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リアクション
chapter.3 老人とダンスフロア
一方、船内2階にある厨房。
ヨサーク団の船員が料理の仕込みをしている様子を眺めていたのは、メイベルのパートナーセシリア・ライト(せしりあ・らいと)だった。彼女は船員にお願いして、料理の様子を見学させてもらっていた。
「へぇーっ、随分マヨネーズを使うんだね!」
「お頭がマヨラーなんでね。どんな野菜にもマヨネーズをつけて食っちまうのさ。冷やし中華にもマヨネーズをかけるほどのマヨラーっぷりだからな」
「ええっ!? 冷やし中華に?」
「何でも、日本のトーホクチホウってとこの風習らしいぜ。まあ、俺らも今はその味にすっかりハマっちまってるけどな」
「んー……想像出来ないなー……」
時々そんな会話もしつつしばらく見学を続けていたセシリアのところに、船内の掃除をしていた朝野 未沙(あさの・みさ)もやって来た。が、その様子はどこか上の空で、順番に掃除をしていて厨房に来た、というよりはぼーっとしていたら厨房に来ていたと表現した方がしっくり来る感じである。
「ねえねえ、何かお手伝いさせてもらえないかな?」
「おっ、健気な嬢ちゃんだな! じゃあちょっとそのへんにある野菜でも切ってもらおうかな」
「やった! ほらっ、一緒にお料理手伝おう?」
船員と交渉し、料理をしようと誘うセシリアのそんな言葉にも未沙は「うん……」と薄い反応しか示さない。セシリアは首を傾げながら、野菜を洗い始めた。
未沙はと言えば、船の窓から見える外の景色をぼんやりと眺めている。彼女の頭の中は今、数時間前に船着き場で出会ったフリューネのことでいっぱいだった。
「ああ、フリューネさん綺麗で格好良かったなぁ……」
未沙は、フリューネと出会った時のことを思い出しては余韻に浸っていた。
(ここからの回想シーンはあくまで彼女の記憶を元に再現したものであり、実際の出来事とは異なる点がございます)
「俺たちとお近付きになっておいて損はないぜ?」
「おら、ちょっとそこの暗がりまで来いや」
「や、やだ!」
そう、アレはあたしが怖い空賊に絡まれていた時……。
「待ちなさいっ! そんな可愛い子に手を出そうなんて、このフリューネが許さないんだから!」
そう言ってフリューネさんはあたしをお姫様抱っこして助けてくれて……。
「あなたたち、あたしの未沙ちゃんに何するつもりだったの?」
「フ、フリューネ……! 俺たちゃ別に……!」
そして空賊たちが逃げていった後……。
「さあ、もう大丈夫よ未沙ちゃん。邪魔者はいなくなった。ほら、早く服を脱いで……」
「あっ、もう、フリューネさん大胆……あたし自分で脱ぐよぉ」
「ふふっ、じゃあ私の服も脱がしてくれる?」
「うん……あっ、フリューネさんの胸、おっきい……あれっ、フリューネさん、もうこんなになっちゃってる……」
「うふふ、それは未沙ちゃんもでしょ?」
「あっ、いきなりそんなとこ触っちゃいやっ……」
「……ちゃん! おい、嬢ちゃん!」
船員の声で、我に返る未沙。
「あ、あれっ、あたし……」
「急に目が虚ろになってぶつぶつ言い出したから心配しちまったぜ。ほら、皮むき手伝ってくんな?」
船員に渡された野菜を受け取りながら、未沙はやはりフリューネのことが忘れられないでいた。
「やだ、あたしったら、愛美さんがいるのにこんないけないこと考えちゃった……」
そう小さく漏らしながら、未沙はぼうっとニンジンをむき続けた。
少しして、厨房に新たな訪問者が現れた。
「すっごいいい匂い! すっごいいい匂いするよここ! ほら!」
バタバタと興奮気味に山本 夜麻(やまもと・やま)がパートナーのヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)を引きつれ厨房に足を踏み入れる。
「おいおい、ヤマモト、料理の邪魔しちゃ駄目だぜ?」
人差し指を左右に振り、ちっちっと軽く舌打ちしながらヤマがゆっくりと後ろから夜麻に話しかける。なんか格好つけた風であるが、その外見はピンクのカバという、どう頑張っても格好つかないビジュアルである。
「何作ってんの? ねえねえ、やっぱり骨付きの肉? あ、ここの料理人の人って皆鋭い足技持ってたりすんの? ちょっとクソお世話になりましたって言ってみて! ちょっとだけ! 1回でいいから!」
夜麻のハイテンションかつ無茶苦茶な要求に、船員たちも困り顔だ。
「坊や、それは大人の事情で言えないんだよ。いや言ってもいいけど、後で修正が入るかもしれないよ」
頭をポンポンと叩く船員。夜麻は「なーんだ、つまんない」みたいなリアクションだ。
ちなみに彼、夜麻のこの要求は前もって言おうとしていたことではなく、何者かによる何かしらの力が働き、思わず口走ったセリフであり、このくだりに関しては夜麻のアクショ……否、行動に問題は一切ないのだという辺りはご理解頂きたい次第である。
そんな事情はさておき、依然好き放題うろちょろして回る夜麻とヤマ。とその時、厨房にヨサークのパートナー、アグリ・ハーヴェスター(あぐり・はーう゛ぇすたー)が姿を見せた。
寡黙な農機具変形型機晶姫であるアグリは無言で、出来たおつまみをヨサークのところへ運ぼうとする。が、それを止めたのは夜麻だった。
「わあっ、なんか色々部品ついてる! ねえ、これもしかして変形出来たりするの? ねえねえ!」
