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リアクション
chapter.7 救援と迎撃
危機に陥ったクロス、樹、フォルクスらの様子を船内から見ていたロミー・トラヴァーズ(ろみー・とらばーず)が、契約者であるマシュ・ペトリファイア(ましゅ・ぺとりふぁいあ)の袖を掴む。
「マシュ! あの人たちが危ないのじゃ! 助けなければいけないのじゃ!」
「ロミー殿、俺らも行くしかないのかねぇ」
急ぎ小型飛空艇に乗り込み、マシュに後ろに乗るよう催促するロミー。
「さて、向かうはいいものの、どうやって助けようかねぇ」
「既に分かっておるじゃろう? 思い描いた通りにすれば良いのじゃ!」
「ロミー殿には敵わないねぇ」
風で捲れそうになるフードを手で押さえながら、マシュはもう片方の手に力を集中させた。
「待ってるのじゃ! 今すぐ助けに行くのじゃ!」
そして、ロミーの飛空艇は3人の元へと向かった。
同時刻、シヴァ船ではシヴァが船員たちに次の指示を飛ばしていた。
「あちらが手を打ってこないなら、少し突っついてみましょうか」
小型飛空艇第2陣が、シヴァの指令の下ヨサーク船へと向かう。その数10機。
「さあ、どう出ますか……?」
次々とヨサークの船へと突進してくるシヴァ軍小型飛空艇。
「敵船が攻めてきたぞーっ!!」
ヨサークの船内に、船員の声が響く。それを厨房で聞いていたのは、鷹野 栗(たかの・まろん)だった。
「……間に合うと良いのですが」
栗はどうやら、大きな鍋を使って何かを作っているようだった。そこに緋山 政敏(ひやま・まさとし)が入ってきて、防衛を促す。
「おい、こんなところで油売ってたら、この船沈んじまうぞ? さあ、よんじゅ」
「40秒で支度しますのです」
栗は、政敏が何を言うか分かっていたかのように食い気味に返答した。なお、40秒という時間にどんな意味があるのかはここでは触れないでおく。
「今、なんかでっかいにいさんふたりが船の外で敵を迎え撃とうとしてるんだ。さすがにあの人数相手にふたりじゃそんなに持たないぞ」
状況を伝えながら、栗の作業が終わるのを待る政敏。慌しくなる船内で彼は、レジスタンスに所属していた頃の懐かしい空気を感じていた。
「このバタバタした雰囲気、あの頃を思い出すな……ったく、今回もかったるいことになりそうだぜ」
若干ハリウッド映画に出てきそうなセリフである。政敏が頭を掻き、そんな呟きをしている間に栗の準備は整ったようだ。
「お待たせしたのです」
「もう危険なことになってるかもしれないからな、急ぐぞ」
急ぎ足で船の甲板に向かったふたり。外に出たふたりの目に映ったのは、敵飛空艇の襲撃をかろうじて防いでいるフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)、そしてパートナーのサーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)だった。パッと見でも2メートルはありそうな二人組で、確かに政敏の言う通り、でっかいにいさんである。
「ふふ、君くらい背が高いと目立つから、皆こっちに向かってくるね」
「背の高さは否定しないが……サーデヴァル、お前だって立派に目立っているぞ?」
「ふたり揃って目立っているなんて、良いことじゃないか。これでルミーナさんから敵を遠ざけられるってもんだ」
「やたら外に出て迎撃しようと言っていたのは、そのためだったのだな……」
どうやらフリッツは上手いことサーデヴァルに言いくるめられたらしかった。フリッツが本当に乗せられたのか、いつも任務につき合わせているパートナーの気持ちを推し量ったのかは彼にしか分からないが。
その真偽はともかく、彼らはたったふたりで大勢の飛空艇から船を守っていた。が、当然それが長く続くはずもなく、彼らの防衛線は突破される寸前であった。
そこに、さっきまで厨房にいた栗と政敏が駆けつける。
「よく踏ん張ってくれたのです」
「待たせたな、手伝うぜ……かったるいけどな」
加勢が来たことで、一瞬安堵の表情を浮かべるフリッツとサーデヴァル。栗は更なる安心を与えようと、とっておきの防御策を披露する。栗は、この時のために厨房で下準備をしていたのだ。彼女が厨房で準備していたもの、それはギャザリングヘクス。あらかじめ甲板に来る前にそれを飲んでいた栗は、高まった魔力でバーストダッシュを発動させる。同時にディフェンスシフトも。
「い、一体何を……!?」
驚くフリッツに、栗が解説を始めた。
「バーストダッシュとは魔法的な力場を使ったもの。ならば、その力は魔力を高めることで強化されるはずです。あとはその強化された力場を、ディフェンスシフトで盾とすれば、立派な防御壁の完成なのです」
が、栗の解説が終わる頃にはその力場は崩れていた。
「……あれ? おかしいのです。こんなはずでは」
どうやら、いくら魔力を強化したところで、バーストダッシュによって発生する力場は一瞬だけらしく、それを盾にするのは不可能なようだ。って誰かが言ってた。
