどね。あ、一部には内緒か」
「……ケイラ、独り占め禁止」
「初めまして! ニフレディ様。私はホワイト・カラーです」
「アイリス・零式であります。どうぞ、よろしくお願いするであります」

 先ほどまで3人で語らっていた機晶姫たちが、ニフレディを囲むようにして集まってきた。口々に自己紹介をする。伏見 明子が少しこわばった面持ちでその後ろに立っていると、ルーノ・アレエは首をかしげながら声をかけた。

「伏見 明子、どうかしましたか?」
「え? あ、挨拶しようと思って。ほら、準備に忙しくってちゃんと挨拶してなかったのよ……もしかして、怖い顔してたかしら?」
「はい、少しだけ」
「うーん、なんだか貴女がらみの件だと怒ってることが多かったから、顔固まっちゃったかしら」
「いつも心配してくれて、うれしいです」
「明子さん、ですね! 姉さんからお話聞きました。よろしくお願いします」

 ニフレディは一人ひとりに丁寧に挨拶を返すと、とんとん、と肩を叩かれた。そこにいたのはガートルード・ハーレックとシルヴェスター・ウィッカーだった。

「それじゃ、そろそろ時間じゃ。主役のお姉さんに挨拶してもらおうかのぅ?」

 先ほど使っていたマイクをシルヴェスター・ウィッカーから渡されると、ルーノ・アレエはゆっくりと口を開いた。

『皆、ニフレディのために集まってくれてありがとう。どうか、私と同じように、妹にも仲良くしてほしい。お願いします』

 ルーノ・アレエは、少し緊張したようにいつもどおりの口調で素直な気持ちを告げた。拍手が巻き起こると、今度は鷹野 栗がマイクを引き継いだ。

『さて皆さん、先日泊り込んで作った方も、持ち込んでくださった方々も、ニフレディさんのためのお洋服を用意してくださりありがとうございます。私はルーノサンやニフレディさんと初対面ではありますが、この企画に参加させてもらって、凄くうれしいです……それじゃ、ループ、お願いね』

 そうやって感謝の気持ちを込めると、ループ・ポイニクスは大きく頷くと、布をはずして、ハンガーラックにかけられた服をお披露目した。歓声が上がると、ニフレディが思わずハンガーラックに駆け寄る。

「姉さん……これ」
「皆にお願いした、ニフレディのためのお洋服です」
「ルーノさんにもあるんだよ?」

 え? と振り向けば、朝野 未沙が二着のメイド服をハンガーラックからはずして持ってそこにいた。その後ろには、朝野 未羅が蒼空学園の制服を、朝野 未那は色違いの魔法使いのような服を用意していた。ラグナ アインもおそろいの赤いチェックのオーバースカートをもって自慢げに微笑んでいた。

「ボクも、ルーノお姉ちゃんとニフレディちゃんのお洋服用意したんですよ?」

 ヴァーナー・ヴォネガットもにっこりと微笑んでいると、黒髪にメイド服が良く似合っている朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、アイボリーカラーを基調とした上着に、エメラルドグリーンのシャツ、黒のジーンズでできたハーフパンツがニフレディに最初に渡された。青い髪に同じ色の巫女服を着せてもらった夜霧 朔(よぎり・さく)は、アイボリーカラーの袖なしジャケットに、エメラルドグリーンの半そでワンピースを、ルーノ・アレエに手渡した。

「姉妹おそろいの服。着回しもできるだろうから、パーツの多いのにしたんだ」
「どうか、二人で着せて見せていただけませんか?」

 夜霧 朔の言葉に、ニフレディはルーノ・アレエの服を引っ張って微笑んだ。ルーノ・アレエも頷くと、簡易の更衣室に入った。その前では、完全武装した朝野 未羅が立っていた。

「エメさんは近づいちゃダメなの〜」

 いきなり名指しされて、白い紳士は驚いて目を丸くした。朝野 未羅は無邪気な顔で「だって前科があるの〜」

「致し方ありませんですぅ」

 そう呟いた朝野 未那が救いの手を差し伸べてくれたのだと思い顔をぱっと明るくするが、「殿方、ですものねぇ」 とちらりと視線を向けてきた魔女に悪寒を覚えてしまった。エメ・シェンノートはがっくりと肩を落とした。そんな折、ようやく二人は更衣室から姿を出した。