ちらっと夜麻を見ると、微笑ましい様子で小さく頷くアグリ。
「ほんと!? 変形見せて! 変形!!」
「おいおい、ヤマモト、ご老体に無理をさせるなよ」
一応夜麻を止めるヤマだったが、その目は明らかにキラキラしていた。どうやら彼らにとって、変形はひとつのロマンらしかった。そんなふたりを見て、アグリはおつまみが盛り付けられたお皿をこと、と置くと「仕方ないな」といった様子でそのシルエットを変えていった。数秒後、そこにはさっきまで人型だったアグリが立派なコンバインとして佇んでいた。
「すごいすごい! ほんとに変形した!」
興奮のあまり、勝手にアグリに乗っかる夜麻。レバーっぽいものをガチャガチャさせながら夜麻がはしゃぐ。
「コンバインだよ! これすごくコンバインだよ!」
「何やってんだよ、ご迷惑だろ」
夜麻をアグリから引っ張り下ろすヤマ。が、次の瞬間ヤマはその空いたスペースに自分が乗っかり、レバーをガチャガチャさせ始めた。
「コンバインだ! コンバインだこれ!!」
その後もふたりは交互にアグリに乗り、「合体は?」「第二形態はないの?」などともう完璧に言いたい放題だった。
それを見かねた未沙がふたりをアグリから引き離し、軽く叱る。
「もうっ、機晶姫はもっと大切に扱わないと駄目でしょ」
ようやく落ち着いた夜麻とヤマ、そして厨房内。アグリは「やれやれ」といった様子で再び人型に戻り、ヨサークの元へと向かったのだった。
ちなみに未沙からお叱りを受けている時、ヤマは反省しつつも未沙の下半身をじっと見ていた。
このスカートめくりてぇー。
心の中でそっと呟く。どうやら彼はその辺りにもロマンを感じ取ったらしい。ピンクなのは外見だけじゃなかったようだ。全く、とんだエロカバである。
そんな厨房で、セシリアだけがきちんと料理を手伝っていた。
「この人たち、何しに来たんだろう……」
そんなことを思いながら。
◇
同2階、さっきまで大勢の生徒たちが集まっていた大部屋。
蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)は、パートナーのヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と共にがらんとした部屋を見渡していた。
「ここなら、思う存分声を出せるはずよ」
おもむろにギターを取り出す路々奈。
「ろ、路々奈さんっ、まさかここでも歌うつもりですか?」
「もちろんよ。空賊とか海賊は歌ってなんぼの世界のはず! ここであたしたちが歌っていれば、船員たちも集まってくるって寸法よ」
ギターをチューニングしながら、路々奈はヒメナにも楽器を持つよう促す。
「ほら、ヒメナも準備して! 船員たちと親睦を深めるためよ!」
「ならいいんですけど、路々奈さん、なんかただ歌いたいだけのような……」
ヒメナがそう思うのも無理はない。彼女、路々奈はサバイバル生活を強いられた孤島ですらライブを開くほどの音楽好きであり、隙あらば歌ってやろうくらいの勢いだった。
そんなヒメナの思いをよそに、路々奈は早速ギターを弾きながら歌い始めた。仕方なくコーラスとして参加するヒメナ。最初からアップテンポな曲を演奏していたのが功を奏したのか、すぐに大部屋に船員が集まってきた。
「おっ、嬢ちゃんたち上手だねぇ」
「俺らも歌おうぜ!」
「ノーミュージックノーフライだぜ!」
元々ノリの良い船員たちは、あっという間に彼女らの演奏に加わった。
「す、すごいですね路々奈さんっ」
「当たり前よ、音楽は国境も天地も越えるのよ!」
気付けば路々奈の周りには10人近くの船員たちが集まり、それぞれ音に合わせ歌ったり踊ったりしていた。そんな様子を陰から窺っているひとりの少女がいた。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)である。彼女はとても苛立っていた。さっき船内を歩いていた時、たまたま彼女はヨサークと会ったのだが、すれ違いざま、思いっきり舌打ちをされたのだ。文句を言おうとヨサークの前に回りこんだ美羽だったが、
「ガキのくせに短いスカートで男誘ってんじゃねえ。その歳で色気づきやがって。ヤリチンホイホイかてめえは」
と乱暴な言葉を浴びせられ、その怒りが未だに収まっていなかった。
「こんなに綺麗な脚をしてる私になびかないなんて、信じられない! ああもう何あのおじさん。こうなったら、おじさんの空賊団を乗っ取ってやるっ!」
美羽は歌っている船員たちの中心にいる路々奈のところに向かうと、突然その場で元気に踊りだした。
「はーい、私美羽! 皆、私のダンスどう?」
アイドル顔負けの可愛らしい踊りで、船員たちのハートを鷲掴みにする美羽。もっとも、実際に船員たちが目を奪われていたのは美羽というよりも、そのミニスカートからチラチラと覗く輝かしい布なのだが。男は単純である。
「うおーっ、美羽ちゃーん!!」
「L・O・V・E・み〜わっ! P・A・N・T・S・み〜わっ!」
「アイラブウィーラブみーわーちゃん! それそれそれそれ!!」
しまいには集団で動きを合わせて、気持ち悪い踊りを披露し始めた船員たち。美羽はそれを見てさらに調子に乗り、ウインクをしたり握手をしたりと完全にアイドル気分である。
思った通りね。
美羽は笑顔を振りまきながら、そんなことを思った。たとえヨサークが大の女嫌いでも、船員たちは違うはず。ならばここで船員たちをハートをキャッチして味方に出来れば、この空賊団の乗っ取りも可能!