「依然ピンチのまま、ってことだな……!」
フリッツのその言葉通り、栗と政敏が加わっても数的優位はシヴァ軍にあった。もう駄目だ、そう4人が思った時、敵飛空艇の一機に突然雷が降り注ぐ。4人が後ろを振り返ると、そこには御凪 真人(みなぎ・まこと)がいた。
「何とか間に合いましたね。知り合いを集めるのに時間がかかってしまいました」
後ろを振り返りそう言い放つ真人。
「知り……合い?」
真人の言葉を受け、彼の後ろから真人のパートナーセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)、そして九条 風天(くじょう・ふうてん)と月島 悠(つきしま・ゆう)が次々と現れた。
「ただでさえ嫌いな空賊の船に乗せられて機嫌が悪いんです……手加減は出来ませんよ」
「さて、どの機体から撃ち落としてみせようか」
早速戦闘態勢に入る風天と悠。さらに、それぞれのパートナー、宮本 武蔵(みやもと・むさし)と麻上 翼(まがみ・つばさ)も駆けつける。
「これで10対9……人数的にも有利になったね!」
「さあ、反撃開始です」
空を飛び、飛空艇から攻撃を仕掛けるシヴァの小型飛空艇軍と、甲板に立ち、それを迎え撃つ10人。
「数的に優位に立ったとはいえ、空賊相手にこの状況はどうだろうな。どうする、お前たち?」
「さっきの奇襲と違い、無闇に魔法を放ってもかわされてしまいそうですからね」
教師でもある武蔵が放った問いに、真人が考えを巡らせる。
「彼らがここまで降りてきてくれれば、空賊のメリットはなくなり、対等に戦えるのですが」
「じゃあ、ボクたちの出番ですね!」
真人の前に翼がすっと出てくる。翼は素早くガトリング砲タイプの光条兵器を発動させると、脚を設置させ自身のそれを固定させた。
「悠くん、準備は良いですか?」
「ああ、始めようか、翼」
ヒロイックアサルト、そしてドラゴンアーツで筋力を強化した悠は機関銃を取り出し、空へと向ける。そして、次の瞬間。
激しい弾の嵐が、シヴァ軍の飛空艇を襲った。
悠がスプレーショットによる掃射を行ったのだ。さすがにこれらの弾全てをかわすことは出来ず、彼らの機体に穴が増えていく。そこに翼が光条兵器で追い討ちをかける。ふたりのコンビネーションにより、残った9機のうち2機が破損し、雲海へと落ちていった。彼女たちのような連射出来る武器を持っていなかった飛空艇の操縦士たちはこのままではまずいと判断し、ヨサーク船の甲板へと止むを得ず降りる。
「やりましたね、悠くん!」
「ふう……これだけスキルを使っても、やはり腕に負担はかかるな」
小型飛空艇から降り立ったシヴァ軍第2陣を見て、待ってましたと言わんばかりの勢いで迎え撃ったのは風天と武蔵だった。
「こっちはただでさえ嫌いな空賊の船に乗せられて、機嫌が悪いんです。加減はしませんよ」
ライトブレードを構え、斬りかかる風天。空中では強さを発揮する飛空艇部隊も、地に足をつけての戦いでは彼らに後れを取らざるを得なかった。
「まあまあ大将、学校の親分を救出するためだ! それに案外こういう経験も、後々役に立つかもしれないぞ?」
武蔵はグレートソードを取り出さず、自らの拳で空賊に殴りかかる。
「全くセンセーは……あれ? センセー、どうして武器使わないんですか?」
「強敵が現れたらいつでも抜く……が、こいつらなら拳で充分だ!」
「……そういうことですか」
敵を殴り飛ばし甲板から落とす武蔵を見て、風天もその場で切り捨てることを止め、武蔵と同じように敵を突き落とす。着地と同時に散らばったシヴァ軍の7名のうち2名が、風天と武蔵によって落下した。
「皆頑張ってるね! 私も負けないよ!」
セルファも、そんな気合いと共にバスタードソードを振り、轟雷閃を放つ。その雷は的確に空賊のひとりを捉え、衝撃を受けた空賊が下に落ちた。
「さすがセルファ、頼もしいですね」
その様子を後ろで見ていた真人が落ち着いた口調で言う。
「……真人も、見てないで戦ってよ」
「俺は最初にもうひとり撃墜させていますから。出番を独り占めしては、彼らに申し訳ないでしょう?」
真人が視線を向けた先、そこには残り4名となったシヴァ軍第2陣と対峙しているフリッツ、サーデヴァル、栗、政敏がいた。
「丁度ひとりずつ倒せば終わり、だな」
フリッツの言葉に、他の3人も頷く。
相手の4人が一斉に襲いかかってくると、そのタイミングを待っていたかのように政敏が鬼眼を使用し一瞬の隙を作る。
「今だ!」
政敏のその言葉で、残りの3人がそれぞれの武器で相手を仕留めていく。残った最後のひとりに近付いた政敏はバーストダッシュで体当たりをし、甲板から突き落とした。
迎撃を終えた一同を見て、真人は一息吐いて呟いた。
「とりあえずは、防衛成功ですね。さて、次はどう出てくるか……」
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