ますます激しい踊りで、船員たちのボルテージを上げていく美羽。
「路々奈さん、これじゃ演奏どころじゃないです……!」
「これはあたしたちへの挑戦ね……望むところよ、どんなシチュエーションにも対応した演奏が出来るってこと、示してあげる!」
路々奈はそれまでのテンポの良い演奏から一転、ムーディーな曲調に変え、アダルトな雰囲気を醸し出し始めた。美羽もそれに負けじと乗っかり、部屋にある柱でポールダンスまがいのことをやり始めた。もう完璧に室内は場末のストリップに近い雰囲気だ。船員たちも次々に口笛を鳴らし、上機嫌である。
その時、大きく扉を開く音がして、全員が一斉に出入り口を見た。そこにはヨサークが立っていた。
「うるせえぞおめえら!! ガキなんかに興奮してんじゃねえ! さっさと持ち場に戻れこらぁ!」
途端にテンションが下がり、しゅんとした表情で部屋を後にしていく船員たち。美羽はチャンスとばかりにひとりひとりにお手製のファンクラブ会員証を手渡す。しかし彼らが興奮し、盛り上がっていたのはあくまで美羽ではなく美羽のスカートの中身に対してだった。男とは、下着さえ見えたら割と手広く興奮する生き物なのだ。要は他のところはそんな大事でもない、ということである。それを美羽が知るのは、まだ先のことだった。
「メスガキ共、誰が勝手にコンサート開いていいっつった? あぁ? 脚出せば何でも許されると思ってんじゃねえだろうなぁ?」
そして、美羽は路々奈たちと一緒に怒られていた。
「おめえらもおめえらだ。何勝手にギター持ち込んでんだ。路上でやってろ。それか死ね」
黙って下を向いていた路々奈だったが、彼女にはこんな時のための必殺技があった。
「てへっ」
舌をペロっと出してお茶目な女の子を演出する路々奈。しかし言うまでもなくこれはヨサークにとって負の効果しか与えなかった。
「おめえ……よっぽど耕されてえみてえだな……!!」
鉈を取り出すヨサーク。ヒメナが路々奈の横ですいませんすいませんと何度も頭を下げているが、ヨサークの怒りはそんなことでは収まらなかった。ヨサークが床に鉈を突き立てる。その時だった。
「そこまでだっ! 女性だけにつらく当たる心弱き空賊め……このシャンバランが相手だ!!」
先程他の生徒たちにボロクソにけなされた正義が、懲りずにお面を被り現れた。
「喰らえ、シャンバランダイナミィィック!!」
「ばっ、馬鹿! 船内でそんな炎出すんじゃねえ! 危ねえだろ!」
炎の塊を鉈で砕き、お面をバッと奪い取るヨサーク。
「おめえが暴れてえのは分かった。その力はシヴァ戦にとっておけ。な?」
優しく諭すとヨサークはお面を正義の手に戻し、部屋を去っていく。
「……いくらなんでも、扱われ方が違いすぎない?」
「私もこれは納得出来ません」
「私なんか脚出してただけで怒られたのに、なんで炎出したあんたは怒られないのよ」
「えっ、いやっ、おい、それは逆恨みってヤツで……」
路々奈とヒメナ、美羽は溜まりに溜まったストレスを正義にぶつけた。3人に囲まれ、ボコボコにされる正義。
すっかり身も心もボロボロになった正義だったが、その目はまだ死んでいなかった。
「悪がこの世にある限り……俺は何度でも蘇るぞ……!」
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